39話 手合わせと顔つなぎのこと
手合わせと顔つなぎのこと
「・・・」「・・・」
朝の空気の中、高柳運送の駐車場で2人の人間が向かい合っている。
「それでは!ルールの最終確認をします!」
後藤倫先輩と、石川さんだ。
お互いに間合いを外し、自然体で立っている。
「急所攻撃はナシ!武器の使用はナシ!」
・・・そして、2人の中間地点。
「どちらかが失神するか!『まいった』と言うか!・・・私が危険だと判断した場合に終了とします!!」
これから始まる戦いの予感に目を輝かせた神崎さんがいる。
ブレねえな、本当に。
「よろしいですねっ!?」
「応」「ん」
2人は短く答え、構えを取った。
後藤倫先輩は両手を平手にし、肩幅に足を広げて立つ。
石川さんは鋭く両手を引き、その後ゆるゆると右拳だけを突き出した。
「それでは・・・はじめっ!!」
神崎さんが叫び、後方へ身を翻した。
「貫水流、石川岩太」「南雲流、後藤倫綾」
すぐさまお互いから濃密な殺気が放射され、空気が歪むような感じがする。
「いざ」「参る」
2人は、同時に間合いへと踏み込んだ。
石川さんが高柳運送に宿泊した翌日の朝。
後藤倫先輩が昨日言っていたように、手合わせをお願いしたのだ。
本当は昨日がよかったらしいが、新しいお客さんに興味津々な子供たちが石川さんを放さなかったのだ。
『準備運動が無駄になった』と言いながら俺は鳩尾をぶん殴られたが、これに関してはマジで理不尽だと思う。
俺や朝霞たちと前からの知り合いだという説明と、お土産の干物で子供たちの警戒心は雲散霧消したからな。
石川さんも結構厳つい顔をしているが、そこは日頃から七塚原先輩のライオンフェイスを見慣れた子供たち。
ちょっと怖い顔くらい、なんとも思わなかったようだ。
結局、石川さん本人が面食らう程あっという間に子供に囲まれていた。
朝霞への対応がそうだったように、基本的に石川さんは子供に優しい。
古保利さんからウチのあらましについてあらかじめ聞いていたらしく、わちゃわちゃまとわりつく子供たちを邪険にすることはなかった。
気が付けば、みんなに漁や魚の話をしてあげていた。
ここから出るのが難しい子供たちは、目を輝かせてその話に聞き入っていた。
特にカイトや保育園の男の子なんか、最終的に風呂に一緒に入ってたからな。
石川さんも・・・うん、嬉しそうだったと思う。
時々、何かを思い出したように一瞬切ない顔をしていたけど。
・・・あれは、たぶん亡くなった息子さんを思い出していたんだろう。
そんな顔をしていた。
・・・とまあ、そんなわけで夜は明けた。
ちなみに石川さんは社屋部分で寝てもらった。
そして、早朝に帰って来ていた神崎さんが手合わせの話を聞きつけて審判役を食い気味で買って出たという顛末である。
式部さんは昼までには荷物をまとめて来るらしい。
そんなに急がなくてもいいと思うんだが・・・彼女も息抜きがしたいんだろうな。
「―――っし!!」
初撃は後藤倫先輩。
ゆら、と踏み込んだ勢いを乗せた右の下段蹴り。
それを、石川さんが踏み込みつつ脛で受ける。
鈍い音が響くが、その表情は動かない。
打点をズラして受けている。
防御だけではなく、固い部分で受けることで同時に先輩の足にダメージを与える目的もあるだろう。
「っふ!!」
先輩は、打点をずらされた段階で力を抜いている。
蹴り足を瞬時に引きつつ、さらに踏み込んで左膝を石川さんの胴体目掛けて打ち込む。
「っ!!」
が、その膝を石川さんの掌が止める。
速度が乗り切る前に、勢いを『殺され』ている!
なんて上手い受けだ!
先輩が膝蹴りの反動ですかさず跳び下がる。
が、石川さんもほぼ同時に前に出る。
「オオッ!!」
石川さんが踏み込みつつ、空中の先輩目掛けて中段蹴りを放った。
「っち!」
空気を焦がすような勢いのそれを、空中の先輩が掌で迎撃。
爪先をわずかにブレさせた蹴りは、先輩の胴体に到達することはなかった。
「・・・へぇ」
バックステップで距離を取る先輩を追わず、石川さんが足を引いて構え直す。
左手は開いて前に、右手は拳の形で腰だめに。
「・・・ふふ」
仕切り直し、とばかりに先輩が着地。
左肩を前に出し、指を鉤爪めいた形に曲げて・・・手首で交差させた構え。
「先輩の十八番か」
「私も経験したアレですね!」
思わず呟くと、いつの間にか横にいた神崎さんが興奮している。
あー・・・そういえば手合わせで喰らってたもんなあ。
南雲流、徒手の型『千鳥』
防御を捨てた、一気呵成の攻めの型だ。
先輩が大好きな型である。
「っふ!」
構えを崩さず、先輩が踏み込む。
低く跳躍した勢いを乗せたまま、間合いに入った瞬間に両腕がブレた。
「っぬぅう!?」
打撃音が連続する。
見えた範囲で・・・石川さんの体に拳打が二発叩き込まれた。
しかし今の声、ダメージというよりむしろ速度にびっくりした感じだな。
「ッチ!!」
その型の由来にもなった特徴的な掛け声と共に、先輩の回転数がさらに上がる。
至近距離で、さらに倍加した拳打が石川さんに襲い掛かる。
石川さんは反撃せず、防御の姿勢。
打撃音はいっそう激しさを増し、観戦していた子供たちがドン引きしている気配を感じる。
普段俺達の稽古を見慣れている子たちも、さすがに気圧されてるようだな。
「・・・『受け』と『流し』が上手いのう、たいしたお人じゃ」
やはり、いつの間にか隣にいた七塚原先輩が感心したように言う。
「ですね。アレだけ先輩の連撃喰らってるのに・・・有効打が入ってないっすもん」
そうなのだ。
先輩の連撃は確かに石川さんに届いている。
素人が見れば、ひたすら防御を固めてしのいでいるようにしか見えない。
見えない、が。
亀のように身を固めているわけではなく、先輩の打撃に対して両腕や肩を使って的確に迎撃している。
しかも、即座に反撃の気配を見せている。
その動きがあるので、先輩も深追いができていない。
迂闊に踏み込めば、反撃が飛んでくるからだ。
「動く、か」
七塚原先輩が呟くと同時。
「ッシ!」
石川さんが、先輩の攻撃を左手で弾いた。
今までより大きい動作で。
弾かれた先輩は、数瞬動きが止まる。
「―――セイ!!!」
その機を逃すか、とばかりの気合。
弾きとほぼ同時に、石川さんの右正拳が突き出された。
ごく短時間なのに、踏み込みも捻りも完璧だ。
これを、待っていたのか。
「っぐ!?ぅう!?」
先輩は、身を躱す時間がないと判断したのか防御並びに攻撃を選択。
迫る石川さんの拳に真っ直ぐ折った肘を叩き込んだ。
だがなんと、肘という硬い部位との喧嘩に石川さんの拳は勝った。
絶好のタイミングでカウンターを決めたはずの先輩は、衝撃を殺しきれずに後方へ吹き飛ぶ。
問題なく着地したが、その顔は普段にはない驚愕の表情だ。
「・・・マジかよ」
「なんと・・・」
俺と神崎さんも驚くことしかできない。
いくら拳をとんでもなく鍛えてるっていっても、相手は肘だぞ?
しかも素人の肘じゃない、近接魔人の後藤倫エルボーだぞ?
・・・そりゃ、黒ゾンビを素手で成仏させられるわ。
「・・・面白い、のう」
あ、やっべ。
七塚原パイセンにも火が点きそう!
やめてください!今日が手合わせで潰れちゃうでしょ!!
モンドのおっちゃんとこにも行かなきゃいけないんだから!!
そして石川さんと先輩は、動きを起こすことなく間合いを維持している。
「・・・なあ、後藤倫サンよ」
「・・・ええ、潮時ですね」
2人はそう言葉を交わすと、同時に構えを解いた。
「ご教授、感謝します」
「いやいや、こちらこそ・・・気合が入ったぜ」
先輩が頭を下げ、石川さんも笑った。
・・・ふう、丸く収まったか。
「さっすが田宮先生のお弟子さんだ。あの数の連撃、全部『通って』きやがった・・・おお、いてえいてえ」
「・・・ご謙遜を、有効打を与えるほど『通せ』ませんでしたから」
どうやらパイセンの攻撃、内部まで衝撃が通っていたようだ。
天蓋相手に決めた『天狼無拍子』みたいにな。
だが、それでもたいして効いていない石川さん・・・マジですごい。
至近距離で勝てそうにない相手がさらに追加されてしまった。
刀がなきゃハンバーグにされちまうな。
「なんにせよ、これ以上はな」
「ええ、あなたは私の『敵』ではないし・・・」
「ああ、俺の『敵』もアンタじゃねえしな」
どうやら、これでおしまいのようだ。
・・・よかった、千日手になりそうな状況だったもんな。
これ以上は殺し合いになりそうだ。
「じゃ、じゃあ石川さん・・・行きます?詩谷」
『あ~楽しかった~!』的な感じで背伸びしつつ倉庫へ歩き出す先輩を見ながら、俺は石川さんに声をかけた。
ボヤボヤしてると七塚原パイセンが参戦しちまうからな!
「あのっ!後藤倫さん!後半の連撃ですが・・・!」
「今は駄目。・・・超疲れた、もう少し後にして中津川」
「神崎ですっ!?」
・・・神崎さん、本当にブレないな。
清々しくすらある。
・・☆・・
「拳、大丈夫です?」
「ん?ああ、これくらいはな。鍛えてるからよ」
「なるほどー・・・」
助手席ってなんか違和感があるよな。
いつも運転してるからかな?
「ちなみに、貫水流ではどんな風に拳を鍛えるんですか?」
「おー・・・束ねた青竹に貫き手したり、岩に正拳裏拳ぶち込んだり、砂入りの麻袋が破れるまでぶん殴ったり・・・とかだな」
「ヒェエ・・・」
恐ろしい流派だよ・・・
南雲流とはまた別ベクトルの狂気を感じちゃう。
「やるんなら、水枕かサンドバックから始めるんだぜ?田中野さんは素人ってわけじゃねえが・・・」
「あ、はい。ありがとうございます」
・・・やらないよ!?
剣術だけでイッパイイッパイなんだよ俺は!
「しかし、悪いなあ。今日も泊めてくれるなんざ」
「ねえちゃんは言い出したら聞きませんからねえ」
今、俺は石川さんのワゴン車に同乗して詩谷へ向かっている。
もうそろそろ街の境目に入るあたりかな?
あの手合わせ後、すぐに出発したのだ。
その際に、石川さんは今日も宿泊することをねえちゃんに約束させられていた。
特にこれといって差し迫った予定はない・・・なんて言うからな、石川さん。
ねえちゃんが誘わない訳がない。
名目上の家主?でもある俺も文句はない。
もちろん、神崎さんもだ。
「それにしても後藤倫サン、あの若さでとんでもねえ手練れだな。田宮先生と手合わせした時を思い出したぜ」
「ぶっちゃけ徒手と甲冑組手はもう免許皆伝レベルだと思いますよ。師匠もなんかそんなこと言ってましたし」
先輩方はそれぞれ特化型だもんなあ。
七塚原先輩もそうだし。
免許皆伝を言い渡されてるのは、目下行方不明の六帖先輩だけだが。
六帖先輩なあ・・・他府県にいるもんなあ。
他の県がどんな状況になっているかはわからんが・・・ここと同程度のゾンビ状況なら楽勝だろうな、先輩なら。
「がはは、南雲流はこの先安泰だなあ」
「ど、どうでしょうかね・・・?」
「この騒動がどんだけ続くか知らねえが、腕っぷしはあるに越したことはないだろ?」
「あー・・・」
護身術の重要性、かなり増したもんな。
今までの痴漢対策とはワケが違う。
「それなら、貫水流だって安泰なんじゃ?」
「・・・義兄たちがどっかで生きてりゃな」
・・・亡くなったのか?
俺の表情を見たのか、石川さんが補足してくれる。
「おっと、言葉が足りなかったな。ゾンビが出た日に俺は仕事でよ、詩谷にいたんだよ」
あー、そういえばそうだった。
その流れでホームセンターでの初遭遇だったんだもんな。
「田中野さんと会ってしばらくした後な、龍宮の道場にも行ったんだが・・・無人だったぜ。死体もないし、ゾンビにもなってなかったらあの場で死んだってわけじゃねえんだろうがな」
「それは・・・ご心配ですね」
「どうだかな。義兄はそれなりの手練れだったからよ、そこらの人間程度にゃ負けねえとは思うがな」
義兄さんが今の当主?になるんだもんな。
そりゃ強いか。
しかし『それなりの手練れ』って言い方・・・そんなに強いと思ってないな?
それとも『自分に比べて』ってことか?
自分の強さに自信があるんだな、石川さん。
羨ましい限りだ。
「それによ、俺ぁ人にものを教えるのが壊滅的にヘタクソなんだ。教師役は無理ってもんだよ・・・『見て覚えろ』なんてガキ共に言ったら大惨事になっちまうだろ、特にウチみてえな流派は」
「確かに・・・」
超実戦空手だもんな。
そもそも子供に教えるようなモンじゃない。
俺だって高柳運送の子たちには基本的なことしか教えてないし・・・
朝霞はある意味天才だからいくつかえげつない技を教えたけども。
まだ体の出来上がっていない子供たちに教えるには難易度も危険度も高すぎる。
「ま、銃が流通してなくてよかったぜ。アレ相手は面倒くせえからな」
「諸外国の苦労が偲ばれますな・・・」
素人でも簡単に人が殺せちまうからなあ。
その場合は人間同士の争いが激化しそうではある。
前からいろんな人が言ってたが、内戦みたいになってる国も多い事だろうよ。
それ考えれば、この国は恵まれてるか・・・
近所にヤバい集団がいるけどな!!
「・・・お、煙草なら喫っていいぜ」
「あ、ありがとうございます」
綺麗に脳内オチが付いた所で、とりあえず一服することにした。
・・☆・・
以前のように襲われることもなく、車は中村武道具店へと到着した。
さすがにそう何度も強盗に遭遇するのは嫌だしな・・・
「ん・・・なんだボウズかよ、いつもの車はイカレちまったのか?」
「やあおっちゃん、今日はちょっとお客さんを連れてきてね」
先に車から降りると、木刀を持ったおっちゃんが店から出てきた。
美玖ちゃんじゃないのは珍しいな・・・いや、いつもと違う音だから警戒してたってことか。
「客ぅ?随分顔が広くなったもんだな」
「おっちゃんほどじゃないけどね」
運転席から降りてきた石川さんが、俺の横に来る。
「中村さんですね、自分は石川岩太と申します。田中野さんに無理を言って、お伺いさせていただきました」
綺麗な立ち姿で深々と頭を下げる石川さんに、おっちゃんは姿勢を正した。
「こいつはご丁寧に・・・中村モンドで通ってるもんだ。お初・・・だとは思うがアンタ、ひょっとして」
話す途中で、おっちゃんは何かに気付いたようだ。
「石川・・・なるほどそうか、アンタ・・・ひょっとして竜義たつよしの縁者かい?」
「はい、義理の・・・息子です」
どうやら先代を知っていたらしい。
ホラ、俺より余裕で顔が広いじゃん。
「そうかよ、うん、色々聞いてたぜ・・・ま、とりあえず立ち話って雰囲気でもねえやな。入りな」
「・・・お邪魔します」
おっちゃんの顔が少し曇っている。
・・・そりゃな、知り合いなら石川さんの家族の惨事も知ってるわな。
おっちゃんに続き、石川さんが店に入る。
・・・あ、俺に渡そうとしてた袋も持ってる。
たぶんおっちゃんも受け取らないと思うぞ、ソレ。
「おーい美玖、もういいぞ。田中野のおじさんだったわ」
「はーい!」
店の中からおっちゃんの声。
続いて、美玖ちゃんの声がした。
やっぱり用心のために出してなかったんだな。
「あ!こんにちは!桜井美玖です!」
「中村さんの孫ちゃんか。石川だ、よろしくな」
店に入ると、お互いに自己紹介している所だった。
美玖ちゃんもお父さんの顔面が迫力ある派閥だから、一切臆していない。
「いちろーおじさん!こんにちは~!」
そして俺に抱き着いてくる美玖ちゃん。
うーん、日に日に威力が上がってる気がする。
「はいこんにちは、元気そうで何よりだ」
その頭を撫でていると、奥に美沙姉が見えた。
「事案キャンセルな!」
「ちぇ~、勘がいいこって」
美沙姉は引っ込む。
何しに出てきたんだアンタは。
「おじさん、由紀子おねーさんたちに聞いたんだけどお馬さんがいるんでしょ!?美玖も見たい!」
「おーいるいる、いつでも来なさい。仔馬もサクラもみんな大喜びだ」
「わーい!」
美玖ちゃんを抱え上げる。
相変わらず軽いけど、それでも大きくなってるな。
いいことだ。
「やあ、田中野くん」
店から入った居間には敦さんがいた。
「馬を引き取ったんだって?あそこもどんどん牧場になっていくねえ」
「いやあ、ハハハ。引き取ったというか保護したというか・・・ま、賑やかになるのはいいことですよ。あ、おっちゃんたちは?」
「お義父さんたちなら奥の仏間の方に行ったよ」
仏間ね、了解。
俺も無関係じゃないし、行くか。
美玖ちゃんを下ろし、しばしこの場を離れることにした。
「・・・身内の不始末、並びに不義理申し訳ありません。この上で厚顔にもお願いさせていただきたいんですが・・・」
仏間に入ると、テーブルを挟んで2人が座っていた。
おっちゃんは上座で腕を組み、石川さんは頭を下げていた。
「勿論、タダなんて恥知らずな真似をするつもりもありません。こちらに・・・換金できそうなモノがあります、今は無理ですが、ゆくゆくはコイツを現金化していただけたら・・・」
そう言って石川さんが置いた袋には腕時計・・・じゃねえ!?
金の・・・金のインゴットだアレ!?
実物はじめて見たぞオイ!?!?
「いらねえ」
が、おっちゃんは即座に断った。
「そ、それなら自分にできることならなんでもします!お願いします中村さん、どうしても俺にゃあアレが必要なんです!!」
石川さんはそのまま、畳に額を擦り付けるように土下座した。
おっちゃんはそれを痛々しそうに見て、口を開いた。
「―――勘違いしてんな、銭もモノもいらねえって言ったんだぜ俺ァよ。ありゃあ元々アンタらの持ちもんだ、持ち主が持って帰りてえって言ってんのに否も応もねえだろうが」
それを聞き、石川さんは呆気に取られた顔でおっちゃんを見た。
「俺ァ預かってただけに過ぎねえよ。ウチに回って来てからすぐに連絡しようと思ってたんだが・・・お前さんたちの事件があって、その後竜義は死んじまったからな」
「そう、ですか・・・」
「ほとぼりが冷めた後で今の道場主に連絡もしたんだぜ?だが『いらねえ』の一点張りでな・・・そのまま置いといたんだ」
「義兄が!?俺にはそんなこと一言も・・・」
どうやら道場自体には情報が伝わっていたらしい。
「アンタの身内をどうこう言うのもアレだがね、『古いだけの鎧に興味はない』とさ。そいつを聞いちまったら俺もそれ以上言う気もなくってよ」
「竜真たつま・・・あの野郎、アレがウチにどんな意味を持ってんのか、そんなこともわからねえのか・・・!!」
石川さんは義兄に何か思う所があるようだ。
代々受け継がれてきたものに対してのその発言、たしかに道場を背負う立場ならちょっとどうかと思うよ。
「さ、ついてきな。ボウズも暇なら見に来なよ」
そう言っておっちゃんは立ち上がった。
「とっととその光り物しまえってんだ。平和になったら換金して妻子の供養に使ってやんな・・・竜義も、その方が喜ぶだろう」
襖を開けて奥へ消えるおっちゃんの背中に、石川さんは感極まったように再び土下座をしていた。
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