第133話 星暦553年 緑の月16日 でっち上げの容疑(10)(第三者視点)

>>>サイド ウォルダ・ダルヌ・シベアウス・アファル


『・・・皇太子を試させて貰うことにしました』?

今回の騒動は単なる試験だと言うのか??


「ガルカ王国とて、私一人が協力したところで兵士を大々的に動して侵攻することがそれ程容易になると考えているわけではありません。

それよりも、私の手引きで暗殺部隊を王都へ派遣し、王家の直系の人間と政府の主要な人物と王都に詰めている将軍達を何かの催事の際にて皆殺しにして、国が混乱に陥った隙にファルータ公爵領の外である東寄りの国境から電撃的に侵攻し、王都を抑えるというのがあちらの提案でした」

ファルータ公爵が続けた。


王家の直系全てと主要な政府の官僚を一気に排除しようと思ったらそれなりの人数の暗殺部隊が必要になる。


一人の暗殺者ならまだしも、そんな部隊を王都に待機させたらどこかで見つかってしまう可能性は高いが・・・。

王宮のすぐ傍にあるファルータ公爵邸に隠されれば、企ての成功率は上がるだろう。


勿論、王都を抑えたからと言ってアファル王国全部が抑えられる訳ではない。

が。

王家の直系が死に絶えていて、政府を代表して反撃を組織化できるような重鎮も始末されていたら、ファルータ公爵が国のまとめ役として立ち上がってもおかしくない。


「主要な人物を既に始末した後であり、しかも侵攻された国境がファルータ公爵領でない場合・・・。

反撃の旗頭になって周辺の貴族をまとめ上げ、ガルカ王国を追い出すのに我が領の配置は非常に都合が良い訳ですよ。

ガルカ王国への備えとして兵力も常時それなりに居ますしね。

適当にお互い損害を出した後に和平条約を結び、ファルータ公爵家が王位を引き継ぎ、ガルカ王国は兵を引く代わりにアファル王国内でのテリウス教の宣教を許可される。

そんな筋書きです」

公爵が肩を竦めた。


「私としてはまず侵攻ありきでは無く、まずは皇太子を試させて貰いたかったのでね。

どの様な状況下でも国と殿下を守りきることが出来るかも知れない特級魔術師のハートネット殿をターゲットにさせて頂きました。

ガルカ王国にしても、一人で軍を壊滅できるかもしれない特級魔術師には退場頂きたいと思っていたようで、喜んで架空の裏切りに対する報酬を記した文書に国印シールを押してくれましたよ」


「では、その文書を見つけ出せた私は合格したのかな?」

見つかったのは私の実力というよりはアイシャルヌの人徳の賜物というのが実情だが、ファルータ公爵にそれを言う必要は無いだろう。


「合格でしょう。

ハートネット殿への弾劾を、国を乱すこと無くはねのけることが出来れば合格と考えていたのですが、弾劾が表に出る前に証拠書類を入手しただけでなく、私の方の文書まで入手できたとは、殿下の影部隊は思っていた以上に腕利きのようですな」

投げやりな微笑みを浮かべながら公爵が会釈して見せた。


ふむ。

今まで情報なぞ、勝手に集まるものと考えていて気にもしていなかった。

が、これからは軍の情報部にもう少し注意を向けると供に、王家の影部隊にももっと投資した方が良さそうだ。


問題は発覚してから解決するより未然に防ぐ方が被害が少なく、相対的に見れば楽だと今回の事件で実感した。

そして未然に防ぐためには、情報収集の網を常に張り巡らせておく必要がある。


「私としては、息子が殿下の落胤でないにしても、若き頃の親しい女性の子供となれば全く今回の事件に関与していないのだから命は助けられるのでは無いかと期待しているのですよ。

公爵家の爵位を落とされるにしても、流石に家を取り潰しては王国内の権力バランスが崩れてしまいますしね。

どうせ私の先は長くない。

なれば、ここ数年ずっと自分を悩ませてきた疑問への答えを大したリスク無しに知ることが出来るのですから、悪くは無い話でしょう?」


宰相が小さく息をついた。

「先が長くないというのは・・・単なる悲観的な思い込みでは?」


まあ、下手に長生きされてもここまで事態が進展してしまっては却って困るが。

宰相は公爵とそれなりに親しいので複雑のなのだろうな。


「最近、咳をした際に時折血が出るようになってね。

凝りを切除した祖父も、しなかった父も、喀血するようになってから数ヶ月以内に別れを告げることになった。

私も、ぐだぐだ悩んでいたのが長すぎたのでしょうな。

もしも20年後にでも息子の体に凝りが出来たと聞いた場合は、さっさと悩む前にそれを切除してみろと伝えておいて下さると助かります」

ファルータ公爵が肩を竦めた


ふむ。

この口ぶりだと、変に事を荒立てずに事故死を装うのに協力してくれそうだな。

この話し合いを始める前に宰相と相談していて一番の問題だったのが、どのように事態を終結させるかだった。


南の重鎮が理由も無しにガルカ王国に加担したというのは、公になったら国中を揺るがすことになる。

かといって、私の若き頃の過ちが原因だと認めるわけにもいかない。


特級魔術師を謀殺しようとしたのだ。例え公爵であろうと罰しないわけにもいかない。

話を聞いてみたら特級魔術師の謀殺どころか王族と軍と政府上層部の暗殺まで考えていたのだから、死罪は逃れられない。


なんとかして公爵に事故死で亡くなって貰う必要があったが・・・必死に逃げようとする人間を無理矢理抑え込んで事故死を装うのは難しい。


どうするか、宰相も頭を痛めていたのだが、どうやらファルータ公爵家への処置を寛大にすることで協力して貰えそうだ。


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