第14話 会いたかった。
ルイス様に会えると思ったら、馬車道も何のその。エウロピアに戻る六日間の道中、お尻がめさんこ痛くてもルンルン気分だった。
意気揚々と王城に戻って、王城の前庭でエウロピア国内に届く癒やしの範囲魔法を展開、発動、確認もして、意気揚々と謁見の間に向かった。
エウロピア国王に謁見して、開口一番にお願いしてみた。
「陛下、ご褒美にルイス様の謹慎解いてください!」
「……すまぬが出来ぬ。それよりも! 大儀であった。ただ、他の国からも要請が届いた。聖女殿、明日はゆっくり休んでくれ。明後日にまた出立してもらう」
ズバババンと話を逸らされてしまった。
約束、してなかったもんね。仕方ないよね? なら言質取ろう!
「じゃあ、もう一つのお隣の国を癒やしたら、解いてくれますか? ルイス様に会っていいですか?」
「…………すまぬが、ルイスは半年後にイーライ国の王女と婚約する運びになった。恋人が欲しいのであれば、私が家柄と心根の確かな者を紹介しよう」
「婚約……?」
「ああ。どうだ? 騎士などが――――」
「いらないです」
その後、どうやって部屋に戻ったのか覚えていない。ただ、リーゼに一人になりたいとだけ伝えて部屋の鍵を閉めた。
私、ルイス様と恋人じゃ無かったのかな? キスしたよね? 何で婚約しちゃうの? 相手がお姫様なんて…………勝負にならないじゃん。あれ? もしかして、私が気付かなかっただけで、義務感からだった? 罪悪感からだった? 私に付き合ってくれてただけ? 私、色々ダダ漏れさせてたから?
眼の前が歪んでいく。涙が溢れそうになって慌てて擦った。
グジグジしてても仕方ない。
――――そうだ!
はぐれて迷子になった時の為に、とルーラントくんが教えてくれた魔法『ルッキングフォー』を使った。
ルイス様が謹慎させられてる場所に行くのだ!
二センチ大の光の玉が胸の前をフヨフヨと浮いて飛んで行った。最大二メートルしか離れないので立ち止まると待っててくれる優しい玉だ。光の玉に続いてお城の中を歩いて行く。通り掛かった人に何しているのかと聞かれて「お散歩ー」と適当に答えた。
嘘じゃないもん。ルイス様を探すお散歩中なんだもん!
ちなみに、後ろからそっとついて来ていた護衛の騎士さんはめちゃんこ走って巻いた。
一時間程でお城の裏に出た。半分以上は巻く為に無駄に走ってたとか、たぶん気のせい。
裏のグランドでは騎士さん達が何か訓練をしていた。それを横目に見つつ、光の玉に誘導されるがまま歩くと、五分くらいでお城の横に建っている丸い塔へと到着した。
塔の入り口には誰もいなかったので、塔の中に入り螺旋階段をぐんぐん登った。多分三階くらいの高さ。光の玉が誘導したドアの前にはカレルヴォさんがいた。
「……」
「……ちっ」
「聖女が舌打ちをするな」
「へーい。ルイス様中ですよね?」
ドアノブを掴もうとしたら手にチョプされた。
リーゼー! 旦那様が鬼だよー! 鬼畜だよー!
「ちっ……」
「だから、舌打ちをするな」
「…………カレルヴォの毛根よ、枯れろ、朽ちろ、根絶し、抜け落ちろ、ヘアートゥフォールアウトぉぉ!」
カレルヴォさんの頭に向かって手を伸ばし、何か知らないけど思い付いた呪文を適当に言ってみた。
次の瞬間、視界がガクブルと揺れた後、頭のてっぺんに激痛が走った。ゴッ! って聞こえた。
「痛ぁぁい! 超痛い! ちょ、今なにで叩きました!?」
カレルヴォさんに頭を凄く硬いもので叩かれた。しかも、思いっきり。
あまりの痛さに、蹲って、俯いて、頭を抱えて、目を瞑って、半泣きしていた。
「煩いですよ! 何を…………何をしたのですか、聖女様」
「へ?」
「カレルヴォ…………髪が……」
「このクソ聖女がハゲになる魔法を使いやがった!」
へ? なんの事? と思ってそっと目を開くと、カレルヴォさんの足元に濃紺色の髪の毛がモッサリ落ちていた。そろーりそろーりと視線を上に上に向けると……つるピカなものっそいイケメンがいた。
「わぁ…………まぶしぃぶへっ……」
また頭を何か硬いので叩かれた。
「カレルヴォの毛根よ、やる気出せ、漲れ、滾れ、芽生えろ、伸びろ、ヘアーグロゥス…………あ、ストップ!」
取り敢えず、また手を伸ばして適当に言ってみたら伸びた。伸びすぎてたので止めた。
なのにまたもや頭頂部に激痛とゴッという音。
「何で!? 生やしたじゃん!」
「長過ぎる」
ちょもっと長くなっただけなのに。背中の真ん中から膝辺りにまで……ちょもっと。そんな事よりも!
「ルイス様! ただいま! あのね――――」
「聖女様、何をしにいらしたのですか? 明後日はミルバ帝国に向かわれるのでしょう? 魔力の無駄な消費は止めて、きちんと休息を取って下さい」
「……あのね、ルイス様に会いに来たんだよ?」
「そうですか」
「ルイス様は…………あっ……会いたく…………無かったの、かな? えへへ、私ね、ちょっと……勘違い…………恋人だって、思ってたけど……えへへへへ、違った?」
「……はい、違います」
そっか。ちゅーってしたり、好きだって言っても、違うのか。キスしたら恋人だと思ってた。親友の奈津に『かぁーっ、おこちゃまか!』って呆れられるんだろうな。奈津に会いたいな。愚痴聞いて欲しいなぁ。
「っ、えへ。えへへ、恥ずかしいね。エヘ…………」
ボタッと涙が落ちて、慌てて袖で拭った。でも、止まらない。ボタボタ落ちてしまう。
「っ、うぅぅ…………えへへへへ。ちょっと…………走ってきますっ!」
「「は!?」」
ドタドタと塔の階段を走って下って、騎士さん達が訓練していたグラウンドに突入して、思いっ切り走った。全速力で走った。凄く息がし辛いし、スカートが足に張り付くけど、走りまくった。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!」
騎士さん達がオロオロしてたけど、無視して走りまくった。途中、何回か転けた。
「ふぐっ……えぐっ…………うぅぅぅ…………ヒック……ウェッ、オエッ…………グスッ………………う、うあぁぁぁぁぁん」
「マリカ、マリカ、止まって…………マリカ! 止まりなさい!」
「っ……リィィィジェェェエエ」
「あぁっ、もぉ……はいはい。いらっしゃい」
リーゼに抱き着いた。途中転けたりいろいろして、泥だらけだったけど、ギュムムムって抱き着いた。
「カレルヴォさんが殴ったぁ!」
「あー。マリカが悪いわよ? それで、本当に言いたい事は?」
「…………ルイス様、恋人じゃなかった」
リーゼはただ黙ってボロボロと泣く私の頭を撫でてくれた。
ギャンギャン泣いて泣いて泣きまくって、泣き疲れて眠った。
泣きまくって寝たのに、朝起きたら顔はスッキリしてた。普通のこういう時って、目元がヒリヒリしたり、目蓋がパンパンになってたりとかしないんだ?
しっかり朝ごはんを食べて、軽くウォームアップしてから、騎士さんのグランドにお邪魔して走りまくった。ユニフォームも丁度あるしね!
セパレートタイプタイプだからなのか、リーゼには難色を示されたけど、着慣れたのが一番走りやすいんだよ! と強行突破した。
最近走ってなかったからか、体が重たくて、硬い。筋肉、筋、関節、柔らかくしないと。あと、がむしゃらに走りたい気分なのだ。
「聖女様ご一緒させて下さい!」
「どーぞー!」
一キロダッシュをしては軽く休憩。騎士さんと一緒にめちゃんこ走りまくった。
「あー。疲れた! 練習終わりっ! お疲れっしたー」
いい汗かいてルンルンと歩いていたら、ルイス様が謹慎させられている塔の前に立っていた。
イケメンだ。白シャツとスラックスだけなのにお洒落感があるな。割と出歩き自由なんだ? とか色々考えつつ見ていたら、笑顔で手招きされた。
チョロい私はいそいそとルイス様の元に向かってしまった。
******
聖女様が、現れた時に着ていたというユニフォームは、セパレートタイプと言うらしい。ブラトップなるものとショートパンツに別れている。
どう見ても、下着だ。この世界の下着よりも布面積が少ない。
何故なんだ。腕を、足を、腹を晒した格好で男達の中に混ざるんだ。騎士達の視線に気付いていないのか? 全員が鼻の下を伸ばしているじゃないか!
聖女様の二の腕を見るな。
引き締まった生脚を見るな。
なぜか割れている腹を見るな。
形の良い張りのある尻を見るな。
小ぶりだが柔らかい双丘を見るな。
それは私だけの物だ、私のマリカだ!
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