45話 嵐の前の平穏のこと
嵐の前の平穏のこと
『ね、ね、おじさん。牙島ってどんなとこ~?』
「ん~・・・島だね」
『知ってるよォ!?』
「ごめんごめん」
あの作戦会議から翌日。
俺は通信機で高柳運送の璃子ちゃんと話している。
時刻は午前10時、前もって取り決めた定時連絡である。
今日の当番は璃子ちゃんのようだ。
基本的に何もなければ、この役は子供がやっている。
現にこの前は葵ちゃんだったし。
定時連絡とは言うものの・・・実質俺とのコミュニケーションのようなものだ。
いまだに帰れていないので、少しでもご機嫌取りをしつつ話をしておきたいのだ。
・・・万が一、いや億が一・・・俺が帰れなかった時のためにも。
そんなつもりはサラサラないんだけどな。
「どんなとこって言われてもなあ・・・俺もまだ全部見たわけじゃないし。あー、でも海はとっても綺麗だな、魚もよく釣れるし」
『いいないいなー、おじさんばっかりバカンスしてぇ』
バカンス・・・バカンスの定義が壊れていく。
半死半生で始まるバカンスなんて俺嫌だなあ。
自慢じゃないが、一般人なら絶対死んでる。
『こんなことにならなかったらさ、水泳部の合宿で行くはずだったのにな~』
「へえ、ここまで来るのか」
『うん!毎年恒例らしいよ?牙島3泊4日、遠泳地獄合宿って一部で有名みたいだけど・・・知らない?』
女子中高生に世界一似合わない合宿名だなオイ。
こんな海流がキツイとこで遠泳?
死人が出るぞ・・・
『船で並走してね、すっごく大掛かりなんだって~・・・やってみたかったな~』
「・・・俺はその並走する船で釣りでもしてるほうが性に合ってるなあ。ところで、そっちは変わったこととかない?」
一応、名目上は定時連絡だからな。
少しはこういうことも聞いておかないと。
『ん~・・・とね。キツネが増えた、かなあ?あと、タヌキも!かっわいいんだよ!』
つまるところは平和ということか。
素晴らしいね。
『それ以外だとね・・・何組か保護してくれって言いに来た人がいるくらい?かなあ』
「いやいやいや、そっちがむしろ本題でしょ」
・・・龍宮経由で何も聞いていないってことは、ドンパチはなかったってことなんだが・・・
「大丈夫だったのか?」
『うん!ナナおじさんがお話したらすぐ帰っちゃった!』
「あー・・・」
そりゃなあ。
あの人が八尺棒持って立ってたら、想像を超えるアホじゃない限り回れ右するだろうし。
『前に来たみたいな人じゃなかったし、詩谷の方に行ったらいいってナナおじさんもアドバイスしてたよ』
「先輩がそう言うってことは、普通の?避難民だったか・・・そりゃよかった」
高柳運送、原野じゃ目立つからなあ。
おまけに門も立派だし、電気柵も完備。
外から見ればさぞ魅力的に見えるだろうなあ。
「なんにせよ、変わりないようでよかったよ・・・俺もまだちょいと帰れそうにないし、心配でさ」
『大丈夫大丈夫!こっちはモンドのおじいちゃんとかも来てくれるしね!おじさんもしっかり体を治して帰って来てね!』
「そうか、おっちゃんもいるんだったな。ははは、心配するだけ無駄かもね」
『そーそー!むしろ心配なのはおじさんの方だからねっ!!』
「ぎゃふん」
確かにそうかもしれん・・・
これは一本取られたな。
『あーっ、もうこんな時間かあ・・・ナゴリオシイけど、またねおじさん!』
話し込んでいると結構な時間が経ってしまった。
俺もそろそろ稽古の一つでもしておこうかな。
あ、釣りにしよう。
稽古は夜だ。
昼飯に魚が食いたいしな。
「ああ、みんなにもよろしくな」
『はーいっ!』『わおん!ぎゃわん!』
うおっ!?
いたのかサクラ・・・
今のは『まだ帰ってこないんですかァ!?』みたいな感じかな?
ううう、すまぬ娘よ。
おとうちゃんはまだ帰れそうにないのだ。
通話の終わった通信機に、俺は軽く両手を合わせて拝むのだった。
・・・帰ったら俺の顔忘れてたりしないよな?頼むぞサクラ。
「みゅぐぐぐ・・・」
「おいおい、大丈夫か朝霞」
通信が終ったあと、居間に戻るとそこには何故か布団にくるまっている朝霞がいた。
「どうしたんだ一体、調子でも悪いのか?」
「ぴえん・・・にいちゃあん、あたま撫でてえ・・・」
朝霞の顔色が真っ青だ。
隣に座って頭を撫でると、若干顔色はよくなったが・・・
「マジでどうしたんだよ、昨日は元気だったじゃないか」
いつも通り風呂に乱入してきてたし。
何回言ってもやめないからもう最近は諦めている。
神崎さんの目が怖いのが難点である、ゆるして。
「あーしもう駄目かも・・・にいちゃんギュってしてぇえ・・・」
弱々しい声を出しながら、朝霞は腕に縋り付いてくる。
力が・・・弱い!?
どうしたんだおいおい。
鬼の霍乱ってやつか!?
「はっは、気にするなイチロー」
オロオロしていると、台所からアニーさんがニヤニヤしつつやってきた。
その後ろには、どこか呆れたような顔をしたねえちゃんも。
「そうよお、朝霞ったらもう・・・」
「ねえちゃん、朝霞はどうしたんだよ?」
ねえちゃんに聞くと、ため息とともに答えが返ってきた。
「ただの食べ過ぎよお」
・・・食べすぎ?
「アサカはな、倉庫の整理をしていたら出てきた・・・ホラ、これを朝から使ってな」
アニーさんが取り出したのは、どこか懐かしい道具だった。
色褪せた、デフォルメのきついペンギンの頭部から取っ手が出ている。
うわ!うちにもあったぞそれ!
「かき氷・・・ですか?」
「そうそう、カキゴオリ。確かに甘くて美味かったが、限度がある」
「この子ったら10杯も食べちゃってね・・・シロップも見つけたからって、もう・・・子供なんだから」
・・・心配して損した。
そりゃ腹も壊すわ。
「・・・お前、後藤倫パイセンといい勝負だな」
「あぐぅ・・・あーしのぉ・・・前でぇ・・・新しいオンナの名前、出すなし・・・出すなしぃい・・・」
新しいオンナってなんだよ。
しかし、よく名前だけで性別判断できたな、こいつ。
「しばらく転がしておけば治るから、いっくんは心配しないで」
「うん、そうする・・・釣りにでも行ってくるよ。じゃあな朝霞、養生するんだぞ」
「ぴえん・・・ぱおん・・・」
よくわからない鳴き声を発する朝霞を放置し、釣竿を求めて倉庫へ行くことにした。
「田中野さん、釣りですか?」
「・・・ええ、はい。凄いですね、それ」
「大物です!」
倉庫の裏の作業スペースで、ドヤ顔の神崎さんに遭遇した。
その横には、ワイヤーで吊り上げられた大きな女鹿の姿がある。
今まさに解体をしていることもあり、大迫力である。
皮が綺麗に剥がれている・・・金持ちの家とかにありそうな状態になってるぞ。
「これも燻製に?」
「一部は今晩の食卓に使ってもらいますけれど、そうですね!今晩は新鮮な鹿肉のステーキですよ田中野さん!」
それはテンションが上がる。
鹿は脂身がほぼないからジューシーさはないんだが、赤身が美味いんだよなあ。
噛み応えもあってまさに『肉を食っている!』って感じで。
「神崎さんのお陰で肉が食えます・・・ありがたやありがたや」
「お、拝まないでください!」
血塗れのナイフを抱えて恥ずかしがる神崎さん。
・・・凄い迫力だ。
「・・・前にも言いましたが、この周辺の山はほぼ手付かずの状況ですから。いくらでも狩れます、いいことです」
ほんと、『防衛隊』の連中も銃持ってたんだから狩りでもすりゃいいのに。
住民からカツアゲしかしてないもんな、あいつら。
元漁師のくせに、船が泣くぞ船が。
ま、半数以下になってすっかりおとなしくなったらしいからどうでもいいけど。
今度なんかやらかせば、しめやかに海の藻屑にされることだろうし。
「神崎さんが山の幸とくれば・・・俺は海の幸といきますか」
「頑張ってください!田中野さんならカツオでもマグロでも釣れます!」
「俺はトロール漁船の化身だった・・・?」
俺への評価と期待がデカすぎる。
せめて・・・せめてサバくらいで勘弁してくれまいか。
「作戦開始までにもう何頭か捕まえておきたいところですね、駐留軍の皆様にも英気を養っていただかないと」
「完全な俺の偏見なんですが、彼らってバーベキュー好きそうですよね」
「実際に好きなようですよ?ライアン軍曹が田中野さんも後日招待するとおっしゃっていました」
やはり好きだった!
なんか、でっかい機械で一日中BBQやってそうだよな、外人さん。
「私はここと西地区の間の山に入っていますが、彼らは東で狩りを行っています」
結構エンジョイしてんなあ、あっちも。
腹が減っては戦は出来ぬ・・・ってのは万国共通だな。
「では、行ってきます」
「はい、いってらっしゃい田中野さん!」
神崎さんは、勢いよく鹿の後ろ脚を斬り落としながら笑顔で見送ってくれた。
・・・大迫力ゥ。
色々あったが、釣り場についた。
今回はいつもとは違う所を選んだ。
定期的に変えないと魚が枯渇する・・・というわけではない。
なにせここらで釣り人は俺達だけだからな。
南地区の人たちも釣りくらいしているとは思うんだが・・・いかんせん家と家が離れているのでかち合うことはなかなかない。
ちなみにご近所さん(近所とは言っていない)に、俺は認知されている。
『本土から自衛隊を連れて来てくれた、荒川さんのできた親戚の子』という認識らしい。
・・・まあ、『防衛隊』の連中を殺したことは知られていないし、言うつもりもない。
住民の皆様には、自衛隊が奴らをおとなしくさせた・・・という感じて伝わっている。
以前から『防衛隊』の評判が地の底だったお陰で、相対的に俺の評価は高いらしい。
ありがたいことで、たまーに道ですれ違うとニコニコ挨拶をしてくれている。
奴らが娘さんにちょっかいをかけようとしていた家のお父さんなんか、『ありがとう!よく自衛隊を連れてきてくれた!ありがとう!!』なんてたいそう感謝をしてくれた。
・・・その後貴金属をくれようとしてくれたのは丁重に断ったが。
奴らに取られなかったのに俺にあげちゃダメでしょ。
「クゥン」
「おや、さっき声かけた時は寝てたのに。女心と秋の空だなあ」
釣りの準備をしながら考え事をしていると、なーちゃんが体当たりしてきた。
どうやら家からついてきたらしい。
気紛れなことだ。
この地区にはゾンビはいないし、なーちゃんは賢いので基本的に放し飼いなのだ。
他人の家を荒らすような事もないし、本当に賢いなこの子。
「俺はここらにいるから遊んできな。大丈夫だとは思うけど、針とかテグスには気を付けろよ」
「バァウ」
『大丈夫ですゥ~』みたいな声を残し、なーちゃんは波打ち際へ向かって行く。
その声の通り、俺が釣ろうと思っている場所からはしっかり離れている。
うーん、かしこい。
俺の周りの動物、賢い子ばっかじゃない?
サクラ、レオンくん、それになーちゃんだ。
・・・ソラ?
あの子はまだ子供だから・・・あれ?サクラもそうだよな?
突然変異だろうか。
まあいいか、釣りだ釣り。
刺身が食いたいからアジが釣れないかなあ。
とりあえず初手はルアーだ。
この島はどこへ行ってもバンバン釣れるから、ゆっくりやろう。
フグ以外なら何でも食ってやる・・・あ、ゴンズイもナシで。
ルアーは輝きが目に眩しいスプーンくんをチョイス。
それをキャストし、地球を釣らないようにだけ注意しつつ釣りを開始した。
「一朗太さん、一朗太さん・・・おやぁ?どうされましたか?」
「・・・この世の不条理を噛み締めている最中です」
珍しく昼間から式部さんがやってきた。
俺は力なく返事をし、釣果を岩に溜まった海水へ投げ込んだ。
フグ、フグそしてフグ。
あと何故かオニイソメ。
・・・オニイソメナンデ!?
お前夜行性の上に砂の中だろう!?
前はウミケムシだったが、俺は何かにとり憑かれているんだろうか。
とりあえずオニイソメはなーちゃんが噛まれると不味いのでしめやかに成仏させた。
ルアーで何も釣れなかったらぶつ切りにして餌にしよう。
でっかいゴカイみたいなもんだし、使えるんじゃないかな?
「フグが多いでありますなあ。何故でありましょうか?」
「俺への呪いかなんかじゃないですかね・・・それで、何かご用ですか?」
そう聞くと、式部さんは少しモジモジし始めた。
なんざんしょ?
「じ、実はぁ・・・その、お、オヤツでもいかがでありますか?」
背負っていたリュックを下ろし、式部さんはその中から何やら包みを取り出した。
ふむ、オヤツとな?
確かにちょい小腹は空いている。
「はい、どうぞであります!コーヒーも用意したであります!」
その包みから出てきたのは、綺麗なサンドイッチだった。
香ばしく焼かれたパンに、レタスと肉が挟まれているのが見える。
・・・おお!ゾンビパンデミック始まって以来のちゃんとしたサンドイッチじゃないか!!
「うわぁ・・・これ、式部さんが作ったんですか?あ、座ってくださいよ、一緒に食べましょう」
見れば結構な量がある。
さすがに昼飯前に喰うには多いからな。
「お肉は二等陸曹の作られた燻製で、レタスは加賀さんから頂いたものでありますが・・・それではお邪魔するであります!」
予備の椅子(アニーさん辺りが来るかなと思って用意しておいた)に座る式部さん。
ミチヨさんの野菜、美味いからなあ。
あれ?っていうことは・・・
「じゃあ、このパンは?自衛隊の缶詰ですか?」
「えへへ・・・それは自分が焼いたものであります」
「ふえー・・・すごい!市販品みたいだ!」
お高い喫茶店とかのメニューにありそう!
「実はパン作りが趣味でありまして・・・ちょうど探索で小麦が手に入ったものでありますから」
ちょっと意外。
普通の女性って感じだ。
・・・式部さんが普通じゃないってことじゃないぞ!?
戦闘力は普通じゃないけど!!
「じゃあ失礼して・・・」
香ばしい匂いが食欲をそそる。
一気にかぶりつくと、パリッとした感触の後に間違いない美味さがやってくる。
うん!最高!!
「・・・」
何故か俺をガン見している式部さんをよそに、しっかりと咀嚼して飲み込む。
肉もレタスも美味いが、なによりパンが美味い!
固すぎず柔らかすぎず・・・うん、お店の味だ!
「うまぁい!」
「・・・わぁ」
俺の反応を見ると、式部さんはにっこりと微笑んだ。
「美味しいですよ式部さん!保存食じゃないパンなんてほんっと久しぶりに食ったなあ・・・」
「そ、そうでありますか!?忖度はされていませんか!?」
なんでサンドイッチに忖度が必要なんだろうか。
「まさか!久しぶりだからなんとも言えないですけど・・・でも、この騒動前も総合して上位ランクの美味さですよこのパンは!」
「しょっ、しょうでありましゅか・・・えへ、えへへぇ・・・」
「ワゥウ・・・オゥン・・・」
式部さんはクネクネしながら、パンの匂いに釣られてやってきたであろうなーちゃんを撫で回している。
なーちゃんは顔をもみくちゃにされ、よくわからない鳴き声を上げている。
「こ、コーヒーもどうぞ!これも自分が淹れました!」
魔法瓶を取り出し、式部さんは満面の笑みだ。
それと同時に、何もついていないパンをなーちゃんに与えている。
なーちゃん的には・・・あの尻尾の大回転を見るに、大満足だろう。
暖かいコーヒーも美味い。
この組み合わせ・・・無限に食えるな!
「式部さんも食べましょうよ、美味しいですから・・・もっとも、作った人なら知ってるか」
「で、では自分も・・・」
そうして、俺たちは並んでサンドイッチに舌鼓を打つのだった。
しばしの休憩の後、式部さんも釣りに参加した。
今日は非番・・・というか、偵察の仕事はないらしい。
古保利さんはこの状況下でもそういうのに厳しいらしい。
『休める時には休まないと、人間は効率的に動けない』というのが信条らしい。
・・・俺の前職のクソ社長に爪の垢を煎じて飲ましてやりてえ。
「フィーッシュ!であります!」
「バウ!バウ!!」
式部さんが嬉しそうに竿を上げる。
テグスの先には・・・型のいいアジの姿が!
「オメデトウゴザイマース!!」
なお、拍手する俺の直近釣果はゴンズイである。
どうして。
悔しいから後でカラッと揚げて食ってやる・・・!
「釣り、楽しいであります!一朗太さんと一緒ならもっと楽しいであります!」
「いやー、そう言われると嬉しいですねえ」
1人の釣りもいいが、友達と一緒の釣りも楽しいもんな。
学生時代は何人かでよく行ったなあ・・・
藤本、平林、西中島・・・あいつら生きてるかな。
全員県外就職だもんなあ・・・無事だといいけど。
「そういえば、計画に変更はありますか?」
「ないであります。今の所イレギュラーは発生していないであります!」
「そりゃよかった」
牙島は今日も(比較的)平和らしい。
存分に英気を養おう。
「・・・そういえば一朗太さん、手裏剣をいただけますか?」
アジを生け簀へ放し、式部さんが急にそう言ってきた。
「え?いいですけど・・・またなんでです?遠距離武器は潤沢でしょう?」
手裏剣は倉庫にあった鉄板類で日々量産しているので、こっちの在庫も潤沢ではあるんだけど。
「自分のお守りであります。アレがあれば、自分はもっともっと強くなれるのであります」
お守り、ねえ。
随分物騒なお守りだなあ。
「・・・あの冬の日、フロントガラスを叩き割って自分を助けてくれた一朗太さんのように、強くなれるであります」
「若干の黒歴史なんですけどね、それ・・・もっとこう、スマートにかっこよく出来たらよかったんですけど」
ごり押しごり押し&ごり押しだったもん。
俺も大怪我したし。
今なら多少は格好良く助けられるとは思うが。
「いいえ、いいえ」
式部さんは、はにかみながら俺の目を真っ直ぐ見つめてきた。
潤んだ瞳に、俺の間抜け面が写っている。
「あの時の一朗太さんは、この世で一番格好良かったであります」
・・・超照れる。
そんな、ちょっと、〇ーベル映画のヒーローでも見るみたいな顔はやめていただきたい!
「・・・じゃ、じゃあもっと格好良くなれるように頑張らないといけませんね。頑張りますよ、うん」
「ひぅっ・・・」
決意表明したら何故か式部さんが振動した。
なーちゃんが『!?』って顔をしてるのが大変面白い。
ビックリしたのかな?
「い、一朗太さん、自分は―――」
「バウ!バウバウ!!」
式部さんが何かを言いかけたが、なーちゃんが猛然と吠えた。
どうした急に・・・って、おお!?
オニイソメくんの残骸を餌にしていた竿がとんでもない勢いで折れ曲がっている!?
「でかしたなーちゃん!これはでかいぞっ!!」
竿を握ると、重い手応え。
凄まじく重い・・・これは大物の予感だ!!
手応えからして地球を釣ったわけではなさそうだ!
動きはないが、ゆっくりと上がってきている!
「ふぬぬぬ・・・すいません式部さん、タモを取ってくださ、式部さん!?」
「ふふぅふ・・・バラもコスモスも枯れておしまいでありますよ・・・ふふぅふ」
なんで体育座りしてんですか!?
さっきまで元気だったのに、一体なにが!?
よくわからんが式部さんには頼れない!
俺が自分の力だけで釣り上げねば!!
「んぐぐぐ・・・があああ・・・こん畜生ぅう・・・!!!」
リールを必死で巻いていると、海面にぼうっと浮かび上がる影。
おお!でかい!
ひょっとしてクエとか!?
こんな時間帯に釣れるとは思わんが!それでも大物には変わりあるまい!!
「バウ!ワゥン!!」
応援するようななーちゃんの声を背に、最後の仕上げとばかりに渾身の力で竿をしゃくる。
ぐいっと影が動き、水面に黒いその魚体が姿を現した。
やっぱりこれは!
おおも・・・の・・・?
海面を割って姿を現したのは。
一切水ぶくれも腐敗もしていない、『大物』の・・・
黒ゾンビの死体?だった。
「・・・クゥン」
『お前マジか』みたいななーちゃんの声が、背中に空しく突き刺さっている。
やめてくれよ、なーちゃん。
今凄い恥ずかしいんだから。
「・・・海へお帰り~」
俺は平坦な口調でそう言いつつ、テグスをナイフで切ったのだった。
そして黒ゾンビは、出てきた時の逆再生のように水底へ帰っていった。
その後、なんとかアジを何匹か釣り・・・家に帰ることができた。
なお、式部さんは何故か死んだ目でとんでもない量のアジを釣っていた。
・・・釣りの才能があるなあ。
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