50話 激震ボロ役場のこと

激震ボロ役場のこと








「―――あっず!?」




右耳が裂けた。


たぶん、今の爆発で飛んできた何かの破片によってだろう。


咄嗟に急所・・・目に突き刺さることはなんとか避けられたが、存外に混乱していたらしい。


くっそ・・・また傷が増えるな畜生。






牙島役場の2階が、燃えている。


さっき投げキッスを進呈してくれた、彼女らのいたはずの2階が。


あの糞ったれの黒ローブの最後の抵抗によって。






「―――ッ!!!」




そして、耳の痛みが俺を現実に引き戻す。


悲鳴を上げそうになる口を噛み締めて黙らせ、俺は猛ダッシュの体勢に入った。


呆けたように足を止めた石川さんや神崎さんの横を、追い抜く。


視線の先には、既に入り口に到着している古保利さんたちが見えた。






「左側を通れ!右は駄目だ!崩落するぞ!!」




いつもとは違う切羽詰まった古保利さんの声。




役場に飛び込んだ俺が見たのは、崩落寸前の正面階段だった。


1時間前には堂々と佇んでいたその階段は、全体的にボロボロである。


その上の部分・・・駐留軍の装甲兵さんたちがいた2階に、大穴が開いていた。




「あの部屋を貫通して反対側に着弾したのか・・・」




ってことは、部屋は無事かもしれない。




「オブライエン少佐!怪我は!?」




古保利さんが叫んだ。


2階から人影が降りてくる。




「ダイジョウブ、デス『飛来したミサイルは恐らく特殊な多弾頭形式です。1発は室内で炸裂し、もう1発は抜けました・・・怪我人の救助を!!』」




「―――衛生兵!担架の用意!!」




2階への踊り場に現れたオブライエンさんは、顔を鮮血で真っ赤に染めていた。


ざくりと、額が切れている。


骨までいってそうな深さだ。




「ノー!サキニ彼ラヲ!!」




そして、そんな状態でありながらも・・・オブライエンさんはなんと2人の人間を米俵でも担ぐように両脇に抱えていた。


気を失っているのか、彼らはピクリとも動かない。


しかしまあ、なんちゅう力だよ・・・子供でも持つみたいに軽々と。




「石川さん、肩借りますよ!」




「お?おう・・・いや待て、こっちの方がいい」




石川さんは俺のやりたいことを理解し、こっちに向き直って両手を組む。


バレーのレシーブのように。


・・・自信ありそうだ、これなら大丈夫だろう。




階段はオブライエンさんがいるので通れない。


ここに着いた当初は余裕ですれ違えていたが、今は古保利さんが言う通り右側がズタズタになっている。




「では一朗太さんに続くであります!二等陸曹は脱出路の確保を!」




「ええ、わかったわ!」




後ろから聞こえてくる声を聞き流し、石川さんの方へ向かって走る。




「行きます!」




「よし来い!階段があいたら俺も合流すっからな!」




頼もしい言葉を聞きつつ、跳ぶ。


右足が、石川さんの手に乗り―――




「いち、にのお・・・さんっ!!」




凄まじい膂力が、俺の体を垂直に打ち上げた。


脱力しつつ身を任せ、振り上げの頂点で踏み切った。


少しばかりの浮遊感の後、俺の伸ばした手は2階の手すりを掴んだ。




「ふうぅ・・・うっ!!」




片手懸垂の要領で、なんとか体を持ち上げる。




「田中野くん!時間はそれほど残ってないからね!」




「了解!」




古保利さんが俺に向かって叫ぶ。




・・・そりゃあそうだろう。


夜という状況で、あれだけの爆発を起こしたんだからな。


『レッドキャップ』がみんな仲良く眠っていない限り、北地区どころか龍宮市からでも気付かれそうだ。


そして、そんなことがあれば・・・緊急事態と見てすぐにこちらへやってくるだろう。




以前見た島の地図を脳裏に描く。


・・・北地区からここまで来るとして・・・たぶんどんなにノロノロでも30分はかからんだろう。


悪いことに今は非常時。


かっ飛ばして来るとして・・・15分ってとこかな?




「あらかじめ仕掛けておいた爆弾で直通の道は爆破したけど・・・迂回路は手付かずだ!かなりの遠回りだが、それでも稼げたのは30分!!」




・・・いつの間にそんなものを、流石抜け目がない。




「了解でーす!!」




それに返しながら、やっとのことで2階に到着した。




「・・・嘘だろ」




振り返ってみれば、エマさんたちがいた部屋はドアが吹き飛んでカーテンが燃え盛っている。


・・・一刻も早く救助しなければ!






飛び込んだ部屋は、さながら大地震の後のようだった。


何が引火したのか、部屋中が炎に包まれている。


本棚は残らず吹き飛び、それに収められていた本は新たな火種となってさらに炎の面積を増やしていた。




「おい!生きてるやつは手を上げるか声を出せ!!『声!出せ!もしくは!手!上げろ!』」




さらに壁やその他の瓦礫で、部屋は視認性が凄まじく悪い。




たどたどしい英語で叫ぶ。


煙が充満し始めている。


早くしなければ・・・!




「ウゥウウ・・・!!!」




聞こえた!!


どこだ!どこから聞こえッ―――




「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




大音量の雄たけびと共に、俺の正面にある瓦礫の山が内側から吹き飛んだ。


なんっ・・・!?


まさか、黒ゾンビがっ!?




「フンッ!!!!!!!!!」




・・・と思ったら、瓦礫を破壊しながら突き出されたのは装甲服の腕だった。


みるみるうちに瓦礫はどかされていく。


すげえ力だなおい・・・筋力増幅装置でも付いてるのか、アレ。




大柄な装甲兵が、自分の下に2人を庇うように覆いかぶさっていたようだ。


破損したヘルメットから、見知った顔が見える。




「ライアンさん!!」




「センセイ!!!!」




頭部からかなり出血しているが、その目を見るに意識の混濁はないようだ。


よかった・・・無事だったか。




だが、無事を喜びあっている時間はあまりない。


一刻も早く撤退しなければ!




「ライアンさん!その2人を運べますか!?俺は残りの人たちを探します!!」




「ノープロブレム!ゲンキゲンキ!!」




ライアンさんはグッとガッツポーズしながら、いつかのように装甲をキャストオフ。


手慣れた手つきで、庇っていた2人の装甲も外した。


なるほど、外から外す時はあそこを操作すりゃいいのか。




「あと何人ですか!?さっきオブライエンさんが2人運んでいきました!!」




「ジャア・・・コノ部屋ニイタノ、アト6人デス!!センセイ!オネガイシマス!!」




「合点!!」




頭の出血以外は元気そうに見えるライアンさんは、先程のオブライエンさんのようにひょいと2人を担ぐ。


そして、そのまま俺の横を通って部屋から走り出て行った。


・・・規格外だな、あの人も。




さて、俺の方でも探さねば。


もし生き残りがいれば・・・いや、この考えは駄目だ!


きっとみんな生きてるはずだ!


あれだけの装甲を身に着けていたんだから、ちょっとやそっとで死ぬはずがないじゃないか!




「おーい!返事しろ!あーゆーおーけー!?」




さっきよりも大声を出す。




すると、壁際の瓦礫が動いた・・・ような気がする!


そこか!




炎を避けながら走り寄り、動いたように見えた瓦礫に手をかける。


・・・よくよく見れば、瓦礫と壁の間に隙間がある。


これは!




「ぬううう・・・!ぬぐぐぐぐぐ!!」




ちまちま取り除いている暇はない!


一番大きな瓦礫を掴み、全身全霊を込めて引っ張る。


俺の筋力を総動員した結果、瓦礫はゆっくりとこちら側に動き・・・境を越えると一気に倒れてきた。


超あぶねえ!!


慌てて跳び退くと、瓦礫は大きな音を立てながら床へ崩れた。




「おい!大丈夫か!おい!」




「ウ・・・ア・・・」




瓦礫の下に、3人の装甲兵がいた。


うめき声を出したのは1人だけで、残りの2人は何の反応もない。




まずはうめいた1人の装甲を外す。


声からして男性だと思う。




「グウウ!?」




これは・・・


装甲を外した時軽く胸に手が当たった。


この感触・・・肋骨が最低でも3本は折れている。


装甲がなければこの程度じゃすまなかっただろう。




「うお!?こいつはひでえな・・・田中野さんよお!どんな具合だ!」




入口の方から石川さんの声がする。


式部さんじゃなかったか・・・だがこの場では好都合だ!




「この人を頼みます!肋骨が折れてるんで気を付けて!」




「応!」




俺の横まで来た石川さんは、なるべく肋骨に当たらないように気を付けながら彼を運んでいった。


よし、残りの2人は・・・!?




「・・・ああ」




思わず、声が漏れてしまう。


・・・1人『は』大丈夫だ。




瓦礫か壁で頭を打ったのか、失神しているだけだ。


呼吸はしているし、見た所出血はない。




「タナカノサン!」




オブライエンさんの声。


また戻って来たのか。


自分も怪我してるってのに、流石は指揮官・・・じゃないよ!休んでよ!


あなたと古保利さんに何かあったら御神楽は壊滅だぞ!


もしくは八尺鏡野さんが過労死するぞ。




「オブライエンさん!彼は・・・失神しているだけです。お願いします」




「ハイ―――!?」




駆け寄ってきたオブライエンさんが、小さく息を漏らす。


失神している人を見て・・・ではない。




その横の、決して動くことがないもう1人を見て。




「『ハワード軍曹・・・』」




もう1人は、一目見てわかるほどの状況だった。




ミサイルの爆発によるものだろうか。


その装甲に、鋭く大きな鉄片が突き刺さっている。


悪いことに、その場所は腹部だ。


装甲と装甲の継ぎ目・・・そこに突き刺さった鉄片は、後ろ側に大きく貫通していた。


おそらく、即死だろう。


足元は、腹からの出血で真っ赤に染まっている。




「『任務御苦労・・・ゆっくり、休め。連れて帰ってやるからな、軍曹』」




オブライエンさんは、声に少しだけ悲しみを乗せ・・・また2人とも担いで部屋から出て行った。


亡くなった隊員の方は鉄片が引っかかって装甲が脱げないというのに、それがどうしたと言わんばかりの力強さで。




・・・畜生!


何やってんだ俺は!


呆けてる場合じゃ、ないだろう!!




「・・・誰か!誰か返事しろォ!!!」




あと3人いるはずなんだ!


エマさんとキャシディさんがいるはずなんだから!!




大声を出したのが功を奏したのか、視界に変化があった。


部屋の中央付近にうず高く積もった瓦礫が、明らかに人為的な動きをした。




「一朗太さん!」




「丁度良かった!あそこに誰か埋まってます!手伝ってください式部さん!」




駆けこんできた式部さんに声をかけ、炎の熱さを無視しつつ走る。


火の手が大きくなってきた・・・早くしないとまずい!




「ぬ、ぐ、ぐうううううううううううううううううっ!!!!」




両手で掴んだ瓦礫に渾身の力を込める。


式部さんはどこからか持ってきた鉄棒を隙間に突っ込み、テコを使ってくれている。




「も、もう少しで、ありますうううう・・・!!」




じりじりと瓦礫が動き、中が見えてきた。


鉄板・・・いや、装甲だ!


ってことは、この中には!




歯を食いしばってさらに力を込める。


遂に、大きな一枚の瓦礫が音を立てて床に倒れた。


舞い上がる粉塵の中、人影が現れた。




「『・・・おお、なんだ・・・さ、サムライじゃないか。遅いぜ、おい』」




熱か何かで各所が歪んだ装甲兵が1人と、見知った顔が2人。




「エマさん!キャシディさん!それと・・・ジョンさん!」




ジョンさん・・・なーちゃんに肉をバンバン食わせてた人だ、たぶん。


この声に聞き覚えがある。


彼は意識があるようだが、エマさんたちは気を失っているようだ。


ヘルメットを脱いだのかそれとも破損したのか、顔が露出しているのでわかった。




「『曹長たちは大丈夫だが・・・俺は駄目だ。捨てて行ってくれ、足手まといになるつもりはない』」




エマさんたちの下半身にはまだ瓦礫が乗っていて、ジョンさんは全身が出ている。


ジョンさんをどかさないと、その奥の2人にアクセスできない・・・!




「『おい、言葉通じてるか?俺はもう無理だ・・・血が止まらねえ、なあ、彼女たちを早く助けてやれって』」




くっそ、熱で歪んでてキャストオフできねえ!


っていうかあっつ!


これジョンさん大丈夫なのか?


中身サウナみたいになってるんじゃない?




「『だから俺はもう・・・』」




「シャラップ!びーくわいえっと!!」




「ワッツ!?」




もうなんか面倒臭くなってきたので強引に引きずり出すことにした。


んお!?なんかぬるっと・・・なんだ鼻血か。


ヘルメットの隙間に溜まってたんだな。


こんだけ熱で装甲がぐにゃっとしてるのに、よくこの程度で済んだもんだな。




「センセイ!」




ライアンさん戻ってくるの早いなあ!




「おっと丁度いい所に!ライアンさん!彼をテイクアウトプリーズ!!」




「ラージャ!!」




さすがに式部さんに運んでもらうのは無理だしな。




「『ら、ライアン・・・俺はもう駄目だ、先に彼女たちを・・・』」




「『ジョーン!この程度で死ぬならセンセイは100万回は死んでるよ!ホラ早く!撤退だ撤退!!』」




「『アウチ!?もうちょっと優しくしてくれ・・・あいたたたたた』」




ジョンさんは何かを喚いているが歩けているな、よしよし大丈夫そうだ。


たぶん脳震盪と軽い火傷、それに鼻血ってとこか。


うん、軽傷。




「エマさん!エマさん!・・・駄目だ意識がない、式部さん・・・」




「・・・脈拍良し、自発呼吸良し、頭部に目立った傷無し!とにかく瓦礫をどかすでありますよ!」




手前はエマさんだ。


呼びかけても返事がないので心配だが・・・血色はいいし大丈夫だと思う。




俺は両手で、式部さんはテコで瓦礫をどける。


・・・クソ!なんか背中が熱くなってきたぞ!


やばいやばい、早くしないとロースト無職になっちまう!




「よいっ・・・しょおおお!!!」




エマさんにのしかかっていた瓦礫を全部どかした。


・・・うん、下半身はしっかり装甲を付けてるな。


これなら瓦礫程度なら耐えられただろう。




「タナカノサン!」




「『グレイスン曹長の意識がありません!目立った外傷はないので大丈夫だとは思いますが担架を!』」




「『もうある!早速使おう!』」




部屋の入口に戻って来たオブライエンさんに式部さんが怒鳴る。


何を言ったか皆目見当がつかんが、担架を持ってこい的な意味だったようだ。


その証拠に、彼はすぐさまそれを担いでやってきた。




「一朗太さん!すぐに戻りますので・・・!」




すぐさまエマさんはその担架に乗せられ、意識がないままに運ばれていった。


大丈夫だろうか・・・心配だ。


おっと、キャシディさんのことを忘れていた。


すぐに助けないと!




「キャシディさん!大丈夫ですか!?」




そう声をかけながら、瓦礫を持ち上げる。


よし、こっちの瓦礫は軽いぞ!


エマさん側のやつを撤去したから、俺一人でもなんとかなる・・・!?




「アウゥッ!?」




「キャシディさん!!」




瓦礫をどかした途端、キャシディさんが悲鳴を上げて意識を取り戻した。


どこかに怪我をしているのか!?




「『ああクソ!クソったれの×××野郎!!ファック!!ファック!!』」




なに言ってるのかわからんが、決していい意味の言葉ではないだろう。


表情と口調でわかる。




瓦礫の下にあったキャシディさんの下半身は・・・エマさんと違う所が一つだけあった。




「キャシディ!あーゆーおーけー?」




「『オーケーなわけないでしょ見りゃわかるでしょうがこの間抜け・・・ひゃっ!?い、イチロー?』・・・ダ、ダイジョブ、ダイジョブ」




・・・絶対大丈夫じゃない。




キャシディさんの装甲は、一部が破損していた。


左足のスネからつま先までの部分が、ひどく歪んでいる。


鉄骨を含んだ瓦礫が直撃したようだ。




「あー・・・『助ける、あなた!私、強い!大丈夫!』」




「『アラ、素敵なプロポーズね・・・あっ!いだだだだ!?』」




・・・通じてるんだろうか、これ。


今、装甲を取り外しながら軽く左足に触れたが・・・この痛がり方、ひょっとして。




「『大事なこと、聞きます。痛い?足首?つまさき?』」




「『・・・うん、泣きそう。折れてる?』オレテル?」




骨折・・・ふむ。


俺も本職じゃないが、師匠に生傷ばっかり作られたからな。


多少の心得はある、つもりだ。




「『触る、いいですか?』」




「『うん・・・足以外もいいのよ?』」




イエスって言ったな、言質とった。


ふくらはぎからつま先までをブーツ越しに撫でる。




「・・・ッ!?」




ある部位に触れた時、キャシディさんは体を跳ねさせた。


一番心配していた足首は・・・大丈夫だ。




だが、恐らくふくらはぎから足首までのどこかが折れ・・・てはいないっぽいけどヒビが入ってると思う。


いかんせんここでは確証が持てない。




とにかく、肩でも貸して一刻も早く移動しなければ。


いや、この場合おんぶでもいいか。


式部さんたちが来るより、俺が行く方が早いか。




「キャシディさん、移動しますよ?あー・・・ムーブ!1階!フロアワン!」




「『・・・優しく運んでね?』」




俺の差し出した手に、キャシディさんが掴まって・・・顔をしかめながら上体を起こす。






―――その時だった。






何かが軋むような音がしたかと思うと、直下型大地震でも来たような大揺れ。


みしみしばきばきと騒音の大合唱だ。




「スーパーアイムソーリー!」「キャッ!?」




咄嗟にキャシディさんに覆いかぶさる。


っが!?いっでえ!?


蛍光灯のカバー部分的な何かが俺の肩甲骨に!?


地味に痛い!!!!




・・・すぐに揺れは収まった。




これは、地震じゃない。


地震にしては揺れが短すぎる。


これは、もしや・・・




「キャシディさん!じゃすもーめんぷりーず!」




そう言い、俺は部屋から飛び出した。


確かめなければならないことがある。






「・・・神よこの野郎、お前絶対邪神だろ」




部屋から出た俺の目に飛び込んできたもの。


それは、踊り場の部分から崩れ落ちた階段の姿だった。




・・・この階段からしか地下にアクセスできねえんだぞ。


どうすりゃ・・・ってオイ!?




「式部さん!オブライエンさん!誰でもいい!大丈夫ですか!?」




生き埋めにでもなってたら困る。


俺1人じゃ掘り出せんぞ。




「田中野くんかい!?こっちはキミとグレンジャー曹長以外は無事だ!!」




地下への階段があった場所から、くぐもった古保利さんの声が聞こえてきた。


グレンジャー・・・?


ああ、たぶんキャシディさんのことか。




「俺は五体満足ですが!!キャシディさんはたぶん足にヒビ入ってます!!階段はどうにかなりそうですか!?」




叫び返すと、一瞬静かになった。




「・・・無理だ!とても掘り出せない!それどころかさっきの衝撃で地下2階も崩れ始めてる!!」




・・・ワーオ、そいつは素敵だなあ。


俺は息を吸い込み、覚悟を決めつつ再び叫んだ。




「これより!!『プランB』の実行に!!移りまぁす!!」




「・・・わかった!!僕たちはこのまま撤退する!爆破は20分後だ!!」




「一朗太さん!一朗太さぁん!!」




古保利さんの声にかぶせるように、式部さんの悲壮な声。




「陸士長!!持ち場に戻れ!!・・・彼は大丈夫だよ、実行案もある」




いつもの彼には似合わない、冷徹な声が聞こえる。




「・・・はっ!・・・了解、いたしました・・・一朗太さん!ごぶ・・・ご武運を!!」




「大丈夫ですよ!手も足もまだありますんで!」




「怒るでありますよ!!!!!!!!!!!!!!!!」




「もう怒ってるじゃないですかやだー!!!!!!!!」




それを最後に、気配が遠ざかっていく。


あちらは大丈夫だろう。


むしろ問題はこっちだ。




・・・天井からパラパラ何か降って来てるな。


こりゃ、役場自体の寿命もヤバそうだ。






俺は、『プランB』を実行すべくキャシディさんのいる部屋に戻ることにした。


やるっきゃない・・・か。

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