第79話 謎がわかって謎が増えること
謎がわかって謎が増えること
「まるで悪い冗談だ・・・」
手元の資料に目を落とす。
うん、何回見ても変わらない。
その、渦を巻いた脳は。
・・・一体全体、何がどうしてこうなったんだ。
ゾンビになると脳味噌が渦巻模様になります・・・どういうことォ!?
「わかるよ、僕も最初はコラ画像かと思ったもん」
古保利さんが俺たちを見て苦笑いしている。
「日付からすると、あのカバンに詰まってた書類よりも後で作成されたものらしい・・・解剖、やりまくったんだろうね」
「そりゃ、ぞっとしませんねえ」
暴れるゾンビを生きた?まま解剖か・・・
何かの拍子で噛みつかれたら、それこそB級映画だな。
「えーと・・・この脳味噌は『通常個体』ね・・・」
ノーマルゾンビの時点でこうなるってことか。
微弱電流・・・なるほど、大木くんの話からも電気が効くってわかっていたし、ゾンビに対しての電気ってのは何か特別なものらしい。
先を読み進める。
・・・ふむ、極めて微弱な電流じゃないとこの変化は起きないと書いてある。
『これ以上の電流を使用した場合、対象は即座に活動を停止。その場合は脳に変化は見られず』
つまり『ギリ生きてる』状態じゃないと駄目ってことか。
うーん・・・謎が謎を呼ぶ。
事実は小説より奇なりとはよく言ったもんだ。
「うわ」
ページをめくると、思わず声が出る。
そこには、また脳の輪切り写真。
だが、前のものとは全然違う。
切り口が灰色に染まっているのだ。
写真の下には『特異個体』と書いてある。
つまりこれは・・・
「黒ゾンビの脳か・・・捕まえるの、大変だっただろうなあ」
面倒臭くて絶対やりたくない。
あの馬鹿力だ、拘束するのも一苦労だろう。
「田中野さん、その脳何かおかしくありませんか?」
同じ書類を持っているのに、何故かこちらを覗きこんでくる神崎さん。
「灰色ですもんねえ」
「いえ、そこではなく」
んう?
そんなこと言われても・・・あ。
ページを戻してノーマルのものと見比べる。
「・・・なんか、こう・・・渦巻の密度っていうか、濃さっていうか・・・違いますね」
言われてみれば、黒ゾンビの脳は渦巻がギッチリしている。
っていうかこれは・・・
「あ、そうか黒ゾンビの脳は質量が違うっていうの、こういうことか・・・!」
圧縮した結果ということなんだろうか。
あれ?でも電流流さなきゃ普通の脳と同じなんだよな・・・
「とまあ、黒い方のゾンビの脳味噌の謎は一つ解けて・・・一つ増えたんだよね」
ははは、と乾いた笑いを漏らす古保利さんである。
・・・同感だ。
黒ゾンビがそのデカい質量をこうして収納していることはわかった。
わかったが、じゃあなんでグルグル巻きになるの?
それと、相変わらずの謎だが・・・なんで脳味噌食って脳味噌の質量が増えるの?
「これは、根本から考えを改める必要があるかもしれません」
眼鏡をくいと上げ、八尺鏡野さんが呟く。
おお、デキる女って感じ。
カッコいいな。
・・・なんで俺を睨むんですか神崎さん?
「改める・・・と言いますと?」
横からの圧力に耐えつつ、聞き返す。
「我々だけの勝手な推測です。確証もありませんし、調べる手立てもありませんが・・・」
そう前置きしつつ、八尺鏡野さんは口を開いた。
「はたして、ゾンビは我々と『同じものか』ということを・・・です」
・・・?
「あの、実はそっくりな宇宙人に入れ替わってる・・・とかですか?」
我ながら、アホなSF小説めいた答えしか出ない。
「いえ、それですと普通の人間が噛まれてゾンビになるのがまずおかしいのです」
・・・確かに。
入れ替われるなら噛む必要ないもんな。
・・・っていうかもしほんとに宇宙人なら、あんなにゾンビがアホなわけないじゃないか。
少なくともこの星にやってこれる知能はないとおかしいぞ。
「まあ、つまりね」
古保利さんが割って入る。
「我々はさ、ゾンビ化をウイルスの感染・・・つまりは病気みたいなものだと考えてたんだけども・・・そこが違うんじゃないか、そう思ってね」
今まで黙っていたオブライエンさんも言う。
「ゾンビは、『変わってしまった』モノかもしれナイ、そういう、ことデス」
変わってしまった・・・?
いや、そりゃあ人間からゾンビに変わってはいるが・・・?
「まあ、机上の空論だけどね・・・でもさ、この渦巻き見てごらんよ」
古保利さんが写真を指差す。
「ゾンビには電気が効く・・・効くってことは、つまり『攻撃』ってことだろう?」
「ええ、そうですね、まあ」
一体何を言ってるんだろう。
ふと、俺の横で神崎さんが何かに気付いた表情をした。
「まさか・・・いえ、そうですか、『攻撃』・・・」
「?神崎さん、何かわかったんですか」
そう聞くと神崎さんは、青ざめた顔で俺を見る。
どうしたんだ?
まるでホラー映画マラソンでもしたみたいな・・・
「・・・田中野さん、あなたが急に殴られたり、石をぶつけられたらどうしますか?」
「え?急にですか・・・まあそりゃあ、躱すとか、逃げるとかしま・・・す、けど・・・!?」
背筋に寒気が走る。
まさか。
神崎さんが言っているのって・・・
「この脳の内部でも、同じことが起こったのだとしたら・・・『こう』なるんじゃありませんか?」
校長室に、嫌な静寂が満ちた。
つまりは、アレか。
この写真の渦を巻いた脳。
これは・・・『生き物』ってことだな?
「人間の一部である臓器じゃなくて・・・この変な脳は、独立した生き物・・・って、ことですか?」
頼む、誰か笑い飛ばしてくれ。
そんなバカなことがあるもんかってさあ。
・・・そんなふうに考えながら発した言葉は、薄々予想していた通り何の反論も得られなかった。
しばらくして、八尺鏡野さんが口を開いた。
「相も変わらず原因もわからなければ対策もできませんが・・・そういう可能性は高い、でしょう」
「で、でもなんで脳味噌が丸々別の生き物に入れ替わってんですか?いくらなんでも気付くでしょう?」
一体どうやって侵入したと言うんだ。
〇生獣よろしく蛇的なものが耳からズルー!なんて、眠ってない限り絶対に気付くぞ。
「田中野くん、生き物ってのは・・・色々なサイズがあるだろう?シロナガスクジラからそれこそ菌まで」
・・・そうだよな。
「ってことはアレですか・・・無茶苦茶小さな生き物が人間の脳に入り込んで・・・丸々『成り代わる』って、ことですか」
「噛みつかれたらゾンビになるってのは・・・つまり、そういうことなんだろう」
・・・ゾンビの攻撃。
あれは、『捕食』じゃなくって『繁殖』ってことなのか?
傷口から自分たちの『分身』を送り込んで・・・血管経由で脳を『乗っ取る』
そのための行動だったのか?
・・・ううわ、気持ち悪い。
食われて死ぬより嫌だ。
・・・敦さんの指、斬り落としたのは正解だったなあ・・・
「ただね、そうだとは思うんだけど・・・疑問は尽きない」
そう言って、古保利さんは指を1本立てる。
「ひとつ、何故我々は『成り代わられ』ていないのか」
・・・確かに。
目に見えないほどの小さな生き物なら、どこにだって入れるはずだ。
それこそ、この騒動初めに引き籠っていた俺の・・・実家にさえも。
自衛隊の基地の話だってそうだ。
何故半分だけゾンビになったんだ。
同じ環境下なら、全員がゾンビになっててもおかしくないというのに。
続いて2本目。
「ふたつ、繁殖行動と言うなら・・・何故ゾンビは人間を、それこそ『食い散らかす』のか」
あ、そう言われれば。
増やすのが目的なら、なんで食い殺す必要があるんだろう。
軽く噛めばいいのに。
「ま、現状の大きな疑問はこの2つだね。ただこれを差し引いても、生物説を後押しする理由がある・・・黒ゾンビだ」
古保利さんは、自分の分の書類を無造作に開いて見せてきた。
そこには、活動を停止した黒ゾンビの写真。
病院のベッドのようなものの上に、寝かされている。
「体表面の変色もそうだし、なによりこの・・・殻みたいな部位あるじゃん?」
急所付近をぞんざいに覆うように展開する装甲。
その根元は、皮膚から生えるような形になっている。
「人間の体をこんなふうに変えられるなんてさ、脳味噌でも乗っ取って色々やんなきゃ無理だろう?」
脳から謎物質でも分泌しているってことか・・・?
「それに脳を喰って黒ゾンビになるってのは・・・謎生物の群体同士が俗に言う『合体』をしているんだろう」
「・・・集まれば、より効率的に人間を『改造』できるっていうわけですか。」
ノーマルゾンビの脳では無理だが、三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったもの。
集まってより『操縦』も上手くなるってことか。
なるほど、そう考えれば黒ゾンビのとんでもない運動性能にも合点がいく。
明らかに元の体の性能、無視しているし。
「そして極めつけは、キミが会ったあの・・・白黒ゾンビだ」
古保利さんはそう言うなりこらえきれないように煙草に火を点け、しかめっ面で煙を吐き出す。
「武器を使うってことは・・・脳の摂取で群体が大きくなったのに加えて・・・時間経過で『操縦が上手くなってきた』ってことじゃないのかなあ?」
・・・おいおいおい。
うわー!認めたくないィ!!
認めたくはないが・・・そう考えるのが一番矛盾がない。
やべえぞ。
その路線が正解なら・・・放っておくとゾンビはどんどん質が悪くなっていくってことだ。
詩谷に比べてこっちのゾンビが微妙に強いのは、すなわち人口の・・・『脳の数の』差ってことかよ・・・
喰い合って進化?合体?するのにも都合がいいもんな。
・・・脳ってのはパソコンでいうとこのCPUだ。
どう体を動かすか、どんな風に息をするか・・・
そういうのを、無意識で勝手に全部やってくれている便利なやつ。
そこが丸々乗っ取られた上に、どんどんCPUが合体して処理能力が上がっていく。
・・・なんかゲーミングPCみたいなことになってきてるな。
「ま、再三言うけど我々は専門家じゃない・・・断定はできない。この書類にも前の書類にも、脳の成分自体は人間のモノと変わんないって書いてあるしね」
脳を乗っ取る・・・っていうか『同化』って言うのか?この場合。
「謎が解けたと思ったら謎が増えてさらにわけがわからんことに・・・なんで腐らないとかもわかんないですし」
「もうそこに関しては思考を放棄したよ、僕はね・・・ははは、いいじゃないか燃やせば灰になるんだし・・・今度から焼く前に一応電気流すようにするけどね、復活されたら嫌だし」
天井に煙を吐き出しながら、古保利さんは力なく笑った。
俺もまた、ソファーに体を預けて煙草を咥える。
ええっと、ライターライター・・・あ、神崎さんありがとうございます。
肺いっぱいに煙を吸い込むと、考えがクリアになってきた。
「ふぅう・・・まあでも、やるこた変わんないんですけどね。脳味噌が生物ってんなら、叩いて潰せば死ぬんですし」
「いやあ、キミのそういうシンプルなとこいいなあ・・・さすがは田宮先生のお弟子さんだ」
よせやい、褒め・・・てるのかこれは?
遠回しに馬鹿にされてる気がしてきた。
「この脳の件ですが、くれぐれも他言無用でお願いします」
八尺鏡野さんはそう頼んでくるが、誰にも言うつもりはない。
「言っても何にもなんないですしね。かえって混乱されるだけだ」
「その通りです、パニックがさらに加速する懸念がありますので」
どうこうできるもんでもないしな。
『実はゾンビは脳だけ謎生物に入れ替わってるんだ!!』『な、なんだってー!!!』みたいになるのがオチだ。
知ったところで何にもならんし、逆にアホが疑心暗鬼になって虐殺でもされたら困る。
ゾンビがゾンビであることに変わりはないのだ。
「私達も、脳を捕食しているゾンビを見かけたら必ず駆除するくらいしかできることはありませんね」
神崎さんも、憂いを帯びた表情だ。
・・・今までとそう変わらんな?
「そっすねえ。無防備な変身中に叩けば死ぬんだし楽でいいや」
武器装備黒ゾンビとかいうハイブリッドモンスターが誕生することは避けたい、なんとしても。
「田中野くんの一団は必要ないだろうけど・・・さほど戦闘力の高くない隊員には何かしらの電撃装備を支給した方がいいね、八尺鏡野警視、オブライエン少佐」
「ええ、そうですね」
「異論はございもはん」
しれっと除外されたぞ我々!
確かにそうだけども!!
・・・あ
「七塚原先輩は戦闘スタイルがあれだから、しっかり釘を刺しとかんと・・・!」
豪快に脳天爆砕させるからな。
脳の破片が口に入って寄生・・・なんて事にもなりかねない!
「七塚原・・・下の名前は無我さんですか?とんでもなく筋肉質な」
八尺鏡野さんが俺の方を見た。
おや?知り合いかな?
筋肉で覚えているのはちょっと笑える。
やはりこの人は筋肉フェチだ。
「ええ、兄弟子なんですけど・・・ご存じなんですか?」
「はい・・・何度か事情聴取を」
・・・あ~~~~。
そういうことね。
「え?南雲流に何度も警察の御厄介になる弟子がいるの!?田宮先生も丸くなったなあ・・・あの人なら叩き殺しそうだけど」
いかん、古保利さんが何かとんでもない勘違いをしていらっしゃる!!
先輩がヒャッハー系のDQNだと思われている!
「古保利三等陸佐、違います」
八尺鏡野さんが慌ててフォローをする。
「七塚原さんは、その・・・子供を対象にした犯罪者を何度か入院させていまして・・・」
「先輩、子供絡みの犯罪に厳しいからなあ・・・よく相手が生きてたと思いますよ、ええ」
俺が高校・・・2年くらいの時にすげえのがあったしな。
「俺が知ってんのはアレですよ八尺鏡野さん、ロリコン強姦魔の金玉蹴り上げて骨盤もぶち壊したあの事件」
「ああ、それは私が担当しました」
世間って狭いなあ!
「七塚原さんがそんなことを?」
神崎さんが目を真ん丸にして・・・少し顔を赤らめている。
すいません金玉は言わなくてよかったですね・・・訴えないでください!!
「当時龍宮で多発していた事件です。七塚原さんは公園で偶然に犯行を目撃し、即座に犯人を無力化して少女を救出しました」
「蹴り飛ばしすぎてベンチ2つくらい犯人が貫通した・・・って先輩が言ってたんですけど本当ですか?」
「正確には3つです。生きているのが不思議なほどの重傷でした」
ワオ。
なんで人が蹴りの威力で水平にカッ飛ぶんだろうか。
俺には永遠の謎である。
「子供を狙う・・・卑劣な犯人デス、許せない」
オブライエンさんが憤懣やるかたないといった顔。
組んだ腕に筋肉の筋が浮かび上がっている。
この人も子供好き(通常の意味で)かな。
「犯人の男が先にマチェットで斬りかかったので、ギリギリ正当防衛が成立した事件です。田宮先生まで怒鳴り込んでこられて・・・大変でした」
ここではないどこかを見つめて溜息をつく八尺鏡野さんである。
すいませんウチの先輩が・・・いやむしろ師匠含めて・・・
そう考えていると、八尺鏡野さんの鋭い目線が俺を射貫く。
「あなたもですよ田中野さん」
・・・なんで!?
「不思議そうな顔をなさらないでください・・・南雲流の門下生は全員1度は事情聴取をされていますから、記録で把握しています」
「・・・ぐう」
ぐうの音しか出ない。
すいません俺も含めて・・・
「田中野さんも、そうなんですか!?」
なんでお目目がキラキラしてるんですか神崎さん!
「ええ、とくに有名なのは・・・10年ほど前に誘拐されそうになっていた女子高生を救出しています。その過程で犯行集団を全員骨折させて無力化していますが」
「まあ!そんなことが!!」
「やめてくださいしんでしまいます」
拙者の黒くくすんだ暦が!!
「何故ですか!立派なことですよ田中野さん!!」
「いささかやりすぎですが。さすがに走行中の車に飛びついてフロントガラスを破壊して侵入するのは危険すぎます」
「やめてください田中野のライフはもうマイナスですよ!!!」
ひぎい!よく覚えていらっしゃるゥ!!
仕方ないじゃん目の前であんなの見たらさあ!!
目が合ったんだもん女子高生と!!
見捨てたら一生もののトラウマになっちゃうでしょ!!
「ははは!ははははは!!さすが南雲流・・・似た者同士だなあ!!はははは!!」
笑ってないでなんとかしてくださいよ古保利さん!!
ああ畜生!全部師匠の教えが悪いんだ!!俺は悪くねえ!!
「オゥ!まるでニンジャですネ!」
ニンジャはフロントガラスをぶち破ったり・・・・ニンジャならやるかもしれんな。
いや問題はそこじゃない!
「他にはありませんか!?」
「そうですね・・・立ち寄ったコンビニで居合わせた強盗を昏倒させた事件がたしかあったような・・・」
ちょっとォ!!神崎さんもう聞かないで!八尺鏡野さんは答えないで!!
職務上知りえた情報の漏洩は服務規程違反でござるぞ!!!
先程までの重苦しい空気はどこへやら。
校長室は、俺の悲鳴とみんなの笑い声で満ちていた。
俺以外は楽しそうだなあ!!!
「あの、ひょっとして田中野さんじゃありませんか~?」
校長室での一件も終わり、廊下から駐車場まで戻ろうとしていると後ろから声をかけられた。
神崎さんはもう少しお祖父さんたちと話すというので、別行動である。
「ええ、そうですが・・・」
振り返ると、上品そうなご婦人がいらっしゃる。
・・・俺の知り合いにこんな綺麗な人いたかなあ。
「凜ちゃんが言っていた通りの人だったから思わず声をかけてしまって・・・すみませんね。私は花田由香子と申します~、姪や夫がお世話になっています~」
花田・・・ああ!
花田さんの奥さんか!
なんというか・・・まったりした雰囲気の人だな。
坂下のおばさんと似たオーラを感じる気がする。
「いえいえおかまいなく・・・田中野一朗太です。神崎さんや花田さんにはむしろ俺の方が本当に・・・ほんっとうにお世話になっています!」
「ふふふ、凛ちゃんの言っていた通りの人ですね~」
・・・神崎さんよ。
俺を一体どのように紹介しているのか恐ろしいんですがそれは・・・
「今日は凜ちゃんとは一緒じゃないんですか?」
「ああ、今はお祖父さんたちとカウンセリング室でお話されていらっしゃいますよ」
「お義父さんも来ていらっしゃるのね~そろそろこっちで暮らしてほしいのだけれど~」
あらあらうふふとでも擬音が見えそうな人である。
「とりあえずご挨拶に伺おうかしら~・・・今日は噂の田中野さんにも会えたし、いい日ね~」
・・・どんな噂なんだか知りたいけど知るのが怖い!
触らぬ神になんとやらだ。
「田中野さん」
考え込んでいると、不意に真剣な声色で話しかけられた。
「はい?」
由香子さんは、真っ直ぐに俺を見ている。
うわあ・・・夫婦で似ているのかなあ・・・すっごい迫力ゥ・・・
「凛ちゃんを、お願いしますね。あの子はとってもいい子なんだから」
おちゃらけは許されなさそうな雰囲気だ。
俺も真剣に答えなければ。
「―――死ぬ一歩手前くらいまでは、全力で守ります。死ぬと神崎さんに殺されちゃいますので」
・・・あと他の人たちにももう一回くらいずつ殺されるし。
俺の言葉のどこが気に入ったのか知らんが、由香子さんは満面の笑みを浮かべて手を振りながら去って行った。
あの母親に、息子君は全然似とらんなあ・・・
十中八九父親の遺伝だろうな。
俺はその後は普通に車まで戻り、一服しつつ神崎さんを待った。
神崎さんはその後しばらくして顔を真っ赤にしてダッシュで帰って来るなり、
「にゃに、何を・・・!何を言われて何を言ったんでしゅか!!たにゃかのしゃん!!!」
そう叫びながら俺の胸倉を掴んで振り回した。
綺麗に落ちてしまったので、帰るのが少し遅れてしまったことをここに記しておく
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