38話 来訪と仲介依頼のこと
来訪と仲介依頼のこと
「今日も今日とて平和だなあ・・・高柳運送は」
「へいわ・・・さいこう・・・ふへ・・・」
屋上のパラソルの下で椅子に座り、空に浮かぶ雲を見るともなく見ている。
天気は快晴、雨の気配はなさそうだ。
「朝霞おねーさん、ほんと幸せそうに眠るよねえ」
俺の横でテーブルに参考書を広げていた璃子ちゃんが、屋上の床で寝ている朝霞を見て笑った。
どうやら自主的に勉強しているらしい。
こんな世界でなんと勤勉なことか。
俺の学生時代とは大違いである。
・・・今そこで寝ている朝霞もだけども。
「コイツの前世は犬と猫とタコの合体魔獣だな、うん」
「化け物じゃんそれ・・・」
苦笑いしつつ、璃子ちゃんは再び参考書に目を落とした。
・・・む、今日は外国語か。
俺にできることは何もない!
庭から聞こえてくるサクラや子供たちの声。
うーん、平和最高。
・・・しばらく御神楽に行くのやめるか。
よくわからない自衛隊の若手くんに挑まれたのは昨日のことだ。
向こうには特に差し迫った用事もないし、何よりあちらは大きな作戦を控えている。
俺みたいなのがフラフラ訪ねて行ったら邪魔だろうし。
・・・あと、昨日の藤田?とかいうのと似たような手合いに絡まれても困る。
結局なんだったんだアイツは。
腕自慢のイケイケくんが、修行目的で突っかかってきた・・・ってのが想像できるところだが。
こちらはいい迷惑である。
っていうかさあ、腕試ししたいんなら俺じゃなくて花田さんとか古保利さんとかにいけよ!上司でしょ!!
そしてえげつなくボコボコにされてほしいものだ、マジで。
「・・・ちゃん?」
おおかた、どっからか花田さんとの立ち合いの噂を聞きつけて・・・って所だろうか。
だが、それならあんなに睨まれた理由はなんだったんだろう・・・?
俺、自衛隊にヘイトを向けられる心当たりはないんだが?
「にいちゃ~ん?」
・・・いや、ひょっとしてアレか?
『余所者がデカい面してんじゃねえよ』ってことか?
あー・・・あり得る気がする。
俺、いろんな作戦に顔出してたし、会議とかにも参加してたもんな。
牙島にいた時の連中にはアイツいなかったし。
部外者が活躍してたのが気にくわなかったのかねえ。
ま、アイツは力量的にアレだったんで参加の許可が出なかったんだろうけど。
はー・・・そういうことk
「に~い~ちゃ~~~ん!!」「ウワーッ!?!?!?!?」
気が付いたら目の前に朝霞の顔がドアップだった。
危うく椅子から転げ落ちかけたぞ、オイ!
「あー、やっと気付いたし!あーしをシカトするなんていいドキョーだし!」
「な、なん・・・なんだ、どうした?ちょっと・・・考え事してたんだよ」
藤田に脳の容量を割いていた影響で気付かなかった・・・
コイツ、殺気の欠片も存在しないから気付くの遅れるんだよな。
「下からムガさんが呼んでたよー、お客さんだって!」
「七塚原先輩が?」
お客さん・・・俺に?
大木くんは昨日一緒に帰ったから違うだろうし、自衛隊や警察関連なら無線連絡がまず先に来るよな。
ちなみに神崎さんと式部さんはまだ御神楽だ。
昨日の会議終了後、なんか用事ができたとかですっごい怖い笑顔をしながら2人で校舎に消えていったのだ。
俺には何が何やらわからなかったが、大木くんは
『エコエコアメフラシ・・・エコエコオオイカリナマコ・・・成仏カムトゥ男ども・・・』
と、よくわからない祈りを唱えていた。
なんのこっちゃ?
おっと、そうじゃない。
「すまんな、それじゃ行くが・・・俺の上からまず下りてくれないか」
「んん~・・・あと5時間くらい・・・すんすん」
朝霞は俺の上に座って何故か匂いを嗅いでいる。
璃子ちゃんはもう慣れたようで参考書から顔も上げない。
・・・順応性が高い!
「そんなに待たせたらお客さんがガンジーでも殴り殺されるわ」
「うやぁん」
いつも通り朝霞を引き剥がし、立ち上がった。
「璃子っち~・・・にいちゃんが冷たいし~」
「わひゃひゃ!?朝霞おねーさんちょっと!くすぐったいってばもうっ!うあーははは!ひゃはは!」
引き剥がされた朝霞が璃子ちゃんにダル絡みするのを放置し、屋上の扉に向かう。
初対面の時はどうなるかと思ったが、仲良くなれてなによりである。
朝霞は末っ子だからな、年下が増えて嬉しいんだろう。
「っていうか起きたならここ教えてよ、おねーさん!」
「・・・う?あ、あいあむあ、ぺん?」
「朝霞おねーさんは筆記用具だった・・・?」
・・・偏差値的には妹かもしれないかな。
俺が言うのもなんだが、外国語は勉強しといた方がいいぞ朝霞よ。
・・☆・・
「やっと来た、遅いぞ」
1階まで下りていくと、何故か後藤倫先輩がいた。
「あれ?七塚原先輩が呼んでたんじゃないんですか?」
「ななっちは山へ芝刈りに行った。私は伝言板」
今更ながら昔話とかの芝刈りって、具体的に何するのかわからんよな。
芝?はなんに使うんだろうか。
先輩の言うことだから絶対に芝刈りじゃないんだろうけど。
普通に畑仕事だろう。
「なるほど、それで・・・俺に客ですって?誰です」
「誰かはわからないけど、強い人。わかる」
・・・つまりは何もわからんということじゃないか。
「・・・鍛治屋敷の奴じゃないですよね?」
「そんな相手だったらまずななっちが殴り殺しに行ってると思うな」
「確かに」
先輩に伝言任せるくらいだから、悪い人間じゃないんだろう。
それじゃ、いつまでも待たせとくのも悪いし行くか。
「黛さんとかかな?」
「む、もしそうなら私がまた組手してもらう。田中の順番は後」
「未来永劫後回しでいいです、ハイ」
門へ向かうと先輩もついてくる。
・・・黛さんとの組手なんか頼まれても御免である。
先輩はバトルジャンキーだなあ。
「私が未熟だった、手甲も無しに挑んだのは本当に失礼だった・・・次は全力で行く」
「俺や子供たちが巻き込まれない距離にいる時にお願いしますね、マジで」
殺し合いが始まっちまうだろ。
黛さんも武器アリルールなら、えげつない隠し武器やら三鈷剣やらが乱れ飛ぶ地獄がオープンしちまう。
「田中は腑抜け」
「ドラゴンに自分から突っ込む趣味はないです、ハイ」
「田中は禿げる」
「禿げませんっ!!」
漫才めいたやりとりをしていると、あっという間に門の前に着いた。
「お待たせしました!田中野でーす!何の御用ですかー!」
門越しに呼びかけると、懐かしい声が返ってきた。
「おう、田中野さん!いい家に住んでんだなあ!!」
・・・石川さん。
牙島から一足先に脱出していた石川さんじゃないか!
「石川さんじゃないですか!お待たせしてすいません、今開けますからー!」
俺は、懐かしい気持ちで門の鍵を開けるのだった。
「おうおう、中もすげえなオイ。どえらい別嬪さんまでいらっしゃるぜ」
門を開いて入ってきた石川さんは、牙島の時と同じように強そうだった。
馬房のヴィルヴァルゲ母娘を見て顔をほころばせている。
随分とラフな格好だが・・・まさかここまで歩いてきたのか!?
「すまねえ、車も入れさせてくれや」
「あ、どうぞどうぞ」
さすがにそれはないか。
無敵すぎるわさすがに。
しばらく待っていると、どこにでもあるようなワンボックスが走ってきた。
ああいうのも荷物がいっぱい載せられそうでいいな。
石川さんの車はゆっくりと進み、駐車する。
俺が招き入れたことで危険人物ではないと判断したのか、子供たちも社屋からぞろぞろと出てきた。
来客の時は念のために避難するように教えているからな、いい子たちだ。
「お久しぶりですね、石川さん。お元気そうでなによりです」
「そっちこそな、牙島じゃあ随分と鉄火場だったが・・・鈍ってもいねえようだ」
車から降りてきた石川さんと握手する。
・・・何この手、岩みたい。
「今日はどうされたんです?っていうかこの場所がよくわかりましたね」
「ああ、古保利サンから脱出前に聞いててな。用事が済んだら挨拶に行こうと思ってたんだ」
あー、なるほどね。
別に教えちゃ駄目な人間じゃないからいいけど。
「・・・おっと、そちらの別嬪さんは・・・田中野さんの同門だな」
握手が終わった石川さんが、背後に視線を向ける。
後藤倫先輩の方向へだ。
さっきは死角にいたんだろう。
先輩は石川さんに軽く会釈し、ざっとその全身を見た。
「田中の先輩、後藤倫です・・・その拳の鍛え方、貫水流の方ですね」
先輩は、基本的に年上や目上に対しては礼儀正しいのだ。
変なのに絡まれた時は年齢関係なくボコり倒すけど。
・・・あと、拳の鍛え方から流派を見抜くってなんだよ。
俺は教えてもらわないとわからんかったんだが?
「当たりだ、後藤倫さん・・・へえ、アンタも寒気が走るほどよく練り上げてるな。石川だ、田中野さんには牙島でだいぶ世話になったんでね、挨拶に来たんだ」
石川さんも薄く微笑んだ。
おい、2人ともここで始めないでくださいよ!?
子供と動物がビックリしちゃうでしょうが!?
「後学のため、後で一手ご教授をお願いしたいです」
「はは、いいねえ」
あーもう駄目だ。
2人とも好戦的過ぎるよ。
目がギラッギラしていて大層おっかない事この上ない。
「と、とりあえず中へどうぞ。お茶でも飲んでってくださいよ」
「ありがてえ、助かるぜ。土産も持ってきたからよ」
そう言って、石川さんは車の後部ドアを開けてクーラーボックスを取り出した。
これは・・・?
「干物だ、味は保証するぜ。古保利サンからここには子供が多いって聞いてたからよ、腹いっぱい食わしてやんな」
「おー!ありがたいですよそりゃあ」
石川さんの作る魚料理、牙島で何度か食ったけどメチャウマだったもんな。
さすが漁師の家出身だ。
「しっかりおもてなしするんだぞ田中、私はちょっと暖機運転してくる」
後藤倫先輩はさっさと門を出て行ってしまった。
・・・これ、絶対後の組手の為だろ。
パイセンが準備運動するなんて・・・本気じゃんか。
「随分と別嬪でおっかねえ先輩がいるんだな、田中野さんよ」
「全面的に同意しますよ・・・お、どうしたお前ら」
クーラーボックス片手に社屋に戻る途中、馬房の2頭がこちらへ寄ってきた。
水は・・・まだあるな、遊んで欲しいんだろうか。
「ひひん」
「おうおう、こいつはまた将来別嬪さんになりそうな嬢ちゃんだな。後ろの母ちゃんに似りゃあ当たり・・・前・・・」
どうやら石川さんに挨拶をしに来たらしい。
石川さんは寄ってきたゾンちゃんを撫でつつヴィルヴァルゲに視線を向け・・・そこで目を軽く見開いて動きを止めた。
「こいつは・・・おいおい、マジかよ。たまげたねぇ、ダービー馬じゃねえか」
「あ、ご存じなんですね」
石川さんも馬好きの民だったか。
俺の周り、競馬に詳しい人多くないか?
「竜庭牧場から分捕ってきた・・・わけじゃねえよな、放馬されたか。元気そうで何よりだ、『空前の青鹿毛』さんよ」
「ブルル」
なにやら格好いい通り名のようなものを呟く石川さんである。
それに対し、ヴィルヴァルゲは軽く前足で地面を掻いた。
「俺はこのねえちゃんも大好きだが、そのライバルがいっとう好きでねえ・・・ええおい、お前さん覚えてるか、あの秋の天皇賞をよ」
石川さんの手が上がり、ヴィルヴァルゲの鼻面を撫でる。
撫でられる方は、いつものように悠然としていた。
「居並ぶ男馬なんぞ目もくれねえで、あのレースはお前さんと『グロスエカルラート』の一騎打ちだった・・・痺れたぜ、あれにゃあよ。もっとも、同着ってのは残念だったが・・・」
「ブルルル!!」
馬名らしきものを聞いた瞬間、ヴィルちゃんは嘶く。
・・・なんか怒ってる?
「がはは!『勝ったのは自分だ!』って言ってんのか!?がははは!!」
なにやら凄いレースがあったらしい。
ひょっとして言葉通じてます?
「エカルラートも繁殖牝馬になったし、ゆくゆくは子供同士で決着を・・・って夢見てたがな。こんな世界じゃなんておもってたがよ・・・はは、ヴィルヴァルゲが生きてんなら、エカルラートも北の大地で元気にしてるだろうさ」
「フシュー!」
「おおっと悪い悪い、ライバルの名前はさすがに憶えてるもんだな、ねえちゃんよ」
ヴィルバルゲが鼻息を荒くし、耳を後ろに絞っている。
これ、七塚原先輩が言ってた馬がマジ切れした時の行動じゃん!
はー・・・よっぽどライバルのことが気に障ったんだな。
「こんないい所に拾ってもらえたなら安心だな。未来の競馬場が楽しみだぜ」
「ひいん」
石川さんはゾンちゃんを嬉しそうに撫でた。
そして、彼女も嬉しそうに手をベロンベロンにしていた。
・・・未来の競馬場、か。
いつかまた、そんな日が戻るといいな。
「いっでぇ!?なにすんだ母ちゃん!?」
「ブフー!」
そしてほっこりしてしまった俺は、何故かヴィルヴァルゲの鼻面で思いっきりビンタされたのだった。
・・・理不尽!!
・・☆・・
「なるほどそうかよ、よくわかった。龍宮の方で残党見かけたら、キッチリ皆殺しにしとくぜ」
「殺意が高すぎる」
石川さんを休憩室に案内し、お茶を出した。
お茶うけはねえちゃんがキャッキャしながら選んでいる。
馴染みの顔に会えて嬉しかったらしい。
そして、茶飲み話にヴィルヴァルゲ母娘を保護した顛末について話したのだが・・・
『瀧聞会』に対する石川さんの敵意がすごい。
「食いもしねえのに面白半分で殺しやがってよ・・・そこらの人間とは比べ物にならねえほどの値打ちモン揃いだったんだぜ、あそこの馬は。心底胸糞が悪ィや」
お茶を一息に飲み干し、石川さんが毒づく。
まあ、それに関しちゃ俺も全面的に同意ではあるが。
「まあ、ほぼ壊滅したみたいなんで・・・もう絶滅してんじゃないっすかね」
「ゾンビ共の方がまだ地球に優しいかもしれねえな」
「それはそうです、マジで」
そこにも全面的に同意するが。
「おっとすまねえ、話が長引いちまったな。今日ここに来たのは挨拶ってのもあるんだがよ・・・田中野さんに頼みてえことがあるんだよ」
「俺に、頼みですか?」
・・・なんだろう。
俺ができることなんてたかが知れてるんだが。
だけどまあ、石川さんには牙島でお世話になったからなあ。
できる限りのことをしてあげたい。
「・・・こんな世界じゃ役に立つかは微妙だがよ、まずはこれを受け取ってくんな」
どさり、と袋がテーブルに置かれた。
ちょっとした巾着袋ほどのそれは、中身がかなり重そうだ。
なんだろう・・・ちょっと見てみるか。
「んなっ!?なんですかコレ!?」
中には、俺でも知っているような外国産高級腕時計が何本も入っていた。
うっわ・・・コレ知ってる、車が買えるくらい高いって聞いたことがあるやつじゃん。
「何も言わずに受け取ってくんな。もちろん盗んだもんじゃねえ、俺が集めたモンと、親父の遺産だ・・・他にもあるが、かさばるからな」
「言いまくるに決まってんでしょ!?もらえませんよこんなの!?こんなのなくっても、向こうでお世話になったからたいていのお願いは聞きますってば!?」
今は確かに換金しても役に立たないが、こんなに大事なものをハイハイと貰うわけにはいかないでしょ!?
「いや、しかしな・・・」
「今はあの干物の方が百倍価値がありますから!アレで十分ですから!!」
その後も、恐縮する石川さんをなんとか説得して腕時計を返却した。
・・・ふう、心臓に悪い。
元々零細社会人だったんだよ、目に毒だ。
「・・・ええと、それで俺にお願いってのは・・・?」
話の腰が複雑骨折してしまったが、なんとか軌道修正。
ねえちゃんがニコニコしながら運んできた煎餅を齧りつつ、石川さんに水を向けた。
「『中村武道具店』の店主さんに、顔を繋ぎてえんだ」
「・・・モンドのおっちゃん、いや中村さんにですか?」
なんと、予想もしないお願いだった。
「ああ、預けたモノを受け取りてえんだ」
預けたモノ?
「いや、それなら直接行って言えばいいんじゃないですか?ああいや、もちろん俺もついて行きますけどお願いってほどのことじゃ・・・?」
「・・・ちょいと複雑でな」
石川さんが顔を顰めてお茶を飲む。
「中村武道具店に預けたのは、俺じゃねえんだ。『貫水流』の先々代・・・それが俺の義父だってのは知ってるよな?」
「あ、はい」
前にそんなこと言ってたな。
「その義父の弟が、道場から無断で持ち出したモノを返して・・・いや、礼を尽くして受け取りてえんだよ」
「・・・なんでそんな曰くつきのモノがあそこに?」
ややこしくなってきやがった。
「有体に言えば、値打ちモンだったんで金にしようと持ち出したって話だ。それが巡り巡って中村武道具店にあるって話を聞いたんだが・・・その後にこのゾンビ騒動でな、確かめる前にこうなっちまった」
「なるほど・・・」
おっちゃんの倉庫、そんなので魔窟みたいになってんじゃないの?
「面識もねえのに、いきなり俺みてえなのが1人で訪ねて行っても信用されねえだろうしな。古保利サンから田中野さんが懇意にしてる知り合いだって聞いたもんで、仲立ちを頼もうかと思ったんだ」
「よくわかりました、そんなことくらいでいいならいくらでもお手伝いしますよ」
連れてくだけだし、石川さんは悪い人じゃないもんな。
軽い軽い。
「すまねえ!何から何まで・・・田中野さんには本当に世話になる!!」
そして石川さんは、素早くテーブルから下がると綺麗な土下座をした。
止める間もない!素早い!!
「ちょっと!やめてくださいよ!いいですからいいですから!!!」
俺は何とか必死でなだめることしかできなかった。
年上のいい人に土下座されるのってマジで心臓に悪いのな!!
二度と経験したくねえ!!
「ち、ちなみにその値打ちモンってのは何なんですか?」
やっと頭を上げてくれた石川さんに尋ねた。
普通に興味がある。
この状況で求めるってことは武器だろうが、『貫水流』ってのは空手だ。
槍だの剣だのじゃないだろう。
五体を武器と化す、が信条の流派だから武器ってもの変な話なんだが。
「ああ、甲冑具足だ」
「かっちゅうぐそく」
やばい、予想の斜め上を行った。
え?『貫水流』って甲冑組手の技もあるの!?
「自分でこさえたのを騙し騙し使ってたんだがよ、この前龍宮で白黒を殴り殺した時にぶっ壊れちまってな」
「殴り殺したんスね・・・」
牙島で使ってたハンドメイド手甲だよな。
アレ、むちゃくちゃ頑丈そうに見えたけども。
「ちょいと見誤っちまってよ、白黒に続いて黒いのがゾロゾロ来やがってな。最後は半分素手で殴ってた」
「素手で黒ゾンビ殴り殺したんスね・・・」
もう何も言うまい。
恐るべし超実戦派空手。
俺なら装甲板ぶん殴った所で指がボキボキになるわ。
「これから鉄火場が控えてるってのに、得物が貧弱じゃ心元ねえからよ」
「ナルホドー」
もう何も言うまい。
「・・・話は分かりました。今日の所は泊まって行ってくださいよ、明日の朝一で案内しますから」
なんやかんやでもう時刻は3時過ぎ。
今からおっちゃん宅に行けば、絶対に泊まることになってしまう。
向こうは気にしないが、石川さんは気にするだろう。
面識ないって言ってたし。
それなら、ここの方が居心地がいいはずだ。
馬もいるし。
「いや、そこまで甘えるわけにゃあ・・・」
「いいのよいいのよ~。ガンちゃん、ずうっと1人だったんでしょう?今日はゆっくり休んで疲れを取りなさいね~」
「千恵子さん、いくらなんでもよ」
「遠慮しないの~、いっくんもいいわよね~」
「超ok」
「ほら~、家主の許可もあるんだからね~」
「う、うぐ・・・お、お世話になります」
断ろうとした石川さんを、台所からやってきたねえちゃんが連撃で封殺していた。
島での関係で頭が上がらないのか、石川さんはもう何も言えなくなってしまったようだ。
・・・ねえちゃん、強い。
石川さんの宿泊は、こうして決定した。
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