第15話 パラダイスロスト◇-3

◇◇◇◇◇◇◇◇



 宮殿の回廊を抜け、眩しい光が視界を覆う。


 まだ慣れない目に映る、白い橋。


「……あ……」


 見えない何かが、吹き付け頬を撫でる。


 私は、それが風だと知った。


 橋の先に外の世界が霞んでいた。


「これは……風」


「橋を渡ればすぐに外だ!」


「やっと…外──」


 橋を渡り始めたその瞬間。


 大きな何かが、橋の真ん中へ音を立てて落ちてきた。


「何…あれ」


 私達が渡るはずの橋の上に、大きな影が立ち塞がった。


 降り立ったのは、人の十倍はある大きさのそれ。


 白と黒の外殻に、翼か、魚のヒレのような装甲、兜を被った蜥蜴……のような顔。


 私がお父様に教わった、"竜"というものと、海の生き物を混ぜたような外見。


 その体に纏った鎧のような物は、自然な生き物には見えない。


「何故ここに……」


「何…あれ?」


「陛下の機海獣ケトス・マキナだ……一体誰が…….」


「けとす…鯨?」


「そうなんだが、違うんだ」


「違う?あ…シャチ…似てる」


 白黒の配色とか何処と無くシャチの雰囲気がするし。


「海の"獣"で、乗り物だ」


「生き物…乗り物?」


 ……?何それ?馬みたいな?


 馬も見たことないけれど。


「普通の動物とは……話してる暇は……マナ様、走れるか?」


 オードは何かを覚悟したような悲壮な表情をしていた。


「……どうする?」


 本当は、どうするかなんて聞きたくなかった。


「たった一つの冴えたやり方だ。合図したら、二手に分かれて走る」


 ……予想通りの言葉だった。


「おーど…?それ、は」


「必ず後から行く」


 嘘だと思った、そんな顔はしていなかった。


 そんなのは嘘だ、一緒に行きたい。


 絶対に一緒に行くんだ、お願いだから。


 私を置いて行かないで。


 私をここから連れ出すのは、貴方にしか出来ない。


 なんて、言葉が頭に浮かんでは消えて、喉から出かかった。


 ……でも。


「……わかった」


 私はそんな我儘を噛み殺した。


 聞かなくても、返ってくるその先の言葉は分かっていたから。


 それに…私は決めたんだ、初めて踏む外の地は、自分自身で歩むんだと。


 その〈時〉が来た。


 私は石ころかも知れない、だけど。


 もう同じ場所に止まっては居られない。


「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎──!!」


 竜は咆哮した。

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