第2話 星暦552年 藤の月 20日 パディン夫人のお話

— 休養日に王都でパディン夫人が妹とお茶をした際の会話より一部抜粋 —



>>サイド パディン夫人


新しい仕事はどうかって?

そうねぇ、思っていたよりも不思議だったという感じかしら?


何かちょっと重い物を動かしていたりしていると直ぐに魔術で助けていただけるのは、助かるんだけど・・・本当に心臓に悪いわ。そのうち慣れるのかしらね、あれ。


以前勤めていたダルターファ子爵家は魔術師の家系では無かったでしょう?

だから魔術師のお館ってどんな感じなのかしらって話していたじゃない。


あなたの魔術師のイメージって戦場を駆け巡る魔法剣士だし、私の思っていたのは象牙の塔で世界の神秘と真理を研究する学者だったわね。


どちらになるかと夫なんて息子と賭けをしていたのだけど、結局どちらも違ったわ。


結局、

魔術師であろうと、

貴族のご子息であろうと、

大商家のご子息であろうと・・・。

若い殿方は若い殿方ね。


こないだ久しぶりに雪が降った時なんて、庭で大騒ぎをして遊んでいたわ。

ちょっとした身ぶりと言葉で3メタもあるような雪像が突然庭に現れて他の二人に雪球を投げ始めたのにはびっくりしたけど。


その雪合戦で誰が勝ったかって?引き分けじゃないかしらね?笑いすぎて3人とも最後には息も絶え絶えで雪の上に転がっていたから。


普段はいつでも遊んでいる訳ではないのよ?

何でも今まで造られていない便利な魔具を造る研究開発をしているんですって。

去年売り出された保存庫フリッジ凍結庫フリザーの大元のデザインは彼らが授業の課題で作ったおまけだったらしいわ。


まあ、本当かどうかは知らないけど、台所に手製の保存庫フリッジ凍結庫フリザーがあるし、玄関の横の小部屋には濡れた衣類をあっという間に乾かせる乾燥機と言う魔具が置いてあるの。凄いわよ、これ。雪合戦でびしょぬれになったコートが2刻もたたずに乾いたんだから!

しかも焦げたり燃えたりしないように見張っている必要もないし。


他にも何かあったら便利かなと思う物があったら研究の参考にするから是非言ってくださいですって。あなたも何かアイディアがあったら言ってちょうだい。


家の中であったら便利な物というのはやはり主婦の視点が一番分かっているでしょうからお願いしますって言われたの。試作品は勿論贈呈しますって。だから何でもあったら便利だと思った物はメモに取っておいて、会う時にでも渡して。



3人がどんな殿方かって?


家政婦たるもの、雇用主の秘密なんて明かせないわよ!


・・・ちょっとした印象?


そうねぇ。


シャルロ様は、いい意味での典型的な『貴族のご子息』ね。下の者にもお優しいし、おっとりと鷹揚としていて。今まで働いていて、あそこまで本当に『いい人』な貴族の殿方に会ったのって初めてかもしれない。

・・・時々誰もいないところで一人言を言っているみたいだけど。


アレク様は『切れ者』という感じ。

あのシェフィート商会のご子息なのだそうだけど、気さくで良い方よ。何かを話していても、『頭がいいな』って感じることが良くあるわ。

彼は色々忙しいみたいで、3人の中では一番お出かけになっていることが多いわね。


ウィル様は・・・とてもプライベートな方、なのかしら。

もしかしたら使用人と言うモノに慣れていないのかもしれないわね。私を雇うのを決めた際に面接をしたのは彼だけど、館に入居してから彼が一番私と話をしていない気がするわ。

不思議なことに、彼ってどこに何があるのか何でも知っているみたいで、私が仕舞った場所を忘れてしまって探していても直ぐに見つけて下さるの。不思議よね。

・・・夜中に家の中を漁っているのかしら?もしかしてお腹をすかせて頻繁に夜食を探しているのだったら、何かスナック用の食べ物を出しておく方がいいのかもしれないわね。


ウィル様は一番私が思っていた『魔術師』に近いかもしれない。工房にも一番長く居るようだし。

ただし、夜になると出かけることも多いわ。王都に誰か、付き合っている人がいるのかもしれないわね。

館に連れてきてくれたら腕によりをかけてケーキを作りますって言ったんだけど、それを聞いていたシャルロ様にケーキをおねだりされてしまったもののウィル様の『ご友人』の姿は見えず。

まあ、まだ引越して1カ月もたっていないものね。

これからが楽しみだわ。

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