第33話 星暦552年 萌葱の月 6日 楽しい手伝い(4)

「ねえハラファさん、こう言った遺跡で見つかった術回路の所有権ってどうなるんです?」

1日旧遺跡を歩きまわり、街中の隠し金庫(というか単なる隠し場所と言うべきか)にあった書類と一握りの貨幣・宝石(残念ながらグレードは大したこと無かった)を持ち帰った後、俺は発掘責任者の下に来ていた。


別に、貨幣や宝石、書類はいいんだ。

どうせそれなりに歴史的意味があるだろうから博物館とかに置きたいだろうし、そうじゃなきゃ売って発掘の資金源にする必要があるだろうし。


だが。

街を歩き回っている間に気がついたのだが、遺跡にもそれなりに術回路があるのだ。

壁の固定化のように手間暇かけて空間のエネルギーを少量ずつ吸収させて半永久的に起動するようになっているモノは勿論のこと、魔石が切れて動いていない術回路がそこそこ見当たった。


確か遺跡を狙う冒険者にとってこう言った術回路も重要な資金源になると聞いた気がするが、冒険者ではなく領主と歴史学会から正式に派遣された学者達が発掘している遺跡の術回路はどうなるのだろうか?


「うん?術回路かい?動いているのは大体全部魔術院が買っていったと思うよ」

ハラファが書類から目を上げて答えた。


「魔術院が、ですか?」


「ああ。新しい遺跡が見つかった場合は、魔術院が視て回って既に特許申請されていない術回路で使い物になりそうなのを歴史学会と領主から買い取るんだ。だから彼らが買い取らなかった術回路が新しく見つかったら・・・どうなるんだろ?」


おい。

俺が聞いているんだよ。


「魔術院が見つけなかったんですから、もしも新しい物を善意の魔術師がこちらで手伝いをしている時に見つけたら自分のモノとして申請しても良いと言うことになっているよ。

明らかに価値があるモノは魔術院が買い取っているはずなので、残ったモノに資産価値を見つけたのならばそれは見つけた者の権利と言うことで歴史学会も領主も所有権を主張しないという決まりなんだ」

尋ねるように目を向けてきたハラファにガルバが答えた。


ほほう。

それはそれは。


「何か面白いのを見かけた?」

ガルバが尋ねる。


「まだ試していないんですけど、そこそこの数の術回路が残っていたんでね。面白いのもあるかも、と思って」


「是非、それを研究しにまた来ないかい?君たちが・・・」


「見てください、これ!!!!!!」

突然、アルマが飛び込んできた。

手に握っている紙をハラファとガルバに向かって振り回すアルマを皆であっけに取られて見つめた。


おっちゃん、振り回されたら見えないって。


「どうしたんですか、アルマさん。突然走りだして?」

アルマの後ろからアレクが現れた。

どうやら、一緒に働いていたのに何かの発見に興奮して説明する前にアルマが飛び出して来てしまったようだ。


「書き置きです!!」


「誰か自殺したのか?!」

ハラファが慌てて立ち上がった。


いや、自殺した時に書き残すのって遺書って言わない?

書き置きって言う場合も無きにしもあらずだけどさ。

だけどこのアルマ氏がここまで興奮するとなったら遺書とは思えないぞ。


「は?何を言っているんです?

遺跡の住民の書き置きです。どうも、修行の旅か何かに出た息子に向けた書き置きのようですが、何故あの街が遺跡になったのか書いてあります!」


アルマの言葉にハラファとガルバも飛び上がって手に握っている書類を奪い合った。

おい。


「いいのか、あんなに手荒に扱って?」

取り残された俺はアレクに尋ねた。


「ああ、あれはインクを復元した後に彼が魔術で模写した紙だからね。別に破れても構わないんだろう。

中々面白い魔術を彼は知っているよ」


「ふ~ん。で、お前はあの紙の内容を聞いているのかい?」


「いや、模写したのを読み始めた最初の方は声に出していたんだが、面白いところに差しかかったところで興奮して飛びだしてしまってね。私も聞きそびれているんだよ」

苦笑しながらアレクが答えた。


「どうしたの?」

騒ぎに注意を引かれたのか、シャルロまで姿を現した。


「何か、大発見があったらしいぞ」


「本当?!何??」

興奮に目を輝かしたシャルロに、興奮して盛んに何かを議論している学者達を指す。

「あの中に割り込んで聞けると思う?」


「・・・もう少し待とうか」

俺もそう思うよ。


「ところで。もうそろそろ今回の休暇は終わりだけどさ、また今度、来ないか?

思ったんだけど、ここって魔力切れした術回路がそこそこあるみたいなんだ。魔術院が使えそうなのは買い取ったっていう話なんだが、魔力が切れた術回路には気が付いていない可能性もあるだろ?面白い発見もあるかもしれないと思うんだが」


俺の提案にシャルロが頷いた。

「まだまだ色々見つかりそうで、楽しそうだよね!ここの発掘は始まったばっかりだっていう話だし。アレクはどう?」


「そうだな、折角古い文書の復元方法を教わったのだし、もっと色々やってみたいところだ。年に数回、休暇も兼ねて遊びに来るのも悪くないな」


「ついでに何か面白そうな術回路を見つけたらそれを実現化出来ないか考えるのも楽しそうだし」

術回路を見つける役目が俺、それを実用化させるのはアレクとシャルロに頑張ってもらおうじゃないか。

まあ、実用化を考えるのは王都に帰ってからでもいいが。

とりあえず、王都に帰ったら魔術院がこの遺跡からどの術回路を買い取ったのか調べておこう。

買われていないのは全部俺らのだ!


◆◆◆


ちなみに、半日後にやっと落ち着いた学者陣から教わったところ、旧遺跡が廃棄されたのは宗教戦争が原因だったらしい。

宗教戦争というか、宗教を原因とした諍いが元になった戦争?

どうも街のおかみさん(多分)が息子に向けて残した書き置きだった為あまり説明がはっきりしないらしいが、神に関する何かで他の街と戦争になり、敗戦色が濃くなってきたので新天地を求めて相手の手の届かないところへ逃げることになったと書いてあったんだとか。


書き置き一枚では背景とかもはっきりしないのだが、『世紀の新発見につながるに違いない!!』とハラファ達は非常に興奮していた。残りの文書にもっと色々詳細があるだろうと更に文書復元にエネルギーを注ぐつもりらしい。


興奮のあまり過労で倒れないようにね・・・と祈りつつ俺たちは発掘現場を去ることになった。


また数月のうちに手伝いに来ると伝えたらとても喜んでいたが・・・あの調子じゃあ発掘に熱中しすぎて数月後には俺たちの事も忘れているじゃないかなぁ・・・。

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