44話 突撃計画のこと
突撃計画のこと
「や、いらっしゃい」
神崎さんと一緒に富士見邸の門をくぐると、いつものように古保利さんが自然体で迎えてくれた。
「・・・何してんですか?」
「何って・・・見ればわかるでしょ?掃除だよ掃除。無断とはいえ間借りしてる身分だからねえ」
彼は立派な箒を持ち、玄関先の枯葉を集めている。
「なるほど・・・ひょっとして今日の用事って掃除の手伝いとかですか?」
見れば、庭の方では自衛隊と駐留軍の皆様もめいめい掃除に勤しんでいる。
池までさらって、なかなか本格的だ。
あ、ライアンさんもいるな。
「いやいや、さすがにそれはないよ。とりあえずここらで打ち切るからさ、中で待ってて」
そう言うのでお言葉に甘え、俺達は古保利さんの横を通って玄関を開けた。
手伝う程のことでもなさそうだな。
「いらっしゃいませ!であります!」
「おはようございます式部さん」
「おはようございます、陸士長」
玄関の土間を上がった所に、かわいらしい三角巾を付けた式部さんがいる。
その手にはハタキ。
・・・内部も掃除に余念がないらしいな。
ここがピカピカな理由、よくわかるなあ。
「お茶を淹れますので、居間で少々お待ちください!」
とのことなので、勝手知ったる他人の家・・・待つことにした。
居間に入ってすぐに、違和感。
「壁の写真まで綺麗になってる・・・うお、仏壇もだ」
古ぼけた感じだった歴代ご先祖様の写真がクリアになっている。
埃を払って綺麗に拭いた感じだ。
仏壇も整えられ、以前のちょいとくすんだ感じも見られない。
「以前来た時と比べて窓も綺麗になっていますよ、田中野さん」
「うわ、ホントだ」
庭がくっきり見える。
・・・暇な時間は掃除しまくってたのかな、皆さん。
来るたびに綺麗になるなあ、ここ。
「・・・この騒動が終って富士見さんがなんかの拍子に戻ってきたら、ビックリするでしょうねえ」
「荒らされているならありそうなものですが、ここまで綺麗になっているとそうでしょうね」
〇本昔話にありそうなオチだな。
困っていた動物に家を貸したらめっちゃ綺麗になってた・・・とか。
まだ式部さんは戻らないので、綺麗になった室内を観察する。
「うわあ、ここ・・・美人とイケメン揃いの家系だったんだなあ」
以前はあまり見えなかった白黒の家族写真。
掃除のお陰でクッキリ見えるようになったからよくわかる。
10人ほどが写っている写真は、ほぼ全てが見目麗しい面々で構成されている。
富士見家・・・顔面偏差値高いなあ。
「そ、それでしたら田中野さん・・・写真の中の女性で・・・その、誰が一番好み、ですか?」
「え?好み・・・うーん・・・」
暇を持て余してか、神崎さんが珍しい話題を振ってきた。
好み・・・好みねえ。
並んだ写真を1つ1つ確認してみる。
「そうですねえ・・・右から2番目の人かなあ」
写真の並びからして、今からざっと半世紀以上は昔の写真だろう。
そこには、袴を着込んで薙刀を持ったお姉さんが写っている。
「そ!そうですか・・・!ちなみにどこがお好みですか!?」
神崎さん、えらく食いついてくるな・・・
まあでも、こういう話って盛り上がるもんな。
俺も学生時代友人たちとアイドルで誰が好きか~なんて話しでキャッキャしてたし。
「たすき掛けが綺麗ですし、自然な立ち姿ですからね。薙刀の持ち方も緩すぎず硬すぎずで、即座に対応できそうな感じがカッコいいなあって・・・」
「・・・あの、顔の造形ではないんですか?」
・・・顔?
ううーむ、顔か。
「・・・普通に綺麗な人ですね、そういえば」
三つ編みがよく似合っている。
いや、よく見ると綺麗だが少し目つきが鋭すぎるかな?
かなり気の強い女性だったんだろうか。
・・・結婚していたとすると、旦那さんは大変だったろうなあ。
「・・・ふふ、田中野さんらしいですね」
なんか神崎さんの機嫌がむっちゃいい。
なんでだろう。
「流石一朗太さんでありますな~」
タイミングよく式部さんがお盆を持ってやってきた。
・・・今の聞かれてたのか、ちょいと恥ずかしいなあ。
「だいたい、俺が他人の美醜をどうこう言える顔じゃないですしね。今は傷のお陰でもっとアレですし」
「もっともっとカッコよくなっておいでですしね!一朗太さんは!」
「そうです!そうです!!」
・・・褒められたけど2人の好みが心配ですよ俺ァ。
いやでも、このフェイスの延長線上には某宇宙海賊がいらっしゃると思えばおかしくはない・・・のか?
あの人は男の俺から見てもカッコいいし・・・
「一朗太さん、一朗太さん!」
お茶を置くなり横に座ってきた式部さんが勢いよく問いかけてくる。
「ハイハイ、なんでございましょ」
そう聞き返すと、式部さんは少し顔を赤くして答えた。
「あ、ああああの、一朗太さんがけっこn」
「やあやあごめん、お待たせしたかな・・・式部ちゃん?それは名義上でも決して上官に向けてはいけないジャンルの視線なんだけど?」
式部さんの話を遮るように、タイミング悪く襖が開いて古保利さんがやってきた。
若干顔色が悪くなっているように見える。
「・・・えーっと、式部さん?何のお話でしたっけ?」
「上官キャンセルであります・・・また今度にするであります・・・」
さっきまでの様子とは真逆に、死んだ目をした式部さんが薄笑いで答えた。
一体何を聞こうとしていたのか。
神崎さんは、かわいそうなものを見るような視線を向けている。
「・・・あーなるほど・・・式部ちゃん、ゴメンね?今度埋め合わせするからさ、融通利かせるよ?」
「・・・ご配慮、感謝するであります三等陸佐・・・じぶ、自分は貝になりたいであります・・・」
式部さんの顔色が変わりまくっていて不謹慎だがちょっとかわいいと思ってしまった。
「さて、今日ここにキミを呼んだ理由は他でもない」
なにやら元気がなくなった式部さんが新しいお茶を淹れ、仕切り直しとなった。
居間のテーブルを挟んで向かいに座った古保利さんは、お茶で口を湿らせると話し出した。
「そろそろ中央地区にカチ込もうと思ってね・・・だいたい情報も集まってきたし」
そうだろうとは思っていたが、いよいよか。
戦いの予感に、一瞬で身が引き締まる。
「どう攻めるんです?」
「うん、まあこれ見て」
テーブルの上に地図が広げられる。
中央地区と・・・北地区をクローズアップしたものか。
その地図には手書きで様々な情報が書き込まれ、今までの偵察の成果が実感できる。
「まず第一・・・というか、この作戦のメイン目標はミサイルシステムの破壊だ」
中央地区・・・『牙島総合病院』と書かれた箇所のちょい東に、古保利さんが指を置く。
「とにもかくにも、ここに配置してある『マーヴェリック』をどうにかしない限り話は進まない」
「海上輸送もままならない状況ですもんねえ」
島の人を避難させようにもどうにもならんしな。
・・・あ、そうだ。
「あの、ヘリとか手に入るかも・・・みたいなこと言ってましたけどどうなりました?」
駐留軍の基地から回収するとか前に言ってたことを思い出した。
「あー・・・現状無理」
古保利さんは苦虫を噛み潰したような表情だ。
「あれ、そうなんですか。ゾンビがむっちゃいるとかそういう・・・え?マジなんすか?」
俺が話している途中で、その表情はますます暗くなった。
「・・・うん、キミと二等陸曹には話しておこうかな。駐留軍の基地なんだけどね・・・白黒まみれな上にヘリだけぶっ壊されてるんだよねえ」
・・・今明かされる驚愕の事実。
「基地は塀で隔離されてるんだけど、内部はそうなってんのさ。明らかに人為的に、ね」
「・・・それは、『レッドキャップ』が?」
「そこまではなんとも・・・だけどまあ、やれそうな連中はそれしか心当たりはないなあ」
こっちが回収する可能性を見越して、先回りして妨害した・・・ってことか?
そんなことして一体何の目的が・・・
「・・・三等陸佐、詩谷駐屯地はどうですか?脱出の時にはヘリも確認できていましたが」
黙って聞いていた神崎さんが質問する。
お、そっちもあったなそう言えば。
「そっちは純粋にゾンビの数が多すぎるんだ。隣の繁華街からなだれ込んできているらしくってね・・・大まかに確認したら1万以上はいる」
おいおい、そんなにかよ。
詩谷の人口の10分の1ってところか?
いくらノーマルゾンビが雑魚とはいえ、それだけの数なら脅威過ぎる。
全部掃除するのも時間がかかるだろう。
「隔離して殲滅するにも、何をするにも時間が足りない・・・よって、今のところは現実的じゃない。もっとも、詩谷駐屯地の方では無傷のヘリは確認できているけどね」
「さほど時間に余裕はない・・・ということですか」
「だね。奴らは今のところミサイルを発射する様子はない。ないけど、攻撃に転用されるとこっちには防ぐ手立てはないんだ・・・迎撃用の兵器は手元にないしね」
どっかの東郷さんみたいな凄腕スナイパーでもいれば別だが、そんな人外は現実にはいないもんな。
・・・なるほどね、今の状況って結構きついんだな。
何故か『レッドキャップ』が引き籠ってるから今のところは問題ないけど・・・
「・・・田中野くん、奴らはゾンビを制御しようとしているよね?」
古保利さんが聞いてきた。
「キミやモーゼズさんに聞くところ、まだ成功するような状況ではないけど・・・『それを研究しているとしたら』?」
「・・・あのネオゾンビを使って、龍宮や詩谷に攻め込むってことですか?」
「さて、そこまではわからないけどね・・・だがもし、そうなら大惨事だ」
しいん、と居間に静寂が満ちる。
「1体なら今までのデータを元に、ある程度の練度がある隊員に囲ませれば・・・犠牲は出るがなんとか対処できるだろうね。でもこれが複数なら?民間人しかいない区画に送り込まれたら?どうだろうね」
・・・それは、えらいことだぞオイ。
俺もあんなのに複数同時に来られたら控えめに言って地獄だ。
「さらに、だ」
古保利さんが指を組んで顔を俯かせる。
どこぞの指揮官めいたポーズで、重苦しく言葉を絞り出した。
「―――ゾンビってさ、感染するんだよね」
・・・そうだ。
そうだった。
ノーマルゾンビでも一番の脅威はそこだった。
よしんば、ネオゾンビなら・・・
「・・・ネオゾンビや黒、それに白黒は、脳の謎虫もいっぱいいるんですよね・・・ひょっとして、感染する・・・いや『増殖』するペースも・・・?」
「かもしれない、ねえ」
・・・想像してみる。
縦横無尽に暴れ回るネオゾンビ。
そいつが、より強い増殖能力を持っていたとしたら。
戦えない民間人は死ぬか、運よく生き残ってもゾンビになる。
ゾンビはさらに次のゾンビを発生させ・・・倍々ゲーム方式で増えていく。
詩谷や龍宮という、この近辺では最も人口の多い地区で。
「・・・ヤバいですね、ヤバすぎて語彙が消滅する程度には」
「だろう?ヤバいついでにもう一つ追加情報を提供しようか」
そう言って古保利さんがテーブルに置いたのは、一枚の写真。
「いやあ、苦労したよ・・・坑道が使えないから山のてっぺんまで登ってコレ撮ったもん」
昼間の写真だ。
望遠レンズで撮られたそれには、ミサイル陣地の様子が写っている。
トラックと鉄板、フェンスなどで円状に囲われた中心には・・・目標であるミサイルの発射トラック。
荷台にサイロを持つその車両の周辺で、何人かの駐留軍・・・いや『レッドキャップ』が作業中のようだ。
「これ・・・は、パラシュートかな?」
映画で見るようなパラシュートらしきものがトラックの周辺に。
そして、中が空洞になっているデカい筒のようなものがいくつか。
なんだろう・・・人くらいなら楽に4人ほどは入れそうに見えるけども。
・・・『人くらいなら』?
「・・・これに、ゾンビを入れて発射するとでも?」
神崎さんが、乾いた呟きを漏らす。
「さあて、どうだろうねえ・・・だけど、もしそれが可能だとしたら・・・ねえ?」
からかうような古保利さんの口調に、俺達は答えることができなかった。
・・・ネオゾンビをミサイルに乗せて発射する、か。
普通の人間なら衝撃でお陀仏だが、アイツらならどうだろう。
あれほどの防御力を持つなら、パラシュートで減速させれば問題ない、のか?
「もし、成功したとしたら・・・笑えないだろう?」
コレが使えれば、奴らは牙島を一歩も動かずに目的地を殲滅できる。
ネオゾンビがどうかは知らないが、ゾンビは泳げないので・・・橋が使えない今の牙島なら、無敵だ。
増えたゾンビが攻め込んでくることは考えにくい。
っていうか、こんな武器?を考える以上・・・あっちはネオゾンビが泳げるかどうかなんてとっくに研究しているんだろう。
「・・・これは、潰さないと、ですね」
今までのゾンビでもそこら辺の人間には脅威だ。
この上ネオゾンビが襲来したとしたら・・・
もし、友愛や御神楽に直接コレが撃ち込まれたとしたら・・・
新や、志保ちゃん・・・高山さんに、璃子ちゃんの友達たち。
あの子たちが、ネオゾンビの脅威に晒されたら・・・!
そこまで考えて、背筋に震えが走った。
―――そんなことは、させない。
「田中野さん・・・」
神崎さんが心配そうに呟く。
また怖い顔になっていたんだろう。
「・・・やりましょうか、古保利さん。俺も微力ながら・・・全身全霊でお手伝いしますよ」
無言で神崎さんが手を握ってきた。
・・・わかってますよ、相棒。
式部さんも同意するように頷いて・・・そのクッソ下手なウインクはなんですか?前の仕返しですか?
「ふは。いい返事だね、こちらこそお願いするよ」
古保利さんはにやりと笑い、再び地図を指差した。
中央地区と南地区を繋ぐ坑道の部分だ。
「侵入はここから。前に言ったようにね」
「あの、さっき言ってた山のてっぺんは駄目なんですか?」
「駄目。向こう側の山肌が落石防止のコンクリで固められてる・・・丸見えになってあっというまに蜂の巣だ」
・・・そりゃだめだな。
鴨撃ちと変わらない。
「幸い向こうは坑道の知識はほぼゼロ。知っていても新しいやつくらいのもんだろう・・・僕たちのアドバンテージはそこにある」
続けて、以前にも見たことのある古い坑道図を取り出す古保利さん。
「前に黒の大群が出てきたここから入って・・・途中の分岐を下へ降りる」
昔の坑道だろうか。
書かれている文字が古いし、何より手書きだ。
「このルートを通って前進し・・・中央地区のここに出る」
古保利さんの指は中央地区の境目を越え、ミサイル陣地すらも越えて・・・なんとその先の市役所の下で止まった。
「こんなに先まで続いてるんですか」
「降りる箇所は昭和初期に封鎖、前進するところはなんと明治末期に封鎖された箇所だよ。ははは、歴史巡りだね、まるで」
・・・大丈夫なのか、それ。
いや、歩くのはいいんだけどたどり着く前に酸欠で死んだり崩落で死んだりは御免だぞ。
「心配してるねえ・・・ま、一応は大丈夫さ。虎の子の戦術ドローンで調査済みだよ」
かがくのちからってすげー!
・・・ま、当たり前か。
この人がぶっつけ本番なんてやらないよなあ。
「この坑道の出口は旧牙島役場・・・現在の牙島役場の地下2階に繋がってる。封鎖はドローンで確認する限り簡単な形状の南京錠と2つのドアだ」
「役場のお偉いさんの避難経路か何かだったんですかね?しかし・・・なんで埋めなかったんだろう」
入れない坑道なんてあっても地盤とか緩くなって危ないだろうに。
ちゃっちゃと廃棄すればよさそうなのにな。
いや、現在の俺達にはありがたいんだけど。
「ああ、それは単純明快。カネがないからだよ」
・・・急に世知辛くなってきやがったな。
「坑道を埋めるなんて大金がいるからねえ・・・特に牙島の鉱山は落盤事故もなかったらしいし、安全だからほっとこう・・・ってなったんじゃないかな」
「あーなるほど・・・逆に危険だったら多少無理しても埋めちまおう、ってなりそうですもんね」
安全だからこその放置、か。
・・・今はいいけど、将来的に大丈夫なんかな。
俺には関係ないが。
「さて、侵入経路はわかったね?それじゃあ肝心の作戦を説明していくよ~」
古保利さんがまた新たな紙を取り出す。
これは・・・役場の図面か。
「ここから侵入した後、1階部分まで進む・・・役場内をクリアリングした後、この場所で夜を待つ。ミサイル陣地とここは離れているから、消音した銃声くらいじゃ気付かれないよ」
ってことは夕方くらいに到着予定なのかな。
「役場の防衛と『マーヴェリック』の破壊、ここで隊を2つに分散し・・・速やかに目標に接触。十分な量の爆薬をセットした後、離脱・・・っていう寸法さ」
聞くだけなら簡単そうだが、実際のところはどうだろう。
「勿論戦闘も予想されるけど、今回の目標はあくまで『マーヴェリック』の破壊だ。偵察したところ、奴らの所有するミサイル発射機はこれ1台・・・なんとしてもこれを叩く必要がある」
ソイツさえなんとかすりゃ、後は殴り合うだけだしな。
おおっぴらに詩谷や龍宮から援軍も来れるようになるし、大分こっちに有利になる。
ヘリとかがないのは残念だけど、ないものねだりをしても仕方がない。
「・・・なるほど、わかりました。で、俺は何をしたらいいですか?まさか役場で防衛・・・なんて言いませんよね?正直足手まといになりますよ、それだと」
銃の腕前なんてからっきしだしなあ。
「勿論・・・なんだけど」
古保利さんはそう言うとひと呼吸置き、俺を真剣な目で見つめた。
「くどいようだけど、キミは民間人・・・こんな危険な作戦に参加することはないんだよ?」
「・・・民間人にしちゃ、ネジが外れすぎてますけどね。今更でしょう?俺は初めから参加しないなんて気はサラサラないですよ」
そう言い返すと、古保利さんは諦めたように苦笑い。
「・・・そうかい、わかったよ。ではキミ・・・というより『チーム田中野』は若干の別行動を取ってもらう」
何か急にクソダサチームが結成されたんですけど!?
「メンバーは田中野くん、神崎ちゃん、式部ちゃん、そして前回の石川氏だ。どうせ彼も参加するんだろう?」
・・・石川さんも絶対参加するな。
『仇敵』がどこにいるかわからないんだ、可能性があるなら絶対に来るって言うだろう。
たぶん言わなくても察知して付いてきそうだ。
神崎さんたちまで巻き込むのは・・・うん、今更か。
心苦しさはあるが・・・それでも頼らせてもらおう。
そこまで考えると、当の神崎さんたちがドヤ顔で頷き合っているのに気付いた。
『良い心がけです』みたいな顔してんな。
・・・俺の表情って超読まれやすい。
「役場までは僕たちと一緒に行動してもらうけど・・・ミサイル陣地への突撃は若干遅らせてもらう」
古保利さんは役場から一直線に指を動かす。
「まず本命の僕らが正面から突撃し、ドンパチを開始する。それが始まったらキミたちは反対側に回り込んで突撃・・・僕たちが陽動だと向こうに誤認させる」
ふむふむ。
「そして敵の注意を双方で交互に引き付け、その混乱に乗じて僕と腹心の部下が『マーヴェリック』に爆弾を仕掛ける。爆弾が解除されることも考えられるので、離脱までに可能な限り本体へダメージも与えつつね」
それは・・・さぞ大変な盛り上がりになりそうだな。
「その目的が達成され次第、速やかに撤退。役場に集合し、地下の扉、そして坑道を爆破しつつ南地区まで逃げる・・・と、まあこんな感じかな」
地下坑道はこの1回限りで放棄すんのか。
ちょっともったいない気がするけど・・・追いかけてこられちゃ面倒だしな、仕方あるまい。
「・・・もし撤退する時に合流できなかったりしたらどうします?」
「ここ、まずはここに行く」
そう言って古保利さんはまた指を動かす。
そこは・・・バス会社?
「ドローンでの偵察によって、ここにはまだ動きそうな車両が残されているのが確認済みだよ。これを奪取して東地区まで逃走・・・海経由で南地区へ帰還するってとこかな」
「ここも駄目なら何とかして逃げるってことですか」
「うん、『レッドキャップ』は戦力をミサイル陣地に集中させているからね。後は北地区の防衛に残っているんだろう・・・西や東は手薄なハズさ。そして東地区は・・・キミとモーゼスさんが確認した通り、ゾンビも減って・・・いや『減らされて』いるからね」
そう聞くと、西に逃げるより東の方が生存確率が高そうだな。
まあ役場から逃げられるのが一番いいんだけどさ。
「『レッドキャップ』の戦闘力は高いけど、その部隊の性質上人員はさほど多くないんだ。武器は潤沢だけどね」
「・・・写真を見ると、むっちゃ人がいるっぽいんですけど」
10人や20人じゃねえぞ・・・あ、もしかして。
「見かけだけさ。鍛治屋敷が『スカウト』した人員が大部分だろうね・・・歩哨に立っている連中なんか、明らかに練度が低いよ」
「自分も一度確認しましたが、『立って銃が撃てればよし』というくらいの練度でありました!」
式部さんも偵察してたのか。
いっつも家にいると思ってたけど・・・流石は有能ニンジャだな。
「とまあ、こんなところかな?何か質問ある?」
背筋を伸ばして首を鳴らす古保利さん。
「いや、特には。やることは単純ですし」
「うん、まあそうだよね・・・あ、誤射防止にこの印を付けてもらうからね。当日はヘルメットか何かに巻きつけといて」
そう言ってテーブルに広げられたのは、何の変哲もないバンダナだった。
「特殊な塗料をしみ込ませてあるんだ。暗視装置越しで見るとクッキリ光って見えるんだよ」
はえー・・・そんな便利なものがあるのか。
「忘れるといけないから決行前、ここに集合した時点で渡すからね。・・・うん、今日はこんな所かなあ」
しくじると死ぬ計画の割に、結構単純なんだな。
まあ複雑だからいいというものでもないんだけども。
「あの、それで決行はいつになるんですか?」
肝心なことを聞くのを忘れてた。
「あー・・・1週間後でどう?来れそう?」
「・・・だからバイトの面接じゃないんですってば!」
軽いなあ。
っていうか1週間も置いといて大丈夫なのか?
「24時間体制で部下が偵察してるからねえ。何かあれば前倒しになるけど・・・ま、気構えだけはしといてよ」
「了解です。生ものは食わないようにしときますよ」
肝心な時に腹痛で動けませんとか洒落にもならんし。
「ははは、正〇丸の在庫はあるから何かあったらあげるよ」
「後顧の憂いが消えましたね、それで無敵です」
あの薬があるなら何も心配いらんな。
「さて、神崎ちゃんも式部ちゃんも質問はないようだし・・・これでお開きとしようかな」
「はい、呼称以外は問題ありません」
「自分もいい加減階級名で呼んで欲しいであります、もはやセクハラであります」
2人の視線が絶対零度だ。
それを受けて、古保利さんは2人を部屋の隅へ呼んだ。
なんだろう、恨み言かな?
「(・・・キミたち田中野くん以外へのアタリほんっとにキツイよね・・・僕はいいけどさ、龍宮の他の隊員にはもっとこう・・・優しくしてあげて?僕まで苦情が来るんだけど)」
「(前向きに善処しますが、向こうの態度に問題があるかと。ここにいる方々は別ですが、あちらにいる何人かは風紀が乱れていますよ)」
「(気が向いたら考えるであります、でも龍宮の若干名は視線がいやらしいので不快であります。寄ってきたら抉るであります)」
「(・・・駄目だこりゃ。もう嫌だ、田中野くんに押し付けよう、この先もずっと)」
「(そ、それは魅力的な提案ですね、三等陸佐)」
「(で、あります!積極的にそうしていただきたいであります!)」
何事かぼそぼそ話し込んだ後、古保利さんは無茶苦茶疲れた顔をして俺の方へ。
「・・・一層の、奮励努力を、望む。頑張ってね、お侍さん」
「・・・へ?」
何がでござるか!?
俺の困惑をよそに、神崎さんたちは嬉しそうに微笑んでいた。
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