第2話 ハーピーさんとゴブリン

 前世(というか転生前)の記憶を取り戻した少女は立ち上が……れない。


「いや、鳥脚立ちづらい!!羽眩しいし、何なのよこれぇ…。」


ゲームを始めて直ぐに歩き方がわからなくて詰む、くらいの酷い状況だ。

だが、ハーピーなのだ。つまり……。


「バタバタすれば飛べるかな?」


試しに羽ばたくこと数回。体が浮き上がる。……が。


「立てた!立てたよ!!うん、確かに立てた、けどさ?」


少女の額には粒のような汗が滲み出ていた。


「うん、これ、飛べて10メートルくらいだ。」


あまりにもコストパフォーマンスが悪かったのだ。






 「さて、と。先ずは……まぁ、歩きにくいけど歩くことは出来そう。」


(走れるかと聞かれたら答えられる自信はないけど。)


歩ける、なら、次にすべきこと、それは。


「食料調達!!」


 開始早々サバイバルを強いられていることに関しては置いておくとして、食べなくては死んでしまうのだ。それは嫌だった。

だが、ここは密林、完全なジャングルと言っていいレベルの場所だ。

食料はありそうなのだが…。


「毒が、怖い!!!」


そう、彼女の記憶、つまりはネットやテレビで得た知識(偏見)では、

ジャングル→アマゾン→毒→理不尽な死

と連想される。

 そして、目につくもの全ての色が派手だった。


「どうしましょう…。」


 こういう場合、物語では都合よく助けてくれる人や襲われている人が出てくる。

しかし、彼女は孤独だった。ジャングルなら足音くらいするはずなのだが、そういった音は全くと言っていいほどなかった。


「ちょっと待って?」


少女は自分の置かれている状況を整理することにした。


歩くのがやっと(すぐに捕まる)

あまり飛べない(すぐに捕まる)

虹色に光ってる翼(目立つ)

少女(即襲われる対象)

飲食に困っている(餓死)

つまり、動かなくてはいけない(目立つ)


どう考えても絶望的だ。

ここでポジティブシンキング出来る人間は相当なメルヘン野郎であろう。


「あ、魔法!」


神様に魔法のある世界が良いと伝えた筈だ。

ならば、チートな魔法の一つや二つ…。






 「…いや、思いつく限りの属性魔法や便利魔法は試したんだけどな~。」


結果、何一つとして使えなかった。


(きっと、覚醒したら物凄い強さになるんだよね!そうだ、そうに決まっている!!)


そう思い込むことで無理やり納得して、次にするべきことを考える。


 「やっぱり、食料かなぁ。」


ならば、と。思いつく限りの食料を考える。


木の実(お腹膨れます?)

昆虫(いや、無理、鳥だけど、無理!!)

肉(こんな様で狩れますか!?)

魚(あ、食料より水のがよっぽど死活問題!?)

おや?こんなところに美味しそうな鳥さんが…って、私だよ!

まぁ、ハーピーなので鳥人なんだけどね。


「うぅむ、取り敢えずは、水場を探しますかぁ。」


一瞬、アマゾンのゆっくりな大きくて濁った河が頭をよぎって必死に首を振る。


(大丈夫な筈、ここはファンタジーな世界の筈なのだから!)


と、現実逃避するハーピーさんなのであった。



ガサッ



 突如として背後から足音が聞こえた。


(もしや、救世主!?)


慌てて振り返ると、そこには臭くて醜い、茶緑色のハーピーさんより二回りおおきな筋肉がいた。


「あっ。」


ハーピーさんは、死を直感し、硬直する。

しかし、ゴブリンはニタリと笑って直ぐには仕掛けてこない。


その間に、ハーピーさんは正気を取り戻し、思考する。


(うぐ、こいつ、ゲス野郎だ。というかそもそもゲームとかでのゴブリンって種族は大体そういうやつらだった!……いやいやいや、ゴブリンって確か小人設定もあったよね?その設定どこいったの!?なんで醜悪な筋肉ダルマなの!??)


しかし、突っ込んでいる余裕はない。

逃げなきゃ、殺られる。


(逃げなきゃ!)


少女は輝く翼を羽ばたかせ、天へと……。


「ゴブゴブゥ!(逃がすかっ!)」


ゴブリンが右手に持っていた棍棒?のようなものを構える。

振り返ったハーピーさんは、緊急停止する。


(無理無理、絶対当たるって!当たったら即死だってぇ!!)


事実、ふらふらとしか飛べないであろうハーピーさんに避ける術は無かった。


 (あれ?なんで私、振り返ったの?)


ゴブリンが投擲の構えを解いたことで出来た余裕をフルで使い、ハーピーさんは必死に考えた。


(もしかして、私ってゴブリン?)


この世界に来てからというもの、鏡なんて見ていない。

つまり、ゴブリンと鳥で虹色ハーピー!の可能性も否定できない。

ほら、遠目美人なんて言葉もあるくらいだし。


(遠くで私の翼を見て、近寄って顔に絶望して……殺されないかな、私?もしや、神様の言っていたふざけ……とは、このことか!?)


などといった可能性についての思考は切り上げる。

むしろ、そうであった場合でもこの状況においては有利に働く可能性ですらあるのだから。


 そのとき、突如として記憶が頭を駆け巡った!


(あっ、これが走馬灯かぁって、違う!)


「オプション、翻訳にしたんだっけ。」


後悔していた。というか神様を恨んでいた。でも、今は!

このスキルで切り抜ける!!






 「ゴッゴブゴブゥ!(私と、お友達になってくれませんか?)」

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