30話 ろくでもない逃亡者と、久方ぶりのツーマンセルのこと 前編
ろくでもない逃亡者と、久方ぶりのツーマンセルのこと 前編
このゾンビ騒動がなければ通勤時間をちょいと過ぎただろう時間の街を、我が愛車の軽トラが走っている。
大木くんのカスタムによってパワフルな走りを提供するようになった相棒は、悪路をものともせずに轟音を上げている。
足回りのチューンの効果もあって、ガッタガタのアスファルトでもなんでもないぜ!
「どうです神崎さん、何か見えましたか!?」
助手席で双眼鏡を構える『元祖相棒』こと神崎さんに声をかけると、すぐに返事が。
「いえ!いまだに発見できません!」
「了解でーす!とりあえずこのまま走りますね!」
「お願いします!」
双眼鏡から目を離さずに凛々しく言った神崎さんを、俺は頼もしく思った。
ここは、原野から龍宮への途上の街。
璃子ちゃんたちが住んでいた『硲谷』だ。
そんな道路を何故朝っぱらから走っているのか。
その理由は、今朝に遡る。
・・☆・・
詩谷への遠征を終え、サクラと風呂に入ってぐっすり休んだ翌日。
俺はまだ半分夢の中にいるサクラを抱えて階段を下りていた。
「昨日ちょいと遊び過ぎたかな?すまんなサクラ」
「わふ・・・」
詩谷の面倒ごとで気疲れした反動で無限ボール投げとかやらない方がよかったなぁ。
でもサクラがエンドレスで戻ってくるんだもん、俺は悪くないと思う。
「おっはよ!にいちゃん!・・・ありゃ、サクラちゃんはお眠な感じ~?」
今日は珍しく布団に潜り込まず、もう一つ珍しく早起きした朝霞が階段の下にいた。
「ああ、昨日遊び過ぎたな」
「にいちゃんがボール投げるんならあーしもずっと取りにいくもんね、仕方ないっしょ」
なにこの親戚・・・こわ。
やっぱこいつ半分どころか8割くらい犬じゃねえかな。
残りの2割はたぶんタコ。
「仕方なくねえよ、人間を忘れるな朝霞」
「う?うぇ~い!おけまる~!!」
ノリで答えやがったコイツ。
・・・朝霞には申し訳ないが、最近コイツよりもヴィルヴァルゲの方が賢いんじゃないかって思えてきた。
「とりあえずサクラ頼む。その間に朝飯の準備するわ」
寝ぼけサクラを朝霞にパスし、朝食の準備に取り掛かろう。
「おっけ~、サクラちゃん、馬見に行くし!なーちゃんも待ってるよ~」
「わうぅ・・・」
『眠いでござる』的な声を上げるサクラを抱っこし、朝霞は外へ出て行った。
ガラス扉の向こうでは、サクラを見つけて朝っぱらからテンションがストップ高になったなーちゃんが見える。
あの子、いつでも元気だなあ。
まあいいや、準備準備。
「おはようございます、田中野さん」
「ありゃ、ちょいと遅れましたかね」
「いえ、私が早く起き過ぎたもので」
台所へ行くと、既に神崎さんが湯を沸かしている最中だった。
何を隠そう、今日は俺と神崎さんが朝食当番なのだ。
放っておくと斑鳩さんが全部やろうとするからな・・・さすがに甘えっぱなしじゃいられないし。
ただでさえ昼とか夜はやってもらうことが多いんだから。
「今日のメニューはなんですか?」
「おにぎりと魚の燻製にしようかと」
「・・・燻製?それってまさか」
俺が聞くと、神崎さんは少しばかりドヤ顔を披露した。
「はい!一昨日に近くの川で捕獲したヤマメです!七塚原さんと朝霞さんにも手伝っていただいたのでかなりの数が手に入ったんです」
そう言って、神崎さんは少し焦げた一斗缶を見せてきた。
「おー!すごい!」
その中には、飴色に色づいたヤマメちゃんがぎっしりと吊るされている。
おお・・・そのままでも食えそうだ!
「内臓は取ってありますので、このまま焼けば丸かじりにもできます。子供たちには良い栄養です」
「神崎さんの有能さが留まるところを知らない・・・!」
「っほ、褒めても何も出ませんよ!?」
っていうか釣りなんて行ってたんだな。
そういえばこの近辺は綺麗な川が多いから、我が県でも有数の渓流釣りのメッカだった。
「それにしてもよくこんなに釣れましたね・・・毛バリのシーズンはちょっと過ぎてると思うんですが、餌釣りかな?」
そう聞くと、神崎さんはキョトンとした。
「いえ、釣りではなく廃車から回収した車のバッテリーに線を繋ぎまして・・・」
「それ河川監視員に死ぬほど怒られるやり方じゃないですかやだー!?」
・・・いや、今となってはそのルールは消滅しているんだが。
どうりでこんなに取れたわけだ・・・
そりゃ、釣るよりも100倍は楽だよな。
「威力を調節しましたので、小さいサイズのモノは取っていませんよ。先のことも考えないといけませんから」
「持続可能な社会さえ考える神崎さん天使か・・・」
「にゃっ!?にゃんですかいきなり!!」
神崎さんは顔を赤くしながら、恐るべき正確さでヤマメを竹串に刺していく。
手元見ないのすごいですね・・・どんどん出来上がっていく。
「で、では私は裏でこれを炙って温めますので・・・田中野さんはアルファ米を握ってください!」
「アイアイサー!!」
足早に裏口へ向かう神崎さんを見送り、俺も腕まくり。
お湯は沸いてるし、これを流し込んで時短アルファ米調理といきますか!
そろそろ子供たちが起きてくる時間だ。
遊んでる場合じゃねえぞ!!
「ぐるじい・・・」
「余ったヤマメ食い過ぎだお前。長持ちするから置いといてもよかったんだぞ・・・」
あっというまに朝食後。
俺は、香ばしくていくらでも食えそうなヤマメを、いくらでも食い過ぎたアホの子こと朝霞を看病していた。
「ウルルゥ・・・」
「ああう・・・」
ちなみにオフィス部分のソファには、飼い主に似て食い過ぎたなーちゃんも寝ている。
そんなとこは飼い主似なのな、お前。
なお、なーちゃんが食い過ぎたのはドッグフードだ。
目を離した隙に、袋から直に貪っているのを発見した時にはもう遅かった。
「きゅうん」
「ホラよく見なさいサクラ、アレが悪い見本×2だ」
心配そうにソファの周りをまわっているサクラに示す。
彼女の『なんか・・・かわいそう』みたいな視線を浴びつつ、2匹・・・いや1人と1匹は唸っているだけだ。
言葉までなくしたか、朝霞よ。
「にいちゃああん・・・お腹さすってえぇ・・・」
「甘えんなアホ。リズミカルに叩いてやろうか」
「全部上から出ちゃうからやめろし・・・やめろし・・・」
年頃のJKらしからぬことを呻く朝霞の顔の横に温めたお茶を置き、俺は溜め息をついた。
ちょうど、そんな時だった。
「田中野さん!御神楽から緊急連絡です!!」
無線機を持った神崎さんが、血相を変えて走ってきたのは。
「マジですか!?襲撃ですか、それとも―――」
「『レッドキャップ』の新型ゾンビです!!」
「ッ!?」
思わず絶句したのと同時に、無線機から聞き馴れた声がした。
『田中野くんもそこにいるかい!?すまない、ちょっとしくじった!!』
古保利さんが、珍しく焦った様子だ。
「古保利さん、新型のゾンビですって!?例の赤ん坊ですか!?」
『違う!キミも牙島で戦った、装甲が伸びる個体だ!どのルートで輸送されて来たのかわかんないけど、早朝に周辺を偵察中だった警官隊が遭遇したんだ!』
・・・ネオゾンビか!
『そこそこ強力な装備を配備していた甲斐があって人死にはないけど、遭遇した3体のうち1体が包囲を破ってそっち方面に逃げた!!』
よりにもよってこっちに来やがったか!?
『追跡しようにも怪我人が多くてままならなくてね・・・申し訳ない!』
「ここまで来そうですか!?」
『硲谷方面の道路へ逃げ込むところまでは確認できた!その先は言うまでもないけど―――』
1本道だな、畜生!!
『どういうわけか、ゾンビは高度になればなるほど生存者を感知する能力が高まる傾向にある!あの道の先にある場所で、詩谷より手前で生存者が多いのは・・・』
「高柳運送ってわけですね!了解しました、俺が出ます!」
無線機に叫ぶと、俺はすぐさまオフィスから階段の下へ。
『かたじけないよ!今度何か融通するからさー!!』
古保利さんの声を背中に聞きつつ、装備を整えるために階段を駆け上がった。
「先輩!よろしくお願いしますね!」
「おう、行き違いになっとりゃあわしが砕き殺しちゃるけえ、心配すんな」
エンジンがかかった軽トラの運転席で、見送りに来てくれた七塚原先輩に叫ぶ。
「田中の方が1000万倍は心配。頼んだぞ竜造寺」
「神崎です!・・・もう原型が残っていませんよ!?」
助手席側で鋭いツッコミを入れる神崎さんと、俺への信頼度があり得ないくらい低い後藤倫先輩。
そんなに・・・心配でござるかよ?
「わしらぁがついて行かんでほんまにええんか?」
「あのゾンビがここに来たら、近接戦ができる人員が多い方がいいんですよ。遠距離からの銃撃はほぼ通らないみたいですからね・・・まあ、アニーさんが屋上で構えてる化け物ライフルなら別らしいですが」
そう、高柳運送から遊撃に出るのは俺と神崎さんだ。
残りの南雲流と戦闘要員は、万が一俺達が行き違いになった場合の防衛にここに残ってもらう。
ネオゾンビはちょっと不確定要素が多すぎるからな。
至近距離で戦える人員は防衛に回ってもらった方がいい。
なにせ、ここには子供が多いんだ。
牙島で戦ったやつみたいにゲロでも吐かれたら、反射神経がない人員はとんでもないことになっちまう!
というわけで近接は基本俺が担当し、援護と各方面への連絡は神崎さん!
最強の布陣だぜ、こいつは!!
「イチロー!ガンバッテー!」「『帰ってきたらキスの雨を降らせてあげるわ!』」
屋上でアニーさんと並んで警戒をしているエマさんとキャシディさんがこちらに手を振っている。
ちょっと後半何言ってるかわかんない。
なんかキスとか聞こえた気がするけどわかんない。
「田中野さん田中野さん!新型の圧力鍋爆弾がありますけどー!?」
「俺が挽肉になるからノーサンキュー!大木くんは社屋で警戒よろしく!!」
馬房の前からとんでもないことを叫んでいる大木くんに手を振り、アクセルを踏み込む。
あんなもんが使えるかよ!
どう考えても拠点防衛用だろいい加減にしろ!!
しかも新型ときたよ!俺が吹き飛ぶわ!!
大木くんの後ろにはヴィルヴァルゲ母娘。
ゾンちゃんは周囲の殺気立った気配に少し落ち着かないようだが、おかあちゃんは相変わらずの泰然自若って感じ。
さすが、肝っ玉かあちゃんだな。
「―――じゃあ行きますか!相棒!!」
「はいっ!!」
どこか嬉しそうな神崎さんの声と共に、愛車は瞬く間に加速して門を通過した。
「わうう!あぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!」
サクラの遠吠えが、激励に聞こえたのは気のせいじゃないだろう。
・・☆・・
そして、現在に至るというわけだ。
神崎さんは無線機片手に御神楽と連絡を取りつつ、双眼鏡で周囲を警戒するというマルチタスクぶりを遺憾なく発揮している。
俺はといえば、愚直に安全運転をするだけだ。
余所見して事故ったら今世紀最強の間抜けが誕生しちゃうからな。
「―――田中野さん!!」
神崎さんが鋭く声を張り上げた。
「ネオゾンビですか!?」
おいでなすったか!どこだ!?
「いえ、通常の個体です・・・その数、無数!!左45度!!」
「へ?ノーマルゾンビならまだマシだけdなんじゃありゃああああああああああああああああ!?」
神崎さんの言う通りの方向に眼を向けてみれば、200メートルほど先の半壊した公園のフェンスを突き破ってゾンビの群れがダッシュで出てきた。
確かにありゃあ無数だ、10や20じゃない!
以前公民館にいた連中か!?
しかし、なんだってんだオイ!?
こっちまではまだ距離があるし、生存者の姿は見えないから追いかけてきたって感じじゃないぞ!?
―――いや、まさか。
牙島であったように・・・
「ルウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
ネオゾンビの声に『呼ばれた』のか!!
「神崎さん!あの群れの行く先に・・・あのバカでかい声の方向にネオゾンビがいるハズです!!」
「アニーさんの報告にあった現象ですね、了解しました―――『銃座』へ移ります!!」
それだけ言うと神崎さんは素早くシートベルトを外し、開いた窓に手をかける。
「減速は必要ありませんからっ!」
そのまま、窓から身を乗り出してあっという間に天井に出る神崎さん。
かと思えば、荷台にすぐさま着地する感触があった。
・・・式部さんも真っ青の軽業ぶりだぜ、おい。
そういえば神崎さんも超絶有能エリート兵だったな!
さすが、相棒!!
「減速お願いします!あの群れをやり過ごして後を追いましょう!!」
荷台からの声に従い、ブレーキを踏む。
ひっくり返ったトラックの影に停車した軽トラの先を、こちらに気付かず走り抜けていくゾンビ共。
まるで正月名物の駅伝だ。
あんなに速く走るゾンビ、夜にしか見たことねえ!
ひいふう・・・ええと、駄目だ!30以上ってことしかわかんねえな!
無数としか言いようがねえわ、ありゃ!
ゾンビの最後尾が通り過ぎ、そのまましばし待つ。
・・・お代わりは、無し・・・じゃない!?
その遥か後ろからご老人ゾンビが!!
おっそ!!相変わらず遅い!!
いや、年齢からすりゃアレでも速いけども!
どうする、アレが通り過ぎるのを待ってたらかなりの時間がかかっちま――――
荷台から、腹に響く爆音が断続的に鳴り響いた。
神崎さんがいつも使っているライフルとはまるで違う銃声だ。
ライフルがタタタタ!、なら今のはドゴゴゴゴゴゴン!!!って感じ。
「っひぇえ・・・」
爆音に思わず耳を塞ごうとした視線の先で、ご老人ゾンビの頭や胸が熟れた西瓜めいてばちゅんばちゅん弾けている。
前列の老人ゾンビは揃って挽肉と化し、後列は貫通した銃弾でやはり挽肉になる。
人体なんて壁にもなっちゃいない。
・・・とんでもねえ、威力だ。
・・・うん、気付いていたんだ。
出かける時に荷台に超厳つい機関銃がマウントされていたのは。
アレは俺も知ってる。
第二次世界大戦から今まで、世界中で大活躍してるお米の国のベストセラー機関銃だ。
某ベトナム帰還兵が主演の映画で見た、そのままの威力だ。
おっそろし・・・アレ人に撃っていい鉄砲じゃねえだろ。
どっからあんなもん見つけてきたんだよ・・・たぶん駐留軍からのプレゼントだな!
ありがとうオブライエン少佐!!
「無力化完了!群れを追ってください!!近付きすぎないように!!」
何度かの小刻みな斉射の後、そこには元が何だったのかわからなくなった肉塊しかなかった。
フィクションが現実に追いついた光景に寒気を覚えつつ、再びアクセルを踏み込んだ。
「随分遠くまで聞こえるもんだな、あの大声」
ゾンビの群れを付かず離れず追うことしばし。
あいつらは、『硲谷陸上競技場』と書かれたゲートを潜った。
この先はそこそこの規模のグラウンドがあったはずだ。
高校時代に、数の足りない陸上部に頼まれて助っ人として大会に出た記憶がある。
砲丸投げ選手として。
結果は3位だった。
投げ方が独特過ぎて慣れる前に大会が終わったなあ。
野球みたいに投げようとしたら肩が外れかけたっけ。
「このまま入場しましょう、状況次第では離脱できるように」
運転席側の窓から、神崎さんが言った。
だな、数によっちゃ一旦引いた方がいいかもしれん。
それか、アウトレンジから神崎さんに数を減らしてもらうか。
ゾンビ共の立てた土煙が消えたタイミングで、軽トラが続いて入場した。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
陸上大会の時は駅伝チームが走っていた通路を行き、ゆるくカーブした先でトラックが見えてきた。
ゾンビ共の最後尾も見える。
「・・・食いすぎだろ、オイ」
最後尾の先に見える光景に、思わず絶句する。
そこには、横たわった人間のなれの果てが大量にいた。
千切れた手足、分断された胴体。
・・・出血が少なすぎる、あれは恐らく全部ゾンビだ。
そして。
そのどれもに、頭がない。
正確に言えば、『脳』がない。
「――――神崎さん!」
「追加の『脳』を減らします!田中野さんは運転を!外周部分を回ってください!!」
俺がアクセルを踏むのと同時に、再びの爆音。
加速する視界の中で、『トラックの中心』へ向かって走るゾンビどもの頭が弾けて潰れていく。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!ガッガガギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
『餌』、いや『合体するはずのお仲間』が減る現状に、トラックの中心でゾンビのパーツに埋もれていた何かが吠えた。
「良すぎる視力が憎い・・・なんだよアレ!人類の最大値ちょっと超えてないか!?」
ゾンビパーツの中心にいて吠えたのは、やはりネオゾンビだった。
だが、『ただの』ネオゾンビじゃない。
そこにいたのは、目測身長2メートル半はあるバカでかいネオゾンビだった。
横にも当然デカい。
体中を黒光りする装甲・・・もはや甲殻に包んだそいつは、俺達がひどく気にいらないようだ。
気が合うね!お互い!!
「っとぉ!!」
鋭くハンドルを切る。
フロントガラスの前を、スーツ姿の下半身パーツが恐ろしい勢いで横切った。
地面にブチ当たった勢いで、さらに細かくなるくらいの衝撃で投げられている。
固められていたはずのトラックも、肉片と一緒に宙を舞う。
アクセルを限界まで踏み込む、大木チューンの出せる最高速で外周を逃げる。
観客席に、狙いを外れたゾンビパーツが砲弾のように突き刺さる。
荷台の神崎さんは最高速にひるむことなく銃撃を続行中。
一瞬確認したミラーには、着実に数を減らすゾンビの姿が見える。
相変わらずすごいエイム力だ、神崎さんは!
「ガギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
ネオゾンビが焦れたように吠え、ゾンビの山を蹴散らして走り始めた。
直接俺たちを叩くつもりらしいな。
「先にノーマルを!!減らします!!逃げ続けてください!!!」
「応!!」
銃撃の隙間に怒鳴り合い、逃走を継続する。
いくら出鱈目なネオゾンビとはいえ、さすがに車には追いつけない。
俺は投擲物に気を付けて最高速を維持すればいい!!
後は荷台の相棒に任せる!!
それからも逃走しながらの銃撃は続き、ネオゾンビに『合流』するハズだったノーマルゾンビは全て砕けて散った。
「―――取り巻きは無力化!!これから本体への銃撃に移行します!!」
神崎さんが吠え、ミラーの中のネオゾンビの装甲から続けざまに火花が散り始める。
さすがは大戦を生き抜いた重機関砲、凄まじい連射力の前にネオゾンビの装甲が細かく剥離していくのが見えた。
見る見る外装が散らばっていく。
・・・こりゃ、俺の出番はないかもな?
「―――ッ!残弾ゼロ!!」
が、そう上手くはいかないらしい。
予想以上に取り巻きが多かったせいだな!
あんだけ連射してりゃ弾切れににもなるか!
「グレネード!!」
続けて、しゅぽんと聞き馴れた音。
例のライフルに突っ込んで撃つグレネードを使ったようだ。
ミラーに映るネオゾンビが爆炎に包まれ、一拍置いて煙の中から出てくる。
所々焦げたりしているが、忌々しいことにピンピンしてやがる!!
何度か発射音と爆音が続き、グレネードも尽きたようだ。
ライフルの銃声が聞こえているが、あまり有効打になっている様子はない。
神崎さんは頭部を狙って撃っているようだが、あのネオゾンビの頭は兜みたいな装甲で包まれているために目が狙えないようだ。
「―――神崎さん!停めます!!」
取り巻きは片付けた。
残りはネオゾンビだけ。
それならここで・・・片付ける!!
駄目押しの加速で距離を離し、反対方向へスピンしつつブレーキをかける。
軽トラが停車しきる前に、『魂喰』を掴んで運転席から飛び降りた。
「援護はお任せを!!」
「頼りにしてますよ相棒!でもアイツは妙に賢いんで、目を付けられないように!!」
「はいっ!!」
荷台から飛び降りた神崎さんと一瞬目を合わせ、俺はネオゾンビに向けて走る。
「さあ来いデカブツぅ!!」
ゲロを警戒し、いつでも横に跳べるように斜めに走りなg―――
「――――――――――――――――ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「っがァ!?!?!?!?」
ネオゾンビが口を大きく開けた。
だが、ゲロじゃなく。
何かを叫ぶように口を開けた。
それだけ、なのに。
「っぐ、ぬぅ、あぁ!?!?!?」
バットでぶん殴られたように、頭が揺れた。
足元が、ふらつく。
「田中野さぁん!?」
悲痛な神崎さんの叫びが、耳に遠い。
気が付けば俺は、トラックに片手をついて倒れていた。
「ガッガガガガガガ!!ギャバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
ネオゾンビが、あざ笑うかのように吠えながら向かってきた。
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