第131話 星暦553年 緑の月14日〜15日 でっち上げの容疑(8)
「目の下に隈が出来ているぞ」
いらん事を指摘した長を恨めしげに睨む。
分かっているよ、隈が出来ている事なんて。
というか、寝不足と
外部的に隈しか見えていない事の方が、ある意味不満だ。
別に周囲に何かをして欲しいわけでは無い。
だが、俺はこんなに大変な思いをしているんだ!!!というのを分かってもらいたい思いに時折とりつかれる。
とは言え、そんな不満を口にする訳にはいかないので、ため息をついて長のコメントを流した。
「どこにもそれらしい
ギルドに調べて貰った別宅も全て改めて捜索したのに。
他に公爵の名義で借りているところとか、本当に無いんですか?」
ここ数日は睡眠時間もギリギリまで削ってファルータ公爵家の名義になっている家屋の家捜しを決行してきた。
まずは王都の本邸と別邸2つ。
それらに無かったので領都の屋敷。
そこにも無かったのでファルータ公爵領の主要都市にあった残りの別邸3つも。
別荘まで探す時間があるか不明だったので、公爵本人が足を運んだという話の無かった別荘は
公爵が頻繁に訪れるという別荘も片っ端から調べたもののそれらしき文書が見つからず、しょうが無いのでギルドに頼んだ別荘も改めて探してみたものの、やはり何も出てこなかった。
転移門がある街へはそちらを使ったが、不便なところにある別荘などは
疲れが溜まっていたので、飛んでいる間にうたた寝して何度転落しそうになったことか・・・。
なのに何も出てこなかった。
結局、ファルータ公爵は他国と結びつくこと無く、単なる嫌がらせとして今回の行動を起こしていて証拠書類なんて最初から無いのかもしれない。
だが。
公爵の方が一歩上手で、単に俺が書類を見つけられてないだけなのかも知れないと思うと、ノンビリ眠ってもいられない。
「時間が限られているからな。
もしかしたら我々が見つけ出せなかったファルータ公爵の隠し家がある可能性は否定できない。
だが、考えようによってはファルータ公爵の隠し方が巧みなのかもしれんぞ。
金庫や引き出しの二重底に重要な書類を仕舞うのが一番安全な隠し場所とは限らないのは、お前だって分かっているだろう?」
グラスにワインを注ぎながら長が答えた。
確かに。
普通の書類だったら、他の通常書類に紛れ込ませていたら絶対に見つけられないだろう。
国を代表するような大貴族なのだ。
領地も大きく、通常業務の書類も膨大な量だった。当然のことながら、金庫に保管されていた書類以外は目を通していない。
・・・考えてみたら、金庫や隠し場所に入っていた書類は、重要ではあるものの見つかったら問題になるような物は1つも無かった。
大貴族が1つも後ろ暗い事が無いなんて、あり得ない。
と言うことは、やはり公爵は重要な書類を隠すのが上手いのかも知れない。
だが、今回は
あれだったら
魔力を俺の
とは言え、
・・・となると、ファルータ公爵の持っている魔具や魔術本を全て調べる必要があるか。
「もう一度、王都の屋敷を探してみます・・・」
「おう。
ちなみに、ハートネット殿の名義で貸し出された家屋の捜索は終わったぞ」
長がピラリと紙を取り上げて見せた。
「ガルカ王国から、政変後にハートネット殿をアファル王国の宰相に任命することを約束する書類だ」
「まじっすか。
と言うことは、絶対にファルータ公爵も何か貰っているはずですよね」
学院長が宰相になりたいかというのは非常に疑問だが、悪事の証拠としてはこれ以上の物はないだろう。
「これはよく調べれば偽物だと分かる偽造文書とすり替えておいたから、ファルータ公爵に関する証拠文書が見つからなくてもハートネット殿に害は及ばないとは思う。
とは言え、南方の要ともなる大貴族が南側の隣国と繋がっているなんていうのは危険すぎるからな。
頑張って探してくれ」
にやりと笑いながら長がワインを口にした。
うが~~!!
頑張って探したんだよ、これでも!!
◆◆◆
「金持ちなんて大嫌いだ」
ファルータ公爵家の本邸を改めて調べ始めてみたら・・・。
魔具が山ほどあった。
それを一つ一つ、偽装された書類が隠されていないか探すのはどう考えても明日までには終わりそうに無い。
こうなったら、どこにありそうかに当たりを付けて重点的に探していくしか無いな。
今日中に見つからなければ学院長が絶体絶命のピンチに陥るという訳では無いが、
もしかしたら『見つかりませんでした』と返したら、『学院長の執務室の床は調べたのか』とご丁寧に指摘が来るかも知れないが・・・それはそれで公爵が怪しまれる原因になりかねず、そのステップをこの用心深い男が取るかは疑問だ。
それに、『床を調べよ』と指摘されてあの偽造文書が見つかったら、今度はそれが出てきたと言う事実を元に軍の情報部が王都中にある『アイシャルヌ・ハートネットの名義で所有・貸し出されている家屋の捜索』を始めることになる。
学院長の所にあった偽造文書にしても、勝手に学院長の名義で貸し出された家屋にある文書にしても、よく調べれば偽造文書だと分かるかも知れないが、軍部がちゃんと調べるか微妙な所だし、どちらにしても学院長の名誉に傷が付くだろう。
皇太子に信頼されているというポジションは、学院長がそれを利用していないとしてもそれなりに学院長を蹴り落としてその地位に収まりたい政敵を作り出す。
つまり、そういった政敵が『本当にこれらの文書が偽造された物かどうかなんて分かった物では無い』と主張しまくったら、そいつらの言葉を信じる人間も一定数は生じるだろうから・・・学院長は常に『他国にアファル王国を売ったかもしれない』という疑惑に付きまとわれることになる。
出来ればそうなる前にこのでっち上げ容疑を叩き潰したい。
その為には、大元の依頼主であるファルータ公爵の悪事を暴く必要があるのだが・・・。
魔具が多すぎ!!!
取り敢えず、俺の
ということで、使用人の部屋やその他公爵が立ち入ったら違和感がある範囲は除外する。
とすると・・・。
寝室、書斎、居間といった所か。
取り敢えずは一番探す対象が少ない居間から調べたのだが、色々あった魔具を全て調べたものの書類は隠されていなかった。
と言うことで今度は書斎。
こちらには魔具は温度調整の魔具と湯沸かし器、照明といった物しか無かったのでそれらの確認は直ぐに終わったが・・・魔術本が大量にあった。
「何だって魔術師でも無いのにこんなに魔術本が置いてあるんだよ????」
イライラしながら一冊ずつ、魔術本に手に取って中身を確認する。
魔具ならば、じっくり視て紙の形をした魔力を纏った何かが無いかを探せば良かったのだが、魔術本は全部紙で出来ている。
なので一つ一つ開いて何も挟まれていないことを確認し、表紙の裏などを確認するのだが・・・。
時間がかかる。
普通の非魔術師の書斎だったら魔術本など置いてないし、置いてあったとしてもせいぜい2,3冊なのだが、何故かファルータ公爵の書斎には20冊以上の魔術本が置いてあった。
魔術本なんて、馬鹿高いのに!!!
魔術師だって、余程興味がある分野以外の魔術本は魔術院の図書室から借りて済ますんだぞ。
ただの公爵が何でこんなに持っているんだ!
ジリジリしながら探していたら、外に張っていた探知結界に反応があった。
「ちっ」
急いで手に持っていた魔術本を元の場所に戻し、窓から外に出て壁に取りつく。
掃除がきっちししてあり、本に埃が溜まっていないお陰で俺が手に取ってもばれないのは有り難かったのだが、今日は掃除に来ないで欲しかったぜ。
「
いい加減、煉瓦に捕まっていた指が痛くなってきた。
早くしてくれないと、公爵が帰ってきてしまうかもしれない。
まだ午後の13刻程度なので帰ってこないと思うが、なんと言っても相手は公爵なのだ。
普通の務め人の労働時間で外出しているとは限らない。
『早く終われ~』と念じながら待っていたら、やっとはたきを掛け終わり家具をさっと乾拭きしたメイドが、昨晩公爵が使ったらしきグラスを取り替えて出て行った。
ふう。
◆◆◆◆
流石、国家転覆を企てている(?)だけあって、ファルータ公爵の寝室には防御用の魔具が多数あった。
物理的攻撃防御や、解毒、精神系の魔術を弾くような結界等の魔具がまんべんなくあちこちに置いてある。
しかも、複数置くことで1つを壊してもまだ攻撃用魔具や剣で反撃できるようになっている。
すげえな。
枕元に武器を忍ばせる軍人は多いが、普通の貴族で枕元だけでなく、寝室中にあちこちナイフや剣を隠している貴族なんて始めて見たぜ。
ちょっと被害妄想の気もあるんじゃないか、この公爵??
それはともかく。
書斎にあった大量の魔術本からも
どうどうと設置されていたり、装飾品に紛れ込ませていたり、床下に隠されたりしている魔具を一つ一つ、調べていく。
が。
無い。
無いんだけど!!!!!
と言うことは、別邸か??
それとも使用人の部屋も調べる必要があるか・・・。
ため息をつきながらベッドに腰掛け、頭を抱えたらベッドサイドのテーブルに無造作に置いてある本が目に入った。
これも魔術本だ。
本当に、魔術が好きだな、この公爵。
一応確認のためにと手に取ってページをめくるが、何も挟まれてはいなかった。
前の表紙の裏を確認し、裏の表紙も確認しようとして・・・手が止った。
お?
この裏表紙、妙に厚いじゃん。
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