第130話 星暦553年 緑の月7日 でっち上げの容疑(7)
「ファルータ公爵家の屋敷全てを調べてでも、彼の今回の行動の裏にあると想定される悪事の証拠を見つけて欲しい」
皇太子と話してきた学院長に呼び出され、ある意味予想通りのリクエストが来た。
「全ての屋敷ですかぁ・・・」
一体どれだけ家屋を持っていると思っているんだよ。
公爵だぜ、公爵。
しかも歴史が古い。
王都だけでも本邸と別邸2つあるし、別荘は春夏秋冬の各季節に過ごしやすいあちこちの名所にある為、まだ
しかもファルータ公爵領の領都に先祖代々の本邸があるだけでなく、更に公爵領の主たる都市3つ全てにも別邸がある。
考えるだけで頭が痛い。
「まあ、こうなる可能性は高いだろうなぁと思って
ファルータ公爵が重要な秘密文書をあちこちの別邸に隠しているとは思えない。
全て一か所に纏めてあるか、せいぜい1か所が主たる隠し場所でもう一か所がもしもの時の保険といった程度のはずだ。
だが、ファルータ公爵の足取りが分からないことにはどの屋敷に隠してあるのか不明だ。
これからやる悪事を暴くのだったら尾行していればいいだけだから簡単なんだけどなぁ。
ここ過去一年程度の間に公爵がどこに足を運んでいたかを調べるのはそれなりに時間がかかるし、公爵の行動が必ずしも悪事に関係しているとは限らない。
というか、いまさら人に聞いて回って分かるような人目についた行動は単なる通常業務の一部で、悪事は人に隠れてやっていたから誰も覚えていないなんて可能性も高い。
ああ、考えるだけで空振りに続く空振りが予想できて今から虚しいぜ・・・。
「とりあえず、王都の屋敷を徹底的に探します。
その間に
だけど10日で見つかるかは分かりませんよ」
10日の間は、俺が公爵の意図通りに偽の礼状を見つけるために行動していると思って公爵も行動しない可能性が高い。
だが、10日たって何も見つからなかったと報告した後はもっと直接的な手段を取ると考えるべきだ。
学院長が頷いた。
「うむ、ありがとう。
勿論、経費は全てこちらで負担するし、ウィルの労働に対する報酬も払う。
我々としては、単なる個人的な怨恨から発した皇太子暗殺計画の陽動の可能性もあるとは考えているが、本格的に事を構えているとしたらどこか他国からの侵攻を手引きしている恐れがある。
その場合は侵攻後の地位や報酬に関する約束を記した正式文書があるはずだ。時間が無ければ
まじっすか。
他国の
俺的には学院長はコソ泥に奨学金を与えて魔術師にしてくれた『いい人』なんだが、実は国にとって重要な人物なんだなぁ。
今迄みたいにあまり気軽に話しかけたり相談したりしちゃあ、本当はダメなのかな?
まあ、俺だってそれなりに便利に学院長にこき使われているんだから、文句を言われるまではお互い様と考えておこう。
◆◆◆◆
「戦争の恐れあり、か」
「単なる嫌がらせだと思っていたんですけどねぇ」
長が呆れたように俺に目をやった。
「私も最初はそう思っていたが。
ガルカ王国からの礼状と将来の報酬を記した手紙が出てきた段階で、単なる嫌がらせを超えていたのに気が付かなかったのか?
裏金のやりとりや贈収賄の話ならば罰金や公職の辞任で済むが、他国からの礼状となったら反逆罪で死刑だ。
特級魔術師を嵌めて死刑に陥れようとするなんて、ばれたら特級魔術師の暗殺未遂と同じでこれまた反逆罪だ。
つまりは、仕掛けた方だって反逆罪で死刑になりかねない話なんだ、余程のことがない限りそこまでの嫌がらせはしない。
ハートネット殿は政治的闘争から距離を置く方だから、もともと政敵も特にはいないしな」
へぇぇ。
まあ、俺も学院長が政治的闘争に明け暮れる人間だとは思っていなかったけどさ。
「しかし、それこそ誰でもでっち上げられる手紙で反逆罪が成立しますか?」
長が肩を竦めた。
「自分の将来の保証として他国の
うげ~。
ファルータ公爵側の証拠を見つけたら、そっちも探しておかないと後で恐ろしいことになりそうだな。
「ファルータ公爵の家屋をリストアップするのとついでに、学院長の名義でここ1年ぐらいの間に貸し出された家屋も探しておいて下さい・・・」
「すでに命じてある」
流石は長。
頼りになるね~。
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