第34話
あおいはドレス代を稼ぐ為、今日も店に出ていた。
「いらっしゃいませ! あおいのクレープ屋です!」
すぐに行列が出来るのは、いつものことだったがありがたかった。
「こんにちは。あおい」
あおいがチョコクレープをお客さんに渡し終わったとき、声をかけられた。
「アレックス様!」
アレックスは行列に並んでいたようだった。家に来れば待たなくてよいのに学習しないな、とあおいは思った。
「あおいはこの前、メイド長のクレアにしごかれたようですね」
「アレックス様の命令じゃなかったんですか?」
あおいは戸惑って訊ねると、アレックスは首を振った。
「クレアは真面目でちょっと怖いので、私は苦手なんですよ。きっとクレイグの指示ですね」
アレックスはそう言って両手をあげた。お手上げ、と言う意味のようだ。
あおいはアレックスにクレアから教わったことを伝えた。
「お城でのマナーとか、ダンスのマナーとか、クレア様には色々教えて頂きました」
あおいは、コルセットが苦しかったことは黙っていた。
アレックスはそれを聞いて微笑んだ。
「そうですか。それなら今度のパーティーには、あおいも参加できるかもしれませんね」
アレックスの言葉を聞いてあおいは訊ねた。
「パーティーですか?」
「はい。私の誕生日パーティーは町の皆も参加できるんですよ」
「そうなんですか!? おめでとうございます! でも、皆参加できるなら特別なマナー講座は必要なかったんじゃないですか?」
アレックスはちょっと、すねたような表情で言った。
「特に仲の良い人たちに、私からあおいを紹介することもあるでしょう?」
「何故ですか?」
あおいはきょとんとしている。
「……酷いですね、あおい。将来を誓い合った仲だというのに」
アレックスが上目遣いで言うと、あおいの顔が真っ赤になった。
「ち、誓い合っていませんよ!!」
「私のことが嫌いなんですか?」
アレックスが意地の悪い顔で、微笑んだ。
あおいは真っ赤な顔で、アレックスに抗議した。
「アレックス様、私をからかわないで下さい!!」
そのとき、後ろのお客さんから声をかけられた。
「おい、ねえちゃん、いちゃついてないで早く注文取ってくれよ」
「いちゃついてません! アレックス様、注文して下さい!!」
「チョコクレープを一つお願いします」
「はい!」
あおいはチョコクレープを一つ作り、アレックスに乱暴に渡した。
「あおい、それではまた今度ゆっくりお話ししましょう」
「うう、なんかごまかされたような気がする……」
あおいはアレックスが帰っていくと、次々と新しいお客さんをさばいて行った。
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