55話 明朝の帰還のこと
明朝の帰還のこと
「わふ!」
サクラが公園を走り回っている。
俺の投げたボール目掛け、一直線に。
「ナイスキャッチ!いい子いい子!」
「ももふ!もふ!」
彼女は目をキラキラと輝かせ、ボールを口いっぱいに頬張ってこちらへ戻って来た。
一挙手一投足が悉くカワイイ。
さすがうちの子だ!
「わう!はふ!」
「うーん賢い!世界一かわいい!!」
抱き上げてその顔に頬ずりし、お日様の匂いを堪能する。
・・・あれ?
いい匂いだけどなんかいつもとちょっと違うような・・・?
サクラ、お前香水とか付けてるの?
お洒落さんだなあ。
まあいいや、もう一度抱っこさせてくれ。
最近会えてないからなあ・・・え?
サクラお前・・・いつの間にこんなに筋肉が付い・・・て・・・
「ァン♪」
サクラのようで絶対にそうじゃない声が聞こえた。
視界は真っ暗だが、夜というわけではなさそうだ。
何かが俺の視界を塞いでいる。
それは柔らかくて、それでいてしっかりとした筋肉を感じさせる物体だ。
「ゥウン・・・♪」
「ももふ!?」
背中に回された何かが、俺を一層それに押し付ける。
す、すごくいい匂いがする・・・!
一体何だこれは!?
・・・うん、現実逃避はやめよう。
「きゃ、キャシディさんあの、ちょっと、苦しいっていうか・・・」
「『ねんね、ねんね・・・♪』」
あっ駄目だまだ半分寝てるわこの人。
うわあ!?なんで俺の頭の匂い嗅ぐんですか!?
朝霞の亜種ですかあなた!?
そう、ここはバス会社の宿直室。
そして俺は、どうやらキャシディさんにギッチギチに抱きしめられているというわけだ。
しかも、タンクトップ越しの胸に顔を思いっきり押し付けるというとんでもない体勢で。
・・・大変に気まずい!!
だが、誓って言うがみだらなナニやアレはしていない。
していないったらしていないのだ。
昨晩、俺は訳の分からんナイフキ〇ガイの『レッドキャップ』と交戦した。
あの後もしばらく警戒はしていたが、後続の気配はなかった。
マジでアイツだけの単独行動中だったらしい。
俺たちのことを報告されて攻め込まれたら困る・・・と思ったが、とりあえず怪我の手当てをしなければならん。
なので、刺さった何本かのナイフを引っこ抜いて包帯でも巻こうと思ったらキャシディさんにむっちゃ怒られた。
超早口だったのでほぼ聞き取れなかったが、『自分に任せろ』的な感じなのは何となくわかった。
俺は動くことも許されず、一瞬で服を剥ぎ取られた。
幸いにも縫う程酷い傷はなかったので、消毒と包帯で片が付いた。
ナイフに毒も塗っていなかったようだしな。
命拾いした・・・毒とかの可能性も考えないといかんな。
そして、すぐに仮眠をして早朝に動こうということになり・・・今に至る、というわけだ。
おかしいな・・・?
布団は別々だったはずなのに、何故こんな状況になっているのか。
俺が寝ぼけて移動したのか、それともキャシディさんがこっちへ来たのか。
残念ながら何曜日かのたわわに塞がれているので確認もできない。
おまけに腕もしっかりホールドされているので時刻も確認できないときたもんだ。
本当に困った。
ピピピ、と聞き馴れた電子音。
腕時計のアラームだ。
やっべ、これが鳴ったってことはもう4時か!
すぐに移動を開始しないと明るくなってくるぞ!
夏が近づいてるからかマジで夜が短いんだよなあ、最近。
「キャシディさん、キャシディさん!んもも!?もももも!?!?」
なんとか声をかけたらより一層締め付けがきつくなった!
だれかたすけて!母性に殺されちまう!!
「ン~・・・オウ」
だがさすがに軍人。
タイマーの音には敏感らしい。
さっきまで俺の頭を抱え込んですんすんやってたキャシディさんが、動く気配がする。
「『・・・マジ?ヤっちゃった・・・?あ・・・ナシか、残念。ほんっと紳士ね』・・・オハヨ、イチロー」
「もももむも(グッドモーニング)」
起きたら早く俺を解放していただきたい!
いい匂いと酸欠で死にそうなんだ!!
「あの、おんぶ・・・」
「ノウ!ダメ!ダイジョウブ!!」
・・・俺の説得はどうやら聞き入れてもらえないようだ。
あの後起きた俺たちはすぐさま移動の準備をし、ここを離れることにした。
お互いに着の身着のままであるし、元から大荷物ではない。
・・・キャシディさん以外は。
彼女は事務所から回収したカップ麺とエロ本とエロDVDをリュックに詰め込み、持って帰るつもりのようだ。
いや、カップ麺はともかくエロ関係は・・・と言ったが、『オミヤーゲ!』という一言で無視されてしまった。
嫌だろそんなお土産・・・誰が喜ぶんだよ・・・
そして、忘れかけていたがチンピラ共が使っていた銃の弾丸も回収した。
ライフル本体はいらないと言われたので、間違っても再利用できないように兜割で粉々にしたが。
そしてそれらを詰め込んだリュックサックを背負ったキャシディさんであるが、自分で歩くという。
治療を終えた俺が寝た後、少しの時間でこさえた簡易装具があるから大丈夫だと強硬に主張している。
どうやら俺の怪我がさらに増えたから急遽作ったらしい。
鉄パイプを膝あたりから足に沿って配置してあり、走らなければ問題ないとのこと。
気にしなくてもいいんだけどなあ・・・これくらいの傷は。
「・・・本当に大丈夫なんですね?」
「ノープロブレム!ゲンキ!ラクショーッ!」
・・・とのことであるので、仕方なく出発することとしよう。
ここでモタモタしていても始まらない。
未だに夜の暗さが残るバス会社から出る。
お互いに暗視装置があるので問題ないが、アクティブゾンビにだけは注意しないとな。
「『私、殴る。あなた、撃つ・・・OK?』」
「オマカセクダサーイ」
お互いの役割分担を再確認して、俺達は移動を開始した。
「イチロー、スゴイツヨイ、カッコヨカッタ。・・ジャマ、ゴメンネ」
しばらく歩いていると、不意にキャシディさんがそう漏らした。
俺が彼女を庇って傷を負ったのを気にしているらしい。
「『気にしないで。怪我人、守る、男の仕事』」
「『・・・素面でそれ言えちゃうのって才能よねえ。あのジエイカンさんたちはこのギャップにやられたのかしら』・・・アリガト」
恥ずかしそうな感謝の言葉に、俺は軽く手を上げて応えた。
気の利いたことは、言えそうにないしな。
それきり黙々と歩くことになった。
バス会社から出てすぐ、俺達は東地区の端っこにたどり着いた。
ここから目的の造船所まではそう遠くないが、住宅地を通り抜ける必要がある。
・・・これからはゾンビを警戒しないとな。
東地区は以前のネオゾンビ大暴れでだいぶゾンビがいなくなったとはいえ、油断は禁物。
夜の間に大移動して新顔が来ていないともかぎらないし。
・・・しかし『レッドキャップ』、生半可な相手じゃなさそうだ。
ミサイル陣地で成仏させた奴らが軒並み雑魚だったので完全に油断してた。
あそこにいた軍人もその一員だと思うんだが・・・あのナイフ野郎は明らかに隔絶した腕前だった。
うーむ、漫画やアニメじゃないが・・・あの赤い帽子装備は幹部?的な手練れなのだろうか。
前にアニーさんと見た時は誰もかぶってなかったしなあ。
帰ったら聞いてみよう。
それにしても、妙な武器に気を取られ過ぎたなあ。
確かに動きは初体験だったけど、刀とかに比べれば殺傷力は低そうだったな。
鋭いが、動脈を斬られない限り問題はなさそうだった。
たぶん本来の使い方は手数で出血死を狙ったり、毒を塗ってじわじわ殺すのが目的なんだろう。
「・・・次は後れを取らんぞ」
「ナニー?」
「あー、ノウノウ、独り言」
だが、初見の技に対する対応力は抜群だった。
『草薙』を避けられるとはね・・・鍛治屋敷以外でもいるもんだなあ、達人。
次にもし戦う時があれば、『片喰』も通用しないと考えていいだろう。
他の技を使おうか、それとも・・・
「・・・練習するか、崩くずし」
南雲流剣術の奥伝の、さらにその先。
奥伝に精通したもののみが許される、その発展形を。
・・・現状使えそうなのは『飛燕』と『瞬』かなあ。
俺ってば劣等生だからなあ、付け焼刃はかえって危険を招く。
でも・・・・鍛治屋敷の生存も確認されたし、手数を増やさないとなあ。
「―――!」
棒手裏剣を投擲しようとしたところで、消音された銃声。
路地から顔を出したノーマルゾンビが、顔をのけぞらせて崩れ落ちた。
すげえ、ドンピシャで目に当たってる・・・
「・・・スゴーイ」
「エヘン」
振り向くと、カッコよく拳銃を構えるキャシディさんの姿が!
・・・サスガダァ。
しかし、移動中の考え事はやめておこうか。
彼女にばかり面倒ごとを押し付けるわけにはいかん。
「ワターシ、BANG!スルヒト!」
拳銃に口付けし、にやりと笑うキャシディさんである。
・・・頼もしみがえぐい、あとセクシー。
さすがに、牙島までやってくるだけのことはある。
普段の言動で忘れかけてたけど、この人も最精鋭だもんな。
「いかしたガンマンだあ・・・」
しかし、やっぱりいたな野良ゾンビ。
夜の間に中央地区あたりからフラフラやってきたのかしら。
まだまだ暗いからな、気を付けないといけない。
「もうそろそろ見えてくると思うんだけど・・・」
周囲に気配がないことを確認し、地図アプリを起動。
『佐山造船』の表示を確認する。
アニーさんと行った時に登録しておいてよかった。
方角はこのままで・・・あ、見えた。
田舎だからでかい建物は目立って見つけやすいなあ。
「『あの建物、目的地です』」
「『あら、意外と近かったわね。残念、まだまだ一緒に歩きたかったのに』ザンネン!」
なんで残念?
たぶん日本語の使い方間違えただけだろうな、うん。
残念要素は存在しないし。
2人で周囲を警戒しながら歩くことおよそ30分。
俺たちは、無事に造船所の玄関先までたどり着くことができた。
道中に4体ゾンビが出たが、俺が手裏剣を投げるまでもなくキャシディさんがヘッドショットで処理してくれた。
うーん、有能である。
だが、補装具があるといっても疲れているだろう。
早く安全な場所に行って休憩させてあげたい。
以前も入った玄関を開け、事務室へ入る。
・・・前と変わった様子は特にないな。
あのチンピラ共も、造船所には用事はなかったらしい。
っていうか今更だけどアイツらってどういう集まりだったんだろう。
中央地区の生き残りか、それとも『レッドキャップ』傘下の人材か。
ま、もうあの世だろうから別にいいけども。
「この奥で船を探しましょう」
「オーライ」
ともかく、この事務室に見るものはない。
前の時は俺はここで待機していたので、この先の様子はわからない。
恐らく入り口は1か所だけなので中にゾンビがいる可能性は限りなく低いが・・・警戒はしておこう。
兜割を抜いて振り返ると、キャシディさんもいつでも撃てるように拳銃を構えていた。
片手でサムズアップし、奥に続く扉に手をかける。
姿勢は低くして、背後から援護しやすいようにしておこう。
扉を開けると、西地区の造船所のように連絡通路があった。
周囲の臭いは・・・うん、埃っぽい感じしかしない。
この先で誰かが死んでるっていう可能性はなさそうだ。
通路を歩き、両開きの大きなドアの前に立つ。
『作業場』と書かれているそこは、薄く開いていた。
アニーさんがピッキングか何かで開けたのかな。
振り向いてキャシディさんに頷きつつ、しゃがんで扉に手をかける。
音を出さないようにゆっくりと開けていくと、暗視装置に感じる光量が増えてきた。
明かりが・・・点いてるわけはないから、どこかの窓でも開いているのかな?
「うわ、でっかい天窓だあ・・・」
天井には大きな天窓が備え付けられており、そこから月光が作業場に降り注いでいる。
暗視装置の光量調節なんて知らないので、少々眩しいのを我慢するしかない。
もうちょっと明るくなったら外せるかな。
朝霞と行った造船所よりだいぶ大きい作業場には、雑多な部品類が散乱している。
パッと見ただけでは何があるかわからないぐらいに。
中央の部分には、デカい船2艘分の・・・なんだっけ、乾ドック?がある。
とにかく、船を整備できるような場所だ。
周囲にゾンビの気配はない。
隠れるような場所は多くあるが、もしいれば夜ゾンビは動き回るしじっとしていないだろう。
入口に侵入の形跡もなかったしな。
「『ボート、探しましょう。私はあっち、あなた、休んでも・・・』」
「ノウ!ワタシ、アッチ!!」
俺の提案を秒で却下すると、キャシディさんはリュックを下ろしてさっさと歩いて行ってしまった。
うーん、俺の周りの女性、頑固もの多すぎ問題。
自立心が強いとも言える・・・か?
まあいいか、俺も探そう。
「これは・・・駄目だな、穴が開いてる」
俺が行った方角には、壊れたボートが山積みになっている区画だった。
規模が大きいだけあって数はあるが・・・どうもこっちは廃棄品とか部品取り用のものが集めてあるらしい。
お、これはシーカヤックか。
1人乗りだがもう1艘見つければ・・・よく見たら底の部分がないや。
オールもないし、どうしたもんかなあ。
小型船に付けるようなスクリュー付きのエンジンはいくつか見つけたので、最悪これを使ってジャンク船でもでっち上げるかな?
「イチロー!ミツケタ!」
頭の中でガバガバ設計図を引いていると、向こうに探しに行ったキャシディさんの声。
外に聞こえないように声量は抑えめにしているが、だれもいないこの空間ではよく響く。
「やったぜ!キャシディさん大天使!」
・・・そういえば大天使って英語でなんて言うんだろうか。
「コレ!」
俺を見て手を振るキャシディさんの向こう側には、見た感じ綺麗に見えるボートが1艘。
半分ほどにシートがかけられた状態で鎮座している。
「グッジョブ!ぐっじょ―――わぷぷ」
「カワイイ!ワンチャン!」
俺が喜び過ぎているのが嬉しいのか、キャシディさんは片足で飛び込んできた。
そして俺の頭を抱えてハグしてきた。
誰がワンちゃんか!!
やめ・・・やめてください!母性の暴力!!
あと体幹すごいですね!
・・・しばらくされるがままになって、改めてボートを確認する。
前に西地区から脱出する時に使ったのと同じようなやつだ。
エンジンも付いている。
燃料・・・ヨシ!
オール・・・ヨシ!
穴・・・見たところナシ!
「カワイイ!」
「ノットカワイイ!!」
テンションが上がって某安全ネコよろしく指差し確認したらキャシディさんが腹を抱えて爆笑していた。
声があまり出せないのでちょっと苦しそう。
さて、たぶんボートは大丈夫なのでとっとと脱出しよう。
例によってこの造船所も水路経由で海に出れるようなので、まずは偵察だ。
キャシディさんに見張りを任せ、大きなシャッターの脇にある出入り口へ。
機械油を蝶番付近にたっぷり流し、音が出ないようにゆっくり扉を開ける。
「・・・しばらくは待機、かな」
そうっと覗いた外。
水路にはもはや見慣れつつある腐乱死体と、腐っていないゾンビの死体?がプカプカ。
港方面には、立って歩いているゾンビの姿がチラホラある。
今船出すると捕捉されるかもしれん。
日の出まで待つのがいいかもしれんな。
幸いにしてシャッターを開けなくても、ドアの方からボートは出そうだ。
さすがにこの大型シャッターを人力で開くのはキツそうだしな。
死ぬ気でやればちょっとは開くかもしれんが、残りの傷も全部開きそう。
たぶんバカみたいな音も出るし。
これについては助かった・・・
「あー・・・『日の出まで休憩、いいですか?』」
「ハイ!」
キャシディさんもそれでいいようだ。
もっとも、追手が来る気配があればすぐにでも出港するがね。
事務所まで戻ろうかと思ったが、作業場にデカいソファが固まっている場所を発見。
作業員さんの休憩所かな?
ソファの横にある小さい本棚には、コンビニで売っている分厚い漫画本や週刊誌が詰め込まれている。
あとはテーブルに・・・灰皿まであるじゃないか!丁度いい。
「ふい~」
「フイ~・・・フフフ」
キャシディさんを誘導して腰かける。
俺の掛け声が面白かったのか真似された。
リスニング凄いですね。
「さ、どうぞ」
「アリガト!」
座ったキャシディさんの前にコーヒーを置く。
バス会社で湯を沸かしてインスタントコーヒーと一緒に魔法瓶にぶち込んでおいたのだ。
で、俺は・・・一服だ。
胸ポッケから煙草を取り出し、咥える。
火を点けると、今までの苦労をねぎらうように紫煙が歓迎してくれた。
「ぷはぁ・・・生き返る」
全身にのしかかる気怠さに身を任せ、暗視ゴーグルを外してソファに身を任せる。
腕時計を確認・・・さすがにまだ日の出までは時間があるようだ。
ゆっくりしよう。
「イチロー・・・」
おや、キャシディさんが何かを期待したような目でこちらを見ていらっしゃる!
ふふふ、わかってござるぞ。
防弾ベストの内側に手を入れ、『予備』の人気銘側を取り出す。
ちなみに『緊急用』と『非常事態用』、『最後の最後用』とまだ3箱あるので安心だ。
「どうぞ~」
「『魔法のポケットね!素敵!クッキーよりもずっといいわ!』アリガト!」
『予備』を放り投げると、キャシディさんは輝くような笑顔でそれを受け取った。
喫いたいのに喫えない苦しさってよくわかるからなあ。
こんな状況だもん、煙草でも喫わないとやってらんないよな。
酒を飲むよりずっといい。
おっと、ライターも渡さないと・・・
「ンフフ、ン~♪」
この人も俺の煙草から火を点けようとする!!
流行ってんのか最近!?
もう慣れた(慣れたとは言っていない)
まあ、色々あったが俺たちはしばし休憩することにした。
「イチロー、オッパイ、スキ?」
・・・なんでこの休憩所にもエロ本があるんですか!!
そしてなんでキャシディさんはそれを俺に見せるんですか!!
黙秘!!黙秘します!!!
・・・もうやだ、牙島の男ども性欲強すぎ問題。
「あ、南地区が見えてきましたよ!」
「カエッテキター!『デートがおしまいなのはちょっと残念だけどね、でも今は何よりシャワーが恋しいわ!!』」
煙草を吸ったり漫画を読んだりして日の出を待ち、俺達は海に出た。
例によって港を出るまでは静かにオールを使い、十分離れたあたりでエンジンに切り替えた。
途中破壊された橋の残骸を迂回する時だけは冷や冷やしたが、どうやらミサイルのおかわりはなかったらしい。
それからは海にゾンビが進出していない事実に感謝しつつ、スイスイと進んだ。
沿岸に沿って座礁しない程度に進むだけだから簡単だった。
舵を任せたキャシディさんへの指示も、レフトライトくらいで伝わったし。
そんなわけで、見慣れた景色に戻って来たわけだ。
「おお、懐かしの我が家・・・じゃない、我が親戚の家」
ねえちゃん宅がうっすらと見えてきた。
・・・ん?
なんか誰かが・・・いや、誰か『たち』がダッシュで出てきたな。
あれは・・・たぶん朝霞と神崎さんたち、かな?
遠すぎてまだわからん。
「・・・ワオ『あの子随分刺激的な格好じゃない?トップレスが好みなの、イチロー?』」
「あの前世合体魔獣・・・!」
朝霞・・・何故上半身裸なんだお前。
肌色の面積がデカすぎるぞ・・・慎みイズ何処。
あ、後ろから追いついてきたアニーさんっぽい影が問答無用でシャツをかぶせた。
やったぜ。
「『・・・服、着てる方が、セクシーだと思う、ます』」
「『あらそう?よかった、私も脱ぐところだったわ』」
何を言っているのかわからんが、何かの危機を回避したことはわかる。
砂浜がどんどん近付き、人影がはっきりしてくる。
神崎さん、アニーさん、そして朝霞。
式部さんらしき影はすごい速さで古保利さんたちがいる富士見邸の方へ走って行った。
連絡かな?
「にい!にいちゃあああああん!!おかえりいいいいいいいいっ!!!!!」
朝霞声でっか。
『 巨 乳 』という、あんまりにもあんまりな題字のシャツを身に着けてぴょんぴょん跳ねている。
朝から元気なことだ。
「『随分似てない妹さんね、複雑な事情があるのかしら?』」
何か呟くキャシディさんをよそに、俺も声を張り上げた。
「おう!心配かけたなぁ!たっだいまああああああああっ!!」
こうして、なんとか俺は南地区に帰還することができた。
とにかく・・・俺も早く風呂に入りたい。
あ、その前に傷のこととか言わなきゃ・・・また怒られそう・・・
・・☆・・
少し後
「『ハイエマ!元気そうじゃない!』」
「『キャシディ!アンタも生きてて何よりね!・・・なにそれ?』」
「『イチローとのランデブーでゲットしたオミヤゲよ!ホラホラ!』」
「『ワオ!ヌードルじゃない!・・・ってなに、なにこれ?』」
「『イチローは外国人もイケる口みたいよ!目が釘付けだったもん!ホラホラこれ、すごくない?』」
「『うわあ・・・うっそ、え、こんなの入るの?うわあ・・・うわあ・・・』」
「『ニホンジンが載ってるのは男どもに放り投げてきたわ!ジョージなんて目の色変えてたわよ!!』」
「『うわあ・・・うわあ・・・』」
「『アラやだ聞いてないわこの子』」
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