122話 鍛治屋敷のこと

鍛治屋敷のこと








「お褒めにあずかり、光栄・・・って言えばいいのかよ、万象千手流」




大きく息を吐きながら、鍛治屋敷に視線を向ける。




背中を窓に預け、鍛治屋敷は自然体だ。


・・・まずい、まずすぎる。


何でよりによって今来るんだよ、畜生が!




「へ、口が減らねえのは師匠譲りだなぁ」




カタカタと細かく震える両腕。


苦心しながら左手を柄から外し、刀身を肩に乗せて構える。


これなら、腕に負担はあまりかからん。


正直、立っているのもやっとの状態だ。




しかもこのタイミングで・・・くそ!


痛みがじわじわと・・・末端から戻ってきた!


あと2時間は大丈夫なんじゃなかったんですか古保利さん!




「こんなとこまで・・・ご苦労なこった。観光かぁ?」




軽口を叩きながら周囲を見るともなく見る。


他に仲間は・・・いない、か?




「お呼びでない、今すぐ殴り殺されるか窓から飛び降りろ」




先輩は鍛治屋敷に向き直って構えているが、先程の大技の影響が酷い。


顔中に汗をかき、呼吸も荒い。


足も震えている。




「・・・招かれざるお客さんは、とっととお帰り願おうかな」




古保利さんも立ってはいる。


立ってはいるが・・・あの爆発で左腕からは夥しい出血がある。


見た所欠損はしていないようだが・・・それでも戦える状態ではない。


改めて、とんでもない技を・・・技?を使ったもんだ。




「ああ、帰るよ、帰る・・・今日は顔見せに来ただけだしよ」




肩をすくめ、苦笑いする鍛治屋敷。




「―――そこの別嬪さんよ。いいもの見せてやるから撃つなよな?」




瞬間、神崎さんの方を見てコートをまくる。


一瞬で、眼光が鋭くなった。


まるで・・・まるで狼だ。


それも、群れを率いる花田さんのような狼じゃない。


誰彼構わず噛み殺す、一匹狼だ。




「―――っ!!」




俺の背後から鍛治屋敷にライフルを向けていたらしい神崎さんが、息を呑む。




「―――どうでえ、母ちゃん特製だぜ。言っとくがな、俺が死んでも爆発するからよぉ」




その胴体には、明らかに爆弾っぽいものがぐるりと巻かれていた。


デジタル時計のような基盤が、絶えず明滅を繰り返している。




「他の奴らも撃つんじゃねえぞ?この部屋どころか、半径100メートルは瓦礫の山になっちまうからよ」




その声に、生き残りの隊員たちも銃を下ろした。




「・・・何の用だよ、俺たちはてめえみたいなイかれた爆弾魔に用はねえぞ」




その答えはわかっているが、あえて聞く。




「答えが分かってる質問ほど馬鹿なもんはねえわなぁ・・・田中野一朗太ぁ?」




・・・名前まで割れてんのかよ。




「意趣返しか、ご苦労なこって・・・戦国時代じゃねえんだぞ」




「いいじゃねえか戦国時代。俺ぁ好きだぜ?生き死にがシンプルでよぉ」




・・・このまま突発的タイムスリップで関ケ原とかに行ってくんねえかな、このおっさん。




っていうかなんだコイツ。


殺気の塊じゃねえか。


こんな状態でよくまあ飄々としていられるもんだ。


『撃つな』なんて隊員たちに言っていたが・・・もう無理だ。


爆弾がなくってもみんなは撃てない。


この殺気にすっかり当てられちまってる。




「知ってるだろうが、一応の建前はな・・・俺の師匠の仇討ちだよ。可哀そうになァ、武術家が両手両足ぶっ壊されてどうやって生きてくってんだよ・・・ひでえことしやがるぜ、てめえらの師匠は」




・・・師匠が戦ったっていう先代のことか。




「生きてるだけで儲けものじゃねえのかよ?」




「いやいやいや・・・違うねえ、違う。走れなくなった犬はよ、生きている資格がねえ。飛べなくなった鳥もそうだ」




鍛治屋敷はニヤニヤ笑いながら首を回す。




「師匠の介錯なんざ・・・やりたくもなかったぜ」




全く何の感情も籠っていない目で、俺を見る。




「・・・殺したのか、師匠を。自分の手で」




俺がそう言い返すと、鍛治屋敷はおかしそうに声を上げて笑った。




「仕方ねえだろぉ?やってくれって言うんだからよぉ?・・・育ててもらった恩もあるからよ、一息で楽にしてやったぜ」




首をへし折るような手振り。




「そんでよぉ、いざ敵討ち・・・って勇んで喧嘩売ったらよ、危うく死にかけたぜ」




顔をぴたぴた叩く鍛治屋敷。


・・・やはり、その傷は師匠が付けたもんだったか。




「へぇ、そうかい。じゃあとっとと師匠に挑んで今度こそは全殺しにされたらどうだ?おススメだけど」




心からそう思いつつ、吐き捨てる。




「んん~・・・そいつは駄目だ。割に合わねえ」




案の定、鍛治屋敷は首を振った。




「てめえら弟子を皆殺しにして・・・その後でメインディッシュの爺だ。さしずめ・・・おめえは食前酒ってところかなぁ?」




前菜ですらない、と。


舐めやがって・・・この野郎。




「・・・ほざいてろカス。てめえなんざ急性アル中であの世行きにしてやらあ」




「へへへ、吹くじゃねえかよ、小童がよ」




殺気が俺に放射される。


一瞬体が硬くなるが・・・まだまだ。


師匠や神崎さんのお祖父さんに比べたら、年季が違うな。




「しっかし本当に・・・目だけは爺によく似てんなあ、おめえ」




最近本当によく言われるな、それ。


気のせいだと断固主張したいところだ。




「お?なんだビビったのか?じゃあとっとと逃げて海でも渡ってくんない?二代通算の負け犬にはお似合いだと思うけどなあ?」




―――今度はさらに濃密な殺気。


は、結構煽り耐性低いなこのおっさん。




「・・・このビルに来る前に喧嘩売るんだったぜ。今すぐ挽肉にしてやりてえが・・・段取りも狂うしなあ」




鍛治屋敷は乱暴に頭を掻き、ため息を漏らす。


こうして見ると雑なオッサンにも見えるが・・・これは『擬態』だ。




登場してからここに至るまで・・・一切隙が無い。




俺がどう動いても、次の瞬間にはそれに合わせた動きができるだろう。


それどころか、今この瞬間に不意打ちを仕掛けてくる恐れすらある。


一手先が、読めん。


底が知れないオッサンだ。




「とにかくだ、今日の所はこれでお暇するわ。全身ガクガクヘロヘロの小童を殺した所で、何の意味もねえやな・・・五体満足のてめえの頭を握りつぶしてこそ、甲斐があるってもんだ」




おかしそうに肩をすくめ・・・鍛治屋敷が歯を剥き出しにして笑う。


へっ、こっちの状況も丸わかりか。


どっかで見てやがったんだろうな。




「せいぜい体を治して・・・いい刀でも調達するこった、田中野。命拾いしたなあ?」




折れた長尺刀を見つつ、吐き捨てる鍛治屋敷。




「俺は今からでもいいんだぞ?おい」




「へっへへ・・・やなこった。・・・おっと、忘れるとこだったぜ」




そう言うと鍛治屋敷は・・・事切れた天蓋の死体へ向かって歩き出した。


・・・何を、する気だ!?


余りにも自然体なので対処が遅れた。




そこには、盾を叩きつけたままの隊員がいる。




「よぉ兄ちゃん、どいてくんな・・・おっと、抵抗したら殺すぜ」




そう、話しかけている。




軋む足を動かし、疾走の体勢に入る。


何をする気かはしらんが・・・どうせろくでもない事だろう!




「―――やめとけ田中野ォ、動けばこの兄ちゃんの首が反対へ向くぜえ?」




・・・ぐ。




盾を持った隊員は、それでも動かない。


殺気に当てられて動けないのではない。


動かないのだ。




「・・・断る、それはできない。下がってもらおうか」




彼は毅然とした態度で、そう言い切った。


鍛治屋敷はその顔をマジマジと見て、困ったように笑った。




「そうかよ」




どん、と空気が震えるような音。




・・・一瞬だった。


鍛治屋敷の腕がブレたと思った瞬間に、隊員は宙を舞った。


胸の前に構えた盾には、拳型のへこみ。




「・・・仕事熱心も困りものだよなあ?」




拳打だ。


それも、かなりの速度。


あの脱力した状態から、なんちゅう打撃力。




隊員は宙を舞い、背中から床に叩きつけられて・・・動かなくなった。


失神しているだけだと信じたい。




「えーとぉ?ここをこうすんだっけかな?」




そんな彼には目もくれず、鍛治屋敷は懐から取り出した拳銃のようなものを・・・天蓋の頭部、その割れ目に突っ込んだ。


引き金が引かれると、何やら空気の抜けるような音。




「おーおー、これだこれ・・・よし、依頼完了」




引き抜かれたのは、拳銃ではなかった。


なんというか・・・試験管に銃の握りと引き金が付いたような形状。


そして、その試験管には・・・黒い液体が詰まっていた。


まさか・・・こいつ!!




「―――だから動くんじゃねえって、みんな揃って死にてえのか?ん?」




それを懐にしまい、鍛治屋敷はこちらへ振り向いた。




「クライアントからの要求でな、ちょいとしたお使いだよ・・・リサイクルってやつだ、このご時世じゃ大事だろぉ?」




恐らくあれは、天蓋の脳的なアレだ。


いや、脳ではなく・・・虫の集合体だ!




「そいつを、どうする気だ」




「知らねえよ、こういうのは母ちゃんの領分だかんな」




俺の問いにあっさりと答え、鍛治屋敷は歩き出す。


俺に、向かって。




「そう身構えんなって、今日の所は本当に何にもしねえってば」




悠々と鍛治屋敷は俺の横を通り過ぎ―――






殺気が走り、長尺刀が翻った。


金属音が、ふたつ。






「・・・へへへ、流石に引っかからねえか」




「・・・師匠の『起こり』に慣れてたもんでね・・・!」




長尺刀の刀身は、鍔元から折れ。




奴の拳・・・赤色の手甲に、傷が一筋。




鍛治屋敷の券打は俺の顔面に向けて放たれ、俺は、それを真っ向から迎撃する形になった。


瞬撃の邂逅の後、俺たちはお互いに跳び下がって構えている。


・・・なんとか、動いてくれたか・・・体。


ああくそ、吐きそうだ。




「すまねえなぁ、いい刀折っちまってよ」




「いいさ、どうせ貰いもんだ・・・寿命だよ」




顔面への拳打は、フェイク。


こいつは刀身を・・・両手で挟んで一瞬で折った。


万象千手流・・・恐るべし。




「これから面白くなりそうだぜ、へへ、へへへへへ・・・」




俺からふいと視線を外し、すたすたと歩く鍛治屋敷。


行く先は・・・登場した時と同じ、窓際。




「いい刀、探しとけよな」




そう言うと、鍛治屋敷は・・・窓に向かって拳を叩き込んだ。


足先から回転の力を瞬時に伝達された拳打は、高層階の頑丈なガラスを・・・いともたやすく貫通。


続く二打目で、ガラスを粉々に砕いた。




割れた窓から、びゅうびゅうと風が入ってくる。




金属製の手甲を付けてるとはいえ、なんという打撃力。


なんという・・・拳速。


天蓋にぶち込んだ先輩の拳よりも、速いかもしれん。




「じゃあなあ、田中野ぉ!!」




そう叫ぶと、鍛治屋敷は空中に身を躍らせた。


その先には、上から垂れ下がる頑丈そうなロープが見える。




「あのロープを撃t―――」




「そりゃないぜ、自衛隊サン」




号令を飛ばしかけた古保利さんに、ロープにつかまった鍛治屋敷が返す。




「ほれ」




同時に、ガラスの割れ目から室内に・・・拳大の何かが投げ込まれる。




「退避―――!!!!!!!!!!!!!!!!!」






悲鳴にも似たその号令とほぼ同時に、閃光が部屋を満たす。


続いて、衝撃。






咄嗟に後ろに跳んだ俺は、衝撃に吹き飛ばされ・・・こちらへ吹き飛んでくる先輩を反射的に抱きかかえた。


そして、背中に硬い衝撃を感じつつ・・・あっさり意識を、手放した。








お、サクラだ。




どこかのドッグランを、サクラが嬉しそうに走り回っている。


どこだっけなあ、ここ・・・あ、詩谷にある南公園かな?




おーい、サクラぁ。




声をかけると、サクラがこちらへ走ってきた。


うは、速い速い。


元気いっぱいだなあ。




サクラは俺に向かって疾走し、大地を蹴る。


思わず広げた俺の腕の中に、彼女は飛び込み―――




『わふるぅうう!!!!!!!!!!!!!!!!!!』




鼻面を思いっきり噛んできた。


何故だ娘よ!?!?!?!?!?








「―――きろ、起きろぉ!馬鹿ぁ!田中ぁ!起きろぉ!!」




・・・ほっぺたがすごく痛い。


いや違う、顔全体が痛い。




うっすら眼を開けると・・・視界一杯に先輩の顔があった。


その目は見開かれていて・・・涙が今にも零れ落ちそうだ。


珍しい、こともあったもんだなあ・・・




「・・・どしたんすか、先輩、そんなに泣いてギュン!?」




「見るな馬鹿ァ!!」




目をしっかり開けようとした瞬間に、掌で目隠しをされた。


いやそんなにいいもんじゃない!これ掌底じゃない!?


目が潰れたらどうする!?




「よかった・・・田中野さん、よかったぁ・・・」




ぬぬ、神崎さんの声もする。


目が塞がれているのでよくわからんが・・・先輩の後ろあたりにいるのかな?




「ふ、ふん!寝坊助めが・・・東尋坊、後よろしく」




「神崎ですよ!?・・・で、ですが任されました!」




どうやら俺は、壁に背中を預けて気絶していたようだ。


さっきの鍛治屋敷が投げた爆弾的なモノ・・・あれの爆風のせいだな。




「田中野さん、田中野さん」




「はいはい、なんでございましょ」




神崎さんの声が、耳に届く。


やっと先輩の掌ガードが解かれたので、周囲の状況が明らかになってくる。




・・・窓ガラスは残らず吹き飛び、まるで爆撃を受けたようになっている。


あの小ささでとんでもねえ破壊力だ。


鍛治屋敷の嫁さん製・・・ってことか。


大木ボムとどっちが上だろうか。




「どこか痛みますか?眩暈や頭痛はありますか?」




目を真っ赤にした神崎さんが、俺に恐る恐る聞いてくる。


ああ・・・泣いちゃったのか、心配かけたなあ。




「ええと・・・ですね」




「はい!」




近い近い近いよ神崎さん!


おでこがもうくっついてるじゃんか!?


そんなに近付く必要ってある!?


診察すんのに逆に不便じゃない?




「その・・・」




「はいっ!!」






「痛すぎて・・・どこが痛いのかわかりません」






「・・・は、い?」




神崎さんの目がまんまるになった。


かわいい。




見とれるわけにもいかんので、なんとか補足説明する。




「体中が痛みのオーケストラです。指は一本も動かせないし・・・頭はガンガンするし・・・吐き気もするし・・・なんなら神崎さんの綺麗なお目目が4つ見えます」




我ながらもうお手上げである。


っていうか、油断したらまた失神しそう。


これが・・・月影流秘伝のお薬の副作用かな?




「きれっ・・・!?い、意識の酩酊もありましゅね!」




顔を真っ赤にした神崎さんが、天を仰いだ。






「誰か!誰か担架を―――――!!」






その悲痛な叫びを聞きながら、俺は再び眠るように意識を失った。


今度は、サクラの夢すらみないほど・・・深く。






「・・・知らないけど、なんだか、知っている気がする天井ォ・・・」




目覚めたら、暗闇の中だった。




・・・体が全く動かない。


なんとか動く首をギシギシ動かす。


拘束されているわけではないようだ。


ということは・・・動けないほど疲れているということかな。




周囲を見回す。




ここは・・・保健室、かな?


しばらく視線をさ迷わせていると、暗闇に目が慣れてきた。


見覚えがある机があるな・・・ってことは、ここは御神楽の保健室だ。


んで、今の時刻は・・・んん、壁の時計が微妙に見えない。


あ、見えてきた。




「よりに、よって、2時、か・・・オバケ、出そう」




喉がカラカラでうまく声が出ない。


さらに、全身が熱っぽいようなふわふわしているような・・・




っていうか痛みが無いな?




治ったわけじゃない・・・これは、麻酔的なモノか?


感覚が薄い感じ・・・昔に師匠との稽古で負った傷を縫ってもらった時を思い出す。




向こうで気絶して・・・こっちに運ばれて来たのか。


担架がどうとか言ってたしな。


いやあ、迷惑かけたなあ・・・いろんな人に。




俺の他にも怪我人が大勢いたハズだが・・・保健室には俺一人だけのようだな。




「んみゅ・・・」「ふむぅ・・・」




いたよ。




ソファーには、毛布をかぶって寝息を立てる神崎さん。


俺の横のベッドには、布団で恵方巻みたいになった後藤倫先輩。


相変わらず変な寝方だなあ。


・・・その奥には、見慣れたでっかい姿。


七塚原先輩がすやすや眠っている。


他の隊員さんは・・・ここにはいないようだ。


別の場所にいるのだろうか。


死人、少ないといいけど・・・




「たにゃかのしゃん・・・ちがいましゅ、それはガムテープだから食べたらだめれす・・・」




相変わらず神崎さんの夢に出てくる俺はエキセントリックだなあ、おい。




「たなか、ころす・・・」




・・・そして先輩の夢が怖い。


どれだけ怖いもの知らずなんだ、夢の中の俺は。




「・・・なんとか、生き残った、か」




天井を見上げ、ため息を一つ。




特別製の白黒を経て、なんか進化した天蓋ゾンビ。


極めつけには、鍛治屋敷。


・・・最後のは半分見逃されたようなもんだが、それでも生きてる。




これで龍宮のヤバい組織が1つ壊滅したってのは・・・素直に喜べる。


他にも細々したのはいるだろうけどな。


刑務所の連中とか。


それでも、規模がデカいのがいなくなったってのは大きい。


大きいが・・・




「鍛治屋敷が、なあ・・・」




・・・あの雰囲気、あの殺気。


やっぱり衰えたりはしていないようだ。


鍛え上げられた体に、あの拳速。


あの身のこなし。


・・・はあ、気が重いぜ。




神崎さんのお祖父さんはよくて相打ち・・・なんて言っていたが、それもどうかな。


あの硬い手甲の猛攻をかいくぐって、果たして一撃入れることができるだろうか。


今回『鋼断』を使えたといっても・・・アレは動かない標的+お薬ブーストがあったからだ。


動き回る相手の中でも最上級の鍛治屋敷に、通用するかどうか。




・・・それに、榊の名刀はもう柄しか残っていない。


あれクラスの刀があったからこそ、あの攻撃力。


悔しいが残った『梅』や『竹』・・・さらには『みらいの家』から分捕ってきた刀とはレベルが違うのだ。


・・・こりゃ、どっかの美術館を探索することも考えないといけないか・・・?




いかんいかん、考えていてもどんどん気が滅入る。


体調が壊滅しているせいでそんなことを考えるのだ。


とにかく、何をするにもまずは体を治さなければ・・・




「にゃむ・・・だいじょうぶですよ、たなかのしゃん・・・」




「・・・そうですかねえ」




「ふふぅ・・・きっと、だいじょうぶ、れす・・・」




・・・またしても寝言と会話してしまった。


だが・・・少しだけ元気が出たな。


・・・寝るか。




「・・・いつもありがとうございます、神崎さん、先輩」




「うふふぅ・・・えへぇ・・・」




なんか美玖ちゃんを思い出すなあ、ははは。




「ころす」




・・・コワイ!




ふわふわした感覚を抱えながら、俺は目を閉じた。


明日のことは明日考えればいいか・・・




頑張れ、明日の俺よ。

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