第1話 「魔法少女であるという事」

 生まれてきた女の子が魔法少女かどうかを判断する方法は人間離れな身体能力と人知を超えた特殊な能力を持っているかどうかでしか判断ができない。

 自分が魔法少女であると分かったのは11歳で小5の終わる頃だった。

 大抵の魔法少女は3歳から4歳の間で魔法少女特有の身体能力の高さを発揮し、その辺りで魔法少女本人も「自分は魔法少女である」という事を自覚し、その周りの人達もという事を認識、理解する。

 しかし私は魔法少女としての力が現れない状態で生まれ育ち、残り1ヶ月程で12歳になろうとしていた冬の終わり、普通は8歳から9歳で目覚める「固有魔法能力」が、ある事をきっかけに発現してしまい事件を起こしてしまった。

 初めて現れた力で制御できず、奇跡的に人を殺める事はなかったけど、何ががずれてたら、あのまま人を殺してしまっていたかもしれない。

 そんなあの日の事を思い出す、この感覚。自分の力に全身が支配されて正常じゃなく、意識があるのかないのかも分からないこの感覚……

 

 

 ……次にはっきりと意識が戻った時には病院のベットの上だった。

「お! やっと起きたか! 相変わらず魔法少女とは思えない貧弱さだな恵美は!」

 相変わらずどんな状況でも相手が誰でも声がでかいバカの声でより意識がはっきりとしてくる。

 どうやらしばらく意識が戻らないままだったようで奥の方にいた看護師さんが急いだ様子で担当の先生を呼びに向かっていた。

「声が大きいですよ、景。ここは病室ですし恵美ちゃんは今目が覚めたばかりなんですから」

 全身包帯状態でベットに寝転がってる景ちゃんのそばには用事で集合時間に来れてなかった葉狩さんがいた。

「葉狩さん! ……私どれだけ寝てたんだろう」

「この病院に運ばれたのが9時30分頃って聞いててもうすぐお昼の4時だから大体6時間30分かしら」

「6時間半も!? ならそろそろ活動に戻っても……痛っ」

「おいおい能力の反動があるんだろうからゆっくりしてろって。それにこのあたしでさえ1ヶ月越えの入院なんだからしばらくおとなしくな」

 確かに全身包帯人間に言われると中々に説得力がある。

「失礼します。意識が戻られたとのことで診察に参りました」 

 ノックの音と共に病院の先生がやって来た。


「MRIなどで検査したところ身体的な外傷はほとんどなくすぐにでも退院で問題ないでしょう。ただ搬送の過程で"魔法少女証"を確認させていただきましたがおそらくご自身の力の副作用か反動で倒れてしまった事と思われるので魔法少女様といえどもあまりご無理のないようお願い致します」

「分かりました、ありがとうございます」



「それにしても私が遅刻した日に限ってこんな事になるとは本当にびっくり!」

「いやーおかげでほとんど見回りできなかったしな~」

「で、でもそのおかげで強盗犯とコートの大男を捕えれたじゃん。てか私があいつを倒した後ってどうなったの? 正直あの前後の記憶が曖昧でさ」

「あー、あの後は警察の人が連行してってくれたけどあれは相当重体だね。」

 ただでさえ重体で顔色の悪い景ちゃんがより顔色を悪くしながら話を続ける。

「意識不明で全身硬直、口から血を流しながら恐らく目は失明。想像しただけでも恐ろしいね」

 "やりすぎたか"と話の聞き初めに一瞬思ったが景ちゃんの体ぼこぼこにした奴だと考えたら妥当だと思えてきた。

「あと恵美の全力見たの2回目だけどあんなに切れのある動き出来たんだな、能力抜きのあたしより素早かった気がするけど」

「なんか能力の出力と身体能力がリンクしてるっぽくて普段能力抑えてるから全力が出ないっぽい。あの時は能力フルスロットルで意識ほぼ飛んでた気もするし」

「なにそれ怖っ! 恵美ってキレたらやばいタイプなのは知ってたけど思っていた以上にサイコ系……?」

 少しだけ景ちゃんとの距離が遠くなった気がした。

「私も見たかったな~恵美ちゃんの全力。 聞いたわよ、景を助ける為に駆けつけて敵にかっこいい事言ってたって」

「い、言ってないですよ多分景ちゃんの空耳です」

〈かっこいいってよりかはやっぱちょっと怖い系だったけどな〉と思う景。



「じゃあ、退院するまで二人での活動頑張るから早く退院してよ?」

「おう! 葉狩さんも恵美も定期的に見舞いに来てくれ!」

 左腕を部分的に粉砕骨折し全身に擦り傷を負った景ちゃんは1ヶ月から2ヶ月間の入院。私は即日退院となりまだ夕方の5時だったが葉狩さんと共に早めの帰路についた。

 家に帰ると電話を受け酷く心配していたお母さんが私が無事な姿を見て少し落ち着いた様だった。仕事から早めに帰ってきた父さんもどこか落ち着かない様子だったがすぐに落ち着いていた。申し訳ない気持ちで終始一杯だった。

 


「ったくあのデカブツがしくじらなきゃこんな面倒俺らがしなくても良かったのによ」

 愚痴を吐く金髪の若い男とその後ろで携帯を触るオールバックの男。金髪の男が歩くその先には茶髪のホストの様な見た目の男がいた。

「や、やめてくれ……もうあんな化物とは戦えねえ! 今まで運よく倒せてただけなんだ」

「だったら魔法少女じゃなくて俺らを裏切って俺らとやり合おうってか? ハッ! めでたい頭してやがるぜ。魔法少女のやばさを知ってても組織の怖さは知らねえらしいな」

「あ、あいつは魔法少女とかそういうレベルじゃねえんだ……あんなもんと戦う位ならてめえら殺して逃げ切ってやらあっ!」

 懐に仕込んでた爆弾を放り投げ逃げ去ろうとする茶髪の男。

「あれ? て、てて、手が落ち」

 爆弾を持っていた手が爆弾ごと足元に落下。そのまま爆発し、辺り数十メートルが吹き飛んだ。


「大和、お前魔法少女以外に興味ねえから手出さねえって言ってなかったっけか?」

「気のせいだろう。そして手を(差し)出したのは向こうの男だ」

「その虚言とイミフ理論どうにかしろよな。にしてもあいつが言ってた魔法少女ってのは……どっちの魔法少女だとしてもどんな時でも面倒な存在だな」

「魔法少女という存在が誕生したせいでこの世界の歪みがより濃くなり、誕生したおかげで私の欲望もより濃く満たしてくれる……」

「お前の理論は相変わらず意味不明だな」



『次のニュースです。』

 次の日の朝、テレビのニュースで黒いコートの大男の報道がされていた。警察の調査によると「反魔連合」のメンバーである事が所持品から発覚した。反魔連合はいくつか存在する反魔法少女の思想や主張を持つ団体、グループの中の一つであり中でも過激派かつ実態が不透明で知られていたグループで今回の逮捕は2件目となるらしい。

「こんな恐ろしい人を捕まえるなんてお手柄ね、景ちゃんもこの大男に大怪我させられたんでしょう?」

「うん、まあほぼ普通の人と変わらない私と違って魔法少女の中でも身体能力が高いから回復力も高いだろうし退院するのも早いと思うよ」

「……本当に、恵美はどこも怪我してなくて良かったわ」

「そうだね」

 ……でも、魔法少女であるという事は常にこういう危険やそれに対する恐怖と共に生き、乗り越えなければいけないという事。

そういう運命の下生まれてきて魔法少女じゃない人々を救けて守る。それが魔法少女という存在で、使命なんだ。

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魔法少女とは 氷水とうふ @tofuhisui

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