52話 仮の宿とエロ本のこと
仮の宿とエロ本のこと
「ふむ、こんなもんかなあ」
目の前の成果を見る。
今晩くらいならまあ、大丈夫だろう。
「『どうです?』」
キャシディさんにも聞いてみる。
「ワオ!『とってもいいわ!ヒルトンも真っ青ね!』」
豪快なサムズアップからして、気に入ってもらえたようだ。
・・・もうちょっと英語勉強しときゃよかったかなあ。
牙島交通に住み着いていた一般土着チンピラを処分してしばらく後。
俺とキャシディさんは、そこの事務所にいる。
あのチンピラ共が適当に寝起きしていたようで無茶苦茶汚かったが、掃除したおかげでなんとか寝るくらいは出来そうだ。
まあ定期的に滞在するわけではないので、ゴミをまとめて外に放り出しただけだが。
元々ここの社員用だったであろう布団のいくつかは凄まじい悪臭を放っていたので一緒に捨てておいた。
あいつら、行水もまともにしていなかったらしい。
ここにサクラやなーちゃんがいたらショック死するくらいには臭かった。
社員用の布団はまだまだ予備があったので、未使用っぽいものを確保することもできた。
畳敷きの宿直室にそれらを敷き、なんとか格好がついたというわけである。
ろうそくも見つけたので、若干とはいえ明かりもあるし。
もちろんカーテンはしっかり閉めたので、外から見つかる恐れもない。
元々この場所は事務所の最奥だしな。
「『あーん、シャワーが浴びたいわ・・・でも帰るまでは我慢ねえ』」
布団に寝転んだキャシディさんは、いつかのようにタンクトップに短パン姿でくつろいでいる。
・・・怪我をした足の部分が、若干赤くなっている・・・ような気がする。
やはり骨折まではしていないようだ、よかった。
折れてたらあの程度じゃ済まないもんな、もっとひどく腫れるし。
「さてと・・・準備しますかね」
俺の方もようやく防弾チョッキを脱ぐことができる。
いかに『レッドキャップ』といえども、爆発で寄ってきたゾンビまみれの状態で索敵には出ないだろう。
それに、あの役場を検分すれば地下から逃げたとすぐにわかりそうなものだ。
分かった所で追いかけることもできないだろうが。
なにせ、奴らには正確な地下の地図もないわけだし。
防弾チョッキを脱ぐ。
汗ばんだ体に夜風が心地いい。
「あー・・・『ちょっと、お湯を作ってきますね』」
そうキャシディさんに声をかけ、事務所方面へ戻る。
「イッテラッシャ!」
変な見送りをされた。
しっかりと拳銃を持っているのが見えたので、安心して行動できるな。
さすがにチンピラのおかわりはもういないだろう。
いても根絶やしにするだけだからいいけども。
えーと、あったあった。
さっきここへ入った時にやかんがあるのを見た気がしたんだ。
加湿用かなにかわからないが、結構な大きさがある。
さすがに水道は停止しているが、ここは牙島。
どこかに井戸があるはずだ。
なにせ地下水王国だからな、ここは。
案の定事務所の裏に井戸があった。
うわあ・・・手押しポンプじゃないか!
もはや懐かしい!
だが、周囲にゾンビがいるかもしれないこの状況では神ツールだ!
電動ポンプだと意外と音がデカいからなあ。
事務所で見つけたやかんに水をたっぷり入れる。
金属製のタライもあったので、それにも半分ほど。
そして、これまた事務所で見つけた携帯ガスコンロに点火。
このまま熱湯になるまで放っておく。
火があるのでついでに一服しておこうか。
懐から取り出した煙草を咥え、前髪を焦がさないように気を付けつつ火を点ける。
そして、ゆっくりと紫煙を楽しむ。
「・・・ふぅうう、あ~・・・うまぁい」
張りつめた気分がほぐされていく。
お湯が沸くまで時間はたっぷりある。
それまでリラックスしておこう。
「『どうぞ、キャシディさん』」
熱湯が沸いたので、タライに入れておいた水と合わせて丁度いい感じの温度にした。
事務所には社名入りの新品タオルがいくらでもあったので、それも添える。
さすがにシャワーは無理だが、体を拭く程度ならこれで十分だろう。
「『・・・あなたって、あなたって最高よ!こんなに良くして私を一体どうするつもりなの!?ねえどうするつもりなのよォ!?』」
無茶苦茶テンションが高い。
やっぱり女性にとっては死活問題らしいな。
そこらへんに気付けて良かった・・・アイツらの空間があまりに臭かったからだけど。
っていうか井戸あるんだからせめて水浴びの一つでもすればいいのに・・・ようわからん。
男しかいない空間だとそういうのも億劫になるんだろうか。
俺は御免だがな、サクラに嫌われちまう。
「うぉおい!?『ごゆっくりどうぞ!では!!』」
「『あら?一緒に使わないのォ?』」
そんなことを考えていると、キャシディさんがなんのためらいも見せずにタンクトップを脱ぎ捨てたので慌てて外へ出る。
恥じらい!恥じらいさんは旅行中ですか!?
まったくもう・・・!オープンすぎるぞ軍隊女子!
SF虫退治の描写も全くの絵空事じゃなさそうだ。
というわけで、俺は事務所で体を拭くことにした。
やかんに残った熱湯に水を足せば、こっちもあっという間にぬるま湯の完成だ。
やれやれ、やっと体が拭けるぞ。
普段は毎日風呂に入ってるので、せめてこれくらいはなあ。
ゾンビ騒動真っ只中だってのに、我ながら贅沢なことだ。
「っつぅう・・・!?」
インナーを脱ぐときに腕が耳に当たり、痛む。
・・・そう言えば破片で耳をざっくりやってたな。
今の今まですっかり忘れてた。
濡らしたタオルで拭うと、あっという間に一部が真っ赤になった。
耳の出血は派手だからなあ。
痛みを我慢して触った感じ、結構切れてるなあ。
ねえちゃん家に戻ったらここもアニーさんに消毒してもらわんとな。
痛いけど黴菌が入ってえらいことになるのは遠慮したいし。
そんなに大きくは切れていないが、痛いものは痛いのだ。
続いて完全にインナーを脱ぐ・・・あだだだだ!?ひっつくぞ!?
耳だけかと思ってたら、インナー内部でも出血がある。
乾いて張り付いてるな。
「左腕の方か・・・」
以前縫われた傷が出血している。
縫合糸が切れたりはしていないが、古傷がちょっと開いたようだ。
戦闘の時じゃないだろうから・・・アレか、みんなを助けるために瓦礫を持ち上げた時かな?
ちょいと力を入れ過ぎたようだ。
この傷も大したことはなさそうだ、キャシディさんが反応したのはここだろう。
耳はゴーグルに隠れてたしな。
とりあえず上半身をタオルで拭う。
うわー気持ちいい・・・1日の疲れが吹き飛んでいくぜ。
だが・・・
「腹減ったなあ」
身綺麗になってリラックスもできた所で、腹の虫が騒ぎ出した。
ここ最近は3食しっかり食ってたからなあ・・・考えてみりゃ、食い物に困るなんて久しぶりじゃないか?
ゾンビ騒動が始まってから食料関係でひっ迫したことないもんなあ。
すぐに帰るつもりだったから何も持ってきてないぞ。
この状況で外に飯を探しに行くのはリスキーだ。
今晩は我慢するかな・・・いや待てよ?
「アイツラがいかにアホでも何かしらの保存食くらいは・・・」
そう、さっき成仏させたチンピラ連中。
ここは奴らの根城だった。
あのクッソ汚い寝床から見ても、それなりの長い期間ここで暮らしていたのは推測できる。
ってことは何かあるかもしれん。
この敷地内で屋根があるのは駐車場と事務所・・・ってことは、食料を保存できるのはここだけだろう。
見た所机も収納もあるし、ちょっと探してみるか。
二重の意味で、死人に口なしだし。
「なんかないか~なんかないか~」
まずは机の物色だ。
上半身は裸のままだが、キャシディさんはこっちに来れないから問題ない。
この机は・・・うわあ、エロ本しか入ってない。
どの引き出しにもギッチリだ。
なにこれ、R指定の図書館か?
しかも熟女モノオンリーかよ・・・これが奴らの趣味だったのなら、キャシディさんをとっ捕まえても手を出されなかったかもしれんな。
俺の趣味でもないし、女性と一つ屋根の下でエロ本を熟読する趣味もない。
ガスコンロがなければ焚き付けにしたが、命拾いしたなエロ本よ。
さて次の机・・・ワオ!またエロ本だ!!
今度は女子高生モノオンリーだ!!
・・・ジャンル分けがしっかりしていますねえ。
こちらも、全部の引き出しに詰め込まれている。
牙島に存在する全てのエロ本がここに集まってるんじゃないか?
もうなんか嫌になってきたけど次の机だ。
恐る恐る引き出しを開けると・・・えっ。
そこには、パッケージに包まれたその・・・男性用の避妊具が。
・・・えっ?
ここ男しかいなかったよな?
・・・えっ!?
深く考えるのはよそう。
なんか吐き気までしてきた。
嫌だけどその下の引き出しは・・・うん。
俺は何も見なかった。
ギッチギチに詰め込まれたゴム製のアーマーなんて見なかった。
この机は封印だな。
明日には出て行くけど、近寄らないようにしよう。
キャシディさんにも絶対に近寄らせないようにしよう。
・・・拙者もうやだこの空間。
いくらなんでもエロ方面に貪欲すぎるだろ。
俺は食欲方面に特化したいの!少なくとも今は!!
残った机は無視する。
先に収納を見ておこう。
事務所につきものの金属製の書類入れと、木製の収納棚。
とりあえずは望み薄な書類入れの方から確認するかな。
「ああそうだな!映像媒体は今までなかったもんなあ!!」
「イチロー!?ドシター!?」
「ノープロブレム!!マウス!!ビッグマウスヒアー!!既にデストロイ!!!」
キャシディさんに叫び返す。
彼女は『ノーウ!?』と悲鳴を上げていたから、こっちには来ないだろう。
そして俺は・・・棚を開けるなりドサドサと倒れてきたDVDの山に埋まっている。
「痴漢モノ・・・熟女モノ・・・学生モノ・・・ここはジャンル分けしてねえんだな」
ほんともう、性に忠実な場所だよここは。
思えば机の上に置いていたプレイヤーはこれを見るためのデバイスか。
残念ながら今は色気より食い気なので、謹んで返却して封印しておく。
B級映画の1本でもあればなあ・・・マジでエロビデオしかないでやんの。
そして隣の木製収納。
何が飛び出してくるかわからないので、恐る恐る扉を開けた。
ダッチなワイフが出てきても驚かんぜ、俺は。
「・・・よっしゃあああああああああああああああああああっ!!!!やったぜ!!これで優勝できる!!」
「イチロー!?ワッツハプン!?」
「ノープロブレム!!フード!!アロットオブフード!!アイムファインド!!」
「ヤッタ!!『あなたってホント最高!愛してるわ!!』」
棚から転がり出てきたカップ麺を空中でキャッチしつつ、今度こそ俺は喜びの声を上げた。
お湯を・・・お湯を沸かさないと!!
その前にとりあえず在庫を確認。
醤油、味噌、それに塩。
おお!!焼きそばもあるじゃないか!
なんとも夢が広がるなあ。
チンピラ共よ、ちょっとだけ評価が上がったぞ。
俺からの加点で来世は・・・ミノムシとかにクラスチェンジできればいいな。
おっと、キャシディさんに先に選んでもらおうか。
レディファースト大事。
無職覚えてる。
「キャシディさん!入ってもいいですか?」
「ハイ!カムイン!」
まだ服を着ていないと困るので一応確認しておく。
・・・仮に全裸になっていても驚かないが。
居合以上の速度で目を逸らせる自信もあるが。
許可が出たので、カップ麺を抱えつつ扉を開けた。
「『カップ麺、どれがいいですか・・・?』うおお!?何見てるんですか!?」
部屋に入ると、スッキリした様子のキャシディさんが雑誌片手に手を振っていた。
いや、雑誌というか・・・その・・・
「『ワオ!日本のヌードルは大好きよ!・・・ところでイチロー?どの子が好み?』」
外国人女性のみを取り扱っているであろうエロ本を熟読していた彼女は、その中身を俺に向けて見せてきたのだ。
うーわ!?なんでモザイクが付いてないんですかたまげたなあ・・・非合法輸入品かな?
じゃなぁい!!
オープン過ぎるこの人・・・え?外人さんってみんなこうなの?
たぶん違うと思うけど。
「『見て見て!あいつらマジで性欲の権化ね!こんなにいっぱいあったの!こーんなに!!』」
「あわわ・・・」
キャシディさんが嬉しそうに開けた襖の奥には、うず高く積まれたエロ本の数々が!
表紙を飾る金髪モデルたちの煽情的な目線が俺に突き刺さる。
なんてこった・・・襖は外国人カテゴリー図書館だったのか!!
キャシディさんが守れて本当に良かった・・・
アイツラの性癖、多岐にわたり過ぎでしょ。
「イチロー!カム!カーム!!」
キャシディさんがいきなり俺を呼んだ。
一瞬前までのからかいはどこへやら、なんか必死の形相である。
急に何・・・あっ。
「テアテ!スル!『やっぱり怪我してるじゃない!もう!私の心配ばっかりしてる場合じゃないでしょう!?』」
・・・カップ麺の喜びに気を取られて上半身裸のままだった。
なんてこった、俺の方がセクハラじゃないか!!
訴えないでください!!
「『早く来なさいっての!!それとも私が無理やりそっちに行きましょうか!?』」
「ノーウ!イエス!イエスマム!!」
「『誰がママですってえ!?』」
キャシディさんが立ち上がる素振りを見せたので慌てて向かう。
せめて服を着る時間は欲しかった・・・
「『嘘でしょ・・・内側から傷が開いてる。癒着しかけた傷が開くほどのパワーなんて、東洋の神秘ね・・・』」
「あだだだだ」
「『もーう!動いちゃダメ!糸も少ないんだから・・・よし!』」
いつものように麻酔無しで傷を縫われている。
キャシディさんが縫合セットを持っていたからだ。
駐留軍の軍人さんは全員携帯しているし、その技術もあるらしい。
ライアンさんとかもそうなのか・・・なんかこう、想像できんな。
ぶつりぶつりといつ聞いても嫌な音が響き、傷が縫われていく。
これが塞がるまでドンパチは勘弁してほしいんだが・・・俺にはどうしようもない。
全部『レッドキャップ』とか鍛冶屋敷とかチンピラとかゾンビが悪い。
俺は悪くねぇ!!
「ハイ!オシマイ!!『・・・だけどほんっと、いい体してるわね。エマが目の色変えるのもわかるわぁ・・・素敵な背筋・・・』」
「なんで!?なんでおしまいなのに背中むっちゃ撫でるの!?」
触り方がなんかいやらしいぞ!!
朝霞を思い出す・・・やっぱりあいつは何とかした方がいいな!?
「『ねえ?ちょっと・・・ちょっと舐めていい?ねえ?』」
「何を言ってるのか全く分からないけどノウ!!嫌な予感がするからノウ!!」
目がコワイ!!
今まで見たことないタイプの目をしている!!
「そそそそうだ!どれ!どれにしますかっ!!」
「アーン!」
無理やり体を回転させ、後ろに置いていたカップ麺類を掴むとキャシディさんの目の前に差し出した。
食い気よ!色気に勝て!!
「『・・・確かにお腹ペコペコね。フムムム・・・み、そ?ショウユ・・・シオ?』・・・ドレオイシイ?」
あっそうか。
パッケージ全部日本語だもんな。
説明しとかないと。
「ソルト!ソイソース!ミソ・・・ミソ!?味噌ってええと・・・び、ビーンズペースト!ピッグボーン!!」
味噌を示す単語が見つからん!!
っていうか外国に味噌ってあるんだろうか・・・?
「『いろいろあるのねえ・・・うーん、どうしようかしら。パッケージの写真はどれも美味しそうだけど・・・』」
キャシディさんは色々悩んでいるようだ。
確かに俺でも悩む自信がある。
選択肢が多すぎるからな・・・いや待てよ。
―――その時無職に電撃走る。
逆に考えるんだ、一つを選ばなくてもいいと。
全部食えばいいと。
「オッケオッケー!シェフ田中野にお任せあれ!!」
目を丸くするキャシディさんをそこへ残し、事務所にとんぼ返りした。
「『どれ、好き・・・ですか?』」
「『これ!これが一番ね!』・・・ヤキソバ!!」
キャシディさんは器用にフォークを使ってインスタント焼きそばを頬張っている。
意外や意外、ラーメンよりも焼きそばとは。
あれから俺はやかん一杯に湯を沸かし、カップ麺と焼きそば合わせて4つをこしらえた。
事務所の給湯室にあったお椀と菜箸、そしてお玉を添えて。
そうして、カップ麺を1つずつ摘まむことにしたのだ。
キャシディさんはどれも大いに気に入ったようだが、中でも焼きそばが優勝する結果となった。
今も猛然と食いついている。
「『日本に来てもう2年になるけど・・・ももむ、今まで、んぐ、こんなにおいしいものをスルーしてたなんて・・・うむむ、うぐー!?』」
「ウワーッ!?お水お水!!」
焼きそばのどに詰まらせる人なんて初めて見たぞ!?
だがまあ、気に入ってもらえてよかった。
「『他にも色々種類、あります。持って帰りましょう』」
こんなに気に入ってるんだ、ここで腐らせるのは惜しいしな。
俺もカップ麺は持ち帰ろうと思う。
リュックも見つけたし。
「『最高ね!男どもにはここで見つけた本をぶん投げときゃ文句も出ないでしょうし!』」
キャシディさんは豪快に水を飲み干すと、あっという間に残りを平らげてしまった。
「・・・モイッコ、イイ?」
そして、少し恥ずかしそうに俺を上目遣いで見た。
どうぞどうぞ、それ一個じゃ今日消費したカロリーには足らんだろうし。
機関銃振り回したしミサイルにも撃たれたんだもんな。
「『こっちはイカ焼きそば。こっちは・・・えっと、辛いやつです、とてもスパイシー』」
「『イカ・・・イカ!?ヌードルにイカを!?・・・ボンゴレみたいなものかしら?ああでも、スパイシーも捨てがたいわね・・・でも2つ食べるとさすがに・・・』」
しばしキャシディさんはうんうん唸り、パッと顔を上げた。
「イチロー!ハンブンコ!ハンブンコ!!」
「・・・イエスマ・・・『はい、美しい人』」
そういえばこの人俺より年下だよなあ?
背は高いけども。
顔立ちはきりっとしてるけど、なんかの拍子に女子高生くらいに見える。
特に今とか。
「『ちょーっと待って!私も作る所を見るわ!勉強しなくちゃ自分で作れないもんね!』」
身振り手振りで作る所が見たいのだと察したので、用済みになったタライにお湯を捨てることとしよう。
さすがにここではアレなので、事務所の椅子にでも座ってもらうか。
その前にラーメン食っちゃわないとな。
大盛カップがなくって助かったぜ。
「いいですか、3分・・・あー・・・3ミニッツレイター、ホットウォーター、ドロップ。アンド・・・おおおい!?何してんだアンタ!?」
「『ワオ!ワオワオ!これは全部持って帰らなきゃね!これなら毎日ヤっても2年は持つわ!!』」
焼きそばの作り方をレクチャーしている途中で、キャシディさんは例のゴムアーマーを見つけてしまった。
「イチロー、コレベンリ。スイトウ、ナル『液体を入れるって目的は間違ってないしね・・・うふ』」
水筒・・・だと・・・!?
そういえば、戦争映画とかサバイバル映画でそういう用途に使っていたな。
さすが軍人さんだ・・・俺は、俺はなんてスケベで下世話な人間なんだ。
疑ってしまったことをお許しください!!
「ところで・・・なんでエロ本も持って帰ろうとしてるんですか?」
そして彼女は流れるように机から見つけたエロ本をリュックに詰め込んでいく。
くっそ!?止める間もなく発見された!!
「ワタシ、ニホンゴワカンナイ」
「嘘つけさっきまでちょっと通じてたでしょ!?うわっ!?全部は無理ですよ!?」
「ベンキョウ、ベンキョウ」
「嫌だそんな参考書!?そしてやっぱり通じてるじゃないですかーヤダー!!!!!」
色々と思う所はありつつも、腹がいっぱいになったので早めに寝ることにした。
現在時刻は10時・・・早目ではないな?
焼きそば食ったり何やかやしてたらもうこんな時間である。
明日の早朝にはここを出たいので、そろそろ寝ないとな。
「『ねえイチロー、ほんとにそこでいいの?私襲ったりしないわよ?合意がないと気持ちよくないじゃない?』ワタシ、レイプシナイヨ?」
「そこに関しては一切疑ってませんけど!!あとレイプとか言わないの!!」
布団に横になったキャシディさんが、何故か横をポンポン叩いている。
来いってか。
行きませんよ!?
「『今晩のサムライはボディーガードなので。荒野の用心棒なので』」
俺はと言えば、入り口にほど近い場所に座椅子を配置してそこに座っている。
『魂喰』は左手に持ち、いつでも抜けるようにしている。
椅子で寝ると体がバッキバキになるんだが・・・今晩は仕方あるまい。
明日は起きたらすぐにここを出発し、以前行った造船所に立ち寄る予定だ。
ボートの一一艘でもあればそれを使って南地区まで帰るし、なければ浮くようなものを見つけて最悪港から海岸線を泳ぐ。
泳ぐ場合は、キャシディさんだけ筏的なモノに乗ってもらって俺はそれを引く。
それはさすがに疲れて死にそうだが、最悪の場合はそうしないといけないしな。
道はあるにはあるが、『レッドキャップ』やゾンビのことを考えると海路一択だ。
「『サムライが用心棒なんて、マカロニウエスタン以上の素敵なシチュエーションね。わかったわ、かわいいサムライさん』・・・オヤスミ、イチロー」
「おやすみ、キャシディさん」
「・・・オソッテモイイヨ?」
「おやすみ、キャシディさん」
駄目押しにそう言うと、彼女は猫のように目を細めて布団に潜り込んだ。
「『たまには紳士も悪くないわね・・・』」
何事か呟いて、すぐに彼女は夢の中に旅立った。
寝つきがいいのは軍人の鉄則だ・・・って、何の映画だったかなあ。
俺もろうそくを吹き消しつつ目を閉じる。
どうやら、一丁前に気を張っていたらしい。
意識していなかった疲れがどっと押し寄せて来て、あっという間に意識は暗闇に落ちていった。
―――りぃん
何かに呼ばれた気がして、目を開ける。
暗闇の中で腕時計を確認・・・午前2時半か。
ぞっとしない時間だな。
物音はしないが、何かが『いる』
あどけない寝顔のキャシディさんを起こさないようにしながら、俺は音を立てずに扉を開けた。
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