第58話 御神楽高校の夜のこと

御神楽高校の夜のこと








さてさて、舞い戻ってきました御神楽高等学校。


ふれあいセンターを離れ、先輩の運転する軽トラに乗せられてあっという間に着いた。


・・・これには語弊があるな。




・・・ぶっちゃけ失神してました、俺。




疲れ、体へのダメージ、そして意外に多かった出血。


それらが相乗効果を発揮したのか何なのか、出発してすぐに俺は気を失い・・・慌てた先輩の高速運転によってあっという間に着いた、らしい。




らしいというのは、俺が気が付いたころには既に保健室に寝かされていたからだ。


いやーもうびっくりした。


起きたらベッドに寝かされてるんだもん。


巻き直された包帯で視界も狭かったし。




そこでお医者さん(避難民の方だそうだ)から、事の顛末を聞かされたというわけだ。




「こんな時代に、刀傷の治療をすることになるとは思わなかったよ」




優しそうな初老のおじさん先生は、苦笑いしながらそう話してくれた。




「というかキミ・・・十兵衛先生のお弟子さんでしょ。覚えているかい、私を」




俺の体の古傷を見た先生は、そう聞いてきた。


なんでも昔、俺が師匠の竹槍で負傷した際に傷を縫ったことがあるそうだ。


言われてみれば、何となく顔を覚えているような・・・


世間の狭さをしみじみ感じていると、先生はこうも言ってきた。




「とりあえず、今日はここに泊まりなさい。キミの家へは、先輩くんに連絡を頼むから」




・・・もう大丈夫なので帰らせてくれませんか?と言うと。




「大丈夫だとは思うが、頭部への傷は何が起こるかわからない。医師として経過観察は絶対だ、今晩は我慢しなさい」




とまで言われてしまっては、こちらも承諾せざるを得なかった。


心苦しいが、お言葉に甘えよう。




「うし、じゃあわしは帰るけぇな。みんなには伝えとく」




「お、お手柔らかに・・・」




保健室の外で待っていた先輩は、そう言って高柳運送へ帰っていった。


あっちは無傷だもんな・・・我が先輩ながら凄まじいぜ。


俺よりも多数の敵を相手取って無傷とは。


聞けば、先輩の方にも中々腕の立つ連中がいたらしいのだが・・・




「武器へし折って、適当にぶん殴ったら死んだわい」




とのことである。




簡単そうに言わないでいただきたい。


恐ろしや・・・




しかし、思いがけず一泊することが決定してしまった。


ライアンさんや森山さんはまだふれあいセンターで作業中なので、話し相手もいない。


むーん、どうすべきか。




持ってきたリュックからカロリーバー(鉄分入り)を齧りつつ、ベッドの上でボケっとしている。


それにしても俺、避難所の保健室に縁があるよなあ・・・




「落ち着いたようだね、コーヒーでもどうだい?」




先程のお医者さんが、ポット片手に帰ってきた。




「あ、ありがとうございます、何から何まで・・・」




「いやいや、こうして治療している間はここを使えるんでね。部屋は大勢での雑魚寝だから、医者の特権というやつかな・・・少し休憩させてほしい」




そういうことなら、思う存分ゆっくりしていただこうか。


暖かいコーヒーを受け取ると、お医者さんは椅子に腰かけた。




「ああ、そうそう。私は石平だよ、名乗りが遅れたね」




「こちらこそ、田中野といいます・・・師匠とはどういう関係で?」




そう聞くと石平先生はコーヒーを啜り、話し出した。




「あれは今から・・・そうだね、30年は前になるかな。当時はまだ結婚していなかった妻と出かけていたら、よくない部類の相手に絡まれてね・・・・」




あ、なんとなくわかった。




「当時は若かったから私も抵抗したけれど、相手も多くてね・・・あわや最悪の事態になるところだったんだけど・・・」




・・・やっぱり、容易にその先が想像できるな。




「その時に十兵衛先生が助けに来てくれてねえ・・・『助太刀はいらないか?断っても参加してやる』なんて言って・・・すごかったなあ、10人以上はいた相手があっという間に半死半生になっちゃって・・・」




師匠の血の気の多さは、その頃から変わっていないらしい。


俺が覚えているだけでも散々喧嘩買ってたもんなあ。


何度道場に警察が来たことか。




「笑っちゃったのはさ、その後警察が来て真っ先に十兵衛先生が連行されたことかなあ」




「あーはい、笑えますねそれは」




どう見ても師匠の方が危険人物だったんだろう。


見た目が。




「私達も先生の無実を証言をするために警察へ行って・・・それからかな、妙に気に入られてね。夫婦共々よくしていただいているよ」




たぶん、この人が奥さん・・・恋人をボロッボロになっても守ってたんだろうなあ。


師匠、そういう人好きだもんな。


『気の持ちようで、人は卑怯者にも勇者にもなれる』だっけか。


昔言ってたなあ。




「この騒動が起こって、めっきり姿を見せないけれど・・・まあ、十兵衛先生なら大丈夫だろうね」




「間違いありませんね、師匠ならゾンビの方が逃げ出しますよ」




俺達は、顔を見合わせて笑い合った。


やっぱり、知り合いは誰一人師匠の安否を心配しないなあ。




ふう、なんかコーヒー飲んだら一服したくなったな。


でもここ、保健室だしなあ・・・




「そこのベランダなら喫煙できるよ」




おや、お見通しか。


流石はお医者さん・・・いや、俺が分かりやすすぎるだけか。




「へへ、じゃあお言葉に甘えて・・・」




そう言いつつ移動する。


へえ、ここは4階にあるのか。


今気付いた・・・先輩運ぶの大変だっただろうなあ。


しかし、見晴らしがいいなあ。




気付くと、石平先生も付いてきていた。


おや、お仲間かな?




「医者の不養生・・・なんだろうけどねえ。正直、煙草でも吸わないとやってられないんだよ」




懐から大人気銘柄を取り出して、石平先生は苦笑い。


まあ、こんな状況ならそうだろうな。




「あの、さっきのお話ですけど・・・奥さんは今・・・?」




「ああ、ここに一緒にいるよ。毎日楽しそうに畑仕事さ、どうも昔からの夢だったらしい」




・・・なんとも、強い女性だなあ。


我々男連中も頑張らねばなあ。




「まあ、何にせよ生きていかないとね・・・『振り返っても、そこに何もありゃせんのじゃ』って、十兵衛先生もよく言ってたしねえ」




「本当ですねえ。はは、口癖かな?」




男2人で、夕空に紫煙を吐く。


ふう、うまい。


今日も生き残ったぞ。


生きてて偉い、俺。




「・・・しかしキミは、随分と戦っているようだね。ゾンビ以外にも、敵は多いらしい」




「・・・おわかりですか?」




「そりゃあねえ、キミの体をちょっと見ただけでもわかるよ。切り傷に打撲、捻挫に筋繊維の断裂・・・おまけに治ってはいるが複数の銃創まである」




・・・そう聞くと俺の体ヤバいな。




「私達は幸運にもここに初期段階で受け入れてもらえて、特にこれといった修羅場はくぐってないけれど・・・それでも外の状況は聞こえてくるよ」




「ははは・・・まあ、中々の地獄ですよ、外は」




ここは避難所の中でも最高ランクに安全だ。


なんたって武装集団が3種類もいるんだから。


責任者も素晴らしい人たちばかりだ。




しかめっ面で煙を吸い込み、石平先生は続ける。




「私は医者だ、人間を治す医者だ。だけどね・・・それに値しない人間も、遺憾ながら多いんだろうね」




「・・・」




今までの優しそうな声とは打って変わり、酷く低い声。


なにか、色々あるんだろうなあ。




「ふれあいセンター・・・駄目だったんだろう?こちらもその噂で持ち切りなんだ」




まあ、そうだろうな。


今回は大量の人員を投入していたし、避難民もすぐに状況に気付くだろう。




「・・・助けられたのは、少しの子供だけです。子供も、老人も、大勢死んでしまいました」




「そうかい・・・はぁ」




盛大に煙を吐き出し、石平さんは嘆息した。




「・・・子供が死ぬのは、特に辛いねえ・・・田中野くん」




「・・・ええ、そうですね」




「私達夫婦には、子供がいなくてねえ・・・だからか、ここの子供たちがたまらなく愛おしいんだ」




風に乗って、煙草の煙が揺れる。




「・・・もし、ここでもふれあいセンターみたいなことが起きるかと思うと、震えが来る」




石平先生の握りしめる手から、折れた煙草が落ちる。




「・・・そうはなりませんよ、石平先生」




つい、割り込んだ。




「ここには大勢戦える人がいますし・・・それに、アレをやった奴らは・・・」




煙を吐き出し、続ける。




「俺が、南雲流の名にかけて・・・いや、俺の命をかけても根絶やしにしてやりますから」




そうだ。


俺が、やるんだ。


知ってしまった以上は、やらなければならない。




「・・・その威勢はいいけど、まずは傷を治してからだねえ」




「はは、そう言われちゃうと立つ瀬がありませんね」




ぎゃふん。


出鼻を複雑骨折してしまった。




「とにかく、石平先生は避難民の健康を守ってください。障害物くらいは、俺が何とかしますから」




「・・・本当に十兵衛先生によく似ているよ、キミは」




「ええ~!?」




・・・似てない似てない。


いつだったか若い時の師匠の写真見たけど、すっげえいい男だったもん。


雰囲気が抜き身の日本刀みたいだったけどさ。


あと、目が怖すぎる。


平々凡々醤油顔の俺とは比べ物にならんな。


今は、遺憾ながら傷のお陰で迫力だけはあるけども。




「十兵衛先生も、こと子供のこととなるとキミと同じ目をしていたよ」




・・・そうかなあ?


自分ではなんともわからん。




そうこうしているうちに煙草を喫い終えたので、室内に戻る。




「ここに保存食が入っているから、好きに食べるといい」




戸棚を指差しながら、石平先生が言う。


見れば、ガラス越しに食料が見える。




「え、いやそんな、悪いですよ」




「怪我人は主治医の言うことを聞くもんだよ、田中野くん。栄養を摂って早く治さないと、キミも困るだろう?」




・・・ぐう。


それを言われるとキツイな。




「はは、一本・・・といったところかな。さて、私は戻るから・・・夜更かしせずに寝るんだよ?」




「了解しました、先生」




にこやかに笑うと、石平先生は扉を開けて出て行った。




・・・いい人だなあ。


あんなお医者さんがいれば、ここの子供たちも安心だな。






先生に言われた通り、ベッドに横になってゴロゴロしている。


時刻は夕方から夜へ移り変わるあたりだ。


棚の保存食・・・カロリーバーとスポーツドリンク、それにサプリメントくらいは貰おうかな。


そんなことを考えていた時だった。




「こんにちは~、石平先生いますか~・・・って、ええ!?」




聞き覚えのある声と共に、ドアが開かれた。




「お、おじさん!大丈夫なんですか!?」




そう言って慌てた様子で俺の方へ駆けてくるのは、確か璃子ちゃんの同級生だ。


名前は・・・ゆっちゃんだかえなちゃんだかき、きーちゃん?だか。


正直3人ひとまとめで覚えていたから全然わからん。




「・・・やあ、これは恥ずかしい所を見られちゃったなあ」




「な、なにがあったんですかぁ!?ひょっとして避難所で・・・!」




「いやいやいや、コレは別口でね。心配しなくても璃子ちゃんは無事だから安心して」




おやおや、涙目だよこの子。


俺ってばそんなに重症に・・・見えるな、うん。


少なくとも見た目は包帯のお化けだ。




「とにかくおじさんは大丈夫だよ、見かけほど怪我もひどくないし。あ、石平先生はもう自分の部屋に帰ってると思うよ」




「そ、そうですか・・・あのあの、本当に大丈夫ですか?」




「大丈夫大丈夫、おじさんは特別頑丈なことが取り柄だから」




こんな1回会っただけのオッサンを心配してくれるなんて、いい子だなあ。


璃子ちゃん、友達に恵まれていらっしゃる。




「そんなことよりサクラに会えない方が辛いねえ、ああ、サクラってのは俺の飼ってる豆柴なんだけど・・・」




「あっ!前に璃子ちゃんの動画に映ってたわんちゃんですね!」




「そうそう、かわいいんだよお、とっても」




それからしばらくの間、その子えなちゃんだそうだと犬の話で盛り上がった。


彼女も子供の時にビーグルを飼っていたらしく、楽しそうにその話をしてくれた。


犬好きに悪い人間はいない、田中野覚えた。




「あ、ごめんなさいおじさん、寝てなきゃいけないのに・・・」




「いいのいいの、気にしないで」




結構話し込んでしまったな。


犬の話は無限に盛り上がれるから困ったもんである。


・・・いや別に困らないな!?




「じゃあおじさん、おやすみなさ~い」




「はいはい、おやすみ」




そうしてえなちゃんは帰っていった。


・・・結局石平先生に何の用事があったんだろうか。






ベッドに寝転がり、天井を見つめる。


・・・車までプレーヤーを取りに行こうかと一瞬考え、やめる。


無理して映画を見ることもないな。


今日の所はゆっくりしよう。




しかし・・・大きな怪我もなくよく生き残ったもんだ。


・・・欠損以外は大きな怪我ではない・・・と思う。


左掌が少し心配だけどな。


化膿しないことを祈ろう。


顔の傷・・・また増えたなあ。


マジで顔面だけは宇宙海賊レベルになっちまった。


心もアレくらいイケメンになれるようにせいぜい精進しようか。




だが、榊は強かった。


あれから幾度となく脳内であの戦いを思い返しているが、本当に紙一重の勝利だったと思う。


一手でも反応を間違えれば、あの姉弟と一緒に土の下に埋められることになっていた。


運がよかったと卑下する気はないが、かと言って楽勝だったというわけでもない。


返す返すも、稽古を継続しておいてよかったと言える。




それに何より、我が南雲流の実戦における強さも思い知った。


道場稽古と違って、実戦では同じ相手と戦うのは基本一度きり。


あの榊のように剣術を修めていても・・・いや、正当な剣術を修めているからこそ、うちの初見殺しは絶大な威力を持つ。




「奥伝とか、もっと安定して使えるように練習しとくか・・・」




誰に言うでもなく、天井に向けて呟く。




現状、俺がそこそこの精度で使えるのは『飛燕』のみ。


今回の『春雷』なんて、あの土壇場で成功したのは奇跡だと思う。


神崎さんは『門外不出の殺し技』だって前に言っていたけど、今思えばまあ間違いではなかろう。


使った相手はだいたい死んでるんだし。


カウンター技の『瞬』や『天面合撃』はともかく、『連雀』はしっかり稽古しておこう。




・・・奥伝ノ五に『鋼断』なんてのがあるが、アレは無理だ。


初めから候補に入れないでおこう。


試したこともないし。


なんだよ鋼も斬れる斬撃って。


師匠くらいしかできねえわ、そんなの。


・・・師匠は実際に兜を斬ってたし。


今の俺じゃ、兜をへこませるので精一杯だ。


っていうかできてたら榊の足くらいスパッとやれてたと思う。




ちなみに、南雲流剣術の奥伝は10個存在する。


どれもこれもとんでもなく初見殺し威力は高いと思うが、機会が限定的だったり、純粋に難しいものが多くを占める。


師匠曰く、これ以外にも『外典げてん』というものがあるらしいが・・・俺は見たこともない。


1つだけ知っているのは、以前にも言及した『屠龍の太刀』という中二病患者が喜びそうなものだけである。




1回だけ師匠に演武を見せてもらったけど、あれは相手が3メートル以上の身長じゃないと役に立たないと思う。


人間に使う技の高さじゃないもん。


・・・マジで平安時代以前にはこの国にもドラゴンがおったのかもしれん。






とまあ、そんなことを考えていたら窓の外が暗くなってきた。


自分一人だと時間が経つのが遅いなあ。


映画でも見てれば一瞬なんだけどな。




戸棚からいただいた食料をスポドリで流し込み、一息つく。


時刻は・・・七時半か。


いくらなんでもまだ寝れない。


かと言って稽古もできない。


・・・先輩はもう到着した頃だろうか。




・・・お?


窓の外が騒がしい。




ベランダに出ると、丁度ふれあいセンターに行っていた緑の装甲車が帰ってきているところだった。


襲撃者の死体処理も終わったようだ。


お疲れ様である。


丁度いい、もう少ししたら八尺鏡野さんにお礼も兼ねて挨拶に行こう。


ライアンさんや森山さんとも少し話したいしな。




眼下の喧騒を眺めつつ、咥えた煙草に火を点ける。




「ふぅ、今日の所はそれくらいで寝る・・・か・・・?」




―――聞き馴れたエンジン音が聞こえた気がした。




「・・・いやいやいや、まさかね」




先輩はもう帰ったし、幻聴だろう。




・・・あそこに見えるヘッドライトは、幻覚だろうなあ、うん。


うわあ、あの幻覚すっごい速い。


・・・せ、戦略的撤退だ。






『高柳運送の神崎二等陸曹です!!至急開門願います!!!』






聞き馴れた幻聴が聞こえるぅ・・・コワァイ・・・




俺は、その幻覚幻聴を振り切るように室内へ撤退。


ベッドの上で頭から布団をかぶった。


・・・うん、頭を斬られたからあれだ。


ちょっと後遺症が出てきたんだな。


こういう時は寝るに限るぜ。






夢であってくれ。


その俺の願いも空しく。




凄まじい勢いで階段を駆け上がる足音がどんどんと近付いてくる。


あ、今この階に着いたな。




〇ェイソンよりよっぽど怖い。


スピードも段違いだし。


むしろあれだ、〇レディだ。


VSシリーズまた見たいなあ・・・




そしてダッシュの足音は瞬く間にこの部屋に近付き・・・




「・・・田中野さぁん!!!」




ばぁん、という轟音と共にドアは開かれた。


息を乱した神崎さんの呼吸音だけが、保健室に響く。




「・・・・・・はぁい」




その沈黙に耐えきれず、答えてしまった。


・・・神崎さんに狸寝入りが通用するとも思えないしね。




「ごっ!ご無事ですか!?・・・何故布団を?」




俺の近くに駆け寄ってきた神崎さんにそう言うと、訝し気な返答。




「・・・えーと、あの、今全裸なので」




「嘘ですね」




西部劇の早撃ち並みの速さで嘘がバレる。


しかし俺も何故こんな嘘をついたのか。


・・・なんとなくとしか言いようがない。




恐る恐る布団を下げていくと、眉間に皺を寄せた神崎さんの顔が見えてきた。


俺の顔を見たのか、彼女はその目を見開く。




「どうも、今朝ぶりです・・・ちょいと強敵にぶち当たりましてね」




「その、よう・・・ですね」




「まま、どうぞ座って座って」




ベッド脇の椅子をすすめると、神崎さんは力が抜けたようにすとんと座り込んだ。


俺も話しやすいようにベッドに座るか・・・なんで邪魔すんの神崎さん。




「駄目です」




「いや、傷はほぼ頭だけなんで大丈b」




「 駄 目 で す 」




「ハイ」




神崎さんのお目目怖ぁい・・・


お祖父さんとソックリぃ・・・


その迫力に押され、俺はおとなしく横になった。




「無線連絡と、帰ってきた七塚原さんからこの状況をお聞きして・・・」




しばしの沈黙の後、神崎さんが口を開く。




「・・・それで、気が付いたら田中野さんの軽トラをお借りしていました」




おおう、アグレッシブぅ。


そんなに心配してくれたのか。




「ご心配を、おかけしました」




「本当ですよ!!」




うお!?


近い近い顔が近い!!




「田中野さんが・・・田中野さんが強いというのはわかっているんです!わかっているんですが・・・!どうしても、わた、私がいない時にこうなってしまったと考えると・・・」




ううむ、申し訳ないなあ。




「わたし・・・ご、ご迷惑・・・でしたね」




「・・・いや」




椅子に座って縮こまる神崎さんを見ていると、つい声をかけてしまった。


なにこの捨てられた子犬みたいな雰囲気。




「た、たぶん俺が逆の立場でも・・・そうしたと思いますから。いやあ、面目ありませんね、相棒」




「しょ!?しょうでしゅか!?」




どうした急に!?


うあ、神崎さん舌噛んじゃったのか・・・痛そう。


真っ赤な顔でプルプルしている神崎さんに苦笑いしつつ、俺は新しいスポドリを差し出すのであった。




うんうん、こういうのでいいんだよ、こういうので。




「心配なので、今晩は私もこの部屋に泊まりますね?」




「ノウ!絶対にノウ!!」




眠れないからやめテ!!


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