35話 手付かずのスーパーは宝の山のこと


手付かずのスーパーは宝の山のこと








愛車のエンジンはいつも通りの快音を響かせ、放置車両しかない道を快適に走行している。


硲谷に到着してもいないので、野良ゾンビもいない。


・・・たまーに一般腐乱死体はあるけども。


南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。




「いい天気ですねえ」




同乗者にそう言うと、若干のドヤ顔が返ってきた。




「ん。私の日頃の行いがいいお陰、感謝するべき」




そう、今日のお相手は後藤倫先輩だ。


レアキャラである。




「はぁーい」




・・・その主張には一部同意しかねるが、まあそれでも本日も快晴なり。


雲一つない青空だ。




俺は軽トラのフロントガラスから見える空を見つつ、懐から煙草を取り出―――




「禁煙だぞ田中」




「はぁい」




―――さずに、棒付きのキャンディを取り出した。


同乗者には配慮せんとな。




ちなみに、これは以前のコンビニ探索で得た戦利品である。


甘味って賞味期限長いから便利な。




「レモン味ちょうだい、田中」




「ふもっふ(はいはい、どうぞ)」




イチゴ味を口に放り込み、予備のレモン味を渡す。


先輩は、長い付き合いの俺にようやくわかるほどの笑みを浮かべてそれを受け取った。




「・・・それにしてもカメラ小僧、すっごい荷物」




サイドミラーを見て、眉を顰める先輩。




「『飛び込み営業だー!』って気合入ってましたしね、大木くん。ゾンビ騒動前だったら過積載でお縄だろうなあ」




俺もバックミラーで後方を確認する。




そこには、例の装甲バイクに連結された荷台に山のように荷物を積んだ大木くんの姿があった。


・・・結構きつめにロープで固定しているから大丈夫だろうけど、あまりスピードは出さないようにしてやろうかね。


そんなに急ぐ道行でもなし。






さて、俺が車を運転して何処へ向かっているのかというと・・・御神楽高校である。




目的は、さっき大木くんがテストしていた例の『パイルバンカー』の売り込み?だ。


別に金銭が発生することはないが、アレが有用ならああいう大所帯で運用してもらった方がいい・・・というのが大木くんの意見だ。




『僕は作っただけで満足ですし、そもそも自分で使う用に作ったわけじゃないですから。あんなもの抱えて戦闘なんかできませんよ、どっかの南雲流じゃあるまいし』




・・・とも、言っていたが。


どっかの南雲流ってなんだよ、もう名指しじゃないか。




『田中野さんたちが使います?』とは聞かれたが、俺はパス。


脇差と兜割に『魂喰』、各種手裏剣でキャパオーバーだ。


ちょいと持ってみたがあまりにも重すぎる。




七塚原先輩なら使えるだろうが、そもそもあの八尺棒があるのでパスしていた。


後藤倫先輩は言わずもがなである。




そもそも、ああいうデッカイ音が出る武器は俺達みたいな少数勢力にはどうにも扱いづらい。


何人かが電気シールドで動きを止め、安全にぶち込むような戦い方ができる集団に使ってもらった方がいいと思う。


具体的には自衛隊とか駐留軍とか。




まあ、そういうわけでドライブと洒落こんでいるわけだ。




神崎さんはまだ会議中みたいだし、キャシディさんたちはお留守番兼護衛。


七塚原先輩は畑仕事・・・というわけで、大木くんと2人で行くかと準備していると。




『なんか暇。連れてって』




と、後藤倫先輩が珍しく同行してきたというわけだ。


今までは特に用事もなかったので、ゆっくり高校を見て回る機会がなかったとのこと。


いいタイミングついて行く・・・だそうである。




ついてきそうな感じ筆頭の朝霞は、なーちゃんに抱き着いて爆睡していたから放置してきた。


帰った時がちょっと怖い。




・・・まあ、それにしても先輩は自由人だなあ。


高柳運送で暮らすようになっても、単独であっちこっちフラフラしているし。


ソラと仲がいいのも頷ける。


ほんと、昔っから猫みたいな人だ。


戦闘能力がアホみたいに高い猫だけど。






「田中田中、お腹空いた」




「あれ、先輩朝飯食ってないんですか?」




大木くんの自己爆破事件からしばらくして出発したから、飯を食う時間はあったはずなんだが。




「なんか、思い立って4時から15キロくらい走ってたから全然足りない」




・・・いくら高柳運送周辺にゾンビが少ないからってロックすぎだろ。


そりゃ、そんだけ走ってたら一般的な朝飯じゃ足りんわな。




「なんかない?」




「うーん・・・たしかダッシュボードの中に緊急用のカロリーバーがあったような?」




俺が言い終わらないうちに、先輩がダッシュボードを開ける。


行動が早い!!




「よりにもよってコレ・・・田中のチョイスは最悪」




『スッキリミント味』と書かれたパッケージを見て、先輩が顔を顰めている。


・・・あー、そうだそうだ。


何故かアレだけ大量に残ってたから回収したんだけど、超不味いんだよな。


だからギチギチに残っている訳なんだが。


そして、先輩はたしかミント系が大の苦手だったと思う。




『チョコミントアイスは神への冒涜』




とか、なんかそんなことを言っていたような気がする。


戦争が起こりそうだからあんまり外では言わない方がいいと思う。


まあ、俺もなんか歯磨き粉を思い出して苦手ではあるんだが。




「・・・あー、大木くん大木くん、聞こえる?」




カーナビの近くにある無線機の電源を入れ、呼びかける。




『はいはーい、なんでしょう』




バイクだけあって少し風の音が混じるが、しっかり聞き取れる返事が返ってきた。




「ここから御神楽に行く前に、なんか食料調達できる場所とか心当たりない?腹減ったんだけど何にも持ってきてないんだわ」




『なるほど!そいつは丁度いい!!』




「うおっ!?」




大木くんが何故か興奮している。




『僕が前に小麦粉とかむっちゃ持って帰ってきたこと、あったじゃないですか?アレを調達した大型スーパーが5キロくらい先にありますよ!!』




あー、あれね。


そのおかげで毎日自家製パンが食えるようになったんだよなあ。


アルファ米もいいけど、パンもいい。


七塚原先輩は麦も育てる気らしいし、ゆくゆくは朝食がパン固定になるかもしれんな。


まあ、いざとなればモンドのおっちゃんとこに行って米と交換できるから無問題だが。




『僕一人じゃぜんっぜん手が回らなかったんで、これを機に多めに回収しましょうか!軽トラもあることですし!』




「了解、先導頼む」




『アイアイサー!!』




無線が切れると、大木くんのバイクが緩く加速して軽トラを追い越す。


アレだけ荷物詰んでるのに全然左右にブレてないのな。


なんか特別なスタビライザー?でも使ってるんだろうか。




「・・・ありがと、田中」




なんか急に先輩に礼を言われた。




・・・あー、先輩が腹減りだからって言わなかったからか?


気にせんでもいいのに。


意外と繊細なんですね、先輩。


口に出すと殺されるから絶対言わないけども。




「いやいや、俺も朝おにぎりだけでしたし。先輩に釣られて腹が減ったんですよ、ええ」




「ふふん、田中のくいしんぼ」




「先輩にだけは言われたくねえ・・・俺の優しさ返してくれます?」




別に先輩に気を遣ったわけじゃないんだけどな。


物資はあればあるだけいいし、あまり早く向こうに到着しても困るしな。


会議終わってないかもしれんし。


それに避難所の飯を集るわけにはいかないのだ、住んでもいないのに。




『田中野さーん、ここでアクセル全開!』




「『インド人を右に!!』」




「・・・賑やか、というかうるさい。子供が2人」




先輩のツッコミを聞き流しつつ、追加目的地へと向かった。






・・☆・・






「なんか死体があるんだが?」




「あらら、あれから結構経つのにまだ食べられてないですね。ゾンビもチンピラのバーベキューは好みじゃないんですかねえ?」




大木くんの誘導に従いつつ、特に何事もなくスーパーへたどり着いた。


さすが龍宮市に近いだけあって、途中で野良ゾンビ30体ほどに追いかけられたが・・・昼ゾンビは諦めるのが早いのであっという間に振り切れたし。


今更だけどノーマルゾンビって日光苦手なんかな?


紫外線発生装置でも置いておけば遠ざかってくれるかもしれん・・・




そして停車した駐車場には、なんか釘まみれになった死体が2体。


結構グロイが、もう慣れた。




「バイク泥棒ですよ・・・電気ショックの後に爆弾かましたんです。威力は・・・むーん、まあ及第点ですかねえ」




人間のなれの果てをマジマジ観察する大木くん。




「これ以上威力上げちゃうと離脱が間に合わないもんなあ、ガス系は試したことないけどちょっと未知数だし・・・風向きによっては僕が死ぬ未来が見えますねえ」




その目は実験結果を確認する科学者のようだ。


彼も彼でネジが外れている。




「こわっ、アレがサイコパス」




俺のシャツを引っ張る後藤倫先輩。


・・・大木くんも南雲流にだけは言われたくないと思うな。


殴られるから言わんけども。




「ま、いいか。さあ行きましょ行きましょ・・・鍵は僕が確保してるんで、ぶち破られてない限りは安心です!・・・おっとと、用心用心」




バイクから何かのコードを出し、軽トラの荷台に連結する大木くん。




「なにそれ?」




「緊急時の放電装置です!バイクでも軽トラでも盗もうとしたら高圧電流が流れますよ!!あ、車内には何の問題もないので安心安全!」




チンピラには全然安心安全じゃねえな。


別にいいけど。


積極的に死んでほしいからいいけども。


・・・帰ってきて鍵を開ける時に死なないように気をつけよう。




「ありゃ、先輩長巻ですか」




後藤倫先輩は、いつか見た長巻を荷台から取り出している。


そういえば手甲は付けてないな、今日。




「ん、この前中村先生に研いでもらった。今日は長巻の気分」




いつだったかチェンソーゾンビと喧嘩して刃こぼれしたんだよな。


それからはずっと例の手甲だったもんな。




「じゃ、僕は後方をおっかなびっくりついて行きますので」




大木くんはいつもの野球アーマーに、腕マウントの小さいボウガンを装備。


・・・って、あれ?




「暗視装置か、それ?」




ヘルメットに見慣れない機械が付いている。


前に駐留軍に借りた奴にそっくりだ。




「あーはい、市内で転がってた死体から頂戴しました。僕はお2人みたいに夜目が利かないんで」




まあ、先輩と俺はライトで事足りるけど。


夜目って程じゃないんだがな。




「しかしまあ、なんでも調達するか自分で作っちまうし・・・大木くんのサバイバル能力はすげえなあ」




「そうしないと生き残れないんでしゃーなしです。僕は普通の人間なので」




まるで俺達が普通じゃないみたいに言うじゃん?




「あ、精神は別ですよ。ちゃんとネジ飛んでるって自覚してます、ハイ」




「そ、そうか・・・」




自己評価がしっかりできててえらい・・・な?




「何してるの男ども、キリキリ歩け」




色々突っ込みたかったが、先輩が恐ろしいので動くことにした。






「(前はここまで来たんですよ、たぶんあのドアの先が店内に繋がってると思うんですけど)」




鍵がかかっていた従業員出入り口を大木くんが開け、内部へ侵入。


前に彼が来たというパンの仕込み場所?にたどり着いた。




「(了解・・・先輩、どうですか?)」




俺が聞くと、先輩はゆっくりと店内へ続くドアに近付いてそこに耳を当てた。


目を閉じ、集中している。




しばらくそうしていた先輩は、少しだけ嫌そうに眉を歪めた。




「(・・・多い。10以上はいる)」




マジか、結構いるなゾンビ。


ここ、結構デカい店舗だもんな・・・開店前でシャッターが閉じていたから中は店員だけだろうけど。




ふむ、それならどうするか。


数が少ないようなら突撃も考えたが・・・内部構造がしっかり把握できていないのに多数との乱戦はちとキツイ。


中にいるのがノーマルだけとは限らないしな。


油断をして噛まれました!ってのは洒落にならん。




「(仕方ない。外まで誘引してやりますかね)」




「(ん。その方がいいね)」




先輩も同じ意見のようだ。




「(大木くん、誘い出して片付けるわ)」




そう言うと、大木くんは黙って親指を立てて撤退を始める。


さすが単独探索しなれてるだけあって動きが速いな。




大木くんが裏口から出たのを確認し、先輩と目くばせ。




「っし!!」




店内へ続く両開きのドアを、先輩が鋭く蹴りつける。


元々ついていた簡単な鍵はあっけなく破壊され、大きい音を立てながら扉が景気よく開いた。




その途端、店内の暗がりからゾンビ共の声が響き始めた。


耳がいいなあ、相変わらず!




「ヤッホー!お邪魔しまーす!!」




大きく叫び、兜割でテーブルに載っていた鍋をぶっ叩く。


先輩が開けた扉を通過した鍋が、暗がりに飛び込んでさらに金属音を立てる。


よし、これくらいでいいだろ!




再び先輩とアイコンタクトし、揃って撤退する。


出口に向けて走りながら、壁を兜割でガリガリするのも忘れない。




「おー、来てる来てる」




「大漁大漁」




先に先輩が出て、それに続く。




「お2人とも左右に分かれてください!ちょっと新兵器を試しますんで!」




大木くんがでっかいクラッカーみたいなものを構えている。


なんだあれ?


まあ、とにかく左右に分かれる。




俺達が出てきた裏口の奥から、もはやすっかり聞き馴れつつあるゾンビ共の声が聞こえる。


音から察するに、盛大にぶつかったりこけたりしているようだ。


だがそこは頭ゾンビ、俺達目指して猪突猛進するばかりだ。




「狙いヨシ!安全装置は初めから付いてないからヨシ!射程距離ヨシ・・・!発射ァ!!」




暗がりを見つつ、大木くんはクラッカーについている紐を引いた。


ぼん、と先端が割れて中から糸のようなものが高速で飛び出す。


まんまクラッカーだな、普通の。




「アギャギャギャギャギャギャギャ!!!」「ガガッガッガアガアッガ!!!」「ガギギギギッギギギギ!!!!」




おー!何か知らんが悲鳴?が聞こえるな。


効いているらしい。


銃ってわけじゃないだろうし、なんなんだろうアレ。




「うあー駄目だ!?ごめんなさい突破されます!!大木式テーザー銃は失敗です!!」




大木くんは叫ぶや否や、手にしたクラッカーを放り捨ててボウガンに矢を装填しつつさらに距離を取った。


テーザー銃ってアレか、なんか電極を飛ばして感電させるやつだっけ。


そんなのまで作ってたんだな。




「―――久しぶりだからちょっと暴れる。後ろに抜けたの、よろしく」




「了解でーす」




先輩が長巻を鞘から抜き、峰を肩に乗せて構える。


俺は兜割を下段に構え、その間合いから距離を取った。


大木くんはかなり大きく距離を取っている。




「アギャアアアアアアアアア―――」




「っし!!」




店員のエプロンを着た中年ゾンビが、裏口から顔を出した瞬間に首を刎ねられる。




「ッギイイイイイ―――」




「っは!!」




首を刎ね飛ばした勢いで先輩は一回転。


ブレーキをかけることなくそのままの勢いを乗せた二撃目が、続く店員ゾンビの首を再び刎ねた。




首を失った2体はその場に転倒。


後続の何体かがそれに躓いて将棋倒しになる。




「ボーナスステージ」




倒れたゾンビは3体。


先輩は長巻を槍のように構え、その延髄を続け様に突き刺した。


・・・あっという間に5体を無力化した。


相変わらず無駄がない動きだわ。




出口付近で将棋倒しが発生したので、中で渋滞しているようだ。


声はすれども後続の姿は見えない。




「狙撃しまーす」




大木くんがそう言うので、俺達は再び射線を開ける。


彼はすかさず、腕のボウガンを手早く操作して連射。


おお、早い早い。




「ヒット!ヒット!あああ!?惜しい!!こんにゃろ!こんにゃろ!!」




どうやら命中率はそこそこってとこらしいな。


普段神崎さんや式部さんを見慣れているから一般人?のエイム力はこんなもんなんだろうか。




「よっし!なんとか第二陣はこれで・・・うわわ!!」




四苦八苦していた大木くんが叫ぶ。




「黒!奥から黒が来ます!!安全距離まで離脱しますー!!」




「了解!!」




俺が答えると同時に、ゾンビが詰まった通路の奥から咆哮が聞こえた。




「グルガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」




そして、暗闇からぼきぼきぐしゃぐしゃと嫌な音も。


渋滞しているゾンビを力で無理やり通っているようだな。


ついでに掃除してくれるとありがたいんだけど。




「周辺警戒はお任せくださいー!新手が来たら言いますんで!!」




「安全第一でな!!」




その時、先輩が初めに無力化したゾンビの背中に足がかかる。


装甲に覆われた重そうな足だ。




「ギャバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」




おおよそ体の8割を黒い装甲で包んだ・・・ノーマル黒ゾンビだ!


ネオじゃなくてよかった!




「田中ぁ、鞘よろしく」




先輩が放り投げた鞘をキャッチ。




「援護は?」「コイツがビームとか出したら盾になって」




あんまりなことを言いながら、先輩が無造作に足を進める。




「ギャッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」




「ふうう・・・!!」




黒ゾンビがダッシュ。


先輩に肉薄する。




その一瞬に、先輩は踏み出しながら体の側面で長巻を回転させる。


マーチングバトンよろしく、重い長巻の刀身が遠心力で加速していく。




「ッガアアアア―――」




「―――鋭えいッ!!!!」




先輩は黒ゾンビが突き出した両手の隙間に入りつつ、回転した長巻を大上段から鋭く振り下ろした。


刃は火花を散らして顔面の殻に食い込み、そのまま進む。




「―――カ、ハ」




刃が額から脳へ到達したのか、黒ゾンビが痙攣して動きを止めた。




「・・・む、ここまでか」




黒ゾンビは膝をつき、全身が弛緩して前のめりに倒れ込む。


先輩は長巻を引き抜きつつ、跳び退いて残心。




「私もまだまだ。両断できるかと思ったのに」




「・・・縦はキッツイでしょ」




「今日はいけそうな気がした。無念」




先輩の長巻には体液こそ付着しているが刃こぼれはない。




・・・黒ゾンビの装甲と頭蓋骨をあっさり斬ったぞ、オイ。


俺ならもっと力を入れないと無理だろうが、そうした様子はない。


純粋に速度と正確さ、それと体移動の力で斬ってるな。


徒手だけでもすげえのに、この人も底が知れないよ。




「あ、おかわり」




黒ゾンビが塞いでいた道の奥から、再び咆哮。




「もう黒はいない、か。田中ぁ、パース」




「えっはい」




俺から鞘を受け取り、先輩は後退。




「後は任せた。疲れたから休む」




「了解でーす」




バタバタと足音が聞こえる。


それを聞きながら、俺は兜割を構えた。






・・☆・・






「大漁で大量だね、田中」




「うわすげえ、業者みたいになってる」




あの後、ノーマルゾンビばかり10体ほど出てきた。


倒れたゾンビで物理的に狭くなった道のお陰で、律儀に1体ずつ出てきたので問題なく対処することができた。




騒動に釣られて周囲からやってきた一般野良ゾンビは、大木くんが狙撃して片付けていた。


中々バランスのいいパーティだな。




そして、ギチギチに詰まったゾンビに辟易しながら再びスーパーへ侵入。


ようやく一般店内の物色に移った。




店員ゾンビしかいなかったので想像していたが、やはり店内は手付かずの有様。


生鮮食品売り場は大惨事だったが、それ以外の物品は搬入された時の状態で丸々残っていた。




俺達は手分けして物資の回収に臨んだわけだが・・・




「これで3往復目。田中も働け」




先輩は、背中にデカい段ボールを背負っている。


それも、縦に4つ。


・・・業者どころか雑技団じゃん。




「・・・甘味だけですか、それ」




「バランスは大事。ちゃんと乾燥野菜も乾物もある」




先輩は甘いもの大好きではあるが、それ以外もちゃんと食う人だからな。


子供たちの教育にもいい。




「向こうに蜂蜜の箱があった。田中はそれを根こそぎ持ってきて」




おお、蜂蜜。


賞味期限が超長いし有能食品だ。


ええと、どれどれ・・・




「・・・無理でしょ」




ライトで照らされたそこには、とんでもない量の段ボールがあった。


中型トラックでも無理だろあれ。




「じゃあカメラ小僧の荷物を下ろして、そこに―――」




「龍宮に行く意味が消滅しちゃうので勘弁してください!!今度トラック出しますので!!平にご容赦を!!!!」




大木くんは、綺麗な土下座をした。


・・・ちょいと食うものを回収する予定が、仕入れになっちまったな。

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