第59話 再びの療養と狭まる世間のこと

再びの療養と狭まる世間のこと








「にゃむ・・・たにゃかのしゃん・・・ゆるしましぇんよぉ・・・」




「夢の中でくらいゆるして」




「だめれす・・・」




そうか、駄目なのか。


悲しいなあ




・・・アレ?


寝言に答えたり話しかけたら駄目ってホラーな迷信なかったっけか?


・・・あああ、駄目だ。


こんな夜中に怖い話を思い出したら駄目だ。


眠れなくなっちゃう!




しかもここ、保健室じゃん!


学校の怪談的な意味でホットスポットでござるよ!


ちくしょう、幽霊は・・・幽霊はやめてくれ・・・


せめて殴って倒せるクリーチャーを希望する!


血が出れば殺せるんだから!!




「かんざきですう・・・かんだがわじゃありませぇん・・・」




後藤倫先輩まで出演してんのか、夢。


随分と賑やかそうであるなあ。






・・・とまあ、現実逃避に勤しんでいる訳なのだが。




田中野、眠れません!!




・・・結局俺の懇願をガン無視した神崎さんは、空いていた隣のベッドで眠っている。


許可は既に貰っていたようだ。


くそう、用意周到だ!有能!!




プライバシー保護の観点からカーテンを閉めたが、




「経過観察に必要ですから!!」




という神崎さんの強い要求によって却下されつつ全開にされた。


今も、何やら幸せそうなお顔でスヤる彼女が見える。


うわぁ・・・睫毛長ァい・・・




以前は大怪我だったので睡眠というかすぐ気絶していたが、今回はそんなに酷い怪我ではない(※当社比)


加えて昼間の興奮が尾を引いているのか、疲れているのに眠れないという状態なのだ。


くそ、全部あのカルト教団のせいだ。


・・・覚えていやがれ。




・・・とにかく身動きが取れない。


何故なら神崎さんは異様に勘が鋭いのだ。


さっきも煙草を喫おうと起き上がろうとしたら、




「駄目ですよ」




と、一瞬で起きて止められた。


こっわ・・・やっぱりゴ〇ゴじゃないか。




なんとか寝るとするか・・・


言い訳をするわけじゃないが、だんだん体中が痛くなってきたのもあって寝付けない。


石平先生に鎮痛剤でも貰えばよかったんかな・・・


特にナイフが貫通した左掌が痛い上に熱を持っている。


昼間、遺体の搬出で無理をしたツケが返ってきたようだ。


鼓動に合わせ、ずくんずくんと痛みが走る。




どうしよう、トイレに行くとでも言って一服してくるか・・・?


いやいやいや、神崎さんのことだ・・・最悪ついて来る。


それどころか尿瓶でも用意されるかもしれん。


・・・それは嫌だ。




とにかく目を閉じよう。


そのうち眠くなるはずだ。


うん、そのはずだ。






・・・眠れないんですけどォ!?


あーだめだこれ、完っ全にタイミングを逃したわ!


くっそ・・・このままだとこの状態で朝を迎えてしまう!!


それだけは避けなければ・・・ちゃんと寝ないと生活リズムが狂うのだ。


大学時代、深夜駐車場の警備員のアルバイトをしていてそれを嫌というほど痛感したのだ。


・・・時給がいいのに人が続かないのはそういうわけだったんだな、あのバイト。




「んぅ・・・たなかの、さん・・・缶詰は開けないと・・・だめれす・・・」




・・・夢の中の俺何してんのォ!?




あー駄目だ駄目だ・・・取っ散らかって眠れやしない。


かといって朝までコースは避けねばなるまい・・・




ここは・・・原点に立ち返って動物でも数えるか。


羊・・・いやここはこうしよう。




サクラが1匹・・・サクラが2匹・・・サクラが3匹・・・


うわあ・・・駄目だよサクラこっちに来ちゃあ。




「わふ!」「おん!」「ひゃん!」




かわいい(かわいい)


サクラは何匹いてもかわいいなあ・・・


帰ったら思う存分遊んでやらなきゃ・・・


おっといかんいかん、数を数えねば・・・




サクラが4匹・・・サクラが5匹・・・








「・・・結局382匹かあ・・・大所帯だなあ・・・」




朝の陽ざしが保健室を柔らかく照らしている。


効いたのか効いていないのか、なんとか大量のサクラに囲まれる夢を見つつ俺は眠った。


もこふわの布団だったなあ・・・ビジュアル的に。


恐らく、この世に存在する全ての布団を凌駕する寝心地だろう。




「あ、おはようございます田中野さん・・・丁度良かった、朝食ができていますよ」




そんなことを考えていたら、神崎さんがドアを開けて入ってきた。




「やあ、田中野くん。具合はどうかな?」




お、石平先生も一緒だな。




「おはようございます2人とも。左掌が熱を持って痛いのと・・・右腕が動かないのと、筋肉痛が酷くて起き上がれないくらいですね」




冷静に答えるが、割ととんでもないな俺。




「え!?だ、大丈夫ですか!?」




神崎さんが慌てて駆け寄ってくる。


ぐあ、振動で痛い。




「まあ、頭はしっかりしてるんで・・・なんとかなるかと」




顔をしかめる俺を見ながら、石平先生は苦笑いだ。




「ろくな麻酔もないから左掌は我慢しなさい・・・というか我慢できるキミがおかしいんだけれど」




先生はそのまま俺の横に座り、右手を取る。




「ここは痛むかい?・・・ここは?」




そう言って軽く俺の右腕をおおおおおおおおおおおおおおお!?




「・・・っ!!!ぎ、ぎぎ・・・!!!」




まるで全身に電気が走ったようだ。


視界がチカチカする。


神崎さんが心配そうに見ている。




「・・・ふむ、触診だけでは詳しくわからないが・・・関節と筋繊維・・・それに神経が酷くダメージを受けているようだね。・・・ゴリラと腕相撲をしたか、それとも車でも抱えて振り回したかい?」




・・・そんな愉快な体験はしていない。


思いつく原因と言えば・・・




・・・榊との一連の立ち合いと、その前に戦った女への居合・・・か?




「ひどく、強い相手と連戦しましてね・・・それくらいしか考えつく要素がない、です」




あの時はキレ過ぎてて脳内麻薬がドバドバだったもんな・・・


いつぞやの廃校の時みたいに。




「そうかい・・・いや待て、その立ち合いとやらで居合を使ったのかな?」




「え・・・ええまあ」




なんでわかるんだ?


この先生も武術をやってるとか・・・いや、昨日そんなこと言ってなかったよな?




「大分昔に、技の練習でしくじったと言って同じ状態の十兵衛先生がウチの病院に駆け込んできたことがあってね・・・たしか居合を練習していてそうなったと言っていたのを思い出したよ」




・・・ひょっとして『紫電』か?


落雷より早い速度で抜刀するっていう、あの?


嘘だろあんなの練習してたのかよ、師匠。




「まあ、それだけじゃなくてキミの場合は恐らく体の限界を無視して飛んだり跳ねたりしたのも原因だろうね・・・足の筋肉もかなり痛んでいるようだし」




・・・心当たりがありすぎる。


くそう、筋トレと柔軟、もっと頑張ろう。




「ふうむ、左掌・・・もう治癒の兆候が見られるねえ。南雲流に入門すると代謝が上がるのかな・・・?」




先生は何やらブツブツと呟きながら俺の傷を診察していく。




「とりあえず、頭部の傷が一番深いね。とんでもない切れ味の刀で斬られたから切断面が鋭利で・・・まあ治癒も早いだろうけど・・・」




畜生。


また大事な髪の毛を剃られてしまった。


スースーする・・・


やはり海藻を貪るしかないのか・・・




「ハイ消毒ね」




「あっが・・・いいい!?!?!?!?」




ノーモーションで消毒すんのやめて!!!


気絶しそう・・・!!!




「でも運がよかったねえ、もうちょっと角度が違ったら刃先が脳に到達してたかもね」




しれっと恐ろしいことを言う・・・!


そして座っている神崎さんの顔色がコロコロ変わって俺以上に心配になってくるぜ・・・




「ふむふむ・・・左瞼は問題ないね、肩も。とりあえず動けるようになったら帰ってよし!ああそれとそこの・・・神崎さんだったね」




「は、はい!」




「掌と頭部の傷は1日3回消毒で・・・お風呂は彼なら3日後から入っていいから。熱が出るだろうからこの解熱剤を飲ませてね」




「はいっ!」




あ、あの・・・


なぜ俺ではなく神崎さんに・・・?


神崎さんも何故そんなにやる気満々なんですかね・・・




「・・・キミからは十兵衛先生と同じ気配がする。絶対適当に済ませようとするだろうからね・・・もちろん稽古は最低1週間は禁止!筋トレもなし!柔軟のみ許す!」




う、うぐぐぐ・・・


読まれている・・・俺の行動が・・・!!




「キミも十兵衛先生みたいに、自分以外のことばっかり心配するんだろうからね・・・」




師弟で読まれている・・・!!!




「幸いにして、ここに神崎さんという頼れる人間がいるからそうしたまでだよ・・・一緒に暮らしているんだろう?婚約者かい?」




「にゃ!?」




神崎さんが落雷を受けたように震えた!




「ち、違いますよ・・・神崎さんは秋月の花田さん・・・自衛隊からの指示で、俺のサポートをしてくれる相棒で・・・」




いや違う違う。


俺がサポートだった。


何故か神崎さんが俺をガン見している気配がする・・・


ナンデ!?




「ほう・・・神崎さんは自衛官なのか。私服だからわからなかったね・・・ん?花田?」




あっそうか。


今の神崎さんはTシャツにカーゴパンツ姿・・・よっぽど急いで駆けつけてくれたんだろうな、昨日。


っていうか武装もしてないじゃん!?


ちょっと!不用心でござるぞ!?




「ねえ神崎さん、キミはひょっとして・・・」




「石平先生?いらっしゃいますか・・・あら、凛ちゃんじゃない」




先生が何かを言いかけると、ちょうど扉が開いて香枝さんが入ってきた。




「お、お祖母ちゃん」




「珍しいわねえ、保健室にいるなんて・・・あらまあ!田中野さんじゃない!?まあまあ、どうしちゃったのよそれ!」




「ど、どうも・・・ははは」




香枝さんは慌てたように小走りで俺の方へやって来た。


いやはや、いろんな人に心配をかけるなあ、俺。




「もう・・・そんなところまで本当に十兵衛くんにそっくりねえ・・・苦労するわよ、凛ちゃん」




「ひょえ!?にゃにゃにゃにゃにが!?」




身内がいるとどんどん神崎さんが面白くなってくるな・・・


いつものキリっとした姿とはだいぶ違うねえ。


なんか新鮮。




「そうかそうか・・・神崎さん、キミは菫ちゃんの娘さんだったのか」




手をポンと叩きながら納得がいった顔の先生。


・・・すみれ?


神崎さんのお母さんかな?




「・・・え?先生は母を知っているのですか?」




やっぱりお母さんだったのか。




「知っているも何も、キミが産まれたのはウチの病院だからねえ」




・・・え?


石平先生って産婦人科だったのか!?


・・・師匠、怪我して産婦人科に駆け込んだのかよ。


そりゃ医者は医者だろうけどさあ・・・




「いやあ懐かしいねえ・・・よく見れば菫ちゃんにそっくりじゃないか。菫ちゃんは里帰り出産したから、その後は付き合いがなかったけれど・・・うん、とっても元気そうだねえ」




「そ、そうだったんですか・・・それはお世話になりました」




覚えてもいないだろうから、不思議そうな顔の神崎さん。




「うんうん、よかったよかった。菫ちゃんは早産でねえ・・・難しいお産だったんだよ、あの時は」




へえ、そうだったんだ。


蚊帳の外ではあるが興味はある。




「弦一郎さんがねえ・・・『最善をお願いしたい、よろしく』って言ってきたんだけど・・・目が怖くってねえ」




うん、わかる。


よおくわかる。


今でもあんだけ怖いんだ。


当時はもっともっと怖かったに違いない。




「あの人ったらもう・・・病院からいなくなったと思ったら安産祈願のお守りを段ボールいっぱい買ってくるし・・・」




「ふふ、お祖父ちゃんらしいわね」




あらあら、子供思いのお父さんだこと。


いや、この場合は孫思いもか?




「懐かしいですねえ・・・そう言えば香枝さん、私に何の御用ですか?」




「ああ、そうそう!深見さんの奥さんがね、急にお腹が張ってきちゃったって、具合が悪そうなのよ。予定日はまだまだ先らしいんだけど・・・」




ぬ、お産か!?


ここには妊婦さんもいるのか。


そいつは大変だ。




「ふむ、それは心配だ。すぐに行きましょう!」




「凛ちゃんもついて来てくれないかしら?ひょっとしたら運ばないといけないかもしれないから」




「わかったわ・・・田中野さん、少し行ってきます」




「はい、どうぞどうぞ」




3人は慌ただしく保健室から出て行った。


妊婦さんかあ・・・こんな状況だからこそ、元気な赤ちゃんを産んでほしいものだ。


産めよ増やせよ地に満ちよってな。




・・・あれ。




妊婦さん・・・ひょっとしたらここに来るんじゃないか!?


ヤバい、どうしよう。


ここにあるベッドは2床。


神崎さんが使っていた方は、俺の真横だ。


・・・知らん包帯男が横に寝ていたら、妊婦さんの胎教にさぞかし悪そうだ。


どうしよう・・・




やるしか、ないか。




「スゥーッ!ハァーッ!!」




深呼吸をしながら、ゆっくりと体を動かす。


うがぐぐ、右腕がやばい。


最大級の筋肉痛だこれは。


なるべく右腕に衝撃を与えないように動いて・・・あがががががが!!


左掌のこと忘れてたァ!!


脂汗を流しながら、下半身を動かしてベッドを下りる。


・・・よし、足は大丈夫だ。


上半身は駄目だが、気合で立ち上がるしか・・・ない!




「ぐうう・・・がああ!!」




気合パワーで無理やり上半身を持ち上げ、立ち上がる。


あ、やっべ立ち眩みがすっごいぃ・・・


血も足りてないんだろうなあ・・・




ふらふらと、壁に手を突いてソファーまで歩く。


遠い・・・5メートルほどの距離がフルマラソンめいて感じぞ。




「っは、ふううううう・・・」




それでもなんとかソファーまでたどり着き、息を吐く。


あああ・・・このまま沈んでいきそう・・・っていうか安心したから一服したぁい・・・


でも動きたくなぁい・・・




しかしここで喫煙するという選択肢はないので、半泣きになりながらベランダへ出た。


一旦動きを止めると、次に動く時がきっついんだよなあ・・・




「ふうううう・・・」




よく晴れた空に煙が溶けてゆく。


はあ、落ち着いた。


しかし頑張れば何とでもなるもんだな。


右腕はまだ痛すぎて動かないが、それでも歩ける。




『精神は時として肉体を凌駕する』




とは、師匠もよく言っていた。




『まあ、凌駕しすぎると死ぬが』




とも言ってたけど。


うん、俺もそう思うよ。




しかし・・・『みらいの家』はまだ残党がいるっぽいし、刑務所のこともある。


忘れちゃいけない微強化ゾンビに黒ゾンビも。


・・・ほんと、龍宮市はベリーハードだぜ大木くんよ。


ああ、詩谷が懐かしい・・・俺はいつになったら家に帰れるんだろうか。


・・・子供たちもいるし、ヤバい連中もいる。


まだまだ気が抜けないなあ。




2本ほど喫い、人心地ついた。


さて部屋に戻ろうか・・・




「・・・」




神崎さんが出入り口で俺をガラス越しにガン見していらっしゃる!!


いつ帰ってきたのォ!?




やっべ、もう一本くらい喫って誤魔化そうk




「戻りますよ」




「ハイ」




ドアを開けてから俺の肩を持つまでの時間が短すぎる・・・俺でなきゃ見逃しちゃうね。


あっ、引っ張らないで体中が痛い痛いがあああ!!!






「全く・・・無理はしないでください!」




「ハイ」




ソファーで縮こまる俺である。


運ばれて来た妊婦さんらしき女性が、神崎さんが寝ていたベッドで診察されているのが見える。


一緒にいる老婦人は・・・石平先生の奥さんかな?




「うん、今日はここでゆっくりしていきなさい・・・赤ちゃんは大丈夫だよ」




「ありがとうございます、先生・・・ご迷惑を・・・」




「何がだい?赤ちゃんが無事に産まれることが一番大事なんだ、お母さんはでーんと構えていなさい」




うーむ、優しい。


人気の産婦人科医だったんだろうなあ、先生。




「さて・・・そっちの怪我人は・・・まあ、十兵衛先生の直弟子だものね・・・驚くほどのことでもない、か」




南雲流=化け物みたいな図式が成り立ちつつあるぞ!?


違うんです師匠と先輩方がおかしすぎるだけで俺は普通の・・・普通って何だろう。




「必要な薬は神崎さんに渡しておいたから、動けるならもう帰っていいよ。くれぐれも、くれぐれも安静にね」




「あ、ありがとうございます、お世話になりました先生」




ぎしぎしという音を体の内部から聞きながら、立ち上がってお礼をする。


神崎さんが支えてくれるから若干楽だ。




「・・・まあ、神崎さんがいるなら安心か」




俺が一切信用されていなくて辛い。


師匠、たぶんあんたのせいだからなぁ!




「はい!お任せください!!」




・・・いいお返事だぁ・・・




「十兵衛先生のお弟子さんなら、頑丈なのもわかるわあ!神崎さん・・・凜ちゃん!しっかり首に縄付けておくんだよ!」




「はいっ!!」




奥さんがもっと酷ォい・・・


俺は猛犬か何かなんだろうか・・・


それにしても神崎さん、なんでそんなに嬉しそうなんですか。


ははーん、さてはドSでござるな?




「何ですかその目は」




勘が鋭い!コワイ!!






先生夫婦に挨拶をして、俺は帰ることになった。


八尺鏡野さんたちと情報交換もしたいが、神崎さんが許してくれそうもないのでおとなしく軽トラまで行く。


当の神崎さんは何やら連絡事項があるというので、軽トラの横でボケーっとしながら待つことにした。


何故なら鍵を受け取るのを忘れてしまったからだ。


甘んじて待つしかない。




「おい、アンタ大丈夫なのかよ」




そうこうしていたら声をかけられた。


振り向くと、えーっとこの子は・・・ああ、花田さんの息子さんじゃないか。


名前は確か・・・大介くんだったかな。




「ああ、まあ・・・なんとかね」




以前のような険悪な表情ではない。


神崎パンチで厚生したのだろうか。


まあアレは身内を心配してのことだからな・・・




「・・・悪かったよ」




「・・・?」




急に謝られたな。


何のことだろうか。




「凛姉のこと・・・アンタが死にかけてまで助けたってこと、聞いて・・・」




死にかけてはいないけどなあ・・・多分。


いや、治療されなきゃ死んでたのかな?




「・・・悔しかったんだ、俺。何にもできなくて」




「いやいや、気にすることじゃないよ・・・適材適所ってやつさ」




思春期だしなあ。


突っ走ることもあるもん。




「でも、でもな・・・」




「ん?」




大介くんは俺を真正面から睨む。


え?急になんでござるか。




「俺は・・・まだ認めちゃいないからなあ!」




そう叫ぶと、彼はダッシュで校舎内へ消えていった。


認める・・・?


なんじゃとて?




「お待たせしました・・・どうしました?」




入れ替わりに別の方向から神崎さんが歩いてきた。




「あーいや、今神崎さんの従弟くんに会いましてね」




「何ですって!?ま、またなにか酷いことを・・・!?ちょ、ちょっと行ってきます!!」




「うあー待って待って!!」




拳を握りしめて走り出そうとする神崎さんを必死に止める。


危ない危ない・・・また神崎パンチが炸裂するところだった。




「謝られただけですから・・・やっぱりいい従弟くんじゃないですか」




「そ、そうですか・・・?よかった・・・じゃあ、帰りましょうか」




神崎さんがカギを開けてくれたので、俺も軽トラへ乗り込む。


うん、愛車の助手席に座るってなんか変な感じだ。




「神崎さん」




「はい?」




エンジンをかけた神崎さんに話しかける。




「俺、従弟くんに相棒として認めてもらえるように頑張りますからね!」




「・・・・・・・ソウデス、カ」





なにやら様子がおかしいな。




「あの、どうしましt」




「本日は晴天なり・・・です!!」




んああ!!急にアクセルを踏まないでいただきたい!!


重力が!!重力があ!!




なにやら不機嫌な神崎さんの運転に目を白黒させつつ、俺はなんとか煙草に火を点けた。

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