102話 死闘のこと (前編)

死闘のこと (前編)








「見えましたか神崎さん!」




「いえ、まだ・・・見えました!!」




運転席から怒鳴ると、荷台から返事があった。




「よっしゃ!手筈通りお願いします!」




「はいっ!お任せを!!」




俺はいつでもアクセルを踏めるように準備しながら、ルームミラー越しに道の先を確認する。




・・・見えた!




硲谷方面から土煙を上げて疾駆する車列!


見通しのいい直線道路だからよく見えることこの上ない!




「さて・・・頼むぜ、大木くんよ!」




アイドリングで振動する車内で、俺はそう呟いた。




何故俺たちがこんな所で待機しているのか。


その発端は、今朝に遡る。








時刻は朝。




昨日泊まった大木くんは、明け方ごろにやることがあると家に帰って行った。


いつも通りの賑やかな朝食をすませ、食後の運動でもするかな・・・と考え始めたころ。




「御神楽から緊急連絡です!」




血相を変えた神崎さんが、通信機片手に屋上の俺の所へやってきた。




「・・・ふぁい」




タイミングの悪いことに、俺は丁度柔軟体操の真っ最中だった。


アレだ、首を支点に逆立ちの姿勢から足を前に倒す・・・


まあ、最高に間抜けな体勢だった。




咄嗟のことで顔を真っ赤にして小刻みに震える神崎さんを見ないようにして、俺は姿勢を正す。


そして聞こえてきたのは、オブライエンさんの硬い声だった。






「逃げられたァ!?」




『そうデス、面目ございもはん・・・』




いつもの通信機からは、意気消沈したオブライエンさんの声が流れてくる。




「いや・・・一体全体、何があったんです?」




『実は・・・』




オブライエンさんが語ったのは、以下の通りだった。








昨日、大木くんの顛末を神崎さんが御神楽へ報告した。


それを受けて、御神楽は早朝に偵察部隊を硲谷に派遣。


今回は、オブライエンさんの部下である駐留軍を主体とした部隊である。


数は10人で、あくまで偵察のための派遣だった。




だが、期せずして戦闘が始まってしまう。


その理由は、偵察対象・・・『みらいの家』の行動にあった。




奴らは、龍宮でやっていたように・・・子供を誘拐していた。


硲谷の周辺から攫ってきたであろう子供たち。


奴らは、その子供たちを一台の大型トラックの荷台へ無理やり詰め込んでいたのだという。






ちょうど偵察隊が発見した時に、泣き叫ぶ子供を親から引き離し・・・目の前で親を射殺していたらしい。






それを見た偵察隊が、独断で戦闘状態へ移行。


銃撃戦の末、子供たちが収容されているトラックをなんとか強奪。




四方八方から殺到する増援と交戦しながら、じりじりと後退。


やがてやってくるであろう、御神楽からの応援を待ちつつ防衛線を展開した。。


だが、守りが硬いと見るや奴らは脱兎のように逃走したのだという。




追撃隊は、子供たちの安全を確保するため出せず。


また、少数部隊だったので負傷者も多かった。


よって、隙を突かれて硲谷からの逃走を許してしまった。








『現在、龍宮市内への道は全てこちらで封鎖していますが・・・残党は確認できていません』




八尺鏡野さんの声だ。




「ええと、それってもしかして・・・」




『ええ、最悪の事態です。恐らく残った奴らはそちらへ向かっています』




・・・なんてこった。


朝の清々しい気分が丸ごと吹き飛んだぜ。




『もちろんこちらからも既に追撃部隊を出していますが・・・』




「こっちに着く方が早い、ですか」




て、こったな。


それなら、こうしているわけにはいかない。




硲谷からここまでは車で20分前後。


奴らがどれほどいるかは知らないが、ゆっくりのんびり移動するわけはないだろう。


飛ばしに飛ばして・・・まあ15分ってことか。


途中カーブも多いし。




原野は、奴らが逃げた位置からは詩谷への通路上にある。


あんな奴らを詩谷に入れるわけにはいかないし、何かの拍子でここに腰を落ち着けられても困る。


あいつらがやってきたこと・・・それに、ここの子供たちを巻き込むわけにはいかない。




ここで、殺す。




全員、殺す。




「・・・神崎さん、行きましょう」




「はいっ!」




俺の答えを想定してか、神崎さんはもう既に例の機関銃の準備をしていたようだ。


ちょいと見ない間に、体に弾帯を巻き付けている。


うーん、かっこいい。




「では、俺たちはこれで」




『我々の不始末です・・・申し訳ありませんが・・・どうか、お気をつけて』




『足止めしていただけれバ、後続もすぐに追いつけマス!無理は禁物デス!!』




八尺鏡野さんたちの声を背中に聞きながら、俺たちはすぐさま準備にかかった。


残り時間は、もうあまりない。






「さっきぶりでーす、田中野さ・・・なんか物々しいですね」




急いで軽トラに武器弾薬を詰め込んでいると、大木くんが何やら荷物を抱えてやってきた。


何その・・・圧力鍋?




「おう、大木くん。すまんけど丁度いいわ、ここで留守番よろしくな」




「え?朝からなんです?」




「昨日、キミを追っかけまわした連中がこっちに来てるんだとよ!」




運転席に乗り込み、シートベルトを締めながら答える。




「田中野さん!こちらもOKです!」




荷台に機関銃を固定した神崎さんが怒鳴る。


よし、いける。




「うぇ!?マジすか!」




「マジもマジ、大マジだ!大木くんは先輩たちとここの防衛を頼む!」




・・・もしも、俺たちが抜かれてしまったら。


ここが最後の砦だ。


詩谷侵入阻止は無理でも、ここの子供たちだけは守らなきゃならんしな。


戦力は一人でも多い方がいい。




「ふわぁ・・・でもこっちも丁度良かった!田中野さんコレコレ!!」




大木くんはそう言って抱えた炊飯器を差し出してきた。




「いや、もう朝飯食ったからいらないんだが・・・」




朝からそんなに食えないんだが。


シチューかカレーかは知らんけども。




「ちーがいますよ!爆弾!爆弾ですよコレ!!」




「えっ」




「前に言ってた圧力鍋爆弾に改良を重ねた自信作です!詩谷から逃げる時に持ってきてたんです!!」




「あっとやめて爆発するから押し付けないで本当に」




やめてくれないかそんな危険物を積もうとするのは!!




「大丈夫ですって!安定してますから!・・・これ!このリモコンの赤いスイッチ3回クリックで10秒後に起爆します!!」




大木くんは爆弾を無理やり助手席に乗せると、俺にテレビのリモコンめいたものを握らせる。


おいおい・・・まるでアクション映画だ。




「爆発させるときは少なくとも50メートルは離れてくださいね!!あと、僕のバイクの装甲版の仇をお願いしますよ!田中野さん!神崎さん!」




いやあの・・・それ自分の爆弾由来の傷じゃんか。




「ああうん・・・わ、わかった」




だが俺は大人なので言わないことにした。


時間もヤバいしな。




「うし、じゃあ行くわ・・・」




なにやら勢いにブレーキがかかったが、行かねばなるまい。




俺たちは、大木くんや先輩方に声をかけてから高柳運送から出撃した。








奴らを待ち受ける場所は、高柳運送から硲谷に5分ほど走った所にした。


こちらからは長い下り坂なので見通しはいい。


逆に、向こうからは見えにくい場所というわけだ。


待ち伏せにはもってこいの場所である。




「ひぃい・・・おっもいなあ・・・コレ」




すこぶる重い上に爆弾ということもあって精神的にも疲れるぞ。


道路の真ん中に例の圧力鍋を置き、近くに転がっていた畑用らしきブルーシートで隠す。


うまい具合に配置を工夫すると・・・よし、どう見ても道にブルーシートが落ちているだけの状態だな。




奴らは後ろから軍隊に追いかけられている格好だ。


道に落ちているものにそれほど注意を払うとも思えんが・・・念には念を入れよう。




配置完了!


大急ぎで車まで窓る。




「敵影、無し!」




荷台から神崎さんの声。




荷台には例の機関銃と・・・急ごしらえながら鉄板でシールドらしきものをでっち上げてある。


今回は撃ちまくりながら逃げる予定だからな。


神崎さんが被弾しないようにという処置だ。




「了解!」




俺はそう返しながら運転席に飛び込んだ。






そして、冒頭に戻る。




ミラー越しに見える車列が、じわじわと大きくなってくる。




「先頭、マイクロバス2台!その後ろにワゴン車が1台と・・・最後尾に大型トレーラー!!」




神崎さんの声。


うひゃ、結構大所帯だな。


絶対にここを通すわけにはいかないな。




「私の合図で爆破、お願いします!」




「アイハブコントロール!!」




手元の大木リモコンに目を落とす。


赤いスイッチの横には『3回クリック!しかる後ドカーン!!』という愉快な文言がある。


さて、これが上手くいけばいいが・・・




当初の予定では、まず神崎さんが・・・ええと、なんてったっけかな。


あのライフルからシュポンって出るグレネード。


アレを何発がぶち込んで先頭車両を横転させ、機関銃で撃ちまくる作戦だった。


殺しきれなければ、逃げ回りながら死ぬまで攻撃を加える。


それでも駄目なら、肉薄してありったけの手りゅう弾を投げ込んで終わりだ。


どう転んでも俺の出番はなさそうなので、今回は運転手に徹する。




初撃の大木ボムがどう働くか、見ものだぜ。


頼むぞ大木くんよ。




「丁度先頭車両が通り過ぎた瞬間に起爆するように・・・今です!!」




神崎さんの声に従い、赤いスイッチを3回クリック。




『standing by』




やけにイケメンな音声が流れ、リモコンの上部に『10』のカウントダウンが見える。


唾を飲み込み、緊張しながら数字が減るのを見る。


数字は正確に減っていき、車列の影も大きくなってくる。


そして、ついに。




『complete』




の音声と共に『0』となr―――






落雷のような閃光が走り、聞いたことがないような大爆音が響く。


軽トラの車体が、まるで地震にでもあったかのように激しく揺れた。






「うぉ!?」




耳鳴りが酷い上に、炸裂の瞬間を見たせいで目がくらんだ!!


軽トラの周囲になにか小さなものがバラバラと降ってくる音だけが聞こえる。


な・・・なんちゅう音・・・!




「うぐぅ・・・」




復帰してきた視力で、必死にミラーを覗き込む。




さっきまで車列があったであろう場所が、黒々とした煙で全く見えない。


どうなった・・・?


よくよく見れば、爆心地周辺に車のパーツらしきものが見え・・・おわ!?




軽トラのすぐ横に、音を立てて何かが落下してきた。




こ、これは・・・ひしゃげてはいるが車のドア、か?


内側にはべったりと鮮血がこびりついている。


ここまで飛んできたってか。


安全マージンで300メートルは空けてるんだぞ!?




「神崎さん!」




「・・・マイクロバス2台は消し飛びました!後方はまだ見えませんが・・・撃ちます!!」




神崎さんはそう答えると同時に、荷台に膝立ちになってライフルを構えた。


しゅぽ、という前にも聞いた音が聞こえ、何かが爆心地へ飛ぶ。


それは煙の幕に吸い込まれ・・・一拍置いて内部で爆発を起こす。




それだけでは終わらない。


神崎さんは次々と装填と発射を繰り返した。




もうもうと立ち上る煙の内部で、何度も何度も爆音が響く。




「残弾、ゼロ!いつでも発進できるように準備お願いします!!」




グレネードを打ち切った神崎さんは、簡易銃座と化した荷台で機関銃を構える。




「アイアイサー!」




俺は叫び返し、ハンドルに手を置く。


あそこから車が抜けてくればすぐに発進して、距離を保ちながら神崎さんに撃ちまくってもらうのだ。




固唾を飲んで状況を見守る。




煙はまだ晴れず、動きもない。


ジリジリとした時間が流れる。




煙の向こうに、炎が見えた。


車が炎上しているんだろう。


見えるってことは、煙が薄くなってきたんだな。




さあ、いつでも来い。




両脇は田んぼだ。


進むなら、ここを抜けるしかないぞ。


Uターンしても、そろそろ追撃部隊が追いつくころだ。


どう転んでも、てめえらに生き残る道はない。




燃え盛る・・・マイクロバスの残骸らしきものが見えてきた。


ど真ん中から真っ二つになって燃えている。




その後ろは・・・ワゴン車かな?


前半分が丸々吹き飛んでいるからよくわからんが。


その断面図には、バラバラになった何かの肉片のようなものが詰まっている・・・気がする!


大木ボム・・・とんでもねえ威力だ。


まだ耳がキンキンする。






―――動きがあった。






ワゴン車の残骸が、後ろから押されたように動く。


あんだけぶっ壊れてて動くとは思えないから・・・後ろのトレーラーが生きてるのか!




「撃ちます!合図したら発進を!!」




その声に続き、銃声と共に車体が揺れる。


相変わらず腹に響く音だ。


轟音に混じって、荷台に空薬莢が落ちる澄んだ金属音が聞こえる。




ミラーの中では、燃えながら動くトレーラーの先頭部分が見える。


ワゴンを押しのけて、ゆっくりと煙から出てくる。




各所がボロボロではあるが、それでもまだ動くようだ。


ひび割れたフロントガラスの奥に、見慣れてきた黒ローブが見えた気がした。




銃声が響くごとに、トレーラーにダメージが入る。




まずはタイヤが破裂。


次にフロントガラスに蜘蛛の巣状のヒビが入る。


見る見るうちにヒビは増え、遂に割れた。




運転席の黒ローブが蜂の巣になるのが見える。


ここからでも見える程の鮮血を撒き散らし、ぼろ雑巾のようになって運転手は倒れた。


威力、すげえ。




慣性の法則か、トレーラーはしばらくの間ゆっくりと前進し・・・


マイクロバスを乗り越えたあたりで、遂に停止した。




銃声は止み、静寂が戻ってくる。




「・・・様子を、見ます!」




耳鳴りに混じって、神崎さんの声。




俺も目を皿のようにして、動くものがないかを確認する。


うん、今の所動きはないな。


大木ボムのお陰で、むっちゃ楽に済んだかもしれん。


大木くんには足を向けて寝られんな。


使い所を見極める必要はあるが、あの爆弾はまた作ってもらおう。


電子音声もイケメンで気に入った。




「・・・ん?」




今、何か・・・トレーラーが動いたような。


でも運転手は完膚なきまでに成仏したはずだし・・・




・・・いや、やっぱり動いている。






・・・荷台の、コンテナが。






「神崎さん!」




「まだ弾丸は売るほど残っています!!」




頼もしすぎる返事が返ってきた。




それと同時に、トレーラーのコンテナがより一層振動した。


おいおいおい・・・まさか、まさかだよなあ!




しばらくグワングワン振動したコンテナは、動きを止める。




一拍置いて、ここからでは見えない後ろの方から、何かが弾けるような音がした。


扉が、開いたのか!




「・・・来ます!!」




神崎さんが叫ぶのとほぼ同時に、視界に影が躍り出る。




「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!グウウルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウアアアアアアア!!!!!」




白黒ゾンビだ。


例によってまだら模様の筋骨隆々な肉体。


身長は、2メートルを超えている。


体は、ほぼ全裸だ。


そして・・・


どこから引っこ抜いてきたか知らんが、手には2メートルはある分厚い鉄骨が握られている。


直撃じゃなかったとはいえ、あれだけの爆発があったってのにピンピンしていやがる。


畜生!化け物め!




「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」




白黒は大きく吠えると、オリンピック選手が裸足で逃げ出しそうなほどの速度でこちらへ向かって走り出す。




「・・・引き付けて撃ちます!合図まで発進しないでください!!」




この距離では有効打にならないと判断したのか、そう叫ぶ神崎さん。




白黒はとんでもない速度でこちらに近付いてくる。


えーと、世界記録が100メートル9秒台だから・・・余裕はほぼない。


見る見るうちにミラーに写る姿が大きくなる。




「今です!時速45キロ前後で走ってください!!」




すぐさま発進し、アクセルを踏み込む。


それと同時くらいに、機関銃が猛然と火を噴いた。




ここから高柳運送までは一直線。


脇道はない。




ミラーの中の白黒が、走りながら細かく振動している。


着弾しているのか。


だが、貫通した様子はない。




「・・・!30キロまで落としてください!!」




神崎さんの機関銃は、自衛隊の装甲車についていたものより小さい。


それだけで決まるもんでもなかろうが、やはり威力は低いようだ。


距離を縮めて、有効打を与えるつもりらしい。




「グルウウウウウウウウウウ!!!!ギャバアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」




接近し、ミラーの中で大きくなった白黒。


その胸に穴が開く。


白黒はよろめき、倒れ込む。


うし!有効打・・・・あ?




ぞわりと背筋が総毛立ち、咄嗟にハンドルを横に切ったと同時に、衝撃。




「あぅっ!?」




荷台に振動と、神崎さんの悲鳴。


一気にアクセルを踏み込む。




「大丈夫ですか!?」




後ろへ向かって叫ぶ。




「うう・・・と、投石、だなんて・・・」




どこかを痛めたのか、苦しそうな声が帰ってきた。


確認すると、荷台の装甲版が大きく内側に湾曲し・・・




機関銃の先端が大きく折れ曲がっている。




投石って言ったよな・・・石を投げたのか!?


倒れ込んだんじゃなくて、足元の石を拾ったのか!!




「じゅ、銃床で胸を打っただけです!大丈夫です!!」




・・・よし。


神崎さんは無事か。




後方の白黒は、さっきよりだいぶ小さくなっている。


どうやら、世界記録よりちょっとだけ速い程度の速度のようだ。


十分に引き離せている。




だが、どうするか。




頼みの綱の機関銃はオシャカ。


加えて、このまま行けばすぐに高柳運送に着いてしまう。


かといってUターンしようにも、恐らく奴はすれ違うことを許してくれないだろう。


子供たちのいる所に、コイツを引っ張っていくわけにもいかない。


もし見失いでもしたら大惨事必至だ。




助手席に立てかけられた、黒光りする兜割を見る。




・・・やるしか、ないか。




アクセルを踏み込み、さらに距離を稼ぐ。






高柳運送が見えた所で、ブレーキ。


停まると同時に、運転席から兜割を引っ掴んで飛び出す。




「神崎さん!運転できますか!?」




「た、田中野さん!あ、だ、駄目、駄目ですっ!!」




飛び降りた俺が兜割を構えたのを見て、神崎さんが血相を変える。


俺がなにをする気か気付いたんだろう。




「・・・つってもね、あそこに引っ張ってくわけにゃいかんでしょ!ホラホラ早く早く」




「きゃあ!ちょ、ちょっと!!」




荷台の神崎さんを片腕で引っ張り、地面に下ろす。




「俺が何とか時間を稼ぎます。先輩方を呼んでください!」




「で、でも・・・!」




「早く!言っときますけどね、死ぬつもりは微塵もないですからねえ、俺!!」




神崎さんを残し、少し前に出る。


雄たけびを上げる白黒が見えた。




「オラ来いよ!!相手になってやらあ!!」




気配で、神崎さんが運転席に乗り込むのがわかった。




「約束ですよ!田中野さん!約束・・・ですからね!!」




少し鼻声の神崎さんは、そう言ってエンジンをかけた。




「合点ですよ相棒!一人じゃ死にませんって!!」




そう怒鳴り返し、白黒を見る。




うっひょお、速いなあ。


もう50メートルしかないや。




「グルウウウアアアアアアアア!!!」




白黒が何かを放る。




斜めに跳ぶと、俺の横でアスファルトが大きく弾けた。


うっわ、こええ。


あんなん砲弾じゃんか。


まだ持ってたんだな、石。




深呼吸し、目を開く。




軽トラが走り去る音を聞きつつ、兜割を肩に担ぐ。




「南雲流・・・!」




地面を蹴る。




白黒が、再び腕を振り上げた。




「田中野一朗太ぁ・・・!!」




放たれる前に加速。


前傾姿勢の頭上を、恐ろしい勢いで何かが通過。




「参るっ!!!」




かつてないほどに背中をひりつかせながら、俺は間合いに踏み込んだ。

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