第34話 星暦552年 萌葱の月 11日〜14日 通信機
「携帯出来る通信機を作ろう!」
遺跡ツアーから帰り、細々とした雑用を終わらせて次のプロジェクトをどうしようかと話し合いを始めた場で、俺は提案した。
「どんな物を考えているんだ?」
アレクが尋ね返す。
「今回
シャルロが考え込むように首を傾けた。
「確かにね。固定式の通信機だったらあるけど、動かせないからね。それ用の部屋に設置されているから屋敷に繋いだ後も話したい相手を呼び出すまで時間がかかって暇だし。携帯出来れば
「ふむ。固定式の短所と長所はなんだと思う?」
アレクが聞く。
ん?何でそんな決まり切ったことを聞くんだ?
「固定されていることだろ?」
「ペアになった魔石が設置されている通信機としか通信できないのも不便だよね」
流石実際に実家で使っているだけあって、シャルロの方が現実的な答えが出てくる。
そうか、固定式の通信機ってペアでしか基本的に機能しないんだっけ。
「長所は?」
「どれだけ遠くても、どれだけ長い時間でも相手の顔を見ながら話を出来ること?」
シャルロが答える。
「そうだな。後は設定された魔石間でしか通話が出来ない代わりに、話している内容を盗聴される可能性が低いのも長所と言えるだろう」
アレクが付け加える。
確かに、シャルロが実家と会話をする分には別に盗聴されても構わないし、盗聴したいと思うほど暇な人間もあまりいないだろうが、例えばオレファーニ侯爵と長男のアシャル氏との間の会話だったら盗聴されたら困るような内容も時によってはあるだろう。
まあ、侯爵家の本邸と王都の邸宅との会話だったら固定式を今まで通り使えば良いんだけどさ。
「会話の出来る距離をどのくらいまで必要とするか、会話の相手を限定するか誰とでも出来るようにするか、会話の機密性をどうするかと言ったことを考えないといけないな。勿論、サイズや重さも重要だが」
アレクがまとめた。
「何に使うことを想定するかがポイントだね。
うぉぉぉぉ!?
シャルロがすっかり大人になってる!
単に
ん?
考えてみたら、これから
「考えてみたら、人に聞かれて困らないと言っても何人かのグループが同時に使った場合にお互いの会話が邪魔になるようでは困るな」
「確かにな。となると、何らかの手段で相手を限定出来ないと困るが・・・魔石を登録した相手としか通話できないのも不便だ。第一、我々が移動する場合だったら3人で会話したいし」
「そういえば、通信機ってどういう風に機能しているのかな?」
シャルロの素朴な疑問に俺たちは思わずお互いを見回して、笑ってしまった。
「そんな基本的なことも知らずに今まで誰も作っていなかった携帯式の通信機を作ろうなんて、傲慢すぎるな。とりあえず、どういう風に機能しているのかを調べて、どんな術回路が存在しているかを調査した上でどう改善が可能かを考えようか」
アレクが提案する。
「そうだな。魔術院でそれを調べるついでに、あの新遺跡の術回路のどんなものを魔術院が買い取ったかも調べておこうぜ。また遊びに行く際に、買い取られていない術回路を片っぱしから回収して何かに使えないか調べてみよう」
俺の提案に二人が頷く。
暫くは魔術院に入り浸りになりそうだ。
上手く行くといいんだけど。
◆◆◆
「だ~~~!」
山積みされた紙の山にクッキーを投げつけながら俺は雄叫びを上げた。
「なんだってこんなに複雑なんだ!!」
言いだしっぺだから諦める訳にはいかないが、いい加減この複雑さには頭が痛くなってきた。
固定式の通信機ですら驚くほど複雑なのに、これを携帯出来るほど小さく、しかも複数相手との通信が可能な物を作ろうなんて言うと可能よりも不可能の方に近い気がする。
「・・・固定式と同じだけの機能プラス通話相手の可変性と小さなサイズなんて無謀過ぎたな」
ため息をつきながらアレクが呟いた。
「僕たちなら出来ると思ったんだけど・・・今はまだ無理かもね」
シャルロが紙の上からクッキーを拾い上げながらこちらを向いた。
「とりあえず、
まあ、そうだな。
とりあえず
「いつの日か、欲しいだけの機能を持った通信機を作ろう。けど、今はとりあえず
「
アレクもクッキーをつまみながら尋ねる。
「結局、通信機って波動の合わせた魔石との間での共鳴を利用した魔具だよね?使う時に違う魔石と波動を合わせやすいように取り外し可能に作ればいいんじゃない?」
確かに。だが。
「空を飛んでいる間にぽろっと取れたりしたら笑えんから、取り外し可能と言っても絶対に落ちないようにしないとだけどね」
「画像が必要ないとなったら共鳴の程度が小さくてもいいかもしれないな。固定式の術回路のそれなりの部分は共鳴の精度を高める為の物だろう。だとしたらこれをある程度削れるはずだし、なんだったら魔石の出力を上げれば更に小さな術回路でも会話は出来るかもしれない。どれだけ術回路を削れるか、試してみよう」
アレクの言葉に俺たちは頷いた。
「そういえば、あの遺跡で買い取られた術回路にはどんなのがあったの?」
シャルロが更にクッキーを手に取りながら尋ねる。
おい、あんまり食べ過ぎると後でパディン夫人に怒られちゃうぞ。
「保存とか固定化系のが殆どだったな。それ以外のだと魔石が尽きていて、見つけにくかったのかもしれないのかな?
まあ、もしかしたら保存とか固定化系のしか術回路を開発しなかった文明なのかもしれないけど」
アレクとシャルロは集めるのを協力してくれたものの、『内容の確認はどうせ遺跡で探すウィルがやるべきでしょ?』というセリフとともに確認作業は俺に残されていた。
しっかし。
本当にあそこの術回路は驚くほど偏っていた。
「オーパスタ神殿の遺跡で見つかる術回路って基本的にそっち系に偏っているものなのかな?随分と今回の買い取り内容が極端なんだけど」
「遺跡で見つかる術回路に関しては特にリサーチしたことが無いから、知らないな。他の遺跡での買い取り結果を調べてみたらどうだ?」
アレクが肩をすくめながら答えた。
冷たいぞ。
「あ~・・・。面倒だからいいや。ちょっとこれ以上は暫く頭を使いたくない気分だ。とりあえず、保存・固定化系以外の術回路だったら特許申請されていないとみなして良いと思うから、適当に片っぱしから取って来て魔力を通してみることにする。そういえば、次はいつ行く?」
「え~っとねぇ、ケレナはあと2月ぐらいしたら行くって言っていたかな?」
いや別に、ケレナ嬢に合わせなくってもいいんだけどさ。
「・・・ケレナ嬢はそんな定期的にあそこに何をしに行っているんだ?」
アレクが興味を持ったらしい。
そっか、知り合いの家にふらふら定期的に遊びに行くのって上流階級の女性の通常の行動パターンじゃないのか。
てっきりそう言うモノなのかと思っていたよ。
「お小遣い稼ぎ。
あそこの鷹匠と一緒に鷹を育てて訓練して、売っているの」
「貴族のお嬢様ってそういうことで小遣いを稼ぐんだ。知らなかった・・・」
なんか大分貴族の女性に対するイメージが変わった気がする。
「いやいやいや、それって一般的な貴族令嬢の小遣い稼ぎの手法じゃないから!」
アレクが苦笑しながら口を挟む。
「ケレナは特に動物や鳥といるのが好きなんだ。ラズバリーの伯爵領では馬の訓練の手伝いとかもしているし」
流石シャルロの幼馴染兼友人以上恋人未満。中々個性的だ。
・・・それとももう恋人なったんかな、あの二人。
仲が良さげだが、単にじゃれているのか恋人としていちゃついているのか、判断しにくいんだよなぁ。
「とりあえず、この通信機の開発が終わったら遺跡へ遊びに戻る前に、普通の商業的な開発を一つか二つはこなした方がいい。まだ我々の名前をちゃんと売り広めていないからな。遊ぶのはもう少し後にしよう」
話が脱線する前にアレクが釘を刺した。
ちぇ。
ま、確かにあまり遊んでばかりいちゃあ不味いよな。
遺跡でそれなりに使える術回路を見つけるにしても、一生食っていける程のものはそう簡単には見つからないだろう。だとしたらちゃんと本業の方もそれなりに頑張らないとね。
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