第113話 星暦553年 萌葱の月18日 ちょっとした遠出(2)

「なんでお前がここにいんの?」

空滑機グライダーで家の前に降りてきたアンディに声を冷たい声を掛ける。


これからちょっとした遠出をするというのに、仕事を持ってきたのだろうか??

魔術院の空滑機グライダーに乗ってきたと言うことは魔術院関係の用事で来たのだろうが、昨日シャルロが出かけると知らせたのに仕事を持ってくるなんて。

気が利かなすぎだぞ、魔術院!


「あ~。

シャルロ達が『サラフォードの妖精の森』に行くって言う話が漏れちゃってね。

何だかんだで騒ぎがあったんだけど、結局妥協案として俺が魔術院からのオブザーバーとして同行させて貰うことになった。

昨日の晩、シャルロに連絡したんだけど聞いてなかった?」

アンディが首をかしげた。


「聞いてないぞ?」

後ろから出てきたシャルロに振り返って睨みつける。


「だって、折角の遠出なのにウィルが寝不足で不機嫌だったら勿体ないじゃない。

アンディが着いてくるぐらいだったら別に良いでしょ?」

肩を竦めながらシャルロが悪びれずに答えた。


まあねぇ。

『魔術院からのオブザーバー』ではなく単に『友人のアンディ』の同行だと思えばそこまで腹は立たないが。


「やっぱり、出かける前に魔術院に態々知らせるなんて事をしない方が良かったんだよ」


「そうは言っても、別にアルフォンスの森に行くことを秘密にするつもりは無かっただろう?

後から話が漏れて、根掘り葉掘り色々聞かれてまた今度連れて行けなんて言われるよりも、最初からオブザーバーが着いている方が後から面倒がなくて良いじゃないか」

工房の倉庫から空滑機グライダーを取り出してきたアレク宥めるように声を掛けてきた。


「そう思っているんだったら何で俺にも知らせないんだよ?」

ある意味、今回のお出かけはアルフォンスの森へ行くシャルロ主導の旅行だ。

だからシャルロが納得しているなら構わないが、仲間はずれにされているのは面白くないぞ。


「連絡が来たのが昨日の晩、ウィルが既に寝室に行っちゃってからだったんだよね。

朝はバタバタして準備に忙しかったから話を持ち出して遅れるのも嫌だったし。

どうせアンディが来ればそこでウィルが文句を言うのは分かっていたんだから、宥めるのを1回にした方が時間が節約できるでしょ?」


おいおい。

随分と割り切っちゃって冷めた考え方じゃないか、シャルロ。

そんな子に育てた覚えはありません!だぞ。

育ててないけどさ。


「まあ、お前さんの言い出した話だから、魔術院の人間を連れて行きたいんだったら文句は言わんが・・・。

たかだか使い魔の故郷に遊びに行くだけなのに、お目付役が着くなんて面倒な話だな」


シャルロが肩を竦めた。

「考えてみたらあれだけ資料があるんだから、アルフォンスの森が人に興味を持たれているということを自覚しておくべきだったのかもね~。

面倒を見なければならないご老人が来るんだったら嫌だけど、アンディなら放置しておいても何とかなるでしょう?

だから向こうでの情報収集は自力で頑張るという事で合意したの」


ははは。

まあ、アンディならそれなりにそつなく俺たちの邪魔をせずに情報を集めてくれるだろう。


◆◆◆◆


地図を確認しながら空滑機グライダーで移動し、数刻ごとに降りて軽食を食べたり生理的欲求に対応していたら午後早くにサラフォード地方に着いた。


思ったより早かったな。

夜になるかもとも思っていたのだが、アルフォンスがシャルロに方向を指示できたので迷うこともなくそれなりに高速度で移動できたのが良かった。

地図で行き先を確認しながら進むとどうしても速度を上げられないんだよな。

いつか、行き先を指示できる魔道具を作れたら便利かも知れない。


「アスカとラフェーンを呼び出すならどうぞ~」

空滑機グライダーを木陰に隠し、人よけと保護結界を張りながらシャルロが提案してきた。


森の中へ空滑機グライダーで着地するのは難しいので、森の外れで降りて、そこから足で移動と言うことに最初からなっていた。


使い魔が移動用に向いていないタイプだった場合は近場の農家の人間にでも馬の手配を頼んでおかなければならないところだったが、今回は問題なし。

こういう時に、使い魔は便利だ。

召喚術を使えば、どんなに遠くに居ても呼び出せる。

遠かったらちょっと魔力がかかるが。


今回の遠出で足になって貰うことは既に頼んであったので、アスカもラフェーンも比較的近くに居てくれると言っていた。

シャルロは蒼流が何とかすると言っていたが、アンディはラフェーンかアスカに乗るのか?

ラフェーンはユニコーンなだけあって、処女じゃなきゃ触らせないとまでは言わないもののそれなりに気難しくってアレク以外の人間を乗せるのは嫌がる。

アスカは地下を動くのには良いが、地上の移動だとちょっと揺れる。

アンディの使い魔って何だったっけ?


「お前、どうすんの?」

姿を現したアスカに挨拶をし、撫でながらアンディに尋ねる。


「俺の使い魔、忘れてるだろ?」

木々の間からのっそりと現れた大きな森狼フォレスト・ウルフを指しながらアンディが答えた。


ああ。

そう言えば、こいつの使い魔って森狼フォレスト・ウルフだったっけ。

アレクや俺と勝るとも劣らぬ都市派のこいつの使い魔が森狼フォレスト・ウルフだなんて合わね~と笑ったことを思い出した。


「考えてみたら、郊外に住んでいる俺らは良いけど、お前なんて魔術院に務めているなら王都の中に住んでいるんだろ?

森狼フォレスト・ウルフが現れたりしたら普通の狼と間違えられて、討伐されちまわないか?」


森狼フォレスト・ウルフに跨がりながらアンディが肩を竦めた。

「まあね。だから休養日には田舎に遠出することが増えたよ」


へぇぇ。

使い魔に会うために態々田舎へ遠出するんだ。


郊外に住んでいるから、適当に気が向いたら顔を出してくれと放置している俺よりも、よっぽど使い魔との距離感が近いかもな。


「じゃあ、あとちょっとでアルフォンスの森に着くから、出発~」

シャルロが声を掛けながら、蒼流が姿を変えた蒼い馬モドキに跨がった。


アルフォンスの方で宿泊場所や食事は用意してくれるという話だったが、考えてみたら妖精族って人間より小さい。ちゃんとあったサイズのが4人分、あるのかね?


まあ、蒼流がシャルロに野宿なんぞさせるわけはないだろう。最終的には何とかなるか。

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