第134話 星暦553年 緑の月20日 でっち上げの容疑(11)

「聞いたか?

ファルータ公爵が公爵領に帰る途中で、気分転換に足を伸ばしに乗馬していて事故に遭って亡くなったそうだぞ」

長がニヤニヤ笑いながら尋ねてきた。


「凄い噂になっていますよね。

聞くところによると公爵は乗馬の名手だったらしいのに。そんな人でも馬から落ちることがあるなんて、怖いっすね~」


ファルータ公爵邸でガルカ王国からの国印シールつき密約書を何とか見つけられたので、15日に何気ない顔してギルドのから『何も怪しげな書類は見つからず。本当にアイシャルヌ・ハートネットが他国に通じているのか疑わしい』と直接の依頼主(軍部の下っ端ね)に返事をしていた。


更に探す場所を指定するか、それとも預けてあった成功報酬を返すかどちらが良いかとギルドから依頼主に尋ねていたのだが、今日になってやっと返事がきた。


ファルータ公爵の死の情報が流れてきて、ザルベーナ大佐は今回の件から手を引くことにしたらしい。

本人にしてみれば、前払いで預けていた金貨50枚をそのままネコババ出来そうだから、嬉しいだろうな。


・・・大佐の家に忍び込んで金貨50枚相当の物でも盗んでこようかなぁ。

金貨3枚は貰ったが、俺の労働時間と苦労を考えるとそんなんじゃあ全然足りない。

とは言え、ギルドの出費は更に凄いだろうが。


「ちなみに、学院長宛の密約書の偽物を作った代金はどうするんです?

学院長名義の物件探しや公爵の不動産探しにもかなり人手を使ったでしょうし。

何だったら請求額を学院長に伝えておきますが。

そのくらい、あの皇太子に払わせるべきだという気もしますよね」


ギルドが手配した学院長を嵌める用密約書の偽造文書は、中々の優れものだった。

本物と並べて比べてみれば国印シールの印影に立体性が足りなくて偽物なのが分かるが、偽物の印影も一応立体っぽくなっており、国印シールに慣れた者でなければ偽物だとは思わないだろう。


社印シールの技術を使ったのだろうと思う。

国印シールの印影の立体技術は社印シールの立体技術と別次元な複雑さと美しさを誇るのだが、社印シールしか見たことが無い人間だったら立体印影があることで国印シールを本物と誤解してもおかしくは無い。


そんな偽造文書を作るのにはそれなりに金が掛る。


「構わん。

今回は、戦争というこれ以上無い不経済な状況を避ける為の必要経費だ。

下手にハートネット殿から金を貰うと変な疑惑が起きかねん」


まあねぇ。

学院長宛の国印シールつきのガルカ王国からの密約書があったのは事実で、それをギルドが巧妙な偽物ですり替えたことで学院長への疑惑を逸らしたのも事実だからな。


学院長の人柄を知らない人間が見たら、本当は学院長がガルカ王国と繋がっていて、学院長がガルカ王国からファルータ公爵に宛てた国印シールつきの偽の密約書を作って公爵を嵌めたとも捉えることも可能だ。


それではどちらがどちらを嵌めたのか、水掛け論になりかねない。


だから話を単純にするために、学院長宛てのは俺が学院長の目の前で焼き捨てて、代わりの偽物を皇太子に提出する用に渡した。


学院長が皇太子にどこまで説明したのかは知らない。

が、このタイミングで公爵が『事故死』したということは、それなりに話がもたれて事件は解決したということなんだろうな。


あまり国の深部に関わる闇事情を知りすぎると後が怖いんで聞いていないが。


「へぇぇ。

高く付いたでしょうに。良いんですか?」


長が肩を竦めた。

「まあ、言うなればこういう『必要経費』は数年なり数十年に一度、盗賊シーフギルドが纏めて払う納税といったところだ。

もしもハートネット殿に聞かれたそう答えておいてくれ」


納税ねぇ。

確かに裏ギルドが稼ぎなり人頭に比例して税金を払っているという話は聞かないが。

王国の一員として、納税義務があると密かに考えているんかね?


・・・ちょっと笑えるかも。

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