34話 大事なのはやはり物理のこと

大事なのはやはり物理のこと








「お、早いなあ葵ちゃん」




「おはよ、おじちゃん」




まだ半分眠っているサクラを抱えて階段を降りると、そこには葵ちゃんがいた。


可愛らしい新品のパジャマ姿だ。




「どうしたんだ?今日は朝ご飯の当番じゃないだろ?」




ここの子供たちは、小学生以上の子たちだけ朝食の手伝いをしてくれている。


何度もいいって言ったんだが、聞き入れてくれなかったので苦肉の策だ。


ほんと、いい子たちだ。


そんなに気を遣わなくってもいいのになあ。




保育園組は流石に却下したがな。


小さい子供は寝るのも仕事の内だ。


ホントのところ、小学生組にも寝て欲しい所ではあるんだけども。




「ゾンちゃんとヴィルママのとこ、いくー」




「あ、なるほどな・・・ほれサークラ、葵ちゃんだぞ」




「ふぁふ・・・ふぁう」




大あくびをしたサクラは地面に下り、尻尾を振りながら葵ちゃんに挨拶をしに行った。




「おはよー、サクラちゃん」




「わふぅう・・・」




『眠いでござる』と顔に書いてありそうなサクラは、それでも葵ちゃんが伸ばした手を舐めた。


・・・昨日、ちょいと遊び過ぎたから疲れてんのかね。






・・☆・・






モンドのおっちゃんが、俺の想像の遥か上を行くクソ強爺だと発覚したのは昨日のこと。


俺達は、それから山ほど服を抱えて帰還した。




子供たちを始め、皆は新しい服の数々に歓声を上げて喜び、大規模なファッションショーが始まった。


おっちゃんたちは後日の再訪を伝えてすぐに帰ったが、その後も高柳運送はお祭り騒ぎ。


テンションの高い子供たちに釣られ、サクラもまたハイテンションで嬉しそうに走り回っていた。


・・・なお、ソラだけは『超うるさい』みたいな顔をして倉庫で丸まっていたが。




そうそう、そもそもの発端になったキャシディさんは・・・アニーさんチョイスの下着に満足したようだ。




『カワイ!イチローミテミテ!コレー!!』




と言いつつ、俺を部屋に引きずり込もうとするくらいには喜んでいた。


斑鳩さんが苦笑しながら助けてくれたので・・・なんとか致命傷で済んだぜ。


なんでか知らないが、後藤倫先輩には腹パンされたけど。


なんでさ。


マジであの人わけわからん。


言ったらもっとぶん殴られそうだから何も言わないけども。




・・・まあいい、というわけでサクラはちょいとお疲れモードというわけだ。






・・☆・・






「エマおねーちゃん、ぐっもーにー」「わおん!」




「ハーイ!グッモーニンアオーイ!サークラー!」




外へ出ると、いつものようにツナギを来たエマさんが馬房にいた。


目を覚ましたサクラと一緒に葵ちゃんが、元気よく挨拶している。


その奥には、見慣れた2頭のお馬さんがいる。




「ゾンちゃん、ヴィルママ~、おはよ~」




馬は人間と違って何時間も同じ体勢で寝ないらしい。


小刻みに睡眠をする・・・と教えてくれたのは、七塚原先輩だったかエマさんだったか。


まあとにかく、母娘は今日も元気そうだ。




「ひいん」




まず初めにゾンちゃんが小走りで近付いて来て、挨拶代わりにサクラをベロベロ舐めつつ葵ちゃんに頭を押し付ける。




「いいにおーい、今日もげんきね~」




「ぅあうぅあう!わふふ」




サクラは舐められすぎて発音が不明瞭だが、空気を斬り裂く尻尾を見ればご機嫌だとわかる。




「おごっ!?おおう・・・おはよう、お転婆娘」




「ぶるる!ひひん!」




そんな平和な光景を眺めていたら、ゾンちゃんは不意に俺の腹に頭突きをかます。


ふ、不意打ちはやめてくれないかな・・・?


この子、明らかに俺とか七塚原先輩にはガツンとぶつかってくるんだよな。


子供たちには絶対やらないあたり、賢い。




「フシュ」




「きゃー♪」




遅れてゆっくりとこちらへ来たヴィルヴァルゲは、葵ちゃんの頬に鼻を押し付けて挨拶。


その鼻息がくすぐったかったらしく、葵ちゃんは声を上げて笑った。




「おはよ、ヴィルママ~」「ブルル」




そのまま長い鼻面に抱き着く葵ちゃん。


されるがままになりながら、ヴィルヴァルゲの黒い目は優しく彼女を見つめている。




ちなみに今更ではあるが、子供たちはヴィルヴァルゲのことを『ヴィルママ』や『ママ』と呼んでいる。


俺相手には結構ガツンガツン当たって来る彼女だが、子供相手には決してそんなことはしない。


『守ってあげないといけない、弱い生き物』だとわかっている感じがする。  


でっかい動物ってのは往々にして優しいってのは本当かもな。


強いから余裕があるのかもしれない・・・俺もそうなりたいもんである。




特に保育園組の子供たちは、その母性というかなんというか・・・とにかく、それに全幅の信頼を寄せている様子だ。


なお、巴さんがママ役の地位を揺るがされたとかでちょっと落ち込んでいた。


・・・馬に張り合わないでくださいよ。




「お前のかあちゃんは最高だなあ」




「ひひん」




そんな微笑ましい光景を見ながら、相変わらず俺の腹筋にゴンゴンぶつかってくるゾンちゃんを撫でる。


すると彼女は嬉しそうに、俺の手を涎でデロデロにするのであった。


うーん、朝から青臭い。


いっぱい牧草食って大きくなるんだぞ。




「ソイエバ、リン、オトマリネー」




俺の横にいるエマさんが汗を拭きつつ呟く。


オトマリ・・・ああ、お泊りね。




「会議、長引いてるんですかねえ」




神崎さんはまだ帰ってきていない。


御神楽高校での会議、かなりの重要なものらしいな。


俺が無職じゃなかった時代のパワハラ会議とは違うだろうが、それでも会議と名前の付くものは好きになれそうもない。




「エマさんは行かなくてもよかったんですか?」




「イイノイイノ、ウフフ」




いいのかな・・・?


まあ、どうしても参加しなきゃいけないんなら呑気に馬の世話なんかしてないか。




「バウ!バウバウ!」




おっと、なーちゃんも起きたのか。


社屋の玄関からロケットよろしく飛び出してきた。




「わう!わおん!」




顔をベトベトにしたサクラがそれを見て走り出す。


朝の運動かな?




「ひん!ひひぃん!!」




「はいはいはいわかったわかったあばばばばば」




『私も!私も!!』みたいにゾンちゃんが体当たりしつつ顔を舐めてくる。


馬房の入口を開けると、すでにサラブレッドの片鱗を見せ始めるかのように彼女も飛び出した。




犬2匹と馬1頭は、駐車場を丸々使った追いかけっこを開始。


ううむ、直線はゾンちゃんが速いがコーナリング性能はなーちゃんに軍配が上がるな。


サクラは・・・うん、まだ仔犬だからな。


楽しそうだからいいけど。




「『うーん、いいバネ!彼女はきっと速くなるわね!!』」




エマさんは何やら楽しそうだ。


先輩みたいに、本当に馬が好きなんだろうなあ。




「ア、イチロー・・・コッチ、キテ」




「ん?」




エマさんが手招きをしたのでついて行く。


なんか困りごとかな?




「ジャジャン!」




「ひゃわああ!?!?」




葵ちゃんには見えない角度で、エマさんがツナギの前を急に開いた。


なんっ・・・!?なんでシャツ着てないの!?!?


なんか高そうで縫製の細かい下着が見えてしまった!!


慎みイズ何処!?!?




「オミヤゲ、アリガト!!カワイイ!!」




「ゆ、ゆあー、うぇるかむ・・・」




あ、なるほどね・・・昨日のアレ、エマさんの分も含まれてたのね・・・


・・・だからって見せなくてもいいんですが!?!?


キャシディさんにしろエマさんにしろ、心臓に悪いからやめろくださいよ!!




「『朝から、とても、刺激的です。死んでしまうから、許してください』」




「『んふふ、死なれるのはさすがに困るから許してあげるわ!それだけ魅力的ってことだしね!!』」




早口でよくわからんが、エマさんはご機嫌である。


俺は死にそうである。


この人たちは本当に・・・


行動は朝霞に似ているが、あいつとは違って勝てる気がしない。


朝霞、お前はそのままでいてくれ・・・いや、それもどうかと思うな・・・




「ママ、おみずのむ~?」




「ブルル」




「は~い、んしょっと・・・」




葵ちゃんは空のバケツを持ち上げようとしている。


おっと、そりゃさすがに重すぎる。


手伝わないと。




「ヒヒィイン!!」




ヴィルヴァルゲは俺を見て、『子供に何させてんだ』的に嘶く。


わかってるってば。




「おーい葵ちゃん、おっちゃんと一緒にやろうk―――」




柵からバケツを外そうと四苦八苦している葵ちゃんに声をかけたその時。






朝ののどかな空気に不釣り合いな、でかい爆音が響き渡った。






「―――ッ!!『爆弾!?アオイ、こっちへ!!!』」




「わわっ!?」




さっきまでのニコニコ顔を一変させ、エマさんがダッシュ。


あっという間に葵ちゃんを左手で抱えると、後ろ腰のホルスターから拳銃を抜いて馬房の奥へ身を翻す。


さすが、駐留軍の装甲兵士。


動きが素早いし的確だ。




「サクラ!なーちゃんゾンちゃん!!こっちに来い!!!」




馬房の入口を叩くと、駐車場で遊んでいた彼女たちは一瞬で戻ってくる。




「サクラたちを頼むぞ、かあちゃん!!」




耳をせわしなく動かして警戒しているヴィルヴァルゲに声をかけ、正門へ向かって走る。


途中でサクラたちとすれ違い、たどり着いた門柱に身を預けた。




さっきエマさん、爆弾的なこと言ってたな・・・まさか、鍛治屋敷の野郎ついに攻めてきやがったか!?


くっそ、平和ボケしちまってた・・・脇差しか持ってきてねえ!


とにかく外の状況を確認して、すぐに戦闘態勢を整えなければ・・・




門柱の陰から身を乗り出そうとしていると、社屋2階の窓が開くのが見えた。


そこには、ライフルを構えた・・・下着姿のアニーさんが!


ちょっと!!なんで服着てないんですか!!!


あとなんですかその紐みたいなの!?


自分用も回収してたんですか!?




「『エマ!方位!!』」




「『正門方向、3時方面!音が反響してるから確実じゃないけど!!』」




「『了解・・・朝から熱烈だな!確認する!!』」




きびきびと怒鳴り合いながら、アニーさんは窓枠にライフルを載せてスコープを覗き込んだ。


覗き込み、引き金に指をかけ・・・なかった。


あれ、どうしたんだろ?




「『・・・エマ!警戒解除!!』」




「『は?なんで!?』」




「『騒がしい隣人、だ!』」




「『あー・・・納得』」




エマさんが拳銃を下ろし、片手で葵ちゃんをさらに持ち上げて肩車した。


地味にすげえな。




「エマおねーちゃん?」




「ゴメンネ、マチガイマチガイ」




「ん~?」




葵ちゃんはよくわかっていないが、ご機嫌である。


ヴィルヴァルゲはその様子に警戒を解いた様子だが、サクラたちは馬房の隅で固まっている。




「アニーさん、今のはなんですか!?」




2階に向けて怒鳴ると、アニーさんはライフルをしまいつつ苦笑いし、肩をすくめた。


まるで映画のワンシーンだ。


絵になるなあ・・・セクシーすぎるけど。




「見に行ってやれ!お友達のオーキが庭で伸びているぞ!!」




ああ・・・うん、その一言で全て納得できた。


何やってんだよ朝っぱらから・・・




爆音で強制目覚ましされた社屋内が騒がしくなる気配を感じながら、俺もまた苦笑いした。






・・☆・・






「焦げくっさ・・・」




一応の用心のため脇差を抜き、大木邸の玄関をくぐる。


あの後正門から出た時に、敷地内から白っぽい煙が上がっているのが見えた。


大木くんが何か失敗でもしたようだ。




「おーい!生きてるか~!」




アニーさんの態度から察するに、ひっ迫した状況ではないとは思う。


伸びてるとは言ったが、血だらけとか死にかけならさすがにもう少し慌てているだろうしな。




「う・・・うぇええ~~い・・・」




まだ噴煙が収まらない庭の中心から、大木くんの返事。


よし、とりあえず生きてるみたいだな。




「大丈夫か!?腕も足もちゃんと付いてるか~?」




「すいませぇえん・・・もうちょいでっかい声でおねがいしまぁす・・・耳鳴りがひどくってえ・・・」




至近距離であの爆音を喰らったんだもんな。


鼓膜がイカれてないだけ儲けものか。




「五体満足かあ!?!?!?」




「・・・はぁあい、どこのパーツもパージされてないでえぇす・・・」




ふう、よかった。


それなら安心か。




風が吹いて、煙が晴れてきた。


焦げ臭い空気が薄くなり、庭の惨状が目に入ってきた。




「・・・なにしてんだ、ほんとに」




庭の中心に、大木くんが大の字になって倒れている。


・・・これ大木くんだよな!?




「・・・大木くん、だよな!?声帯模写した宇宙人とかじゃないよな!?」




「大木政宗ですぅう・・・爆弾大好きぃい・・・」




庭にいる大木くんらしき物体は、映画やドラマでよく見かける格好をしている。


全身に、爆弾処理班みたいなアーマーを着込んでいるから顔もわからん。


どっから調達してきたんだそんなの。




「朝から近所迷惑だぞ、それにしてもなんだその恰好・・・」




「・・・あ、聴力が戻ってきました。んぎぎぎぎ~・・・」




仰向けの状態でしばらくもがくと、大木くん(恐らく)は四苦八苦しながら身を起こした。


そして、よろよろとした動作で頭の部分のヘルメットを外す。


その中から、汗だくになった大木ヘッドが出てきた。


あ、よかった本人だ。


まあこんなのが複数いたら大惨事だからな。




「ぷわぁあ・・・ご迷惑おかけしましたぁ・・・」




首をゴキゴキ鳴らし、大木くんは庭石に腰を下ろす。


やっと煙が完全に晴れたので、庭の全容が見えてきた。




元々綺麗にされていた庭の畑にある支柱が根こそぎ倒れている。


あああ・・・小さくて青いトマトがいくつか落ちちゃってるな。


衝撃波の影響だろうか。




「なんだ・・・ソレ」




そして、さっきまで大木くんが寝ていた所に異物が転がっている。


長さは・・・2メートルくらいの、工事現場で使う足場のパイプ、みたいなもんだ。


だが、ただのパイプじゃない。


先端からはまだ薄く煙が出ているし、その反対側には握り手?やコード類がごちゃっと存在している。


なんだか引き金みたいなモノも見える。




「・・・アレか?お手製バズーカ砲でも作ってたのか?」




それにしちゃ、銃身?が長すぎるけど。




「あー・・・ゲホゲホ、いやいや、これはそんな浪漫がないモノじゃありませんよ!」




バズーカに浪漫があるのかないのかは置いておくとして、どうやら違うようだ。


じゃあ何なんだろ、この謎パイプ。




その時、玄関の方から声がする。




「おいおい・・・どがいしたんなら、生きとるか大木~?」




八尺棒を抱えた七塚原先輩だ。


心配して来てくれたらしい。




「おー!おはようございまっす!!丁度いい所に来てくれました!!」




大木くんは重そうに立ち上がり、謎パイプを持とうとしている。




「七塚原さん・・・こ、コイツを・・・コイツを試してみて、くださ・・・あああ、握力が消滅してるから持てなァい・・・ぎゃわぁあ!?」




産まれたての小鹿よろしく震えながらなんとか謎パイプを持とうとした大木くんだったが、あえなく庭に転がってもがいている。


朝っぱらから賑やかな様子ですこと。




「田中野、なんじゃこれ」




「俺にもさっぱりわかりませんね・・・何が何やら」




俺達は、もがく大木くんを見ながら首を傾げるばかりだった。




「すいませぇん・・・起こして・・・起こしてくれませんかぁ・・・」






・・☆・・






「死ぬかと思いました・・・銃身の剛性を確かめるために炸薬量を限界まで試したんで、音と衝撃波がモロに・・・」




「せめて人の目があるところで実験しような。ここがゾンビ無人地帯じゃなかったらパレードが始まってるぞアレ」




なんとか大木くんの防護服を脱がせ、縁側に座らせた。


今日はそれほど暑くないのにも関わらず大汗をかいていた大木くんは、水路の水で体を拭いてようやく人心地ついたらしい。


新しいシャツとジャージに着替え、水を飲んでいる。




「あっそうだ先輩、朝飯の用意は・・・」




「巴がやりよる。長引きそうじゃけえわしらはホレ、握り飯じゃ・・・大木のもあるけえ食いながら話を聞こうか」




「うわー!ありがとうございます!!今度何かをお返ししますので!!」




大木くんが着替えている間、先輩は一旦社屋に戻っていた。


タッパーには、美味そうな握り飯が詰まっている。


おお!牙島特製の海苔が巻かれている!!超美味そう!!!


漬物もある!サラダもだ!ご機嫌な朝食だぜ!!




大木くんはそのまま縁側に、俺達は適当な庭石に座って飯を食うことにした。






「うんま・・・うまま・・・今がゾンビパニック中ってこと忘れちゃいますねえ・・・」




ニコニコで握り飯をパクつく大木くんである。


大丈夫だとは思ったが、後遺症?的なモノはないようで一安心。




「ねえちゃんの梅干し絶品すぎる・・・」




「巴のに勝るとも劣らん味じゃな・・・」




先輩の1位は殿堂入りしているが、それに迫る味のようだ。


これは大事件だぞ、オイ。




「・・・で、話の腰が複雑骨折しちまったけど結局あのパイプなに?」




未だに謎パイプは庭に転がったままだ。


飯を食いながら見ていたが、マジでわからん。


銃身の細いバズーカ砲にしか見えんのだが・・・




「んぐんぐ・・・ぷは!ええ!それはですねえ・・・」




大木くんはお茶を一息に飲むと、湯呑を勢いよく縁側に置く。


目のキラキラが戻ってきた、絶好調だな。




「対『白黒以上』ゾンビ用・・・大木式ドラゴンロアー零式!です!!」




立ち上がり、腰に手を当てて大木くんはドヤ顔である。




「どらごんろあー」




「ぜろしき」




俺と先輩は揃って反芻した。


いや・・・だからオリジナル名称じゃわかんないんだって。


特別なゾンビ用の武器ってのと、火薬を使うってのはわかったけどさ。




「あ、作動させますね」




きょとん顔の俺達の前で、大木くんが庭に出てパイプを掴む。




「おいちょっと、またぶっ倒れるぞ」




今度は防護服着てないんだから死んじまうぞ。




「へへ、大丈夫です、最低限の炸薬で動かしますから」




大木くんは重そうにパイプを持ち上げ、さっきまで煙が出ていたのとは反対側についている取っ手を持つ。




「まずはここに発射用の炸薬をセットします」




そして取ってを引くと、ショットガンみたいに弾倉?薬室?の蓋が開く。


大木くんはそこに・・・散弾銃の弾丸によく似たプラスチック製の筒を入れる。




「そしてコッキング!」




取っ手がスライドし、がちゃりと引かれる。


筒はパイプに収納された。




「このコッキングハンドルの先端を握り込むと安全装置が解除されます!」




よく見ればさっき引いた取っ手の先がペンチの握り手になっている。




「そして・・・握り込んだまま本体のトリガーを押せば・・・!」




右手は取っ手。


そして左手はパイプの下に回り込んで保持している。


そこには拳銃のグリップのようなモノがあり、人差し指が当たる部分にトリガーがあるようだ。




「発射ァ!!!!」




ばずん、と音がした。


確かに、さっき聞いたのとは全然音量が違う。




そして、金属が擦れるような音がして・・・パイプの先端から鈍く輝く杭が飛び出した。


ストッパーがあるようで、その杭は飛び出しても飛んでいくことはなかった。




こ、これは・・・まさか!!




「どうですか!弾数は無限!威力は抜群・・・これぞ男の浪漫です!」




大木くんがニコニコしながら紹介したもの。


それは、俗に言う『パイルバンカー』だった。


アニメや漫画でおなじみの、浪漫溢れる武器だ。




「杭打機かいや、たしかに威力はありそうじゃのう」




「「パイルバンカー!!」」




「な、なんじゃあ?」




俺と大木くんは、揃って声を合わせたのだった。

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