49話 吶喊!ミサイル陣地のこと

吶喊!ミサイル陣地のこと








「さて、行きますか」




周囲は夜の闇に包まれている。


電気も枯渇している今は、まさに一寸先は闇というやつだ。


だが、俺達には文明の利器・・・暗視装置がある。


緑色に染まった視界は、何度かの使用ですっかり慣れたものだ。




「おう」




石川さんがそう返す。


彼の両腕に装着された鉄の手甲が、微かな星明りを反射してぎらりと輝いた。




「援護はお任せください」




ライフルを持つ神崎さんが、頼もしく話す。




「自分も奮励努力するであります!」




三鈷剣を腰に差し、神崎さんと同じ型のライフルを持つ式部さんが言う。


よーし、行くかね。




俺たちは牙島役場裏口から、一歩足を踏み出した。






「ここからは無言で行きましょうか。万が一にも聞かれたら不味い」




「了解です」




裏口から出て坂を下る。


このまま下の道路に合流し、丘の周囲をぐるりと回りながらミサイル陣地の向こう側まで行く。


いつでも突入できる位置に待機し、役場からの合図・・・古保利さんによれば『景気のいい花火』を待つのだ。




「おっと・・・最後にこれだけ。気になってたんですけど、病院の黒ゾンビは大丈夫なんです?」




うっかり古保利さんに確認し忘れていた。




ミサイル陣地の向こう側には、以前聞いた繭っぽい物体まみれの黒ゾンビの巣がある。


俺たちがドンパチを始めた時に後ろからなだれ込まれちゃたまらない。


こうして作戦が始まったってことは、その懸念はなくなってると思いたいが・・・それでも気になる。




「ああ・・・それでしたら解決済みです」




耳元で神崎さんの声がする。


こしょばい。




「偵察の情報によれば、何度かのミサイル陣地への襲撃を経て・・・動く個体はいなくなったようです。依然として繭のような物体は確認されていますが、黒ゾンビそのものはここ1週間確認されていません」




ふむ・・・打ち止めになったってことかな?


繭が残りっぱなしってのはちょいと気になるが・・・そこは今気にしても仕方あるまい。


頼むから進化とかやめてくれよ?羽が生えたりとかな。


もしくは寄り集まってビルくらいデカくなるとか。


・・・フリじゃないからな!?


頼むぜ神様!!




「なるほど、ありがとうございます。これで後顧の憂いが消滅しましたよ」




「それはなによりであります!存分に大暴れなさってください!」




式部さんの激励?に苦笑しつつ、腰の『魂喰』を確かめる。


目釘にも柄糸にも異常はない、がたつきもない。




「・・・もうちょい待ってろ相棒、斬り放題だ」




そう囁いた時、少しだけ柄が震えたような気がした。


妖刀も武者震いするんだな。






それからは、誰も一言も喋ることはなく黙々と歩いた。


どうやら『レッドキャップ』は黒ゾンビ以外も掃除していたらしく、周辺にノーマルゾンビの姿はない。


これからドンパチ賑やかになるから、寄って来られても困るからな。


カスの集団もたまには役に立つらしい。




そして、特に問題もなく目的地・・・ミサイル陣地の近所にたどり着いた。


ここは坂の下から丁度中腹にあたる。


プレハブの・・・おそらく駐車場の管理人が詰めていたであろう小屋だ。


そこの影に、俺達はいる。




・・・これ以上の接近は無理だ。


何の遮蔽物もないし、道は電灯に照らされている。


そう、あの陣地だけはライトがあるのだ。


恐らく、発電機があるんだろう。




腕時計で時刻を確認。


現在、8時20分・・・あと10分で攻撃が開始される。


それまで、ここで待つ。




俺の持ってきた6つの大木ボムは、3つずつ神崎さんと式部さんに渡している。


適材適所だ。


俺が使うよりよほど上手に使ってくれるだろう。




ぽん、と肩が叩かれた。




石川さんが歯を剥き、サムズアップしている。


気合十分・・・だな。


俺も頷き、親指を立てた。




鯉口を切り、抜刀。




ゆるゆると出てくる刀身、その切っ先。


いつもと同じ稲妻模様が、いつも以上に頼もしく見えた。


峰を肩に乗せ、深呼吸しつつ・・・俺はその時を待つことにした。






電波塔が仕事をしているかは知らないが、我がソーラー電波腕時計は正確だったらしい。




「始まった・・・!」




きっかり8時30分に、役場の方向から夜を切り裂く轟音が聞こえた。


ここからでは見えないが、何丁もの機関銃が唸りを上げているのがわかる。


俺が声を出しても大丈夫なほど、一気に周囲は騒がしくなった。




轟音。


破砕音。


そしえその合間に聞こえる罵声と悲鳴。


奇襲は大成功のようだな。




俺たちは一斉にプレハブから飛び出し、坂を駆け上がる。




その途中で、陣地のライトが一つ、また一つと消えていく。


ついでとばかりに破壊してくれているようだ。


エマさんたち、いい仕事するなあ。




「坂の頂点で爆弾を投擲します!稜線から出ないでください!」




「大木さん曰く、『ヤバいくらい金属が飛びます、最高傑作です』とのことでありますので!!」




大木くん・・・キミはいったいどこへ向かおうというのか。


どんどん爆弾魔じみてくるなあ。




「了解です!景気よく花火を打ち上げてやりましょう!!」




まあ、使う相手はどこに出しても恥ずかしくない屑どもだ。


気にする必要は皆無だな、皆無。




あっという間に坂を上りきると、神崎さんと式部さんが前に出る。




「陸士長、私は左を!」




「では自分は右を!」




2人が両手に持った大木ボムの起爆スイッチを時間差で押す。




『―――Ready』




いつも通りのイケメン音声が流れる。




「っふ!」「んんっ!」




そして、4本の爆弾が宙を舞った。




高速で回転する爆弾はミサイル陣地を構成しているフェンスや車両を越え―――その内側に消えていく。




「伏せてください!」




神崎さんの声に従い、石川さんと一緒に地面に伏せる。


4、5秒ほど経った後だろうか。




暗視装置越しの視界が白く染まり、腹に響くような轟音が襲ってきた。




「・・・大木さん、とんでもないものを作りましたなあ・・・」




呆けたような式部さんの声。


ほんと、あのサイズのくせにこの威力。


味方でよかった、本当によかったよ。




「・・・ここで使い切ります、乱戦で使えるような代物ではありませんので」




でしょうねえ。


ハリネズミ無職が爆誕しちまう。




機関銃の銃声が、役場と陣地両方から聞こえている。


まだ生き残りは元気なようだ。




「向こうは今の爆弾も役場からのものだと思っているはずです、照明もありませんし。残り2本をもう少し奥に投げ入れてから・・・突撃してください」




「了解です。タイミングはお任せしますよ」




「それなんですが!一朗太さん!」




神崎さんと話していると、式部さんが手を上げる。


授業中かな?




「ちょっと、お背中をお借りしたいであります!」




背中?


・・・ああ、なるほど!




立ち上がり、坂の稜線から身を乗り出す。


ミサイル陣地からは、火の手が上がっている。


ああくそ、何かに引火でもしたか。


暗視装置の画面が所々真っ白だ。




「いつでもどうぞ、返さなくていいですからね」




ゴーグルを首まで下げると、盛大なキャンプファイアーが見えた。


おー、燃えとる燃えとる。


風に乗って悲鳴まで聞こえてくるな。




「ひゃ、はいっ!」




何故かうろたえる式部さんの声を聞きつつ、歩く。


ある程度まで進んだところでストップがかかった。




「では、中心部に二発・・・いくであります!」




「ええ、頼んだわ陸士長」




式部さんが残った二発を受け取ったようだ。


その後、すぐに地面を蹴る足音がした。




「そのまま、で!ありますっ!」




腰、それから肩に軽い衝撃。


まるで重さを感じさせない蹴りを肩に残し、式部さんが跳躍した。




「っふ!」




その頂点で、爆弾を続け様に投擲。


・・・恐るべきバランス感覚だ。




放物線を描く2本の爆弾は、先程よりも遠く・・・中心部の方へ飛んでいく。




「ひゃわっ!?」




空中の式部さんが、何の拍子でかバランスを崩したらしい。


可愛らしい悲鳴と共に、ぐらりと姿勢がブレる。


いかん!あの角度は・・・頭から落ちる!




「っとぉ!?」




「ひぅう!?」




落下点に割り込み、落ちてくる体を受け止める。


腕の中で目を白黒させる式部さんをそのまま抱え、即座に反転。


再び、坂の稜線に飛び込・・・あだっ!?ケツ打った!?




「あう、あうあうあう・・・ひゃんっ!?」




「スイマセン緊急事態なんで!訴えないでください!!」




上告も許されず有罪になりそう。


・・・ちょっとお尻に手が当たった気がするし。


いやいやいや、気のせいだろう。




「もう一つすいませんっ!!」




「ひわぁあ!?!?!?!?!?」




式部さんを胸に抱いたまま地面に伏せる。


一拍置いて、またも凄まじい轟音と衝撃が伝わってきた。


・・・ふう、間に合ったか。




「役得じゃねえか、田中野さんよ」




「・・・ははは、よほど前世で徳を積んだんでしょうねえ」




同じように伏せていた石川さんがニヤニヤしている。


急に動かなくなった式部さんを心配しながらも、俺の心はどんどんと冷えていった。




「・・・じゃあ、行くか」




「・・・ええ、行きましょう。神崎さん、式部さん、援護お願いします」




爆弾はもうカンバンだ。


そして、この先はまた別の仕事になる。




「・・・はい、お任せください」




「ふ、粉骨砕身しましゅぅう・・・」




2人の声を聞きながら、俺は身を起こす。




軽く首を回し・・・『魂喰』を振る。


これから切った張ったの大乱闘があるというのに、愛刀は相変わらず澄んだ音を立てた。




この先の作戦はシンプルだ。




俺と石川さんが前衛。


当たるを幸いと大暴れする。


そして、神崎さんたちは少し後ろから俺たちを援護する。


・・・わかりやすくていいや。




「南雲流・・・田中野一朗太、参る」




低く呟き、俺は地面を勢いよく蹴った。








「あがあああああああああああああああ!!!」「ひぐ!!ぐうううう!!!!があああああああああああああっ!!!」




ミサイル陣地に近づくほど、聞こえてくる悲鳴が大きくなる。


中心にほど近い所から炎が出ていて、デカい火柱が何個も見える。


それによって照らされるフェンスやバリケード代わりの車両には、キラキラと光り輝く金属片が所狭しと突き刺さっている。




いつ暗闇に戻るかわからないので、すぐに装着できるように暗視装置の位置を調整しつつ・・・俺たちは爆発によって開いた防壁の穴に飛び込んだ。




「足ぃい!!足がぁあああああっ!!!」「たす・・・たすけ、たすけ・・・」「死にたくねえ・・・しにたく・・・」




・・・大木ボム4本の飛び込んだ一番外側の部分は、もう滅茶苦茶だった。


壁という壁に細かい金属片が突き刺さり、きらきらと輝いている。


たまに綺麗な壁があったと思ったら、その前にはハリネズミになった死体かそろそろ死体になりそうなチンピラが転がっている。




「ここには仕事はなさそうですね」




「だな。引き金引けるだけの力も残ってねえな、こりゃ」




呻くチンピラ共を横目に、この区画を通過できる道を探す。


役場から見た感じ、この陣地はバームクーヘン的な構造になっていた。


ということはこのまま進んでいけば『切れ目』にたどり着けるはずで―――




気配が、する。


俺と石川さんは素早く視線を交わし、左右に若干別れた。




「『何をしている!動けるならとっとと動け!』」




「『半死人なぞほっておけ!銃撃は役場方面だが、最初の爆発は後方からだ!!』」




地面を蹴り、幸運にも金属片の刺さっていない壁面を再び蹴る。


普通に跳躍するより、さらに上空へ跳んだ。




「『とにかく、何人いるか知らんが蜂の巣にして―――』」




何事か喚きながら飛び出してきた駐留軍・・・いや、『レッドキャップ』


彼ができたことは。中空に浮かぶ俺を見て口を大きく開いただけだった。


手に持ったライフルは、俺を照準することもない。




「『―――は?』」




それが、彼の遺言となった。




涼やかな風鳴りを伴った大上段からの振り下ろしは、彼の額から入って顎下から飛び出す。


俺が着地すると同時に、もう1人の兵士がこちらを見た。




「『な、に!?て、敵ッ―――』」




その動きは先程の犠牲者よりもいくらかマシだが・・・それでも遅かった。


彼のライフルの銃口は、俺へ向けて動いている。




横から飛び出した、石川さんへではなく。




「『っぎゃあ!?』」




突進の勢いをそのまま凝縮したような速く鋭い蹴りが、グリップを持つ右手に直撃。


瞬く間に手首をへし折り、持ち手を失ったライフルが宙に浮く。




「ッセィイ・・・ハ!!!」「ギャバ!?」




そして、蹴り足が引かれたと同時に貫き手がその喉に突き刺さった。


兵士は一瞬痙攣し、全身から脱力した。


・・・首の骨が折れたな。




「確かに、そこらのチンピラよりゃあ反応がはえぇな」




「撃たれないように気を付けましょうか」




マトモに出会ったら撃たれてたかもしれない。


普通、敵が空にいるとか思わないもんな。




「このまま道なりであります!内側への入口は!」




式部さんの声に頷き、血振りして歩き出した。


ここはバームクーヘン的な構造であるので、先は若干見通しにくい。


さっきみたいな接敵もあるかもしれんので気を付けよう。




「おい・・・なんだ、てめえら・・・おい・・・」




「宅配便でーす。ハンコは結構」




壁に身を預けあえいでいるチンピラにそう答えて先に進む。


綺麗に両腕が吹き飛んでいる、あえてトドメを刺す必要はなさそうだ。




「・・・来るぜ」




石川さんがそう呟くと同時に、俺達は地に伏せる。




「『よりによって無線をやられるとは!予備を早く―――』」




「『おい!衛生兵!衛生兵はどこ―――』」




背後から連続した銃声。


たった今喚きながら飛び出してきた2人の兵士は、頭から血の花を咲かせて倒れ込む。




「『いる!こっちにもいるぞ!!応戦!応戦!っぎゃ!?』」




続いて銃だけがこちらへ突き出されるが、引き金を引くより先に手から血が噴き出た。


僅かに見えた生身の部分を狙撃・・・神崎さんか式部さん、相変わらずの腕前だ。




「俺がまず上から行きます!」




「応!」




新手が来ないうちに走り、通路脇のコンテナに飛び乗る。


それを足がかりに、フェンスの頂点へ片手をかけて体を持ち上げた。




式部さんが後から投げ込んだ爆弾によって、その内部も結構な惨状であった。


だが2本しか飛びこまなかったので、生き残りはまだ多い。


兵隊に、チンピラ。


どちらも銃を持っており、壁の切れ目にそれを向けながら日本語や英語で喚き散らしている。




そいつらがさっき死んだ3人の方へ意識が向いている隙に、音を立てず空中に身を躍らせた。




「『っが!?』」




最後尾の兵士。


飛び降りながらの振り下ろしは、背中を向けた彼の肩口から入り・・・鎖骨を切断しながら肋骨2本を巻き添えにした。




「っ!?な、なんだこいつはぎゃ!?」




その前にいたチンピラに向け、半ば息絶えた兵士を思い切り蹴り飛ばす。


血だらけの兵士との正面衝突に、その動きが止まった。




「しゃあッ!!!」「ぇば!?」




刀を寝かせながら引きつつ、踏み込んでの突き。


兵士の首を掠めた切っ先が、チンピラの喉を真っ直ぐ貫いた。


痙攣するチンピラから刀を抜き、深く体を沈める。




止まるわけにはいかない。


動きを止めれば、あっという間に蜂の巣だ。




「『っあそこだ!撃て!撃て!』」




「よくもハラダさんをッ!!この野郎!!」




死体2つが、銃撃によって小刻みに揺れる。


いくつかの銃弾が『盾』を貫通するのを感じながら、地面すれすれを走る。


限界まで、体を低くしながら。




「『なんだ、コイツ!』」




「止まれよちくしょっ!?ああが!!がああああああ!!!」




投げた棒手裏剣が、チンピラの腹に着弾。


ライフルの狙いがブレ、壁に跳弾。




兵士の方は冷静に狙いを定めようとしている。




が、遅い!




俺の姿勢があまりに低く、照準に戸惑っているその数瞬に―――間合いに入った!


疾駆の体勢から、回転へ。




「ぬぅう・・・あああっ!!」




「ッギャア!?」




地面すれすれの横薙ぎが、アーミーブーツに包まれた足首を8割がた切断する。




痛みと物理的な問題から、ライフルの狙いは外れる。


だが引き金に指はかかったままだ。




「はぁっ!!」「~~~~ッ!?!?」




足首を薙いだ勢いを殺さずに、もう一回転。


片足の支えを失い、倒れてくる兵士をもう一度斬りつけた。


風を裂いた斬撃が、彼の右手首を切断する。




南雲流剣術、『ニ連草薙』




「あああ!!!あああああああ!!!!」




恐慌状態のチンピラが俺へ銃を向ける。


距離は5メ-トルほど。


その後ろには2人の兵士がおり、若干混乱しながらも俺を撃とうとしている


・・・おおう、突っ込むにはちょっと遠すぎるな。




―――だが、『敵は俺だけ』か?




「ッガ!?」




最後尾の兵士の脳天に、三鈷剣が垂直に突き刺さった。


ヘルメットをやすやすと貫通した切っ先が、口の中にチラリと見える。




「ッオ!?」




もう1人の兵士のこめかみに銃弾がめり込み、反対側から血と骨の破片を撒き散らしながら抜けた。




「っげぎゃ!?」




そして、残ったチンピラの右手の肘に蹴りが突き刺さった。


その可動域を無視し、曲がってはいけない方向へ曲がる。




「あぁああっ!!!」「ぉぶ!?」




そして裂帛の気合。


チンピラの横腹に右拳が文字通り『突き刺さった』


やつは体をくの字に曲げながら、血を吐いて吹き飛ぶ。




「御見事であります!」




俺と同じようにフェンスから飛び降り、式部さんが言う。




「いえいえ、助かりましたよ」




拳を振ってこびりついた血を落とす石川さんは、俺に向かってにやりと口の端を持ち上げた。


なんで正拳が肉体に突き刺さるんですかと聞きたかったが、やめておいた。


よく見れば、手の先端にクッソ鋭利な円錐状の鉄片が嵌まっているのが見えたからだ。


・・・ビックリした、マジで拳が貫通したかと思ったぜ。




「こちらの周囲にはもういませんね、恐らくミサイルの防衛に回っているのだと推測―――」




神崎さんの説明は、続く大声でかき消された。






「撤退!撤退!!目標完遂!繰り返す!目標完遂!!」






古保利さんのその声を聞き、俺達は来た道を戻る決意をした。


仕事が早すぎません?




「これで給料分の仕事はしたのかなあ、給料もらってないけど」




死体か死体未満を横目に、俺達は走る。


どうにも不完全燃焼気味である。


・・・いや、別に皆殺しにしたかったわけでもないんだけども。




「よく考えりゃあ、俺達は陽動じゃねえか。ハナからミサイルについちゃ、古保利サンがやる予定だったんじゃねえかな」




・・・石川さんの言う通りかもしれん。


そう言えばミサイルを壊せなんて指令は受けていなかった。




「爆発までそんなに時間はないであります!急いで!」




「推論はいつでもできますが、今は全力疾走するべきかと。役場までは逃げなければ」




返す返すもその通りである。


俺はお口チャックで走り続けることにした。






侵入した場所から外に飛び出した俺たちは、無言で走り続けている。


陣地を半周して見えてきた役場の2階からは、散発的なマズルフラッシュが見える。


ってことは、まだ敵が残っているらしい。




こっちより若干早く、恐らくは古保利さんチームが役場に向かって走っていく。


足速いなあ・・・しかもみんな姿勢のブレが極端に少ない。




そろそろく暗いゾーンに突入するので、息を切らしながら暗視装置をかける。


見慣れたクソミドリ視界が帰ってきた。




しばらく走り続けていると、2階の様子が見えてくる。


窓から突き出された無数の銃口と、それを構える装甲兵の方々。


うーん、あそこだけなんかアニメの世界みたいだ。


黒くてカッコイイ装甲服を着込んだ地獄の猟犬を思い出すなあ。




と、その中の2人がこちらに向かって手を振った後・・・交互に投げキッスの仕草。


・・・あれ絶対エマさんたちだろ。


なんか知らんが、気に入られたもんだよなあ。


息は苦しいが、それでも苦笑が漏れてしまう。






―――背筋に、寒気。






思わず振り向いた俺の視界に、『それ』が見えた。




俺や式部さんがしたように、フェンスに登り・・・何かを構える黒ローブの、姿。


あいつら!悉く邪魔にしかならねえなオイ!!




「ヤバい!フェンスの!上に!敵が!バズーカみたいなもんを―――ッ!?」






―――瞬く間に、それらは起きた。






ミサイル陣地の中央から、目もくらむばかりの閃光と吹きあがる爆炎。






何かを構える黒ローブが、それに飲み込まれるように仰け反る。






そして、死ぬ寸前のやつが持っていた筒状の物体から・・・火を噴いて何かが飛び出す。






それは当初の狙いからはまるで別の・・・俺たちの頭上を飛び去る軌道をたどり―――






「逃げろ!逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!」






俺が叫ぶのとほぼ同時に、役場の2階に飛び込んで炸裂したのだった。

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