第15話 溢れ出す
「聖女様、そのような卑猥な格好で騎士の中に交ざり、男漁りですか?」
「…………」
ルイス様に愛顔で手招きされて、チョロい私はいそいそと駆け寄ったら、そんな事を言われた。
言われた意味が解らなくて暫く呆然としてしまった。
「男に腕や脚や腹を晒して、淫らな」
「…………淫ら?」
「ええ」
「ルッ、ルイス様がそう見てるだけ――――」
言い終わる前に、腕を掴まれて、塔の中に引きずり込まれた。
塔のドアの内側に押し付けられ、足の間にルイス様の膝が差し込まれ、ブラトップの裾から手を差し込まれた。
グニッと胸が掴まれた。
「ほら、このように簡単に触れられる。この布の下に直ぐに胸がある……卑猥でなく、淫らでなく、何と言えと?」
「や――――」
嫌だ、止めて、そんな事を言おうとしたのに、口が、唇が、ルイス様のそれで塞がれた。
「んっ」
「ハッ! そんな物欲しそうな顔をして! この調子なら明日にでも新しい男が出来るのでしょうね」
「っ……何で、そんな事、言うの?」
「陛下に男を紹介してもらう手筈なのでしょう?」
「断ったもん!」
「ですが、陛下は騎士か貴族から選ばせると……」
「ルイス様じゃないなら嫌!」
「…………私はもうすぐ婚約を」
そんなの知ってる。昨日知ったばかりだから。昨日まで恋人だって思ってたから。
まだ好きが消えてくれないから、辛くて、悲しくて、苦しい。好きで居続けたい。でも、諦めなきゃいけないのに。
「何で……こんな事するの? ルイス様、お姫様と婚約するんでしょ? 何でキスするの? 何でエッチな事するの? 何で睨むの? 嫌いならほっといてよぉ」
「嫌いな訳無いでしょう!? 何で解らないんですか!」
「……?」
解る訳無い! 意味解らない! 恋人じゃ無いって言った! どこかのお姫様と婚約するって言った!
頭がぐるぐるしてキャパオーバーになった。
ボロボロと涙が出て止まらない。昨日、あれだけ泣いたのに、涙は涸れていなかったらしい。
「だだ、だんで、ごんにゃぐずずどぉ! ずぎっていっだどでぃ、ぎずじだどでぃ! おっばび揉むなぁ!」
「あぁぁっ…………ええっと……と、取り敢えず、上に行きましょう? ね?」
そっと一回胸を揉み揉みしてから、ブラトップを元に戻された。ルイス様に手を引かれて階段を上った。
昨日と同じ部屋の前に着いたのだけど、部屋の前でカレルヴォさんが俯せでぶっ倒れていた。
「いぎやぁぁ! 死んでるー!」
「死んでません死んでません、昏倒させただけです。二時間程で目を覚まします」
生きてた。床冷たいよと言ったけど、放置らしい。後が怖いな、なんて思いつつもルイス様のお部屋に入った。
なぜか鼻水ちーんをされ、なぜかルイス様の膝の上に横向きで乗せられた。
背中を支える為に回されている左腕が、と言うか、手が? 横からおっぱいをコソコソ触っているのは気のせいだろうか。右手が内太股を撫でているのは気のせいでは無い気がする。
「イーライには聖女の伝承が沢山残っています。もしかしたら元の世界に戻す方法があるかも知れないと思い問い合わせた所、情報を開示する代わりに婚姻を、と」
「…………。ルイスの毛根よ――――」
ルイス様の頭に手を向けて一節目を唱えた所で、手を握り潰す勢いで掴まれた。
「危なっ! 何をされるのですか!」
「だっでぇ! なんでっ、私、追い返すのぉ……うぅぅっ」
「あぁっ、また、鼻水が…………はい、ちーん」
ブシュゥゥ。ズビッ。と乙女とは思えない音がしたけど、ルイス様はスルーしてくれた。
「聖女様、元の世界に帰れる方法が存在するかも知れないのですよ?」
「ルイスの毛――――」
「頭への攻撃は止めて下さい!」
本気で怒られた。
へぶへぶ泣いていたら、ギュムムムっと抱き締められた。
「本当は……返したくはありません。…………でも、戻らなければ」
「なんで!」
「一国を覆えるほどの魔力を持った貴女を、このままこの国で独占出来るはずが無い。世界中から苦情や嘆願書が届いています」
「でも、隣のネスカリアに行ったし、明日からはミルバに行くよ!?」
「この世界には八十の国があります。その全てを巡れと言われたら? その全ての国々で、我が国に根を張らぬかと、誘われたら? 陛下のように男を…………そんなの赦さない……それなら、元の世界に何が何でも戻して誰の手も触れられぬようにします」
「…………あの」
なぜに、元の世界に戻ったら、そういった色事が全く無いような話になっているのでしょうか? いや、全くありませんでしたけどね。今からあるかもじゃん! 可能性的な、何かはあるかもじゃん! ルイス様みたいに貧乳揉むのが好きな人がいるかもじゃん! 何で未だにコソコソ触ってるんですか!? あと、何でルイス様は同行してくれる気ゼロなの? ルイス様が一緒に世界を巡ってくれればいいじゃん。
「…………我慢、出来そうに無いので」
「我慢しなけりゃ良いと思うんです!」
「………………ルーラントが脳筋脳筋と言ってましたが……」
何でその後の言葉を濁すの! 抱き締めてくれていたルイス様をグイグイ押し退けて顔を見たら…………イケメンだった! くそぅ。
イケメンが物凄く残念そうな顔をしていた。それは離れたからなのだろうか? それとも私に脳筋
「ネスカリアの聖女は結婚して、愛し合ったら、魔力が増えたと日記に書いてましたよ?」
正確には『やっバイ、クーちゃん、えちえち超上手くて死ぬかと思った!』からの、『何でか魔力増えてる! 結婚したから? えちえちしたから?』だったけども。えちえち。いーなぁ、えちえち……じゃなくて!
「…………聖女様は、私と試したいと?」
「っ!」
上半身に、主に顔に熱が集まる。慌ててルイス様の顔を両手で潰した。
「何をされるのですか」
「見たらだめっぎゃぁぁ!」
ねろーんって掌を舐められた。
「……試したいのですか?」
結構低い声が出るんだな、ルイス様の瞳って不思議で綺麗な色だな、とか現実逃避しつつ、そっとルイス様の膝から下りようとした。
「聖女様…………マリカ、私と試しましょうか」
…………ネスカリアの聖女は結婚して、えちえちしたら魔力が増えたらしいとルイス様に伝えたら、夜の帝王様が現れた。
このままルイス様の膝の上で横向きに座っているのは物凄く危険だ! と頭の中で警笛が鳴った。が、背中にはガッツリ腕が回してあるし、内太腿は艶めかしく撫でられているしで逃げられなかった。
「んっ、ルッ……ルイス様っ、そそそ、そのっ」
「ルイス、と」
「ルッ…………ルイス?」
「はい」
名前を呼び捨てにしたら、極上の愛顔で返事された。
その笑顔を見れただけで、心臓は高鳴るし、多幸感は溢れ出す。チョロいのは分かってるけど、嬉しくて仕方無い。
でも、一つだけ、ちゃんとしておきたい事があった。
「あっ、あの、ですね…………ルイス様が好きです。お付き合い、して下さい」
ペコリと頭を下げたのに、返事が来なかった。「ベタ過ぎた!?」とか不安に思いつつルイス様を見るとなぜか凄く辛そうな顔をしていた。
「……やっぱり、だめ、かな?」
「っ! 駄目な訳が無いでしょう!? もちろんです。イエスです。いや、違いますね……」
ルイス様がスッと真顔になって、私を膝から下ろして立つようにと言った。
ルイス様が私の前に片膝を付き、私の右手を取って、チュ、と手の甲にキスをした後、美しい色合いの瞳で見上げて来た。
これはもしや!? なんて、ワクワクドキンドッキン、期待は膨らみまくる。ルイス様もベタ攻めなの!?
「マリカ、愛しています。私と結婚してくださいませんか?」
「ふわわわわわ!」
まさかのプロポーズ。まさかの結婚。まさかのイケメン! いや、イケメンはいつもだった。
どうしよう灯里さん、イケメンに三日でお腹いっぱいになりませんでした! 毎日、くりくりの瞳を眺めていたいです! 毎日、サラサラのホワイトブロンドに手櫛したいです! 毎日、ツヤプルの唇にちゅーしたいです!
「マリカ、返事は?」
「ほあぁぁっ!?」
なぜに真面目な顔で太股撫でてるんですかっ!
プロポーズにテンパって妄想を繰り広げていたら、ルイス様は片膝付いたままなのに、いつの間にかゼロ距離にいて右手で太股を撫でていた。
「ひぎゃぁぁぁぁ!」
ルイス様の頭が近付いて来たなーと思ったら、なぜかおへそにちゅーされた! 何でか腰抜けた!
「失礼しますね」
「ほぇぁぁ!?」
腰を抜かして床にヘロッていたら、細っこいルイス様にお姫様抱っこされた。
え、大丈夫? 体重あんまり変わらないよね? 重いとか思われて無いかな?
「マリカ、そろそろ奇声以外が聞きたい。主に返事とか。もちろんベッドの中での奇声なら大歓迎だけど、ね?」
そして、今度は鼻の頭にちゅーされた。何だこれ、悶え死ねばいいの? 何でルイス様はお花みたいな香りがしてるの? ……私、汗臭いんですけど?
「大丈夫ですよ、腰が疼くほど官能的な匂いです」
「っ!?」
「マリカ、返事は?」
人を悶え死にさせておいて、急に真面目な顔とか止めていただきたい、切に。
「ふぇいっ! すっ、末永くよろしくお願いいたしますっ!」
「はい、末永く、ヨロシクしましょうね?」
ええっと、『ヨロシク』の語感が何か違った気がするのですが、違わない? そう? そっか。ならいいかなぁ。末永くよろしくお願いしますです!
何が何だか分からないけど、とにかく凄かった。
ルイス様がサラサラのホワイトブロンドを振り乱し、時々掻き上げたり、耳に掛ける姿がとてもセクシーだった。
汗を拭いつつ妖艶に微笑むルイス様の顔の破壊力は物凄かった。
二人で抱き合って、ちゅーして、それ以上の事もして、大人の階段をかなり駆け上がった。
ものっそい、痛かった。
でも、嬉しかった。
凄く、幸せだった。
大好きな人と思いを伝え合えて、結婚の約束をして、ひとつになれて、一緒に気持良くなれた。
体中から幸せが溢れ出した気がした。
こんなに幸せな気持ちになった事、無かった。大学に合格した、大会で良い成績残した、タイムが物凄く縮んだ、なんていう嬉しい事はいっぱいあった。ひゃっほぉい! って飛び上がって喜ぶ事、いっぱいあった。でも、コレは何だか違う。
「マリカ?」
滲み出す。
溢れ出す。
愛しさみたいなものが、滾々と湧き出て世界中に広がっていく、そんな感覚。
世界中の人達が、大好きな人に大好きって言えて、大切な人をぎゅうぎゅうに抱き締められて、大好きな人にぎゅむむって抱き締めてもらえて、微笑み合って、穏やかな日々を過ごす事が出来るといいなと思った。
――――あぁ、幸せだなぁ。
今、世界中に蔓延しているこの恐ろしい病に誰も負けて欲しくない。未だに良くは解っていないけど、たぶんこの病はウィルス性の何かだ。それなら、世界中の人が抗体を持てばいい。
アナフィラキシーなんて起こす事なく、脈々と受け継がれ、ウィルスがどんなに変貌しようとも、それに対抗できますように。
これから産まれる子ども達がこの病に、ウィルスに脅かされませんように。
皆が未来を、希望を紡いで行けますように。
――――世界中が幸せで満たされるといいなぁ。
「マ、マリカ? マリ――――」
******
マリカとひとつになった。
魔力量の違いなのか、聖女の自浄作用のせいなのか、魔力流しでの快楽が続かず、痛い思いをさせてしまった。なのに、マリカは終始幸せだと伝えて来ていた。
マリカは幸せそうに微笑んで、
ふと気付くと、ウトウトしているマリカからどんどんと魔力が溢れ出し始めた。
二人が繋がる事によって魔力が増えると言っていたので、初めはその兆候かと思った。だが、何かが可笑しい。
「マリカ? マリカ! 何をしているのですか!? 何故!? 止めなさい! 何をして…………駄目だ、これは駄目だ! お願いだ、止めてくれ! マリカぁぁぁ!」
マリカは、微笑んだまま意識を何処かに飛ばし、ブツブツと呟いていた。そして、全身から光を、魔力を、放出し始めてしまった。あまりにも莫大で、眩しすぎて、何も見えない。何かが起こっているのに、何も出来無い。
魔力でマリカの精神に干渉しようとしたが、一瞬にして弾き飛ばされてしまった。
「ゲホッ…………マリカ、君は一体何をする気なんだ…………マリカ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます