特別編 大木政宗は毎日が楽しい。
「ネットのみんな!元気ですか!?僕はすこぶる元気です!!今日はチューンした愛車でドライブなうですよ~!!」
スロットルを絞る。
シートに押し付けられる感覚と一緒に、スピードメーターの針がぎゅんっと動いた。
ふふ、最高の加速性能だ・・・!
さすが大木チューン!!
「どうですこの加速!余裕の加速ですよ!このバイクは~・・・ああん」
映りこんじゃったかあ。
仕方ないなあ、カットだカット。
録画は別の機会にしよっかな。
「仕方ないなあ、もう」
ぼやきながらミラーを再確認する。
「暇なんだなあ、皆」
そこには、僕の愛車をガンガンに追いかけている車が・・・4台。
「なんだよもう、普通にドライブ動画撮らせてほしいなあ・・・ポチっとな」
秘密のスイッチを押し込む。
荷台から、かつんと軽い金属音。
よーし、問題なく作動したね。
走りながらミラーで後方を確認。
丸くて光るいかしたアイツが、後方の車列へと吸い込まれる。
「うおっと」
そして、先頭の車の下で閃光が炸裂。
続いてセクシーな爆発音。
加えてセンシティブな爆風。
「あー・・・火薬もうちょい減らしてもいいかも」
吹き飛ぶスポーツカーを見ながら、僕はそうこぼした。
毎回外出すると変なのに絡まれる気がするなあ。
僕は健全な動画が撮りたいのであって、バイオレンスはノーサンキューなんだってば!!
朝は平和だったのになあ・・・どうしてこうなった!!
・・☆・・
やあみんな、僕の名前は大木政宗!
未来の大人気配信者を夢見る、ナイスガイさ!!
今日も今日とて動画編集!と言いたい所なんだけども・・・
「ブルル」
「はいはい、新しいおが屑だよ~~~~」
催促するように、僕の横で前かきをするヴィルヴァルゲちゃん!
くうう、何しててもカッコいいなあ!さすがダービー馬!!
「ひぃん」
「あばばばば待って待って、もうすぐ今世紀最高のベッドができるからね~~~~」
そして僕が愛してやまない名馬のラストクロップ、『ゾンネンキント』ちゃんが頬をベロベロ舐めてくる!!
ちなみにお父さんの名前と同じ言語にしたんだ。
いいよね・・・中学2年生が騒ぎ出しそうな言語。
もちろんいくつか候補を出してみんなで選んだよ。
子供たちはもっぱら『ゾンちゃん』と呼んでいる。
・・・後藤倫さんは最後まで『キンツバ』という名前にこだわっていたけど。
右を向けば名馬!!左を向けば未来の名馬!!
ヒョオオオオオ!!!最高!!最高だこの環境!!!
というわけで、田中野さんが拾ってきたお馬さんのお世話に勤しんでいる僕。
動画制作も大事だし大好きだけど、それに並ぶくらいの楽しいことだ、これは!
まさかこの手で・・・この手でシュターレバイターの子供の世話ができるなんて・・・
「うっぐ、うぐぐぐう~~~~~」
いかん、涙腺、涙腺がもうガバガバだよ・・・
生きててよかったよお・・・
「おにいちゃん、ないてる~」
「いつものことだから大丈夫だよ、葵ちゃん」
璃子ちゃんはよくわかっていらっしゃる。
「素直にキショい」
なにやら通りすがりの後藤倫さんがチクチク言葉を放ってきたが、甘んじて受け入れよう!
キショいのは自覚しておりますので!ので!!
「『本当に馬が好きなのねえ』」
馬房を整え終わって一息ついていると、エマさんが話しかけてきた。
「『ええ!大好きですよ!・・・そういえば、エマさんは一緒に行かなくてよかったんですか?』」
「『ワタシもこの子たちが気になったし、今回はキャシーにジャンケンで負けちゃったからね』」
僕のガバガバ英語力でもなんとか伝わるようで何よりだ。
グローバルな配信者を目指して駅前に留学した甲斐があったよ・・・
そうそう、さっき聞いたように田中野さんは昨日アニーさんとキャシディさんと一緒に遠足・・・じゃない、詩谷に偵察に行った。
例の『レッドキャップ』関係らしい。
楽がしたいとか働きたくないとか言う割に、あの人って結構勤勉だと思うな。
同行者が超肉食系美女2人だけど、あの人なら無事に帰って来るだろうな。
確信できる。
修験者か何かですかあの人は。
「『いい馬よねえ、ホントに』」
エマさんが、馬房でくつろぐ2頭を見て目を細めた。
ご実家が牧場だって言うし、世話の仕方もしっかりしている。
こうして見るとバリバリの軍人さんだってとても思えない。
・・・何故か田中野さんが着ていたツナギを愛用していることは無視する。
「『いっそのこと駐留軍を退役してここに住んじゃえばいいんじゃないですか?田中野さんは多分・・・いや絶対OK出しますよ』」
あの人が仲のいい女性のお願いを断る所が想像できない。
さすがにアニーさんの限界ギリギリのセクハラは困っているが、普通のお願いなら大丈夫だろう。
・・・アニーさん、話に聞いてたよりもかなり積極的でビックリしたんだよな。
日本語上手すぎるし、なにより日本語での下ネタも完璧にこなす。
元特殊部隊だって聞いてるけど、そういう所もエリートなんだろうか。
「『素敵な提案ね!本当に素敵!・・・まあ退役はともかく、定期的にお邪魔したい所よねえ、ここ』」
「『自由ですからね、ここは・・・それになにより、名馬もいるし』」
僕がそう言うと、エマさんは白い歯を見せて笑った。
「『ホントそうよね~・・・ミカグラみたいにいやらしい目で見てくるオトコはいないしね!イチローは紳士だし!アナタもね!』」
田中野さんは知らないけど、僕はその・・・女性全般に興味がないので・・・
「『・・・そうなんですか?』」
「『仲間やジエータイ、ポリスはいいんだけどね、最近緩んできたのか避難民がちょっと・・・ね?前にお風呂を覗かれたわ!』」
はー、マジですか。
御神楽も色々大変みたいだなー。
やっぱり集団生活はクソ、大木覚えてる。
「『それは、大変ですねえ』」
「『キャシーがブラシでボコボコにしてたわ!その後コホリに引き渡してやったわ!!』」
古保利さんか・・・何度か仕事をお手伝いしたけど、信賞必罰がキッチリしている怖い人だったなあ。
覗きは・・・何度か注意して最悪放逐ってところかなあ、あの人そういう所容赦ないし。
集団の輪を乱すような人間は追い出すに限るってね。
別に避難所に絶対いなきゃいけないわけでもないしね、わきまえてもらわないと。
残念でもないし当然ですなあ。
「おにいちゃん、エマおねーちゃん、おやつよ~。クッキーだよ~」
「ハーイ!アオイ!アリガ~ト~!!」
「わはー・・・」
クッキーを運んできた葵ちゃんは、一瞬でエマさんに抱き上げられて頬にキスされている。
ここの子供たち、皆いい子だからお客さんにも大人気なんだよね。
特に葵ちゃん、エマさんにもキャシディさんにもよく抱っこされている。
本人も嬉しそうなので放置だ。
僕が同じことやったら即収監されそうだけど。
収監される場所は壊滅してるけども。
さて、僕も斑鳩さんのクッキーを頂くとしようかな。
平和になったらお菓子屋さんでも開店すればいいと思うけど・・・よくよく考えたら翻訳家さんだったわ。
「今の所不足しとる物資はないのう」
クッキーで休憩した後、畑仕事から帰ってきた七塚原さんを捕まえた。
何か足りないものはないかって聞いたんだけど、特になさそうだ。
「飼い葉は牧場から回収できたけえ、問題なあ。牧草もあっこで育っとる分もあるけえ、時期が来たら刈りとりゃええけえな」
「種なんかも十分備蓄ありますもんね、何より2頭だけですから十分ですよ、2頭、だけ・・・マジで、ヤクザ、ぶっ殺したいなあ・・・ひどいことしやがって・・・!!」
竜庭牧場の顛末は聞いたけど、未だに怒りが湧いてくるよ。
あいつらァ・・・日本競馬の至宝になんてことをしてくれたんだよ・・・!!
ヤクザなんか何トンいてもつり合いが取れないんだぞ!!ふざけんな!!!!
絶滅しちゃえ!!!
「キッチリ皆殺しにしといたけえな」
してた!!!
「アリガトウゴザイマス!!」
七塚原さんには足を向けて寝られないね、まったく。
足を向けられない人間が多すぎるので、この先は立って寝るべきかもしれない、僕。
「今日は龍宮の南あたりに行くんで、何か子供たちにお土産でも見つけてきますよ」
「すまんのう・・・無理だけはしたらいけんぞ」
「はっはっは、安全マージンの化身、大木ですよ僕は。どっかの生死ギリギリサムライマンと一緒にしないでいただきたいものですなあ!」
真似すると即死するからね、仕方ないね。
僕には近接スキルが生えてないので。
「ここ周辺のゾンビはほぼ絶滅しましたし、この先は畑も広げてもよさそうですねえ」
「流石にこれ以上は手に余るのう。作り過ぎても捨てるだけじゃな、冬に備えてジャガイモの作付けはしようと思っとるが」
この騒動がどれだけ続くのかわかんないけど、とりあえずこの避難所は大丈夫そうだね。
防衛力はストップ高だし、畑もある。
山に行けば獣がいるし、魚は海や川でいくらでも獲れる・・・変なのに目を付けられそうだけど、付けられても問題ないというチート地域だ。
なんでかって?南雲流が変なのをコロコロしに行くからです!
・・・ほんと、田中野さんたちと知り合えてよかったよね、僕ってば。
「ひひぃん」
おや、ゾンネンちゃんが馬房から顔を出していらっしゃる。
なにかななにかな~・・・
「わん!わおん!」「バウ!ワウ!」
おっと、サクラちゃん達がお出ましだ。
いつでも元気でえらいぞ、キミたち。
あ、なるほど。
お友達と遊びたいのね。
後ろのママはゆっくり立ち上がった。
ううむ、悠然としていて素敵!!カッコイイ!!!
「よっしゃ、任しといて~」
お馬さんたちをお手製放牧地に放したら、出発するとしよっかな。
そんなに遠出じゃないけども、できるだけ早く帰ってきたいしね。
・・・田中野さんたちを見ていると常識がバグるけど、夜はノーマルゾンビでも危険なのだ。
僕にとってはね。
・・☆・・
「嫌な気配がする・・・」
とは言ってみたものの、全くそういうのはわかんない!
気分ですよ、気分!!
「まあ、この子なら白黒が出てきても走ってればなんとかなるし、安心安心」
我が愛車を駆り、やってきました龍宮南部。
特に何が起きることもなく、無事に到着した。
さてさて、ここらへんには・・・確か会員制の大型スーパーがあったハズ。
なにかいいモノ残ってないかな。
ゾンビがいっぱいいたら撮影して撤収。
探索できるくらいの数だと嬉しいなあ。
行ったことがないのでナビで検索。
・・・ふむふむ、やっぱりこの先にあるね。
保存食とか残ってたらいいなあ。
「アアアアアアアアアアアア!!!」「ガアアアアアアアアアアアアア!!!」「アガガアアアアアアアアアアアアア!!!」
ひぃい!一般土着ゾンビ!!
停まって確認してなくてよかった!!
すぐさま加速して引き離す。
目測50メートル程でゾンビは諦めた。
昼のゾンビは諦めが早くってイイね!
一回試したけど、夜ゾンビはずううううっと追いかけてくるからなあ。
脳内の謎虫は夜行性なのかな?
そんなこんなでゾンビと放置車両をかわしつつ、デッカイ駐車場に到着した。
生存者はいないなあ、ここらへん。
ゾンビばっかだねえ。
場所によってゾンビの分布に差があるのはなんでだろうね?
田中野さんの知り合いっていう教会の周辺なんか、ほぼ100%ゾンビになってたらしいし。
・・・人口密集の度合いでゾンビの数が変わるのかなあ?
まあいいか。
探索中にこんなこと考えてたら死んじゃう。
駐車場には、見た所放置車両しかない。
停められてから一度も動かした形跡がない車ばっかりだ。
ここの開店時間はたしか11時台だったから、社員さんしかいなかったのかも。
いつでも逃げられるように、安全マージンを取って駐車場を回る。
うーん・・・車両の中で動くゾンビはいないね。
放置されて時間が経ったワゴン車の横に停車し、ヘッドマウントのカメラを起動させる。
ここは初探索だから、声は後で入れよう。
クリアリングは大事だからね。
持っていくものはナップザックのみ。
装備はいつもの野球用品アーマー、武器はクロスボウとスタンバトン。
それに各種爆弾だ。
これ以上増やすと重くなっちゃうからね。
・・・火薬やその他が揃ってきたから簡易的な銃でも作ろうかなあ。
短発式ならなんとかなるかも。
銃弾はこっそりいろんなところから回収してるし。
ただ、サイレンサーの形状がよくわかんないんだよね。
今度神崎さんあたりに聞いてみようかな。
「(大木政宗、いきまーす)」
声に出さないように呟き、駐車場の外延部に沿って移動を開始。
目的地は正面の扉・・・じゃなくって裏口。
そっちから入った方が簡単だし、外からも見えにくいしね。
「アアアア・・・」「おっと」
放置車両の影から一般ゾンビ!
慌てず騒がず動きを止め、クロスボウで狙う。
散々練習しただけあって、射出されたボルトはゾンビの目に突き刺さった。
「ァガッ」
ゾンビは地面に倒れる。
しばらく確認・・・死亡確認ヨシ!
ノーマルなら僕みたいなヘッポコでもなんとかなるもんだね。
・・・いかんいかん!油断大敵だ!!
正面のガラス扉や窓を避け、側面に回り込んで裏へ進む。
龍宮市街だから、周囲は大きいビルが建っているので横方向からのゾンビに警戒しなくって済むのがいいよね。
・・・そんなこと言ってて、屋上から投身ゾンビとかいたら洒落にならないので警戒はするけどね。
「おっとと」「ィギッ」
ここの制服を着たゾンビをゴミ捨て場で発見したので処理。
ゴミ出しの時にゾンビ化したんだろうか・・・どこにも傷がないってことは、初手ゾンビってことだね。
発生からかなり時間が経ってるのにノーマルのままってことは・・・不思議だなあ。
時間経過で強くなるんじゃないのかねえ。
とんでもない悪臭を発生させているゴミ捨て場を通過してしばらく歩くと、従業員専用の入口を発見。
機械警備は勿論動いてないし、何より鍵が開いていた。
・・・さっきの従業員ゾンビが開けたんだろうか。
それとも誰かがもう侵入したのかな?
ゆっくりゆっくりと扉を開き、後ずさる。
ヘルメットのライトを起動させ、内部を照らす。
洞窟探検にも使われる高価で光量も抜群のやつだ。
真昼以上の明るさになった空間には何もいない。
この先は長い廊下と・・・ドアだね。
クロスボウをコッキングし、スタンバトンも起動させる。
足音を立てないように気を付けて歩き、ドアに到着。
そこにも鍵はかかっていなかったので、ゆっくり開ける。
「(・・・うっわ)」
僕が侵入したのは、ベーカリーの作業室?みたいな場所だったようだ。
鮮魚とか精肉とかじゃなくってよかった。
パンが腐ったような臭いはまだ我慢できる。
そして、室内にはポツンと佇むゾンビが・・・3体。
エプロンを着け、いかにも仕込みしますよって感じだ。
コッキングが済んでいるクロスボウをサイティングし、発射。
まずは一番近い距離にいるゾンビを処理。
「ァガ」
頭部を貫かれたゾンビが倒れるより早く、コッキングの動作に入る。
どすん、と倒れる音と同時にコッキングして音を消す。
「アアアッ!?ァア・・・」
同僚の倒れる音に反応したゾンビに射撃。
ヨシ!目に当たった!!
「ッガガッガ!?」
そして同じように3体目のゾンビも処理・・・ひぃい。
息が苦しい!でも我慢!!
3体目のゾンビが倒れ込んだのでコッキング。
そして、ゆっくり息を吐きながら耳を澄ます・・・物音は、ない、かな?
しばらくじっとしてから、ゾンビの間を歩いて新しい扉へ到着。
こちらから音を立てないように鍵をかけた。
ここがベーカリーなら、この扉が店内へ続いているハズだ。
だけど、今更ながらここはとてもとても広いスーパー。
僕一人だけでいきなり探索するには荷が重すぎる。
幸いにもここはベーカリー・・・ということはそう!小麦粉なんかがいっぱいあるハズ!!
正直固形物や生鮮食品が残っているとは思えないので、大当たりだろう。
こんなんいくらあってもいいですからね!!
今日の所はここを物色して帰ろう!
「欲張らないことが、生き残るコツ・・・ってね!」
もう周囲にゾンビはいないので、声に出しちゃう!
ここからは録音も同時並行だ!
「ちょっとパンが腐ってるけど、それ以外は残ってます!さーて今日も収集ですよ~」
マイクに向かってそう呟き、室内の物色を始めた。
・・・もちろん、ゾンビが映らない画角でね!
・・☆・・
「大漁!大量ですよ皆さん・・・両肩にかかる重みで幸せを実感しますよ~!」
収穫は大成功だった。
まずは小麦粉、これは封を切ってないものが大量に備蓄されていたので確保。
さすがに多すぎるので、また来ようかな。
そしてドライイースト菌、コレも確保。
斑鳩さんに渡せば何とかなるでしょ。
さらには塩、砂糖、パン粉、バターに乾燥チーズ、その他トッピングに使っていただろう調味料もろもろ!!
・・・残念ながら停電によってベーコン類はお亡くなりになっていたけど、そこは中村さんたちが燻製を大量にくれるので問題なし!!
いやあ、ほんとに大漁だ。
ナップザックが千切れそうなほど重い。
従業員ゾンビのポッケに通用口の鍵があったので、それで施錠して撤退。
ここは宝の山だなあ・・・田中野さんが帰ってきたら、何人かでまた来ようかな。
あの人達がいれば一気に、大量に物資を確保できそうだ。
結局今回は店部分の確認はしていないし。
ここ最近では一番の収穫だ!いやあ、今日はいい日―――
「ぎゃああああっ!?あああが!?アアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」「シュンジ!?シュンジー!?!?」
・・・なんか聞こえたなあ。
影から覗くと、駐車場に来るときにはいなかった新規お客さんの姿があった。
10人くらいの集団が、僕の愛車周辺にたむろしている。
あー・・・泥棒除けの高圧電流に引っかかったんだね。
分かりにくい所に停めてたってのに、嗅覚が鋭いなあ。
放電が終わり、のたうち回っていたチンピラがくたりとバイクにもたれかかる。
たぶん死んでるだろうなあ。
「シュンジぃ!?おい!こい、こいつ息してねえ!!」「クッソ、このクソバイクがああっ!?いっでぇ!?」
腹いせに愛車を蹴るチンピラ。
だが残念だったね、装甲板は特別製なんだよ!!
車に突っ込まれても大丈夫さ!!
「ここらで見かけねえバイクってことは、この辺にいやがんな・・・皆!武器持って待ち伏せだ!!」
「シュンジの仇だ!ぶっ殺してやる!!」「やるぞおおおおおおおおおおおっ!!!」
おっと、それなりの統制は取れてるようだ。
初手バイク泥棒が偉そうによく言うよ。
このままだとバイクの周辺で待たれるね・・・それはちょっと困るなあ。
困るので、手元のリモコンをスイッチオン!!
『・・・エンゲージ』「は?今なんか言っ―――」
バイクを中心に閃光が走り、続いて爆音。
まずは閃光弾、次にボディに仕込まれたなんちゃってクレイモアが発動。
威力はそんなに高くないけど、本命は次だ。
「けむっ!?煙!?」「やっべえ爆発すんぞ、ゴッハゴホゴホ!?」「逃げ、逃げろォ!?」
ふふふ、煙幕と・・・猟友会の建物からいただいた熊撃退スプレーだ!!
目に沁みるし呼吸困難になるぞ~!
・・・実験中、誤作動に巻き込まれた時は死を覚悟したもんね!!
バイクがあった場所はあっという間に白煙に包まれている。
ゴーグルを下ろし、防毒マスクを装着してゆっくりと歩き出した。
走ると音でバレちゃうからね!!
「あ、だ、誰ェ!?たす、たすっげ!?」
なんちゃってクレイモアに巻き込まれ、足に釘をくらったチンピラの脳天を撃ち抜く。
うーん・・・やっぱり設置面積の関係で威力は低いなあ。
だけどこれ以上大掛かりにしたらバイクが壊れちゃうし、考え物だね。
ナップザックを荷台に放り込み、エンジンをかける。
そして、間髪入れずに発進した。
・・☆・・
というわけで、現在逃走中なう。
駐車場から脱出したはいいものの、連中ずっと追ってくるんだよね。
今だってお仲間が1台丸々吹き飛んだってのにまーだ追いかけてくる。
なんという執念。
その熱意を別のことに向ければ、もうちょっと地球は平和になるかも・・・ならないかも?
まあいいな。
うおっと!?なんか車体に当たった!?
銃声はしなかったからクロスボウかな?
・・・だが残念だったねキミタチ!我が愛車は背後から運転席が狙えないように装甲板が配置してあるんだよ!!
見た目はゴッツイピザ屋のバイクだけど、防御力は抜群さ!!
「ポチチっとな!」『フォックストゥ、フォックストゥ』
どこぞの洋画から流用した電子音声くんが頼もしく呟く。
そして、荷台部分から新手の爆弾ちゃんたちが投下された。
追いかけてくるんだから仕方ないよねえ?
「―――というわけで、ゾンビはいるけど僕は今日もそれなりにゲンキです!!それでは次回の動画まで・・・シーユーアゲイン!!」
爆炎が映らないように録画を切りつつ、僕は締めのセリフをマイクに吹き込むのだった。
うーん、そこそこ世紀末だけど毎日楽しいな!
最近は睡眠薬なくっても眠れるし・・・子供と犬と馬のおかげかな!
世紀末・・・最ッ高!!!
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