第16話 決行前夜のこと

決行前夜のこと








「わふ!わん!きゃん!」




「おまーはええ子じゃのう!ええ子じゃのう!」




七塚原先輩が、サクラと楽しそうに遊んでいる。


なんだろう・・・字面だけ見れば微笑ましいのになんだろうこの違和感は。




でもサクラもすぐに懐いたよなあ。


っていうか、先輩昔っから動物に無茶苦茶好かれるんだよな。


餌もあげてないのに道場の周辺が猫まみれになったこともあったっけ・・・


師匠にすげえ怒られてたなあ、先輩。






高柳運送に帰還してすぐに、俺たちを出迎えるようにサクラが飛び出してきた。


柱に隠れた璃子ちゃんを追い越して、凄まじいダッシュで。


『サクラちゃんダメぇ!食べられちゃうよォ!』という悲鳴が聞こえた。


えらい言われようである。


まあ、初対面の先輩は無茶苦茶怖いだろう。




当のサクラはというと、俺と神崎さんに撫でられた後に不思議そうな顔をして先輩に寄って行った。


『このひとだーれ?』みたいな顔だな。




「サクラ、その人は七塚原先輩。俺がすっごくお世話になった人だよ」




「わふ・・・きゅん!」




サクラは先輩の前に素早くお座りして吠えた。


かわいい。




「お、おい田中野ォ・・・な、撫でてもええかいのう?」




完全に不審者ムーブを噛ます先輩。


息を荒くするな息を。


捕食対象に出会ったライオンめいている。




「ええ、どうぞ」




だが先輩が動物に優しいのは百も承知なので、快諾する。


ほんと、見た目で損してるよなあ・・・




「はー・・・まるで日向の布団じゃあ・・・可愛がってもろうとるんじゃのう、サクラちゃん」




先輩は撫でた後ひょいとサクラを抱き上げ、頬ずりする。


サクラは大喜びで先輩の顔をベロベロ舐めまわしている。


基本的にサクラは人間が大好きなのだ。




「先輩、これ!」




いつも荷台に常備している丈夫な紐を投げる。




「引っ張りっこが大のお気に入りなんですよ、サクラ」




「おうおう、かわええのう、かわええのう」




聞いてねえ。


でも紐はノールックで掴んだ。


さすがだなあ・・・




「ね、ねえ・・・おじさん」




璃子ちゃんが柱の陰からやっと出てきた。


柱の次は俺の背中に隠れているけども。




「あ、あのおじさん、いい人なの?」




「いい人もいい人、すげえいい人だよ。俺の道場の先輩なんだ」




「や、ヤクザじゃないの?昔見た映画とそっくり・・・」




ベストの背中をきゅっと掴みながら璃子ちゃんが言う。


ああまあ、あの方言はなあ・・・


先輩はヤクザが多い県出身だが、ヤクザではない。


あの県全体があの喋り方なんだ。




「ちーがうちがう、先輩は警備員だよ。この前まで保育園の守衛さんやってたんだって」




「そ、そうなの!?」




「そうそう、子供と動物と奥さんが大好きな人だよ」




「そ、そうなんだ・・・」




そろり、と璃子ちゃんが俺の背中から出てきて先輩の方へ歩き出す。




「あ、あの・・・ご、ごめんなさい逃げたりして・・・私、斑鳩璃子です」




そう言うと璃子ちゃんは頭をしっかり下げた。


うーん、礼儀正しいなあ。


斑鳩さんのしつけがいいんだろうなあ・・・




「おうおう、気にせんでええぞ。わしゃあこの通りの面じゃけえ慣れとるわ・・・しっかりと謝れて、ええ子じゃのう」




先輩はにこりと笑った。


うん、つよそう。


璃子ちゃんが一瞬ビクッとしたぞ・・・




「わしゃあ七塚原無我じゃ。よろしくのう、斑鳩ちゃん・・・敬語はいらんけぇ、楽にしんさいや」




「う、うん!」




ふむ、まあまだ慣れるのに時間はかかるだろうがこれでいいか。


先輩はいい人だからな。


おいおいわかってくるだろう。




璃子ちゃんは、先輩と一緒にサクラと遊んでいる。


多少おっかなびっくりではあるが。




「田中野さん、神崎さん、おかえりなさ・・・!?」




そんな時、社屋から斑鳩さんが出てきて先輩を見て動きを止めた。


うん、まあビックリするよね、仕方ないね。




「あの人は俺の道場の先輩ですよ、すごくいい人だから大丈夫です」




すかさずフォローしておく。


そりゃあ娘と初めて見る2メータ―超の大男が遊んでたら驚愕するよね。




「そ、そうですよね・・・田中野さんが変な人を連れてくるわけありませんものね・・・」




ちょっと俺への信頼が高すぎない?




「そうです!田中野さんですから!」




何故神崎さんが胸を張るんだろう。


まあいいけども。




しかし先輩たち楽しそうだな・・・俺も混ざろうk




「田中野さん、荷物を下ろしましょう」




「・・・はぁい」




いかんいかん、仕事仕事・・・








「ええ~!?なんで撥ねられたのに車が壊れちゃったのォ!?」




「そりゃあ、車の鍛えようが足らんかったけぇよ」




璃子ちゃんが驚愕している。


斑鳩さんも目を丸くしているな。


鍛え方が足りない車ってなんだよ・・・






あれから荷物を下ろし、社屋内で休憩しながら話でもすることにした。


初対面での緊張感をほぐそうと俺が先輩と色々話をしていたら、巴さんとの馴れ初めに斑鳩さん母娘が食いついたのだ。


やはりこういう話は受けがいいな。




その流れで先輩が巴さんのことをデレデレとのろけまくったので、斑鳩さん母娘の緊張はみるみるとけていった。


まあねえ、ちょっとでも話を聞けばこの人が奥さん一筋のいい人だってのは言葉の端々から伝わるしなあ。


なにせ巴さんを探すために、六尺棒1本でゾンビや襲撃者がわんさかいる街をたった1人で歩いてきた人だ。


愛の重さが違う。


まあ、どっちかといえば重いのは巴さんからの愛なんだが・・・あっちの方がベタ惚れだし。


美沙姉夫婦に勝るとも劣らないおしどり夫婦だもんなあ・・・


口から砂糖を吐くマー〇イオンになりそう、俺。




「ナナおじさん、奥さんのことホントに大好きなんだねえ」




俺と同じ「おじさん」じゃわかり辛いとのことで、先輩の呼称はナナおじさんになったようだ。


なんだそのかわいい呼び方は。


俺だと「タナおじさん」・・・いや、「イチおじさん」かな?


・・・なんか凄腕の居合の使い手みたいで悪くないな!?




璃子ちゃんも先輩のノロケで急速に態度を軟化させたようだ。


ふう、一時はどうなることかと思ったぜ。




「わ、わしにゃあ勿体ないほどええ嫁さんじゃから・・・」




「照れてる~!」




「わふ!わふ!」




嬉しそうな璃子ちゃんに、それに釣られて興奮するサクラ。


いやあ、平和だなあ・・・




「ね、ね、おじさん。ナナおじさんの奥さんってどんな人ぉ?」




璃子ちゃんが目をキラキラさせながら聞いてくる。


そういえば先輩『世界一の嫁さん』とか『最高の嫁さん』とか言って、具体的な話はしていなかったな。


まるで扱いが女神様なんだよなあ・・・




「背がすっごい高くてねえ、とっても綺麗な人なんだよ。面倒見も良くて、近所の子供からも大評判だったなあ・・・そうですよね先輩?」




「ほうよ、姉ちゃん姉ちゃんって子供らぁが纏わりつきよったのう」




あん子らは元気じゃろうか・・・と先輩が心配そうに呟いた。


いい人だなあ・・・




初めて家に招かれた時、子供だらけで保育園か何かかと思ったもん。


先輩なんか4人まとめて肩に載せてたもんな。


〇ピュタのロボット兵みたいに。




「ふ~ん、それじゃあ心配だねナナおじさん。奥さん大事なんでしょ?」




「ご心配ですね・・・」




斑鳩さんも先輩に言う。




「そりゃあ心配ですよ。巴にもしものことがあったら、わしは生きていけませんけぇ」




超ド級のノロケを全くのノーモーションで放つ先輩である。


甘い。


空間が甘い。




「きゃ~!素敵!私もそんなこと言われたぁい!」




「あらあら~まあ~、いいご夫婦なんですねえ~!」




斑鳩さんたちは手を取り合ってクネクネしている。


こうして見るとまるで姉妹のようだ。




「素晴らしいお話です・・・」




神崎さんもほう、と息を吐いた。


お目目がキラキラですよ。


ここ最近のサツバツ展開で負った傷が癒えていくようだな・・・




「わふん」




「そうだなあ、仲良きことは美しき哉だなあ」




元からお目目がキラキラなサクラを抱っこしてこぼす。


こんなに思い合える夫婦っていいよなあ。


美沙姉や先輩たちを見ていると、結婚も悪くないんじゃないかって思えるなあ。




『・・・そうでしょうかねえ?』




こら、脳内大木くんはおとなしくしておきなさい。


君にもいつかいい人が見つかるはずだ・・・たぶん、おそらく、きっと・・・






まだ夕食までは間がある。


風呂の準備もした。


さて・・・何をしようか。




璃子ちゃんたちは今日調達した服の品定めにキャッキャしている。


・・・あの中に入っていくのはちょっとしんどいな・・・


サクラと遊ぼうかと思ったが、女性陣の所にいるからそれも却下。




うん、稽古しよう!


明日のことも考えて軽くだけどな。




明日は避難所に行くだけだが、何が起こるかわからん。


刀に脇差、それに拳銃と手裏剣。


車には兜割を積んでおこうか。


備えあればほにゃららだ。




駐車場に移動してストレッチをする。


入念にしとかないとな・・・




「わしも混ぜえや」




ストレッチも終わったので兜割で素振りでも・・・と考えていたら、のしりのしりと先輩が歩いてくる。


もちろん片手にはあの六尺棒を持って。


・・・よく片手で持てるよな、アレ。


一体何キロあるんだよ・・・


あと、今までどうにも違和感が拭えなかった理由が今わかった。




「先輩・・・その六尺棒、何尺あるんですか」




「七尺じゃ、特注品でのお」




・・・やっぱり。


なんだよ六尺以上ある六尺棒って。




だって2メーターちょいの先輩の身長より長いもんその六尺棒。


おかしいと思ってたんだよ。




「ちょっと待ってくださいよ、稽古はいいんですけど・・・まさかそれ使うんじゃないでしょうね?当たったら死にますよ俺」




「おー、そうじゃったのう・・・あの倉庫で適当なもん流してもえーかいの?」




「どうぞどうぞ」




先輩は頭をかきかき倉庫へ歩いて行った。


あんなもんで殴られるくらいだったら何でもいいよ。


俺も木刀用意するか。


・・・先輩なら兜割で殴っても大丈夫な気もするけど。




「これならええじゃろ」




「角材はやめてくださいよさっきより凶悪になってるじゃないですか!!」




「ははは、冗談じゃ」




先輩は笑うと、2メートルほどの木の棒を持ち上げた。


ていうか角材を持つなよ・・・






先輩と向かい合い、正眼に構える。


先輩は槍を構えるように棒を持ち、軽く膝を折る体勢だ。




「南雲流剣術・・・田中野一朗太」




「南雲流棒術・・・七塚原無我」




これは同門同士の稽古の挨拶だ。


「これからはこの技だけ使いますよ、それ以外は使いませんよ」という宣誓の意味がある。


なんでもありの実戦の場合は流派名のみ名乗る。




「「参る!!」」




声と同時に前に出る。


どうせ間合いは段違いなんだ、下がればいいようにやられる。


至近の間合いに踏み込・・・は?




先輩も突っ込んできた!?


間合いの有利をドブにポイしたよこの人!?




「ぬああああああっ!!!!」




とんでもない速度の横薙ぎが飛んでくる。




俺はさらに踏み込む、速度の出切る前の根元に木刀を添えええええええええええええええええ!?


最高速じゃないのに、相変わらずなんつう力だ!?


受けた木刀ごと、俺の体が横にズレる。


木刀だけで受ければ折られる!


衝撃を肩経由でなんとか受け流した。




耐えきったと思ったその瞬間、嫌な予感がした。




「りぃやっ!!」




姿勢を低くしながら先輩の足を狙う。


同時に、俺の髪に何かが触れた。




先輩は俺の下段をこともなく躱し、軽く後ろへ跳ぶ。




「はっは、強なったのう、田中野ォ・・・」




「お、お陰様で・・・」




歯を剥き出して笑う先輩。




冷や汗がすごい。


俺が受け止めた瞬間、先輩は左右の持ち手を一瞬で反転させ、逆方向からの横薙ぎを打ってきた。




たしか・・・『無拍子』だったか、今の。


タイミングを取らせない高速の2連打だ。


おっそろしい・・・当たったら失神コースだったじゃん今の・・・




これが棒術の怖いところだ。


刃がないのでどこをどう掴んでも技が放てる。


先輩も見かけはパワーファイターだが、中身はテクニカルパワーファイターだ。


簡単にいうと、猛獣が頭を使って戦うようなものだ。


・・・とんでもねえ。




だがこうしていても始まらない。


こっちから攻めねば!


先輩相手に後手に回ると勝ち目がない!




木刀を肩に担ぎ、一足で間合いを詰める。




「っしゃあ!!」




打ち下ろし・・・と見せかけて空中で木刀を反転、中段への突きを放つ。




「っふ!」




剣先を的確に殴られ、突きの軌道が逸れる。


が、それは予想済み。


逸らされた勢いに俺の力を乗せ、頭上で木刀を旋回させて先輩の肩を狙う。




がぎり、と先輩の棒がそれを受け止める。


なんちゅう硬さだ。


岩でもぶん殴ったみたいだ・・・!




「ぬおっ!!」




お返しとばかりに先輩が、木刀を下に巻き込むと同時に俺の肩口に棒を振る。


脱力し、巻き込まれる下方向に体を預けて躱す。


・・・棒術の怖さはここもある。


巻き込みながら、防御しながら技が出せる。


こちらは少し間違えただけで大ダメージだというのに・・・




二撃目が来る前に、後方に跳ぶ。


仕切り直しだ。


・・・と思ったらとんでもなく伸びる横薙ぎが飛んできた。


空中でそれを捌き、着地する。




恐るべし、南雲流『尺違しゃくたがえ』


振る瞬間に握り手を滑らせ、間合いを自在に操る技だ。




剣術の寸違とは比べ物にならん間合いの広さだ。


やはりキツくても至近で勝負しなければ・・・




息を吸い込み、止める。




棒と比べて木刀の利点。


それは純粋に重量が軽いということ。


そして重量が軽いということは・・・回転が速いってことだ!!




一足で間合いに飛び込む。


唸りを上げて俺の足を払おうとした一撃を軽く足を上げて避け、まずは手首を狙って打ち込む。


簡単に防がれる。


が、反転しての反撃の隙は与えない!!




弾かれた勢いで剣先を反転、反対側へ打ち込む。


また防がれる。


また反転、打ち込む。




さあこっからだ!




打つ。


弾かれる。


反転して打つ。




この回転数をどんどん上げていく。


息の続く限り打ち込んでやる!!




脳天、肩口、手首。


太腿、腰、鳩尾。




酸素が消費され、だんだんと苦しくなる。


だがそれは先輩とて同じこと。


俺より獲物が重い分、消費も激しいはず。


そこに勝機がある!!




地を這う下段から鳩尾へ向けて切り上げる。


急所を嫌い、先輩の棒がすぐに防御へ動く。




・・・ここだぁ!!




打ち合わず、体移動で斬撃を掠らせて側面で剣先を回転。


渾身の力を込めて面を打ち込む。




先輩の額の前で、木刀と棒が音を立てて激突する。


くっそ、間に合ったか。


だがこの勢いでもう一度反転・・・!?




先輩は棒を動かすことなく、なんと俺に向かってノーモーションで蹴りを放った!


いかん、これは躱せない!


右手で柄を握り、左手を峰に添えて辛うじて蹴りを防御す・・・




浮遊感。




防御した瞬間に足元を蹴って跳んだが、とんでもない勢いで吹き飛ばされる。


蹴りを受け止めた木刀に放射状にヒビが入り、中ほどからへし折れるのが見える。


嘘だろ!?普通の木刀とはいえ蹴り一発でへし折るのかよ!?




背中から受け身を取り、後方に3回転しながらやっと停止。


ポッキリ折れた木刀を構えながら立ち上がる。


・・・もう息が限界だ。




「ぶっはあ!・・・ま、参りました」




「強うなったのお、おまー」




荒い息をつきながら言う。


先輩は涼しい顔だ。


やっぱり出鱈目だこの人・・・


俺と違って息も乱れていない。




「いやあ、先輩にはまだまだ敵いませんよ」




「実戦じゃないけぇ、また違うじゃろ。真剣で来られたらああまで受けられんけぇな」




「いやいや、実戦だと先輩も六尺棒でしょ?刀折られちゃいますってば」




最後の方なんか、あの鉄の塊でやられたら俺死ぬと思うもん。


まあ、木刀じゃないならあんな攻めはしないけどな。


手裏剣も使うし。




「いやー、ええ汗かいたわ。風呂が待ち遠しいのう・・・そうじゃ、田中野ォ」




「なんですか?」




「倉庫にある金属のもん、ちいとつこーてもええか?」




「どうぞどうぞ、元々俺のもんでもないですし・・・」




そんな話をしていたら、何かの音。


振り返ると神崎さんが目を輝かせながら拍手している。




「田中野さん!七塚原さん!良いものを見せていただきました・・・あの、素晴らしいです!!」




「ははは・・・ありがとうございます」




「がはは、楽しんでもろうたら幸いじゃ」




・・・全然気付かなかった。


窓から見ている璃子ちゃんには気付けたというのに。






先輩について倉庫に入る。


何をするのか気になったからだ。




「あの、神崎さんっちゅうんはただの自衛官じゃないのぉ・・・特殊部隊じゃろ?」




棚から金属パーツを物色する先輩が言う。




「ああ・・・ええと・・・」




「おっと、秘密なんか?そいじゃあ忘れてええぞ」




「・・・すぐに気づきましたね、先輩」




すごいなあ。


俺はしばらく一緒に行動してやっとわかったってのに。




「気配の消し方が上手いけぇのう、あがぁに若いんに凄まじい練度じゃ。ただの自衛官じゃあんな訓練はせんじゃろう」




わかる人にはわかるもんなんだなあ・・・




「流石花田さんの姪っ子じゃのう」




「へ?なんで知ってるんですか」




「さっきおまーがおらん時に聞いたんよ、詩谷じゃったら花田さん知らんかってのう」




あ、元々花田さんの知り合いなのか先輩。




「そしたら姪じゃっちゅうけぇビックリしたわ。全然似とらんのう」




楽しそうに笑う先輩。


まあそこは同感だ。




「花田さんと知り合いなんですか、先輩」




「おう、やり合うたこともある」




えっ。




「ありゃあ15、6年前かのう・・・先生と立ち合いたいっちゅうて、道場に来よったんじゃ」




あ、もしかして花田さんが前に言ってた師匠と立ち合ったていうアレか!


肋骨折られたっていう・・・




「わしゃあ素手で立ち合ったが、手も足も出んかったのう・・・恐ろしく強い人じゃったわ」




「先輩でも、ですか」




「あの人ほど合気を使いこなせる人間を、わしゃあ見たことがなぁ。牽制の突きを入れたら、気付いたら投げられて肩を外されとったわ」




・・・とんでもねえな、花田さん。


この人を軽々と投げ飛ばしたのか。




「その後先生と立ち合ったんじゃが・・・先生も投げ飛ばしとったのぉ」




師匠を・・・投げた!?


あのバケモンを!?




「まあ、それで気が緩んだんじゃろう。綺麗に着地した先生の『双輪』で道場の壁にめり込んで試合終了じゃ」




・・・まるで漫画だよ。




「あの、もしかして道場南側の壁がちょっと色が違うのって・・・」




「ほうよ、あっこに半分めり込んだんよ。抜くのに苦労したのぉ・・・わし肩外れとったし」




人外魔境だ・・・人外魔境だうちの道場!!


突っ込みが追いつかねえ!!


コワイ!師匠コワイ!!




「ああそうじゃ、床板の色が違うとこあるじゃろ?ありゃあそん時の先生の踏み込みで割れたんじゃ」




コワイ!!!!!!!!!!!!




俺は身近な化け物たちに恐怖感を覚えつつ、ブルリと震えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る