第15話 七塚原先輩のこと

七塚原先輩のこと








「あのー、色々聞きたいんで・・・ちょっと話しませんか、先輩!」




道を挟んだ七塚原先輩に呼びかける。




「おう、わしもじゃ!懐かしいのう!」




ずしりずしりと先輩が道路を横断してくる。


迫力がすごい。


身長は宮田さんより高く、筋肉は敦さんより多い。


敦さんは熊だが、先輩は正にライオンだ。




「あ、あの、南雲流の先輩さん、ですか?」




神崎さんが恐る恐る小声で聞いてくる。


・・・うん、先輩超怖いもんな、見た目。




「そうですよ。・・・見た感じあんなんですけどむっちゃいい人なんで、大丈夫です」




「あっ・・・は、はい!」




元気づけるようにポンポンと肩を叩く。


・・・本当にすぐ元気になったな。




しかし懐かしい。


こんなところで会えるとは思わなかった。


最後に会ったのが・・・たしか1年ちょい前。


先輩の結婚記念日に家にお呼ばれした時か。


たまたま詩谷に帰ってたんだよな、あの日は。


なんだかんだで、付き合いはもう20年くらいになるのか・・・








俺が先輩と初めて出会ったのは、道場に入門して1週間ほどたった頃だった。




その日、俺は師匠に言われたとおりに素振りをしていたんだが・・・


熱中するあまり、周りが見えなくなっていたんだと思う。


すると急に暗くなったので上を見上げると、先輩がそこに立っていた。


心臓が止まりかけた。




『おう、こまい(ちいさい)のう』




俺とは5、6歳違うので・・・確か先輩はその時高校生だったはずだが、もうすでに2メーター近い大男だった。


さらにその日は暑かったので先輩は上着を脱いでいたから、バッキバキの上半身が剥き出しだった。




『わしゃあ、七塚原じゃ。おまーはなんちゅうんじゃ、こまいの』




身近であんなデカい人間を見たのは生まれて初めてだった。


師匠もデカいけどスラっとしてるからな。


何故か、挨拶しないと殺されるかと思ったのを覚えている。




『た、たなかの、いちろうた、です!よろしくお願いします!先輩!!』




『おーおー、ええ返事じゃのう!こりゃあかわえげな後輩ができたもんじゃ!』




先輩はどう見ても肉食獣のような顔をほころばせて、俺の頭をガシガシと撫でた。


乱暴だが、粗暴ではなかった。


悪い人じゃないのかもな、と感じた。




あの日は師匠が留守だったので先輩が呼ばれたんだろう。


しばし素振りを中断し、座って話をすることになった。


世間話をして緊張がほぐれたころ、先輩が聞いてきた。




『じゃけど、どがいしてこの道場に入ったんじゃ』




きつい方言で聞いてきた先輩に、俺は師匠に言ったのと同じことを話した。


もう涙は出なかったが、それでも胸に痛みが走ったのを覚えている。




『・・・』




俺の話を聞いた後、先輩は急に下を向いたかと思うと震え出した。


師匠はともかく、やっぱりこの理由はまずかったんじゃ・・・と俺がびくびくしていると。


先輩がガバッと顔を上げた。




『うぐう・・・ぐぐぐぐ~~~~~~っ!!!』




・・・ライオンが号泣していた。


両目からボロボロと大粒の涙を流しながら、先輩は俺の両肩を掴んだ。


鎖骨が砕けるかと思った。




『不憫じゃぁ・・・不憫じゃのう!・・・じゃがえらい!おまーは、えらい!!』




そのまま俺をがくがくと揺さぶりながら先輩は叫んだ。




『わしに任しとけ!先生とわしら先輩で、おまーを強くしちゃるけぇ!!その屑をぶちまわせるぐらいに強くしちゃるけぇのう!!』




やっぱり悪い人じゃないな・・・と思いながら俺は失神した。




次に目を覚ました時、先輩は帰ってきた師匠にボコボコにされて俺に平謝りだった。


俺はといえば、あんなライオンみたいな人をボコボコにできる師匠が一番怖かった。








「改めてお久しぶりです、先輩。お元気そうで何よりです」




「おう、おまーも男前になったのう・・・鍛えとるみとーじゃな」




先輩は俺の傷を見て若干心配そうに言った。


いい人なのだ、この人は。


見た目が怖すぎるから誤解されがちだけど。




「そんで、こけのお嬢さんはおまーの『ええ人』か?」




「にゃっ・・・!?」




神崎さんを見てとんでもないことを言う先輩。


神崎さんはその視線にびっくりしてか、少し跳ねた。




「相棒ですよ、頼れる相棒!・・・神崎さん、こちらは七塚原無我先輩です」




もう勘違いされるのも慣れたものなので普通に流す。




「・・・むぅ。田中野さんには大変お世話になっています、神崎二等陸曹と申します!!」




神崎さんは何故か釈然としない顔で、それでもビシリと敬礼した。




「おお、こりゃあ自衛隊の方でしたんか!・・・七塚原です、後輩がえろう世話になっとるようですのう」




先輩は・・・先輩なりの最大級の笑顔で神崎さんに返した。


うん、いい人なんだよほんとに。


泣き上戸で笑い上戸で、子供や動物が大好きなんだ、この人は。


顔が怖すぎるけど。




「いいえ、田中野さんのお陰でここまで来れたようなものですから」




それに、神崎さんははにかんだ笑顔で答えた、


・・・あ、そうか。


花田さんの笑い顔も似たジャンルだから、慣れているのかもしれない。




いっだ!?


先輩が急に俺の背中をバシンと叩いた。


そのまま俺を引きずり、耳元でささやく。




「(巴ともえにゃあちいと劣るが・・・ええ娘さんじゃのう・・・おい、大事にせにゃあいかんぞ)」




「(ええ、はい。それはもう・・・?)」




きょとんとした神崎さんを見ながら俺も小声で返す。


ちなみに巴というのは先輩の奥さんだ。




「(・・・ま、おまーにしちゃあ上出来じゃあ)」




先輩は小さくこぼした。






「ところで先輩、さっきのアレはどうしたんですか?」




軽トラに寄りかかりながら聞く。




「おう、あのカス共か?実はのう・・・」




先輩が言うには、死んだアイツらの用心棒を依頼されたのだという。




「・・・用心棒?」




「ほうよ、胸糞悪い話じゃ」




探索中にゾンビを薙ぎ倒していた先輩は、先程の奴らにスカウトされたそうなのだ。


もしかして、タイヘイとかいう奴のグループなんだろうか?




「詳しい話聞かせるっちゅうて、あっこで話しとったんじゃけど・・・」




どこかの避難所の用心棒だと思った先輩は、話を聞くことにした。


しかし話を聞くうちに、避難所どころかそれを襲う側だと気付いたのだという。


断ろうとする先輩の雰囲気を察したのか、奴らはあるものを見せてきた。




「・・・わしゃあ、それでアイツらをぶちまわしちゃると決めたんじゃ」




それは、スマホに録画された映像だった。






泣き叫ぶ女性が、男たちに乱暴されるという口に出すのも嫌な映像。






奴らはそれを『こんなオイシイ思いができる』と言いながら、楽しそうに見せてきたそうだ。


それを見た先輩は、内心を押し殺して詳細を確認。


奴らの本拠地を確認した後、皆殺しにしたのだという。


それがさっきの顛末だ。




・・・そういうとこ、変わってないなあ先輩。


高校の時にも、小学生を襲おうとした変態を危うく殺しかけた人だ。


なんでも変態の両足を掴んで振り回し、地面に叩きつけたらしい。


よく生きてたよな、変態。


あの時は道場に警察が来てびっくりしたなあ・・・




・・・しかし、ここにもいやがったか、下半身脳味噌連中め・・・




「・・・先輩、俺もお手伝いしますよ。そんな奴らは生かしちゃおけない」




「私も、お手伝いします!」




俺たちはほぼ同時にそう答えた。




「じゃけど・・・」




渋る先輩に、俺たちの目的を説明する。


神崎さんも、俺の先輩なら大丈夫と許可してくれた。


先程の態度も見ていたしな。


ほんと、悪い人じゃないんだよ・・・何度も言うけど見た目が怖すぎるだけで。






「ほうかほうか、詩谷からわざわざのう・・・そういう事情なら力を貸してもらおうかいの」




俺がかいつまんで説明すると、先輩は深々と頭を下げた。




「それで、どこのどういう奴らなんですか?」




「おう、この先の公民館を根城にしとるリュウジっちゅうのがボスらしいんじゃが・・・」




「へ?」




今リュウジって言ったか?


それに公民館?




「あの、先輩・・・」




「なんじゃー?」




「そいつならもう俺たちがぶち殺しましたよ」




「・・・は?」




先輩は目を丸くした。


鳩に豆鉄砲ならぬ、ライオンに大口径ライフルだな。




「俺たち、原野を拠点に探索してるんですけど・・・そこに攻めてきたんで3日前に全滅させたんです。あのヤンキー共は残党の別動隊ですかねえ?」




本隊と離れて別行動でもしていたのかな?




「そういやあ、アイツらもそがぁなこと言いよったのぉ・・・別行動じゃって」




どうやらその線で決まりらしい。


まあ、攻めてきた本隊はリュウジごと処理したし・・・今更そんな別動隊にどうこうできるとも思わない。


目の前に出てきたらぶち殺すが、積極的に探さなくてもいいだろう。




「やーれ、胸のつかえが1個のうなったわ」




先輩は嬉しそうに笑う。


・・・威嚇の表情にしか見えねえ・・・


迫力がすごい。




「あの、先輩・・・ついでに聞くんですけども」




「おう、なんなら」




「先輩ってもっと北に住んでましたよね?なんでこんなところにいるんですか?」




ちょっと探索って雰囲気じゃない。


そもそもここまで徒歩で来たのか?


見た所車もないみたいだし。




「・・・巴を探しに来たんじゃ」




「え、巴さんってここら辺で働いてたんですか?」




「あの、巴さんというのは・・・?」




神崎さんがおずおずと尋ねてきた。


あ、そうかそこも説明しないと・・・




「せ、世界一の別嬪さんで、わしの嫁さんじゃ」




先輩は顔を赤らめて言った。


・・・相も変わらず巴さん好きすぎるだろ・・・


照れるなら言わなくてもいいのに・・・




「まあ!そうなんですか!?」




途端に目がキラキラし出す神崎さんである。


この人もこういう話好きだもんなあ・・・






ちなみに巴さんは先輩より年下で、俺より年上だ。


俺より身長は高い、かなりの長身だ。


・・・先輩と並ぶと小さく見えるけど。




世界一の美女かどうか知らないが、確かに凄い美人さんではある。


子供の頃からバレーボール一筋で、実業団に就職してオリンピック強化選手にも選ばれた凄い人だ。


事故で怪我をしてオリンピックは諦めたが、今でもトレーニングは欠かさず行っている。




なお、先輩とのなれそめはその事故だ。


道に飛び出した子供を助けようとした巴さんを、さらに庇って撥ねられ・・・車を半壊させたのが先輩である。




え?おかしいって?


俺もそう思うよ、うん。




子供も巴さんも命は助かったが、無理な受け身を取ったせいで巴さんは両足の靭帯を損傷してしまったらしい。


それで、選手を引退することになってしまった。




先輩がそれに罪の意識を感じて何くれとなく世話を焼いたりお見舞いに行ったりしているうちに、なんと巴さんの方が先に惚れてしまったらしい。


巴さんの猛アタックによって先輩は陥落し、交際半年という早さで結婚して今に至るというわけだ。




・・・え?なんでこんなに俺が詳しいのかって?


先輩から会う度会う度のろけられるからスッカリ覚えちゃったんだよ!!






「そんな馴れ初めが・・・素敵ですね!本当に!」




「そうじゃろそうじゃろ?わしにゃあもったいないええ嫁さんなんじゃ・・・」




ウッソだろこの短い間に馴れ初めの説明を済ませてやがる!?


え?俺が考え事してたのってそんなに長い時間じゃないよな!?


何が起こってるのここで!?




「田中野さん!」




神崎さんが俺の両手をしっかと握る。




「巴さんを探すの、私たちも手伝いましょう!」




・・・この短い時間で仲良くなったもんですね、神崎さん。




「ええ、まあ。巴さんっていうか先輩夫婦にはかなりお世話になってるんで、俺もそのつもりですが・・・」




ここではいサヨナラってのはあまりにも恩知らずすぎる。


受けた恩はきっちり返すのが俺の流儀だ。


・・・何故か返しても返しても恩が増える傾向にあるんだけど・・・


俺の周りにはいい人が多いからなあ・・・致し方なしだ。




「ありがたい、すまんのう、田中野ぉ・・・」




先輩が涙目で感謝してくる。


うん、違和感がすごいや。


20年来の付き合いでもいまだに馴れない。




「それで、先輩・・・巴さんの居場所の目途はついてるんですか?」




正直それがわかるかどうかで難易度が段違いなんだが・・・


大まかな場所でもわかってればいいんだけど・・・






「おう、方々探して歩いたんじゃけどの、どうやら巴はリュウグウパークに避難しとるらしいわ」






・・・なんとまあ、ビックリだよ。


俺たちも行こうとしていた場所じゃないか。




「それは、確かなんですか?」




神崎さんが聞くと、先輩は大きく頷いた。




「巴が勤めとった会社な、この近くの小学校に避難しとったんじゃ。巴の会社周辺の避難所をしらみつぶしに探してなんとか今日辿りついたんじゃけど、もぬけの殻じゃったんよ・・・でもの」




ごそごそとポッケをまさぐり、先輩は一切れの紙切れを大事そうに取り出した。


手渡されたので広げてみる。




「掲示板にそれが貼ってあったんじゃ」




そこにはこう書かれていた。




『むーさん、私は会社のみんなとリュウグウパークへ避難します。会いたいです 巴』




うん、相変わらずきれいな字だ・・・巴さんに間違いないだろう。


なにより巴さん大好きライオンである先輩が、筆跡を見間違えるわけがない。




「・・・丁度良かった、俺たちもリュウグウパークに探しに行きたい人がいるんですよ」




「そりゃあホンマか!?」




詩谷で助けた、山中姉弟のお母さんだ。


お母さんは獣医・・・なら、当日はそのまま勤務していた可能性が高い。


巴さんの書置きから考えても、避難所として機能しているなら元気でいるだろう。


・・・希望が見えてきたな。




「先輩、一緒に行きましょうよ」




「うぐう・・・わしゃあ、ええ弟分を持ったわい・・・」




ぐしぐしと目をこする先輩。


ほんと感動屋なんだからもう・・・






気持ち的にはこのまま直行したいところなんだが、荷物を置いてしっかりと準備をしなきゃいけない。


リュウグウパークは、ここ硲谷を超えて龍宮市内に行かずに別方向に行く必要がある。


方角的には現在地から北東、他府県との県境に位置している。


道が普通に使えるなら・・・原野からでも一時間はかからないな。


県内唯一のテーマパークだけあって、アクセスするルートは何種類かある。




「先輩、そういえば拠点はどこなんですか?明日迎えに行きますけど・・・」




「おう、今日はあっこの公園じゃ」




「・・・へ?」




聞けば先輩、巴さんを探すためにほぼ着の身着のまま六尺棒を持って強行軍していたらしい。


ゾンビ騒動発生当時は警備の仕事をしていた幼稚園から離れられなくなり、最近警察の避難所に園児を全員保護してもらえたから動けるようになったとのこと。


・・・本当は真っ先に探したかったんだろうけど、子供たちを見捨てるわけにはいかなかったんだろうなあ。




「わしが子供らぁほっぽって探しに行きよったら、巴に合わす顔がないけぇ・・・巴もぶち怒るじゃろうし・・・」




・・・やっぱりその通りだった。


ちなみに六尺棒はいつも稽古のために持ち歩く習慣だったらしい。


・・・職質されるぞ、それ。




というわけで、今日は原野の拠点まで一緒に戻って明日の朝一番で向かうことにした。


先輩は恐縮していたが、ぶっちゃけ先輩ほどの戦闘力があれば全然問題ない。


むしろ大幅なプラスだ。


ゾンビ程度なら粉々に粉砕できることだろう。


・・・比喩なしで。


むしろ巴さんを見つけたら原野に一緒に来てほしいなあ。


一気に防衛力が上がるぞ、うん。




「すまんのぉ、世話になるわ」




「気にしないでくださいよ。じゃ、そろそろ出発しますか」




大変申し訳ないが、先輩は荷台に乗ってもらう。


・・・だってデカいもん。




「おう、頼む」




うおお!沈んだ!?


先輩が荷台に乗った瞬間に軽トラが沈んだ!!


・・・あの巨体で俊敏に動けるのがすげえ・・・


たぶん体脂肪率1桁だぞ、あの人。






「凄い人、ですね」




走り出した車内で、神崎さんがこぼす。




「ええ、自慢の先輩ですよ」




「あの、七塚原さんも刀を使われるんですか?」




「あーいや、先輩は棒術と、それに手裏剣ですね」




「・・・!聞いたことがあります!南雲流は剣術のみが主流ではないと!!」




まーたおめめがキラキラしてるよ。


ほんとに好きだなあ、武術。




「あの!結局南雲流の流派はどれくらい豊富なんでしょうか!田中野さんは剣術と手裏剣と徒手ですよね!!」




圧が・・・圧がすごい!


かつてないほどの好奇心を感じる!!




「えーっとぉ・・・剣、槍、棒、長巻、薙刀、手裏剣、甲冑組手、徒手、それに・・・」




我が流派ながら節操がないというかなんというか・・・


まあ、全部網羅している人間なんていないけどな。


・・・師匠以外。


ありゃもうバケモンだよ。


俺が知らないだけで、ひょっとしたら200歳くらいかもしれん。




「そ、そそそそんなに!そんなにですか!!」




「え、ええ。でも全部使えるのは師匠くらいじゃないですかねえ。先輩たちはそれぞれ2つか3つって感じでしたし」




「・・・さすが、『鬼の十兵衛』と言われることだけはありますね!」




えっなにその異名。


俺知らないんだけど・・・?




「叔父が言うには、武術界では『命が惜しくば軽はずみに南雲の田宮先生の間合いにだけは入るな、良くて骨折悪くて引退』と昔から有名だったと聞きましたが・・・」




「えっなにそれこわい」




うちってドマイナー流派のはずでは・・・?


なんかこう、行く先々で師匠が有名な気がする・・・




俺は剣術以外はちょこちょこ摘まんでる感じだから・・・実質1、5ってとこかな・・・


いや、いいのだこうして役に立っていることだし!うん!




「田中野さんの先輩方は何人いらっしゃるんですか?」




「えーっと、七塚原先輩と六帖りくじょう先輩、あとは後藤倫ごとうりん先輩かな・・・3人ですね」




「少数精鋭ですね!!いつかお会いしたいものです!!」




「たぶん・・・いや絶対無事だと思うんで、いつか会えますよ。後藤倫先輩なんか話も合うと思いますよ?同性ですし」




「・・・女性、なのですか?」




「はい、綺麗な人ですよ~」




懐かしいなあ、後藤倫先輩。


最後に会ったのは2年前かな。


元気・・・だと思うわ、うん。




「そ、そんなに、お綺麗、なんですか」




急に神崎さんがガクガクし始めた。


・・・車酔いかな?


興奮しすぎたのかな?




「ええ、神崎さんと同じくらいに」




「わたっ!?・・・あ、あああ、あぅ」




今度は急に静かになったぞ。


これだけ綺麗なのに、褒められ慣れてないのかな。


周囲の男どもはジャガイモかなにかだったのか?


・・・あ、同性の山田には大人気でしたね・・・




「師匠の次に怖いですけど、ははは」




「・・・そうなんですか?」




「・・・むかーしね、昔ですよ?反抗期の年頃にねえ・・・ちょっと言っちゃいけない事言っちゃって・・・」




「・・・年頃の女性に言ってはいけないようなこと、ですか?」




・・・うんそう。


なんかイライラしてた時にね、『うるせえ!小皺増えるぞ!ブス!!』って言っちゃったんだよねえ・・・




「はははは・・・いやあ・・・死ぬかと思いましたよ。肋骨全部ヒビ入れられましたから」




「す、凄まじいですね・・・あの、その後藤倫さんは何を修めてらっしゃるんですか?」




「徒手と組手甲冑、それに長巻です・・・ちなみに肋骨は素手でやられました・・・」




「なんと・・・」




『ひょっとしたら後藤倫の徒手は田宮先生クラスかもしれんのう』とは、それを見た七塚原先輩の感想である。


いやあ、あの時は本当に死ぬかと思った。




「でも神崎さんとは年も近いですし、仲良くなれますよきっと」




「え?田中野さんよりも年上の方ではないんですか?」




「入門は後藤倫先輩の方が早かったんで、年下だけど先輩です」




ややこしいけどな。


自分より若かろうが武術の上では先輩だし。


それに先輩って言わないと的確に顎を撃ち抜かれるし・・・


中学校の時、一回ふざけて名前呼びしたら5メーターくらい蹴り飛ばされて失神したんだよな、俺。


女性には絶対に優しくしようと心に誓った原因でもある・・・感謝はしてるよ、うん。




「あの、田中野s」




「なんじゃあ、後藤倫の話しよるんか?」




「うおおおお!?何してんすか先輩!?」




何か言いかけた神崎さんを、先輩の声が遮る。


ビックリしたぁ!走行中の荷台から運転席の窓越しに話しかけてこないでよ!!!


ハンドル切るかと思ったわ!!


そりゃ先輩は絶対落ちないだろうけどさあ!!


握力130オーバーだし!!




「この騒動初めに、わしのおった保育園に来たぞ」




「え?そうなんですか?」




普通に話をするな話を。


乗っかる俺も俺だけどさあ。




「なんでも・・・心配な人がおるけぇ詩谷に行くっちゅうとったが」




「え?じゃあこっちに来てたのか・・・ま、それならなおのこと無事でしょ、詩谷ゾンビは雑魚だし変なのもそれほどいないし」




「なまじ見た目がええけぇ、馬鹿な男どもが手を出してなけらなええけどのお・・・」




「・・ええ、そうすね」




「グループの1つや2つは壊滅させるじゃろうのぉ・・・」




先輩と2人して顔を青くした。


それくらいやりかねない・・・あの人なら。


電車内で痴漢されて、一瞬で痴漢の両手首を外したらしいあの人なら・・・


あの時も道場に警察が来てたなあ・・・


警察来すぎじゃない?うちの道場。


師匠関係でも何回も来てたし。


相手が刃物持ってたり複数だったりしたから大事にはならなかったけどさ。


・・・それに師匠、警察にも知り合い多いからなあ。




「む、むしろ興味が湧いてきました!はい!」




すげえなあ、神崎さん・・・




そんな話をしていたら、高柳運送が見えてきた。


ありゃ、話してるとあっという間だなあ。


まあ5キロちょいしか離れてないし。






「おじさん!凜お姉さん!おかえりー・・・ぃ?」




「おうおう、こりゃあ別嬪さんじゃのう。まるでお人形さんじゃあ」




門を開けて敷地へ入ると、見慣れた姿。


エンジン音を聞きつけて社屋からこちらへ走ってきた璃子ちゃんが、先輩を見て急ブレーキをかけた。


璃子ちゃんはそのまますさまじい勢いでUターン。


社屋の柱の陰に逃げ込んだ。




「おーい!璃子ちゃん大丈夫ー!この人すっげえいい人だからーっ!!」




俺は若干ショックを受けた先輩を不憫に思いつつ、陰に隠れた璃子ちゃんに叫んだ。

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