第46話 不穏なアタッシュケースのこと

不穏なアタッシュケースのこと








耳に届くゾンビの声。


数は・・・わからんな。


10よりは多そうだ。




遠くから聞こえて来ていたそれは、あっという間に高柳運送の周囲で木霊する。


屋上で確認したからもう知っているが・・・俺達の存在はとっくに認知されているようだ。


マジで意味不明な感知能力だ。


なんだろう、匂いで判別しているんだろうか。


それとも目がすごくいいとか?


ジャングルで筋肉野郎と戦ったエイリアンよろしく、サーモグラフィ搭載型のお目目があるのか?




・・・気にはなるが、今はもうそんなことを悠長に考えている時間はない。


というか、科学者でもない俺に何の答えも出せるはずがないだろう。


俺にできることは、とにかく目の前のゾンビをぶん殴って成仏させることだけだ。




「正門・・・大丈夫かなあ」




ガッチガチに封鎖した裏門と違い、正門は俺たちが出入りするために使うので、若干防御力に不安が残る。


内側から鍵をかけているが・・・果たして黒ゾンビの膂力に耐えきれるのだろうか。


などと考えていると、屋上から銃声が聞こえ始めた。




「おう、始めよったのう。これで数が減りゃあええんじゃけど」




「どの道あの数じゃ押し切られる、備えなきゃ」




俺を間に挟み、七塚原先輩と後藤倫先輩が話している。




そうなんだよなあ・・・


前々から感じていたことだが、ゾンビに対しては銃より近接戦の方が有効だ。




そりゃあ銃は強い。


誰でも訓練すればすぐに撃てるようになるし、威力も抜群だ。


神崎さんや斑鳩さんみたいに頭を撃ち抜かなくても、胴体に何発か当てれば殺せる。


殺せるが・・・それは相手が単体の場合だ。




先程の駐留軍の顛末、それが銃の弱点だ。


人間なら即死しなくても痛みで動きは鈍る。


誰だって撃たれるのは嫌だし、痛い。




だが、ゾンビとなると話は別だ。


やつらは痛みに怯まない。


躊躇しない。


恐怖しない。


物理的に動かなくなるまで、手足を使い続ける。


だから、ゾンビの集団に接敵された場合・・・狙いを外せばすぐに取り囲まれてもぐもぐタイムだ。


鉄の自制心でもって、全てのゾンビにヘッドショットを決めでもしない限りな。


神崎さんや一部の自衛隊の人たちなら可能だろうが・・・さっきの駐留軍の場合は違った。


車が停まり、動転したことで狙いは外れてあの有様だ。


横一列で斉射したり、機銃砲座を中心にバリケードを組めば大丈夫だろうが・・・




半面、それなりの修練を積む必要はあるが、近接戦闘なら話は別だ。


七塚原先輩のように手足を物理的に破壊すれば、ゾンビは何もできない。


後藤倫先輩のように首を落とせば、そこで終わりだ。


多数のゾンビに追われても、地の利を生かし体捌きを駆使すれば囲まれることはない・・・理論上は。


俺達にはそれができる。


できる・・・と思いたい、俺個人は。


劣等生だからなあ・・・俺。


南雲流の中では。




「来る!」




そこまで考えた時、後藤倫先輩の声で我に返った。


おっとと、いかんいかん。


思考の海で溺死するところだった。


戦わなきゃならんのに、無駄に酸素を消費してしまったな。




視線を正門に向けると、小刻みな振動と吠える声が聞こえる。


辿り着いたか。




「数は減らしましたが・・・取りつかれました!射角の関係でこれ以上撃てません!」




屋上からは神崎さんの声。




「いいえ!お気になさらず・・・十分ですよ相棒!」




俺も叫び返す。


数を減らしてくれただけで御の字だ。




「私も頑張ったんだからね!おじさんたちも頑張って!」




「おん!わぉーん!!」




璃子ちゃんとサクラからの激励?も来た。




「おう!任しとけっ!!」




そう返した時、延長した正門のてっぺんに手がかかるのが見えた。


登れるとはたまげたなあ・・・


ノーマルゾンビよりだいぶ頭がいいらしい!




「ガアアアアアアアアアアアア!!」




体を持ち上げ、一番乗りの黒ゾンビが吠える。




「アアガッ!?」




吠えた瞬間に脳天を撃ち抜かれ、そのまま向こう側へ落ちていった。


・・・出オチじゃん!


毎回ああなってくれると楽だな。


とまあ、そう思っていたんだが・・・




「グウウウウウウウウウウウウウウ!!」「オゴオオオオオオオオオオオオオ!!!」「ッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアウ!!」




がしりがしりといくつもの手が見える。


ううむ、これじゃあ無理だなあ。




「神崎さん!数の確認だけお願いしますね!」




俺はそう叫ぶと、兜割を携えて前に走り出した。


着地するまで待ってる馬鹿がいるかよ!


地に足がつく瞬間に、脳天を叩き潰してやる!




「左ぃ!」




七塚原先輩が吠える。




「右」




後藤倫先輩は呟く。




「・・・じゃあ中央ォ!!」




残り物には福があるっ!


・・・畜生出遅れたァ!!




俺達の中では最も足が速い後藤倫先輩が、銀色の残光を残しながら駆ける。




「っふ!」




加速の勢いをそのまま乗せ、落下してくる黒ゾンビの土手っ腹に跳び蹴り。


まるで、地上から飛び出す流星のようだ。


黒ゾンビはそのまま正門に叩きつけられ、体を不自然に曲げて痙攣している。


まるで磔だな。


・・・正門の金具と先輩の蹴りにサンドイッチされて、背骨が損傷したようだ。


いかにゾンビとはいえ、脊髄をやられては立てないらしいな。




「っじゃああああああああああああああああああっ!!!」




左方向から飛び降りてきた黒ゾンビ。


七塚原先輩は、そいつの胸を殻ごとぶん殴った。


かなりの硬度を誇る殻は、一瞬で放射状にヒビが入り破損。


そのまま剥き出しの胸に六尺棒がめり込み・・・まるで粘土細工のように容易に人体を変形させた。


その勢いのまま、黒ゾンビは横方向へ吹き飛び・・・




「わいの新しい愛車アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?」




二代目軽トラのフロントに激突した。


あああ・・・傷ついちゃった・・・




「ぬ、すまんのう・・・来よるぞ!!」




「んの野郎がぁ!!!くたばれ!!!!」




時間差で俺の前に着地しようとした黒ゾンビ。


その首を、やり場のない怒りを込めてぶん殴った。




「ゴゴ!?」




綺麗に首の根元に激突した兜割は、内部の骨をばきりと砕く。


昔懐かしい妖怪よろしく、その首は後方に長く伸びて活動を停止した。


・・・黒ゾンビには脳天より首筋の方がいいな。




「正門の左右!水路から登ってきます!正面にも2・・・3体!!」




神崎さんの声に、俺達は一斉にそれぞれの方向へ注意を向けた。




上空を警戒しながら一旦跳び下がる。


ここでは正門に近すぎるからな。




時間差を付けて落下してくる黒ゾンビ。


これなら各個撃破でいけそ・・・何ィ!?




「グルウウウウウウウウ!!!」




遅れて落下するはずだった方が、その途中で正門を蹴りつけて俺の方へ跳んだ!?


そんな芸当までできるのかよ!


狙ったにせよ偶然にせよ、これはキツい!




「るううあっ!!!」




一直線に飛んでくる黒ゾンビ。


その顔面を、上段からの撃ち下ろしで迎撃。


額と頭頂部の間を殴りつけ、強引に頭を下へ向かせる。




「ぬん!!」




がら空きになった延髄目掛け、再旋回させた兜割を落とす。


一撃目の勢いを乗せ、更なるに旋回で加速した兜割が延髄を砕く。






南雲流剣術、奥伝ノ三『連雀』


師匠との悪夢試合以降、練習しておいて助かった!!






が、喜んでいるのもここまで。




もう1体がすぐそこまで迫っている。


着地からのダッシュが速い!




「ゴオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」




両手をかざし、指を折り曲げている。


その爪は明らかに人間のものよりも、長く鋭い。


引っ掻かれてもゾンビにはならんだろうが、軽傷で済むとも思えない。


何よりその腕をどうにかしないと、頭に攻撃が届かない。


踏み出しつつ、半身になって剣先を後方下段に置く。




「っし!!」




すくい上げるように黒ゾンビの右腕・・・その肘を叩く。


最適な場所を殴りつけたことによって、曲がってはいけない方向へ曲がっていく右腕。


それによって開いた空間に体をねじ込み、右肩で胸に体当たり。




おっも!外見よりも体重が重い!


黒くなったことで筋肉密度も変わってるのか!?


だが、速度と体重を乗せた体当たりによって強制的に空間が空く。




「・・・しゃあっ!!」




すかさず構え直し、突きを放つ。




「ッガ!?」




綺麗に体重が乗った突きは、黒ゾンビの喉ぼとけ辺りからずぶりとめり込む。


柄に伝わる、骨が砕ける感触・・・よし!


吹き飛んだ黒ゾンビを前に残心し、息を整える。


仰向けに倒れた黒ゾンビは、びくびくとしばらく痙攣し・・・動きを止めた。




「・・・ふぅ」




なんとかなった・・・か。


しかしすげえ身体能力だ。


ノーマルゾンビと違って、一瞬の油断が命の危機を招く。


それに、あの挙動・・・ゾンビとは違う生き物だと思って対応した方がいいな。


2本足で立つ猛獣だと思っておこう。




「お疲れ様です!残敵、なし!!」




屋上から聞こえる神崎さんの嬉しそうな声に、やっと肩の力が抜けた。


あの謎部隊と、神崎さんたちが数を減らしてくれたお陰だな。






「遅い」




その声に振り向けば、後藤倫先輩が長巻を布で拭っていた。


足元には、腕と首を見事に切断された黒ゾンビの成れの果て。


恐ろしく鋭利な切断面だ。




「すっげ・・・よくもまあそんなにズバッといけますね」




「もう慣れた。硬いけど、関節や首はそれほどじゃない」




しれっとすげえこと言うよな、相変わらず。


これを天才と呼ぶのだろうかねえ。




「片付けにゃあ、のう・・・」




七塚原先輩の足元には・・・うん、なんというかこう・・・幼稚園児がこねた粘土細工みたいな状態の黒ゾンビが。


すげえ・・・トラックにでも撥ねられたのかな?


っていうか・・・




「俺の新しい愛車ああぁ・・・」




「すまんのう・・・」




「男がウジウジするな。キモい」




「ふぁい・・・」




追加でもう2体ほどのパーツが直撃している・・・


なんで七塚原先輩は六尺棒の一撃でゾンビを解体できるんだよ・・・


ボンネットがへこんでいらっしゃる・・・反対側から叩いたら直るかな?


今度からはもうちょっと遠くに停めよう、そうしよう・・・




「ま、とにかくこいつらの後片付けですね・・・周囲を確認して、クリアなら田んぼにでも放り込みましょう」




栽培用ではなくゾンビ埋葬用の田んぼにだが。


ゾンビは腐らないけど、そのままにしておくのはなんか怖いし。


よしんば生き返っても土に埋まってたら予兆もわかりやすいしな。




「この騒動が収まったら、ゾンビの最終処分場で揉めそうだね、ななっち」




「ある意味原発より質が悪いのう・・・」




やめてくれ先の話は。


恐ろしい・・・


だけどまあ、そこは俺たちが考えることじゃなかろう。




国の偉い人たちよ、生き残っているんだろうから後のことはよろしく頼む。


絶対地下シェルターとかに避難してそうだしな、うん。


大量破壊兵器が撃ち込まれたわけじゃないんだ、まあなんとかなってるだろうよ。


俺達みたいな小市民が生き残ってるんだから。






「ふいい・・・疲れた」




スコップで土をかけ、ゾンビは土の下に埋もれた。


タオルで滝のような汗をぬぐう。


ああ、スポドリが恋しい。




敷地内と、それから外の黒ゾンビの成れの果ての片づけがようやく終わった。


結構多かったから疲れた・・・風呂に入りたい。


あいつら異様に重いんだもん。


七塚原先輩なんて軽く担いでたけどさあ。


脂肪より筋肉は重いから、ムキムキの黒ゾンビが重いのはわかるが・・・


それにしたって重すぎる。


体の異様な硬さといい、やはり人間では考えられない筋肉密度なんだろうなあ。




「お疲れ様です」




隣で作業していた神崎さんが、水筒を差し出してくる。




「おお、ありがとうございます!」




受け取って開け、一気に流し込むように飲む。


ぐああ~美味ええええ!


運動した後のスポドリは最高だな!!


元は井戸水だからキンッキンに冷えてる!


一息で飲んでしまった。


けぷ。




「ふふ、いい飲みっぷりですね」




「名実ともに命の水ですよコレは・・・」




水筒を返し、懐から煙草を取り出す。


これで完璧だ。




「あ、喫いながらでいいので聞いてください。少し、お願いが・・・」




火を点けていると、神崎さんが喋り出した。








「お、あったあった・・・うわあ・・・焦げ臭い」




高柳運送から歩くこと5分少々。


原野から龍宮市街へと続く国道の上には、半分焼け焦げた装甲車の姿があった。




『逃げてきた部隊を調べたい』




そう神崎さんが頼んできたので、相棒兼護衛として俺も着いてきた。


もしかしたら周辺に黒ゾンビがいるかもしれないので、先輩たちにはお留守番をお願いしてある。


点々と転がる黒ゾンビの残骸を見つつ、用心して車に近寄る。




黒ゾンビとは違う、迷彩服を着用した死体。


さっきのやつらだな。


エンジンが壊れなければ、しっかり逃げれただろうに・・・不運だったn




「アアアアアアアアアアアアア!!」




「ぜやっ!!!」




手を合わせようとした瞬間に起き上がったので、反射的に首に兜割をぶち込む。


首の骨がバキリと折れた感触。


・・・ノーマルゾンビか。


柔らかいと思った・・・




一応裏返して顔を確認。


白すぎる肌に真っ赤な目。


よかった、ゾンビだ。




「転化・・・って言うんですかね?ゾンビに変わる現象って。なんか早くないですか?噛まれてから2時間くらいですよ」




「黒い個体に噛まれたら、すぐにゾンビになる・・・ということでしょうか?」




情報が少なすぎるから判断できんな。


どっちにせよ、噛まれたら終わりという点では同じなのだが。




装甲車の助手席から逃げた軍人も、同じようにゾンビになっていたので処理。


やっぱり早いな、ゾンビになるの。




「神崎さん、機銃砲座の軍人さんは・・・大丈夫そうですね」




「・・・ええ、さすがにこれでは無理でしょう」




最期まで果敢に撃っていた彼には、頭部がなかった。


どうやら黒ゾンビに美味しくいただかれたらしい。




ふうむ、さっきの2人は頭部が残っていたのに・・・何故彼だけが?


・・・好みの頭部でもあるんだろうか。


わからん、ゾンビは謎だらけだ。




幸い装甲車の火災はエンジンブロックだけのようなので、内部は無事だ。


彼らの装備品や物資を確認することで、わかることもあるだろう。


・・・神崎さんならな!


全部外国語で書いててわかんねえよ・・・




俺にもわかることといえば、彼らの武器くらいのものだ。


見た所破損もしていないように見える。


神崎さんの予備にするにしろ、御神楽高校に寄付するにしろ。


とりあえず回収しておくとしようか。


ライフルと拳銃を2丁、それに弾丸も根こそぎ貰っていく。


・・・この防弾ベストも使えそうだな。


拾い終わったらせめて埋葬してあげよう。




「神崎さん、その備え付けの機関銃はどうしますー?」




車内を物色している神崎さんに声をかける。




「見た所破損もありませんし弾丸も残っています!最後に回収しましょう!」




とのことである。


防衛力が上がるなあ。


いっそのこと新しい軽トラに付けるのも手だな?


・・・いや、悪目立ちするからパス。




車外のものは拾い終わったので、神崎さんを手伝う。


車内から荷物を受け取り、地面に並べていく。


これは・・・レーションってことは保存食か。


こいつは・・・なんじゃろ?わからんな。


そんなふうに黙々と作業していくと、あっという間に車内は空になった。


ふむ、まあこんなもんだろう。




「んっく・・・これで最後ですね」




神崎さんが、重そうに手渡してきたのは・・・


いかにも『重要ですよ』と言わんばかりのアタッシュケース。


持ち手には鍵穴が見える。


やっぱり何か重要なもののようだ。


何が入っているのか知らんが、重すぎる。




「鍵は・・・これですね」




機銃座の死体の懐から、ドッグタグと連結された鍵を取り出す神崎さん。


中が気になるが、ここで見るわけにもいかんな。


一旦持ち帰ろう。




「この車、軽トラでけん引して適当な場所に置いときましょう。さすがにここじゃ目立ちすぎる」




「そうですね・・・さすがにこのままでは」




後続というか、この部隊の仲間に見つかると面倒そうだ。


高柳運送に攻め込まれでもしたら困る。


消防署のガレージ辺りに隠そう。




「待っていてください、外しますので」




そう言うと、神崎さんは取り出した工具で作業を始め、あっという間にそれを取り外した。




「じゃあ神崎さんはそれと拳銃をお願いしますね、残りは俺が持って・・・ヒューッ!!カッコいい!!」




無造作に機関銃を肩に担いでいるが、大変に絵になっている。


そのまま映画のポスターになりそうだ。


タイトルは『ゲンヤ・オブ・ザ・デッド』で決まりだな!




「う、嬉しくありません・・・」




若干顔を赤くして、神崎さんは苦笑いだ。








ひいこら荷物を持ち帰り、軽トラで装甲車を消防署までけん引。


そして高柳運送に帰還した俺は、やっと一息ついていた。




「サークラ、風呂入ろ風呂」




「わふ!!」




サクラと早目のひと風呂を浴び、すっかり生き返った。


今日は何かと大変だったな・・・


屋上で一服していると、神崎さんが呼びに来た。


ん~?晩飯にはちょいと早いな・・・?




「先程のアタッシュケースを開けるので、一緒に確認してくれませんか?」




ふうむ、正直俺が何の役に立つとも思えんが・・・まあよかろう。


相棒のお願いとあれば聞かないわけにはいかないからな。




1階に下りると、みんな集まっていた。


気になるらしい。


璃子ちゃんなんか、まるで宝箱を開ける前のようにワクワクしている。


・・・そんないいものは入ってないと思うな、おじさん。




「事前に確認しましたが、恐らく爆発物等のトラップはありません」




しれっと恐ろしいこと言うな神崎さん。




「最近の高性能爆弾は、これくらいのサイズにまで小型化できていますから」




だそうだ。


科学の進歩ってこええ・・・




「開けます」




鍵穴に鍵を差し込み、かきりと回す。


床に置いたアタッシュケースを、神崎さんがゆっくりと開けた。


そこに入っていたのは・・・




「がっかり~、ね?」




「わふ?」




詰め込まれた書類の束と、1台のタブレットだった。


いやまあ、こんなもんだろうよそりゃあ。




だが、神崎さんにとってみれば謎の部隊に迫る貴重な資料だ。


タブレットは充電が切れていたので、とりあえず発電機につないでおく。


規格があってよかった。




さて、残るは大量の書類だが・・・


全く分からん。


全部外国語だもん。


グラフやらなんやらが見えるが・・・ノーマル文書でもお手上げなのに、こんな難しそうなのわかるか。


神崎さんも多少はわかるようだが、専門書のようなものには苦戦している。


俺なんかこの・・・タイトルですら理解不能だぞ。


えーと・・・ケース?アウト・・・ブレイク?フォーリン・・・フォール?


アウトブレイク、つまりはこの状況か。


でも後半のフォールなんちゃらはどういう意味なんだ・・・?




「先輩方は・・・」




水を向けると目を逸らされた。


うん、俺たちみんな文系だもんね・・・




「あの、翻訳しましょうか?」




斑鳩さんが声をかけてきた。


おお、いたよこんな所に敏腕翻訳家が!




「ありがたい、正直ちんぷんかんぷんでして。神崎さんはともかく俺にはこの題字もわかんないですよ」




「いえ、私も・・・これほどの量となると。お願いしてもいいですか、斑鳩さん」




「ええ!お任せください!これでやっと恩返しができます!!」




むん、とガッツポーズをとって嬉しそうな斑鳩さんである。


やる気も十分そうだ。




とりあえず俺が持っていた書類を渡してみる。




「はい、ええと・・・これは」




受け取った斑鳩さんがタイトルを一瞥し、表情を変える。


そんなに変なことが書いてあったのか?




斑鳩さんは、青ざめた顔でその和訳を呟いた。






「『暫定降下ウイルスによるとされる、被検体の記録。ケース詩谷市』・・・です」






・・・なんだって・・・?

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