119話 教主サマのこと 前編
教主サマのこと 前編
「じゃあ先輩、くれぐれも気を付けてくださいね」
「すまんのう・・・頼むで田中野、後藤倫」
「ん。タ〇タニックにでも乗ったつもりでいるといい」
最終的にそれ沈むじゃん・・・
「神崎さんも、よろしゅうにの」
「はいっ!お2人の援護はお任せください!!」
先輩の激励を受け、俺たちは最上階へと続く階段へ足を踏み出した。
古保利さんは、大階段の方へ部隊を率いながら消えていく。
・・・数は半数か、だいぶ減ったなあ。
信者たちの自爆テロめいた襲撃からしばし。
10階にて休憩を取った俺たちは、いよいよ12階に向けて出発することとなった。
負傷者は、このまま10階で後続の部隊を待つことになる。
今まさに戦っているであろう、八尺鏡野さんやオブライエンさんの部隊をだ。
身動きの取れない負傷者もいるため、護衛として数人の隊員・・・そして七塚原先輩は残ることとなった。
もしかしたら、まだビルの中に生き残りがいないとも限らないからだ。
・・・っていうか先輩は負傷者側だと思うんだけど。
担当してくれた軍医?衛生兵?さんによると、『筋肉が強靭すぎて大丈夫だけど動かすと最悪死ぬ』とのこと。
・・・やっぱり負傷者側じゃないか。
『片手にゃあちと重いが・・・やってやれんことはないけぇな』
そんなことを言いながら、片手で八尺棒を高速回転させる先輩であった。
・・・やっぱバケモンだわ、あの人。
片手でアレを振り回せることもそうだし、何より現在進行形で腕を金属片が貫通しているというのにだ。
俺だったらもう痛みで叫ぶか無理やり眠らされてるかのどっちかだろう。
・・・まあそんなこんなで、ここで七塚原先輩は脱落である。
大幅な戦力低下ではあるが・・・仕方あるまい。
その穴は後藤倫先輩が立派に埋めてくれるはずだ。
・・・俺?
ははは、ご冗談を。
「包帯いっぱい、大丈夫なの田中」
俺の横を歩く後藤倫先輩が言う。
心配してくれてるのか、なんか新鮮。
「あーまあ、貫通してるのもふくらはぎの外側?なんで・・・痛いですけど動きに支障はないですね」
「ふぅん・・・それ以上怪我しちゃ駄目だよ」
おやまあ、本当に珍しい。
さっき泣いてたからしばらくは優しいモードなのやもしれん。
・・・あまり顔に出すと殺されかねないからな、用心用心。
「あのですね・・・一般的に言えば田中野さんもかなりの重傷なんですよ!?」
声を潜め、後ろから神崎さんが言ってくる。
本当にこの人は・・・的なジト目もセットである。
「ははは、でもここでケツまくるわけには行けませんからね。七塚原先輩の分まで、奴らをぶち殺してやんないと」
ここで、こいつらを根絶やしにすれば・・・少しだけ平和に近付くしな。
まだまだヤバいのがいそうなのが怖いけども。
「そう言えば、ななっちの傷・・・ちゃんと治るの?勅使河原」
「神崎ですっ!・・・出血もほぼ止まっていますし、金属片も綺麗なものなので・・・御神楽で摘出と縫合をすれば、大丈夫かと」
ふむ、まあそれは七塚原先輩だからだよなあ、たぶん。
「ただ、鎮痛剤も無しに平然としていられるのが信じられませんが・・・」
俺もそう思う。
古保利さんは俺のことを精神が肉体を凌駕・・・なんて言ってたけど、先輩には敵わないな。
「止まれ」
噂をすればなんとやら、先頭を歩いていた古保利さんが後続の隊員に告げた。
まだ11階なのに、何かあったんだろうか。
今までと違って、俺たちは古保利さんたちの後方にいる。
全体の人数が減ったことに加え、12階は地図を見ると後方から攻める利点がないからだ。
分散するより、まとめて突っ込んだ方がいい・・・と言われた。
こちらも一番のアタッカーである七塚原先輩がいないし、戦術の専門家に言われればNOとは言えない。
しばらくは後列にいるが・・・いざとなれば前に出る。
「・・・ふむ、そうきたか」
しばらくじっと聞き耳を立てていた古保利さんは、そうぽつりと呟いた。
「田中野くん、先に言っておとくけどさ」
俺の方を振り返る古保利さん。
「12階まではこっちに花、持たせてね」
そう言って、古保利さんはにこりと笑った。
・・・一体何のことだろうか。
それとほぼ同時に、後藤倫先輩がぴくりと震えた。
「・・・来る」
・・・へ?
「来るぞ、盾前。電撃用意」
何事か聞き返そうとした瞬間であった。
隊員が素早く列を入れ替え、古保利さんの前に展開する。
電撃、ってことは・・・
「前進、11階で迎え撃つ」
返答もせず、隊員たちは一糸乱れぬ動きで素早く階段を上り始めた。
俺も追いかけないとな。
踊り場を過ぎ、11階が見えてきたその時。
「階段を塞げ!!」
古保利さんが叫ぶ。
ん?
上に何か気配が・・・!?
12階へ続く階段の方から、どすどすと物音。
これは・・・足音か!!
「いつでも撃てるようにしておけよ・・・来るぞォ!!!」
上からの足音が騒がしくなり、その主が踊り場に姿を現す。
「盾構え!用意!!」
それは、地下で会ったような鎧を着込んだ白黒ゾンビだった。
「抜かれたら行くよ、田中」
「了解!」
それも、4体。
どいつも兜のような・・・拘束具のようなものを顔に付け、その手には大きなハンマーを握っている。
・・・たぶんハンマーだと思う。
鉄板と鋼材を無理やり溶接して作った、本来の用途とはかけ離れた歪なハンマーだが。
大階段の広い踊り場も、その面積でミチミチである。
「・・・!!!!」「・・・・!!!!!」
まずは2体が、大きくハンマーを振り上げて踊り場から跳躍。
「手だけで受けるな!腕を持っていかれるぞ!体全体で盾を保持っ!!!」
盾を構える隊員たちに向け、そいつらは空中で大上段に振りかぶったハンマーを振り下ろす。
ごぎん、というような重々しい音が反響する。
こっちにまで衝撃が来るような一撃だ。
「ぐうっ!?」「っがぁ!?」
それぞれ攻撃を受けた隊員が、絞り出すように悲鳴を上げる。
落下とその膂力を加えた一撃が、火花と共に盾を歪める。
だがそれでも隊員たちは吹き飛ばされることはなかった。
「電撃、撃て!!」
号令と共にバチチチチ、と音が聞こえ。
白黒2体は雷にでも撃たれたように痙攣する。
効いてる効いてる。
「バッテリを使い切ってもいい!撃ち続けろ!!」
電撃に晒された白黒は目に見えて動きを緩慢にさせた。
だが、苦し紛れとでもいうように再びハンマーを持ち上げてまた振り下ろす。
電撃に耐えながら、何度も。
「ぐううう!!」「があああああっ!!」
その度に盾は歪みを大きくしているが、それでも隊員は耐えている。
2体の後ろにいる2体は、ハンマーを握りしめてまだ動かない。
いやまさか・・・
「ここで動いても動きが取れなくて無意味だって、わかってんのか・・・?」
だとすれば、かなり賢い。
今までの白黒とは段違いの知能だということになる。
進歩というか、これは・・・
「進化、か」
恐ろしい限りである。
・・・『みらいの家』、一体どんな改造をしたのか。
これは、是が非でもここで無力化しなければ。
あんなのが野に放たれてさらに進化でもされた日には・・・外は地獄になっちまう!
「さ、三等陸佐!電極破損っ!使用・・・不可能っ!!」
攻撃を受け続けていた隊員の1人が悲鳴を上げた。
電極・・・?
アレか?電気を流す部分のことか?
「盾、前進っ!側面に電撃!並びに前方防御!!」
「うおおお!!」「このおおおお!!!」
盾持ちが前進し、踊り場の2体に向けて盾を構え・・・それに続いた盾持ちが白黒の側面に回って盾を叩きつけた。
「電撃、撃て!!最大出力っ!!」
2方向から電撃を受けた白黒は、さらに動きを緩慢にさせ始めた。
「油断するな!完全に動きが止まるまで流し続けろ!!踊り場の警戒も怠るな!!」
地下でのこともあるしな。
一撃でも不意打ちを喰らうと、即座に前線が崩壊しちまう。
しばらくその状況は続き・・・断続的に電撃を喰らい続けた白黒2体は、ゆらゆらとハンマーを振り上げ・・・そのまま落とした。
よし!もう持っていられなくなったか!!
「後列!射撃用意・・・頭部を狙え!ってぇ!!!」
古保利さんの号令の後、猛然と火を噴く機関銃。
これだけの近距離ではひとたまりもないのか、白黒の頭部を包む兜は火花を散らしながら瞬く間にひしゃげてバラバラになっていく。
「ギャバアアアアアアアアアアアアアアアア!!!アア!!ゴオオオオオオ!!!」
「ゴウラアアアアア!!!ッガガガガガ!!ガガガガアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
遂にその頭部は剥き出しとなり、いつものようなけたたましい叫び声が聞こえる。
だが威勢のいいのは声だけで、動きはもう立っているのがやっとという状態だ。
「目を狙え!!脳を潰せ!!!」
一斉に目が潰れ、顔面が虫食いのように弾痕で覆われている。
・・・いくら白黒でも眼球は柔らかいもんな。
斉射は続き、顔面を出来損ないのチーズのように変形させ・・・白黒2体はほぼ同時に倒れた。
「・・・列、そのまま!11階まで後退!!」
隊員は動き、俺たちは11階へと戻った。
踊り場の2体は・・・不気味なほど動かない。
「酒井!森本!大丈夫か!」「交代する!盾を渡せ!」
最も攻撃の矢面に立っていた2人の隊員が、すぐさま最後尾へと移動させられてきた。
立って歩くのもやっと・・・みたいな状況だな。
「う、ぐぐ・・・」「たぶん、う、腕が折れてるな・・・これは」
息も絶え絶えに、なんとか喋る2人。
手に持つ盾は、中央が酷く変形している。
・・・あれだけの攻撃を受け続けたんだ、無理もない。
「三等陸佐!敵が・・・動きます!!」
油断なく盾を構えた隊員の声が飛ぶ。
それに釣られて見上げると、先程まで踊り場にいた白黒が2体とも12階へ戻って行く。
・・・逃げた!?嘘だろ!?
「このままでは無理、と・・・判断、したというのですか・・・」
神崎さんの声がかすれている。
振り向くと、その顔色はひどく悪い。
「損得勘定の概念があるのかよ・・・一足飛びに進化しすぎだろ、おい」
「お、恐らく・・・『みらいの家』が何かしたとしか・・・いくらなんでも、進化のスピードが速すぎます」
一体何したらそうなるんだろうか。
想像もできんが、恐ろしい。
やはり、あいつらを野に放つわけにはいかん。
「・・・先輩」
「・・・ん、いつでも出れるようにしとこう」
間違いなく、今までの白黒とは違う。
ひょっとしたら先の2体・・・それを使ってこちらの戦力を分析でもしていたのかもしれん。
嫌な想像だが・・・嫌な想像ほど当たるんだよなあ、残念ながら。
俺は、いつの間にかかいていた手汗をズボンで拭き・・・兜割を引き抜いた。
さて、こっからどうなるか。
しばらく膠着状態が続き・・・白黒が再び姿を見せた。
「・・・っ!!」
その姿を見るなり、古保利さんが息を呑む。
「防御しつつ11階まで後退!体を盾から・・・出すな!!!」
同時に、風切り音。
唸りを上げて飛んできたのは・・・建物の工事に使われるような、大型の鉄パイプだった。
先端を、鋭く尖らせてあるだけの。
それを、2体してまるでやり投げのように投げてきた。
ごんごんと、盾にパイプがぶつかる。
「ぐううう!!」「がああああっ!!!」
悲鳴を上げながら、隊員は盾で必死に防御している。
狙いが、集中している。
2体は、それぞれ1人ずつを標的にしているようだ。
悔しいが、効果的だ。
「・・・射撃開始!関節部を狙え!!」
号令と共に射撃が始まる。
白黒の鎧、その各部分が火花を散らしているが・・・奴らは全く意に介していない。
この距離では、鎧に傷を付けるだけで精一杯のようだ。
「対物ライフルがあれば・・・!」
そう言いつつ、神崎さんも射撃している。
「でも、この距離なら・・・!!」
息を吸い、一呼吸おいて・・・神崎さんが単射。
その一射は、白黒の・・・兜の金具を撃ち抜いた。
飛び散った火花でそれと分かった。
さらにもう一射すると、反対側の金具も同じように。
「グルウウウウ!!!ギャバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
兜が落ち、白黒が自由になった口で吠える。
か・・・神崎さん、すげえ!!!
「よくやった二等陸曹!総員、頭部に集中しt」
「ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
古保利さんの号令をかき消すように、当の白黒が吠え・・・凄まじい勢いで鉄パイプを飛ばした。
的確に、狙いを変えてきた、だと!?
「っふ!!ぐう!!」
斜め前に踏み出しつつ、神崎さんの胴体を正確に貫こうと飛来する鉄パイプを弾く。
・・・手が痺れる、なんちゅう重さだ!
少しは力を反らしたというのに、芯まで響く!
「った、田中野さんっ!」
「いいから!どんどん撃っちゃってくださいよ!一本も後ろに通しません・・・からっ!!」
心配そうな声を背中に聞きつつ、新たな1本を弾きながら半身になって構える。
南雲流剣術、矢切ノ型『千手』
・・・相手は矢じゃなくて鉄パイプだが、なんとかなるだろ。
流石に速度は矢より遅いしな!!
「俺の周囲に立たないで!流れ弾が飛ぶぞォ!!」
正直逸らした先まで責任持てない!
そんなこと考えてやれるほど、俺は器用じゃないからな!
「グルガアアアア!!!!ギギギギギギギギ!!!!」
思うようにいかない現状に腹が立つのか、苛立つように吠える白黒。
っは!吠えろ吠えろ!
鉄パイプだって・・・無限にあるわけじゃないんだ!!
神崎さんは俺の後ろで単射を続け・・・もう1体の兜も破壊した。
さすがは神崎さん・・・前からバンバン鉄パイプが飛んで来てるってのにいつも通りだ!
「頭部に集中!!無力化しろォ!!」
古保利さんも吠え、片手で持つサブマシンガンを撃つ。
おお、ついに指揮官自らが・・・
「・・・駄目だこれ、こんな豆鉄砲じゃ無理だ」
・・・一瞬素に戻った。
どうやら無駄と判断し、部下に任せることにしたようだ。
確かに、この距離じゃ拳銃みたいなもんは役に立たないよな。
人間相手なら別だろうが、アイツには無理だ。
「っふ!っは!!」
飛来する鉄パイプを弾く。
・・・よし、慣れてきた。
衝撃の逃がし方もわかってきた!
・・・なくなるまで付き合ってやるぞォ!!
「ゴルウルルルルルルウル・・・」
銃火に晒されながら、1体の白黒が突如として行動を変えた。
ピーカブースタイルめいて頭部を庇いつつ、しゃがむ。
あ、まさかアイツ・・・
「来るよ田中!!」
後藤倫先輩の声とほぼ同時に、白黒は足元をへこませる勢いで斜めに跳び上がった。
盾持ち、銃持ち・・・その後方の古保利さんすら飛び越える軌道で。
狙いは・・・俺というか神崎さんか!!
畜生、切り替えが早すぎる!このお利巧さんめぇ!!
「神崎さん後ろに跳んで!!」
そう叫びつつ、兜割を正眼に。
「ジャガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
鉄パイプを持ち、白黒が凄まじい速度で落下してきた。
その構えは、大上段!
・・・まともに受けたら、腕がオシャカだ!
逸らしも、できるかどうか!!
「・・・来ぉおい!!!」
唸る鉄パイプは、俺を狙っている。
先に邪魔な方を処理するつもりか!!
踏み込み、鉄パイプに備える。
あの長さだ、避けたら周囲の誰かに当たる!!
振り下ろされた鉄パイプに兜割を沿わせながら・・・軌道をほんの少しだけ、それでも渾身の力で逸らす。
接触した兜割が火花を上げ、焦げ臭いにおいがする。
俺のすぐ横を通過した鉄パイプは、轟音と共に床に激突する。
うっひょお!地面が揺れるゥ!!
「ふうう・・・!!!」
床に振り下ろされた鉄パイプに足をかけ、そこを踏み台に跳ぶ。
空中で、兜割を引きながら。
「しいいいいいあっ!!!!!!!!!!」
一足で間合いに飛び込みつつ、白黒の右目目掛けて体ごと、突く!!
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!?!?!?!?」
悲鳴を上げる白黒。
剣先が、その用途通りの働きをし・・・真っ直ぐ眼窩を脳に向かって突き進む。
このまま、一撃で脳を・・・!?
「ぬう!?」
凄まじい反応速度で兜割が掴まれる。
白黒の手甲が火花を散らし、耳障りな音が響く。
このままじゃ・・・!?
「田中ァ!離せっ!!」
後藤倫先輩の大声に、柄から手を離す。
そのまま、間近に迫る白黒の胸を蹴って後方へ跳ぶ。
入れ違いに、後藤倫先輩が俺の横を通り過ぎた。
「―――鋭ッ!!!!!!!!!!」
そのまま、先輩は兜割の柄尻に真っ直ぐ右正拳を叩き込んだ。
「ェグ!?!?!?!?!?!!?!?」
金槌で撃打ち込まれた釘のように、兜割はさらに眼窩へめり込み―――
「―――破ッッ!!!!!!!!!!」
続く左正拳で、白黒の後頭部へと貫通した。
「ァア・・・ア・・・ァ・・・」
びくりと痙攣し、白黒は動きを止めた。
そしてそのまま・・・床に向かって糸が切れたように倒れ込んだ。
何度か痙攣を繰り返した後、白黒は永遠に静かになった。
・・・なんとか、なったか。
しかし、なんちゅう反応速、度!?
「先輩ッ!!」
空中に、白黒。
2体目まで、俺たちを標的に・・・!!!
「すいま・・・せんっ!!」
拳を撃ち込んだことで一瞬、動きが止まっている先輩。
俺は、荒っぽく先輩を突き飛ばした。
そのことで回避に使える時間は、なくなった。
手には、兜割もない。
俺は、まるでスローモーションのように脳天に迫ってくる鉄パイプを・・・
「ぬう、うううううっ!!!」
後ろ腰から引き抜いた脇差の、峰を使ってなんとか逸らした。
逸らしたが、兜割程衝撃を殺しきれず・・・体がブレる。
まだ空中にいる白黒は、なんと鉄パイプから手を離した。
そのまま、右手を俺に向かって振り下ろす。
―――これは、躱せない!
咄嗟に脇差を手の内で旋回させ、その迫る拳にカウンターの形で突きさ―――
「ゴオオオオオオオオオオオ!!!!」「ぐがっぁ!?!?!?」
位置的にも、体勢的にも俺が不利。
奴の拳に脇差を残したまま、俺は後ろに向かって吹き飛ばされた。
「っが!?!?!?!?」
背中に衝撃。
壁に激突したらしい。
背負った長刀の鞘が、みしりと軋んだ。
肺の中から酸素が残らず放出され、視界に星が舞う。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
着地と同時に、白黒が俺の方へ床を蹴って跳ぶ。
・・・は、はやく、げい、迎撃、を!!
混乱した意識のまま、半ば反射的に刀の柄に手が伸びる。
「破あああああッ!!!!」
横合いから、後藤倫先輩の流星めいた蹴りが白黒に炸裂する。
頭部を刈り取るような軌道で放たれたその一撃は、その体をずらすほどの威力だった。
やつのスピードが、落ちる!
俺に、一呼吸の時間が産まれる!!
「っふ!!!」
ちらつく視界で、前に出る。
同時に取る構えは、変則の居合。
「あぁあああっ!!」
鞘から飛び出た刀身が、半月の軌道を描きながら真っ直ぐ白黒の頭部を上から下に横断する。
およそ人体を斬ったとは思えない、重い・・・手応え。
南雲流居合、『
横ではなく、縦に斬る居合。
「ギュルガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」「かっは!?」
人間相手なら、完全にカウンターで即死だっただろう。
だが、こいつは普通の人間じゃない。
・・・脳まで斬撃が、届いていない!
幾分か速度は落ちたが白黒の突進は止まらず。
丁度ショルダータックルの形になり、奴の肩は俺の肩口に激突。
俺は、再び吹き飛ばされた。
「田中野さぁんっ!!」
神崎さんの声が、聞こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます