王都アトラセル篇

第16話 ハーピーさんと世界最強の魔法使い

 「ここいらで降ろさせてもらいますね。駐車料金は払いたくないので。」 

「ありがとうございました。」


 王都の外れで、車が止まる。

運転手の女性にお礼を言って、改めて、遠くから大きな建物達を見る。

中央、であろう場所へ行く程に、ドンドン建物が大きくなっていくのがわかる。


「デカいわねぇ。」

「大きいですねぇ。」


呆けている二人をよそに、ララは一人、引き寄せられるように歩きだす。


「ちょっと、待ちなさいよ!」


エインティアが気付き、追いかける。

その後をイリスが慌てて追いかけた。






 王宮へと向かえば向かうほどに、街並みが急速に発展していく。


「ちょっと、ララ!歩くのが早い!!」


息が荒くなり始めたイリスを気遣って、エインティアがララを引き留める。

ララはハッとして、振り返った後、


「すみません。」


と呟いて、二人に補助魔法をかけた。


「中央地区に入る際に冒険者ギルドカードを提示する必要があった筈ですので、準備お願いします。」


三人の横をバスが通り抜ける。


「自動車が普通に走ってるわね……。」

「桁違いに発展してますね……。」


 キョロキョロしながら歩く二人とは対照的に、ララは前だけを向いていた。

 村でペットボトルに補充した水を飲みながら、三時間ほど歩くと、街並みはガラリと変わり、煌びやかな魔晶石の街灯達が立ち並び、沢山の人が行き来するようになっていた。


「オーリストルが田舎に感じますわね…。」


エインティアがボソッと呟いた。

目の前に、ゲートが現れる。


「中央地区に入ります。カードの準備を。」


ララの言葉で、ポケットから冒険者カードを出すが、門番は居なかった。

手に持ったカードが行き場を失くし、ふらりふらりと空間を彷徨う。

ゲートを通った先、遠くからも見えていた、巨大な建物達の全容が明らかになる。


「このゲートを通るだけで、勝手にカードの所持の有無や、情報を読み取ってくれるのですね。……随分発展しましたね。」


ララは冷静に呟くが、


「何感慨深そうな顔してんのよ!あんたのせいで物凄い赤っ恥かいたんだけど!?」


田舎者感丸出しでゲートを通ったことにエインティアは顔を真っ赤にして抗議した。






 王都アトラセル。別名、魔法都市アトラセル。

北地区フルクト、北西地区ラート、南西地区ミリリ、南東地区ミフル、北東地区ララル、中央地区グラメの6つの地区に分かれる、世界最大の都市。

それらの地区の名前は、かつて存在したペペスと呼ばれる巨大なカメの名に由来する。

 中央地区グラメで一際目立つ建物は3つある。

王宮と、教会、そして世界最大最高の魔法学校であるユリアス魔法学園。

ユリアス魔法学園は15歳以上25歳以下の魔法の才能がある生徒達が集い、魔法を学ぶ学園だ。

校風は自由、制服と学生証は優秀の証、毎年数百もの赤点脱落者を出しながらも、卒業出来れば成功が約束される、全員魔法のエリート達の学び舎。

それが世間での、この学園への認識だった。

 そんなユリアス魔法学園の周囲は慌ただしく人が飛び交い、一際煌びやかに装飾が施されていた。

近くの柱に貼られたポスターには、


『ユリアス魔法学園、学園祭!』


と大きく書かれていた。


「あぁ、そういえば、この時期でしたっけ。学園祭。」


ララが懐かしむように口にする。


「これ、明日からの三日間じゃない!行きたいわ!ララ!」

「私も行きたいです!」


世界最大の学園の、世界最大の学園祭だ。

エインティアは勿論、魔法に興味深々のイリスも興奮している。

ララは少し悩んだ後、


「そうですね、入場は無料ですし、学園の中は警備の目が行き届いていて安全ですから、二人で行ってきて下さい。くれぐれも正体はバレないように。」


ララはイリスをチラリと見ながら言った。


「ララさんは行かないので……。」

「ティリアナぁ!」


イリスの声を遮るように、女性の大きな声が響いた。

声の方を見ると、長い赤毛を雑に後ろに纏めたポニーテールの女性が立っている。


「私の名は、アトンミィ・フルクホールム。現世界最強の魔法使いよ!あんた、ティリアナよね。魔力でわかるわ。私と勝負しなさい!」


有無を言わさない自己紹介からの挑まれた勝負に、ララはため息をついた。


「どちら様でしょうか。いえ、お名前は解りましたが、私はティリアナではありませんので。それでは。」

「ちょ、ちょっと!?ティリアナ?ティリアナさ~ん!あの、乗ってくれないと私、物凄く恥ずかしいのですが…お~い……。」


周囲の人々がティリアナの名前に反応し、視線がどんどん集まってくる。

ララは気にせず歩き出し、イリスとエインティアもついていく。

 一人、人々の視線の中心に放置されたアトンミィは、顔を真っ赤にしてティリアナを追いかけた。






 ゲートを抜けて、北地区フルクトに入って暫く歩いたところで、ララは足を止めた。


「で、どうするの?ティリアナさん。」

「……!」

「え…えぇ!?ふぇ?あ、あの……。」


エインティアに本名を呼ばれて、ララは少し驚く。

だが、バレているとも思っていたので、少しだけだ。

思い切り驚いているのが一人いた。イリスだ。


「え、本当に、ララさんがティリアナさんなんですか?え、世界最強の魔法使いさん!?」


魔法知識の乏しいイリスは、ララが道中かけていた魔法の凄さが全くわかっていなかった。

故に、ララがティリアナだと気付けていなかったのだ。


「やっぱりティリアナじゃない!なんで無視したのよ!」


追いかけてきたアトンミィが、大きな声で抗議した。


「あれだけ人通りの多いところで私の正体がバレると、この二人にも迷惑がかかりますからね。……それにしても、相変わらず視野が狭いね、ミィ。」

「あぁ?……久しぶりの再会で即煽りとは、やってくれるじゃない、ティリアナ!」


アトンミィは媒介具の杖を構える。

ララは二人に下がる合図をし、自分も下がる。


「何?ビビってんの?これはもう世界最強でもなんでもないわね。これからは私が……。」



バスン!



突如として地面で何かが炸裂し、アトンミィの杖は空高く遠方に飛んで行った。


「だから言ったじゃない、ミィ。相変わらず視野が狭いねって。」

「なっ…なっ…!?」


ララは唖然としているアトンミィの肩をポンッと叩いた。


「ほら、さっさと取りに行かないと。」

「くっ…覚えてなさいよ!……後、今までどこ行ってたのよ……ずっと探し回ったんだから……おかえり。」


アトンミィはそう呟くと、涙を隠すように、もう一度「覚えてなさいよ~!」と叫びながら走り去って行った。






 「ララ…いや、ティリアナと呼んだ方がいいのかしら。」

「呼びやすい方で…ララで構いませんよ。……構わないよ、エイン。」


エインティアの問いに、ララは敬語を使わずに返した。

エインティアはむずがゆそうに、首を傾げながら苦笑いした。


「違和感が凄いわね…けれど、うん、こっちの方がいいわ。これからもよろしくね、ララ。」

「こちらこそ、エイン。」


全く話についていけていないイリスは漸く我に返る。


「わ、私も混ぜて下さいよ!」

「当然だよ、イリス。」

「うわっ、違和感すごいですっ!?」


思わず「うわっ」っと言ってしまったイリスに、ララは苦笑した。


「け、敬語に戻そうか?」

「い、いえ、これでいきましょう。直ぐに馴れます…多分。」


イリスも首を傾げながら苦笑いして、エインティアと目が合い、苦笑いし合った。


「なんなの?やっぱり違和感ある?というか絶対あるよね。うん。私もある。」


ララも苦笑いしながら、二人の頭を両手で撫でた。






 ティリアナには知り合いが沢山いて、だから、宿に困ることは無かった。

ララが「やあ!お久!」と挨拶に行くと、宿屋の店主は涙ながらに出迎えた。


「本当に…ティリアナだ…辛かったな…でも、生きてて良かったなぁ…。」

「高級ホテルでもいいんだけど、この二人、特にこっちの子、訳ありだから。」

「お、おう。部屋は空いてる。好きなだけ泊まっていってくれぇ!」


店主は涙ながらに奥さんを呼び、その奥さんもララを見た刹那、涙が溢れ出した。


「わかるものですか?髪の色も長さも違うし、歳も…多少重ねたし。」

「わかるに決まってるだろう!うぅ…お帰りなぁ!一生泊まっていってもいいんだよぉ!」


カウンターでおいおい抱き合って泣いている二人を置いて、部屋に行く。


「わ、お風呂がある!」

「イリス、お風呂知ってるんだ?」

「あ…ち、知識だけですけどね?」


イリスは必死に誤魔化した。

壺湯が一つあるだけだが、それでも有り難かった。


「結構歩いたし、今日はもう休もうか。」

「そうですわね。」

「賛成です!」


翌日の学園祭に備えて、三人は、今日は早めに休むことにした。

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