第7話

「あおい様、いらっしゃいますか?」

「はーい」


 あおいがドアを開けると、兵隊が立っていた。

「こちらのお手紙をアレックス王子から預かって参りました」

「ありがとうございます」

 あおいが手紙を受け取ると、兵隊は帰っていった。


「なんの手紙かしら? 蝋で封がされてる」

 あおいは緊張しながら、丁寧に手紙を開けた。

 手紙には、今日のお昼過ぎに王宮まで来るように書いてあった。

「どうしよう、服なんて普段着しか持ってないよ」

 あおいは困りながらも、一番まともそうなグレーのワンピースに着替えた。

 

 昼過ぎになった。

 あおいは、食事を軽く済ませると王宮に向かった。


「こんにちは、王宮に来るようアレックス王子から手紙を頂いたのですが」

「あおい様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 メイドが出てきて、あおいを応接室に案内した。


「やっぱり、王宮はひろいなあ」

 あおいが感心していると、ドアがノックされ、アレックスが現れた。

「こんにちは、あおい。呼び出したりして申し訳ありません」

「いいえ、アレックス様。きょうは何のご用でしょうか」


「先日、クレープの代金をお支払い出来なかったので、お詫びにお茶をご馳走しようと思いまして」

 アレックスがそう言うと、執事がやって来てお茶とケーキをテーブルに置いていった。

「そんな、気を遣わなくても大丈夫なのに」

 あおいが恐縮すると、アレックスは微笑んで手を出した。

「はい、100シルバーです」

「ありがとうございます」

 あおいは100シルバーをポケットにしまった。

 

「綺麗なケーキ。薔薇の細工が細かくて本物みたい」

「あおいの口に合えば嬉しいのですが」

「いただきます」

 あおいはケーキを一口食べた。バタークリームがふんわりと、とろけて良い香りがした。

「美味しい」

「よかった」


 アレックスもケーキを一口食べた。

「ところで、あおいはロイドと冒険に行ったそうですが、本当ですか?」

「ええ、本当です」

「男性と二人きりになるなんて、危険ですよ」

 アレックスは真面目な表情でそう言ってから、紅茶を飲んだ。

「ロイドとは何でもありませんよ。友人です。それにローラも一緒でしたし」

「それなら良かった」


 アレックスはホッとしたようにため息をついた。

「あら? もしかして、嫉妬されていたりして」

 あおいがふざけて言うと、アレックスは紅茶を吹き出しそうになった。

「そ、そんなこと、ありません」

 アレックスが真っ赤になっているのを見て、あおいも顔が赤くなった。


「私も冒険で役に立ったんですよ」

「錬金術で作ったポーションゼリーにエリクサー金平糖ですか?」

「え!? そんなことまでご存じなんですか?」

 アレックスは笑いをこらえて、話し続けた。

「あおいらしい、可愛らしい錬金術ですね」

「もう、笑わないで下さい! 私だって真剣に作ってるんですから」


 アレックスはあおいの言葉を聞いて、真面目な顔をしようと努力した。

 しばらく、ロイド達との冒険の話や、市場での出来事を話しているとあっという間に時間が過ぎた。

「あおい、今日はありがとう。申し訳ないが、そろそろ時間が……」

「あら、本当。私ばかりしゃべって、ごめんなさい」

「いいえ。あおいが楽しそうで何よりです」


 アレックスは王宮の門まであおいを送った。

「あおい、またお店へ遊びに行ってもかまいませんか?」

「はい、おまちしています。でも、お店じゃなくて家ですから」


 あおいはアレックスと別れると、ぼろ屋へと帰っていった。

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