第9話

 ピクニックの当日になった。


 あおいは大きなバスケットに、卵サンドや、ツナとレタスのクレープ、ハムとチーズのクレープを二人分詰め込んで、アレックスが来るのを待っていた。

 ドアをノックする音が聞こえた。

「はーい!」

「おはよう、あおい」

「アレックス様、おはようございます」


 アレックスは普通の貴族の服装をしていた。

「今日はお天気で良かったです」

 あおいが言うと、アレックスは頷いた。

「ええ、そうですね」


「大きなバスケットですね、持ちましょうか?」

「いいえ、大丈夫です」

 あおいはバスケットを持ち直した。

 すると、アレックスはバスケットをひょいと取り上げてしまった。

「女性に持たせるわけには行きません」

「ありがとうございます」


 アレックスとあおいは、森のそばの花畑で昼食を取ることにした。

「あおい、手をつなぎましょう」

「ええ!? 子どもじゃあるまいし、大丈夫ですよ」

 そう言った瞬間、あおいはぬかるみに足を取られ、転びそうになった。

「ほら、あぶないでしょう」

「分かりました」

 

 アレックスの手を取った。あおいは緊張して自分の手が汗をかいてくるのを感じた。

 二人は辺りを見ながら、花が綺麗だとか、新緑が美しいだとか話しながら歩いていた。

「この辺りにしませんか?」

 花畑の外れの木陰にあおいはピクニックシートを広げようとした。

「私がやりましょう」

 アレックスはピクニックシートを広げて、バスケットを置いた。


「今日は新しいクレープを持ってきたんですよ」

「それは楽しみです」

 アレックスとあおいはバスケットの中身を広げた。

「こっちがツナとレタスのクレープ、そっちがハムとチーズのクレープ。卵サンドもありますよ」

「ずいぶんありますね。食べたら強くなったりしませんか?」

 アレックスがいたずらっぽく笑った。


「もう! 錬金術じゃなくて料理ですから、そんなこと起きませんよ!」

 あおいは頬を膨らませて怒った。

「あおいはからかうと面白い」

「酷いです、アレックス様」


「それでは、いただきます」

「召し上がれ」

 アレックスはハムとチーズのクレープから食べ始めた。

「お味はいかがですか?」

 あおいが心配そうにアレックスの様子を見つめている。

「美味しい!」


「良かった」

 あおいもアレックスと同じ種類のクレープを食べた。

「クレープ屋ですから、自信はあったんですけどね」

「ああ、あおいのクレープは市場でも人気商品だからね」

 それを聞いて、あおいは嬉しそうに微笑んだ。


「ところであおいに相談なんだけれど、私も討伐に行くことがあるんですが、その時のために錬金術で回復薬と毒消し、攻撃用の武器を作って欲しいんだけど可能ですか?」

「えっと、全部食べ物になっちゃうかも知れませんが、それで良ければいいですよ」

 アレックスは頷いた。

「それなら準備しておきますね。討伐はいつ行かれるんですか?」

「来週の週初めかな」

 あおいはちょっと考えてから頷いた。


「それじゃ、準備しておきます」

 アレックスとあおいは、残っていたクレープと卵サンドを食べると、散歩をしながら家に帰った。

「あおい、今日は楽しかったです」

「私もです。アレックス様」


「それでは私は王宮に戻ります」

「あ、私も王宮の図書館に行きたいです」

「それなら王宮まで一緒に行きましょうか」

「ありがとうございます」


 あおいとアレックスは王宮に向かって歩き出した。

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