第2話

 その日、俺はふと気が付くと、とある事務所のソファーに座っていた。


 随分と立派なソファーで座っていると身体が沈み込む様だ。


「…………ふぁ!?」


 唐突に俺は今の現状が何時ものくたびれた作業部屋では無いことに気が付き、頭が混乱する。


「え?え?何処だ、ここ?」


 コンコン


 唐突にドアがノックされた。


「な、なんだ!」


 思わず荒い口調で返答してしまった。


 ガチャりと扉が開くと、


「旦那様、お客様でごさいます」


 と、老齢な執事の格好をした男性が入ってきた。


 そして、何故かその執事の頭上に説明文が表示されていた。


 ジェレミー・コンラッド

 男性

 65歳

 職業:執事


 ビスマルク家に代々使え、あらゆる方面でサポートしてきた一族。

 実に有能。


「………は?」



 俺は余りの有り得なさに頭を抱えたくなった。

 何だよ、そのミステリー現象。

 ご都合主義にも程がある。



「お客様でございます。旦那様。先触れにより本日の午後に起こしになられるとお伝えしておりましたが、お忘れでごさいますでしょうか?」


「……は?」


 どういう事だ?客って何?それに旦那様?俺が?と言うかここは何処だ?何故、俺はこんな豪華な所でこんな対応させられてるの?


「旦那様?」


「あ、ああ、いや何でもない。通してくれ」


「かしこまりました」


 頭が混乱したままだったが、尋ねて来た人を見れば何か分かるかもしれないと思い、話を進めた。


「失礼しますよ」


 入ってきたのは30代ぐらいだろう男性で華美は無いがしっかりとしたスーツを着こなした男性が入って来た。


「ようこそ」


 俺は立ち上がり握手を交わす。


 何故ならその男性の頭上にも説明文があったからだ。


 ウィリアム・D・マーキュリー

 男性

 30歳

 職業:アルメイダ王国騎士団総長


 アルメイダ王国、元国王の次男。

 王位を兄に譲り、王国騎士団に入団した。

 爵位は公爵。


 今、巷で起きている不可解な連続殺人事件に頭を悩ましている。

 騎士団と市民警官での合同調査に置いても解決の糸口さえ見えず、それを嘲笑うかのように事件の被害者が増えるばかりになっていた。


 恥を忍び、藁にも縋る思いで、あらゆる事件の謎を解決してきたと噂のガイル・A・ビスマルクに相談しに来たのだった。


「ビスマルク伯、今日よろしく頼む」


「………尽力を尽くします」


 落ち着いた外面を取り繕っては見たものの、俺の心はもうしっちゃかめっちゃかだった。

 だって考えも見てくれ!


 突然の状況に混乱しているのに、入っくる情報がアルメイダ王国に執事のジェレミー・コンラッド、騎士団総長のウィリアム・D・マーキュリー。


 それって、俺が書いてる途中の小説の設定じゃんか!?


 しかも、俺の名前がガイル・A・ビスマルク?

 それって小説の主人公の名前じゃんか!?


 本気で意味が分からない。


 何故、俺が自分の書いていたミステリー小説内にいるんだ!

 それが一番のミステリーだよ!


 だが救いは、まだこの小説はスランプで未だに未完成だという事。

 自分で書いてた癖に謎やトリックが閃かず答えを導き出せなくて書くのを途中で放棄…いや、休止していた話だ。

 ミステリー作家として、またミステリー小説好きとして、こんなに美味しい事はない!


 まだ見ぬ謎へ俺自身が挑戦する時が来るとは。


 ならばこの謎、解き明かして見せるしかあるまい!!


 さあ、ミステリーを始めようではないか!!

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