第14話 既知との遭遇のこと
既知との遭遇のこと
「は~、たった5キロ弱でこれかあ・・・原野とは大違いだなあ」
「随分発展に差がありますね・・・何故でしょうか」
車窓から見える街並みに、俺と神崎さんは揃って見入っている。
懐かしきコンビニや外食チェーン店が見える。
ああ、文明の匂いがする・・・
ここは、原野から少し南の硲谷だ。
俺たちは、早速探索に来ている。
リュウジ軍団を根絶やしにしてから3日後である。
昨日までは高柳運送周辺の後片づけをしたり、疲れを癒すべくまったりしていた。
何しろ死体の数が今までで一番多い。
いくら柔らかい田んぼとは言え、野犬やなんかに掘り返されないようにかなり深く掘るのは疲れる。
璃子ちゃんは手伝うと言ってくれたが、さすがに子供に墓穴掘りをやらせるわけにはいかん。
というわけで、神崎さんと2人でそれはもう掘って掘って掘りまくった。
埋めるのがアイツらの死体ってこともあって、モチベが低下すること低下すること・・・
一日中能面のような顔でひたすらスコップを振るい続けた。
なんとか全員を埋め終えて、奴らの持ってきた武器やらなんやらを回収。
鉄パイプやバットはいらないので廃棄。
猟銃はこちらで確保し、今度詩谷に帰る時に持っていくことにした。
変なのに拾われでもしたら大惨事になるしな。
かなりの数の銃弾は、ありがたく使わせてもらうことにした。
これで、斑鳩さん母娘の戦力が一気に跳ね上がった。
安心して留守番を任せられるようになったので、こうして偵察に出ることになったってわけだ。
サクラも任せられるしな。
安全がもう少し確認されたら、家に一緒に行って荷物とかを回収してあげたいけど。
とにかく偵察だ。
今はそれが先決である。
今日の探索の目的は、硲谷地区の大まかな確認。
それと、適当な服屋で斑鳩さん母娘の服を見繕うことだ。
俺もさすがに服がないのは大変だろうとは思っていたが、やはり死活問題らしい。
女性陣は大変であるなあ。
事前に地図アプリで確認したところ、大きい服飾チェーン店が確認できたので街を偵察しながらそこに向かうことにする。
「ゾンビ・・・あんまいないですね」
「この規模の街にしてはおかしいほど少ないですね」
ちらほら見かけはするが、正直原野の老人ゾンビの方が多いぞ。
まさか町中みんな食い殺されたってこともないはずなんだが・・・
「!?ちょっと停めてください田中野さん!」
おっと、一体何なんだろう。
若干焦った声の神崎さんに促され、路肩に停車する。
「・・・アレを見てください」
神崎さんが指差す方向を見る・・・
ん~、なんじゃあれ。
なんかワサワサして・・・嘘でしょ!?
慌てて単眼鏡を取り出して確認する。
それは、膨大なゾンビの群れだった。
何かの敷地に集まっているんだが・・・数がべらぼうに多い。
200や300じゃきかないぞ、アレ。
敷地内にみっちみちに詰まっている。
詰まっているゾンビのせいで、その敷地が何の建物のものか確認すらできない。
建物自体はけっこうデカいが・・・なんだろ、公的な施設かなあ?
「なんじゃあれ・・・あそこにデカい音を出す機械でもあるんですかね?」
スマホで確認しようとしていると、神崎さんが話しかけてきた。
「見えますか・・・向かって左側の壁に看板があります」
ん?看板・・・?
あ、アレか。
辛うじてゾンビどもの隙間から見えるな。
えーっと・・・『硲谷公民館』だな。
・・・公民館?
「あそこってまさか、璃子ちゃんたちが避難したっていう・・・」
「ええ、それに間違いないでしょう。何が原因かはわかりませんが、周囲のゾンビが少ないのはあそこにいるからでしょうね」
よくよく見れば、大きいフェンスが倒れた痕が確認できる。
あそこから逃げてきたのか璃子ちゃんたち・・・よくまあ脱出できたもんだ。
リュウジグループの数が減った理由も納得だわ。
流石にあそこまでの数の暴力は軍隊でもいないと対処できなさそうだ。
ともあれ、周辺のゾンビはあそこにいる。
あのあたりに近付きさえしなければ、探索は簡単そうだ。
服屋はここからまだ先、龍宮市方面だ。
・・・まあここも龍宮市と言えばそうなんだけどさ。
気を取り直して向かうとするか。
「いやあ、走りやすいですねえ」
貸し切り状態の道を快適に走る我が愛車。
今日もエンジンは快調である。
開けた窓から吹き込む風が心地いい。
「そうですね、ここへ来て道も広くなってきましたし」
「硲谷は一応龍宮への玄関先みたいなもんですからね、ベッドタウン化も進んで住宅もバンバン建ってましたし」
龍宮市街へは、ここ硲谷を抜けた先にある3ルート道を通ればすぐに着く。
国道、県道、そして林道だ。
だから、詩谷方面から龍宮市街に行くためにはどうしてもこの地区を通る必要がある。
発展もするわけだ。
ちなみに、原野は詩谷から山を越える面倒くさいルートを通らなければ行けないので発展などするわけがない。
田舎の悲しさよ。
まあ、この先社会がまともになってきたら食料生産とかの関係で多少は人が戻る・・・のか?
まともになるまでかなり時間がかかりそうだなあ。
俺には関係ないけども・・・いや、この生活ができなくなったら農家でも始めてみるか・・・?
・・・ちょっと頭の片隅には入れておこうそうしよう。
農家の皆さんにボッコボコにされそうではあるが。
「・・・嫁さんの予定もないし、田舎では歓迎されんだろうなあ。産めよ増やせよ地に満ちよってか・・・」
「にゃん、なんですか!?いきなり何の話が始まったんですか!?詳しく、詳しく聞かせてください!!」
「ヴェ!?」
漏らした独り言に神崎さんが凄まじく食いついてきた。
なんですかはこっちのセリフでござるよ。
圧がコワイ圧が。
「いや、農業でも始めようかなって一瞬考えて止やめただけですよ・・・独身男が農村に行っても歓迎されないだろうし」
過疎化は深刻な問題だしなあ・・・
「どうして諦めるんですかそこで!農業は立派お仕事ですよ!!」
「え、ええ・・・?」
神崎さんはこの国の食料自給力を上げる悲願でもあるのか・・・?
なにやら興奮しながら農家の素晴らしさを語る神崎さんを受け流しつつ、目的地へ向かう。
「うーむ、やっぱいますねゾンビ」
「さすがにここまでくれば普通にいるようですね」
10分ほど車を走らせ、目的地に到着。
平屋建ての大きな店舗だ。
広い駐車場も完備、立地もいいし周囲にはレストランやコンビニ、ホームセンターもある。
平和な時はさぞかし人気であったことだろう。
駐車場の隅の放置車両の間に車を停めて確認すると、広い店内にチラホラゾンビの姿が見える。
数は・・・よくわからんな、この店は1階建てだけど奥に長いし。
駐車場は放置車両ばかりでゾンビはいなかった。
見通しが悪い店内で戦うのは避けたい。
・・・少しおびき出すか。
駐車場に停まっていた大型トラックに、神崎さんと一緒に登る。
足元に置いたリュックサックから、爆竹を取り出す。
これも大分数が減ってきたなあ・・・どっかで探すかねえ。
大木くんに相談したら似たようなもの作ってくれないかな?
そんなことを考えながら着火し、振りかぶって思い切り投げる。
こっちのゾンビは耳がいいらしいから、ちょいと遠くに投げてもいいだろ。
放物線を描いた爆竹は、店の反対側の道路まで飛んでいき破裂。
周囲にパンパンという爆音を響かせる。
「アオアアアアアアア!!」「グウウウウウ!!」「アアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
おーおー、出てくる出てくる。
ドアやガラスをぶち破りながら、結構な数のゾンビが店内からダッシュで退店してきた。
5分ほど待機し、もう1個火を点けてさらに遠くに投擲。
マラソン大会のスタート直後みたいな状態で、ゾンビ共はさらに遠くへ走って行った。
・・・よし、後続はいないな。
2人して一服しながら、もう少し待機。
「例によって俺のファッションセンスは壊滅状態なので、すいませんけど神崎さんにお任せしますよ」
「はい、任されました!」
ぐっとガッツポーズをする神崎さん。
おお、みなぎる自信を感じる・・・
さてと、吸い終わったので移動しよう。
詩谷ゾンビより耳がいいらしいから、これだけ離れていても油断しないようにしよう。
何事もなく入店はできたが、半身ゾンビの危険があるからな。
物色する前にしっかり見回っておこう。
床には服やら籠やら棚やら人間由来の何かのパーツやらが散乱している。
・・・床に落ちた服は拾わないようにしよう。
足音を立てないように歩きつつ、棚や通路の影を注意深く観察していく。
ゾンビの大群は大分離れた場所にいるので大丈夫だとは思うが、半身ゾンビに叫ばれて察知されないとも限らない。
そんな風に歩いていると・・・いた。
床に倒れている半身ゾンビが。
10メーターほど先だな。
胴体が千切れて中身が丸出しになっている。
が、腐敗はしていないのですぐにゾンビだってわかるな。
「(撃ちます)」
神崎さんが拳銃を抜き、構える。
ここはお任せしよう。
俺が頷くと、ぱしゅんという銃声が響く。
「アッ・・・」
綺麗に脳天を撃ち抜かれたゾンビが、声を上げて活動を停止する。
相変わらず百発百中だなあ。
俺とはえらい違いだよ、本当に。
「アアア・・・」
え?まだ死んでないの!?
そう思った瞬間、反対側の柱の陰から伸びる手。
畜生!もう1体いたのか!!
「アアアアアアアアアア!!!」
柱の陰から腕の力だけで飛び出てきた半身ゾンビが、俺たちを確認して吠える。
神崎さんがすかさず射撃の体勢を取った。
が、なんとゾンビは腕で床を叩いた勢いで大きくジャンプ。
こちらへ飛び掛かってくる。
「・・・っ!」
流石にこれは予想外だったのか、神崎さんが一瞬遅れて発砲。
弾丸は床に着弾し、小さな穴を開けた。
「っし!!」
それと同時に動き、神崎さんの横に出ながら腰の兜割を引き抜く。
その動きを止めずに、空中のゾンビの顔面を真正面から叩き潰した。
お互いの速度もあり、ゾンビの首は後方に向けて勢いよく90度以上折れ曲がった。
「ゴ・・・ァ・・・」
俺たちの横に落下したゾンビは、そのまま活動を停止した。
・・・あっぶねえ。
詩谷ではうるさいだけだった半身ゾンビが、まさかここまでのことをするとは・・・
咄嗟に体が動いて助かったぞ・・・
念のために適当な籠を四方にぶん投げる。
結構大きい音がしたが・・・反応はないな。
ここのゾンビはこいつらで打ち止めか・・・
「あ、ありがとうございます、田中野さん」
「いえいえ、お安い御用ですよこんくらい・・・しかしビックリしましたねえ、こっちのゾンビは地味に厄介だなあ」
冷や汗をかきつつ感謝する神崎さんに、軽く返す。
次からは問題なく対処できるだろう。
現実世界において、初見殺しがどれほど恐ろしいか身に染みてわかった。
ここのゾンビは今までのとは別物だと思った方がよさそうだな・・・
「そうですね・・・田中野さんがいなかったらと思うと・・・」
少し暗い顔をする神崎さん。
いやいやいや、神崎さんなら空中の相手でも問題なく対処できるでしょ、たぶん。
「ははは、俺なんか神崎さんがいなかったら10回は死んでますよ。気にしない気にしない」
「そ、そんな・・・あの、あぅ・・・」
これだけは胸を張って言えるぞ・・・なんか情けないけども。
まあでも、死ぬまではいかなくてもこれまでの道程でかなり苦労したであろうことは想像に難くない。
今回の龍宮探索だって、その恩返しの意味もあるのだ、うん。
「さあさあ、ゾンビも消えたんでファッションマスター神崎さんの独擅場ですよ?」
「や、やめてくださいハードルを上げるのは!もうっ!」
顔を真っ赤にした神崎さんが腕をブンブン振る。
動作は大変かわいらしいが、まずその手に持ったゴツい拳銃を下ろしてはいかがかな?
大変コワイ。
「下着も・・・これくらいでしょうか」
抱えた袋で前が見えねえ。
神崎さんはテキパキと大量の服を選んでは袋に詰め、それを俺がどんどん回収した結果こうなった。
・・・多い、多くない?
「私や田中野さんの分も入っていますから・・・その、申し訳ありません」
「あ、そっかあ。神崎さんも私服ですもんね、今・・・こちらこそ、俺の服まで申し訳ない」
迷彩服一択だったもんな、詩谷の頃って。
女性は大変だなあ。
俺なんか清潔だったら毎日同じ色の服でも全然問題ないもんな。
「田中野さんは見かけより筋肉でサイズが大きいので・・・少し上の物を選んだのもあります」
あー・・・うん。
今は大丈夫だが、一時期筋トレしまくってたもんな。
二の腕が入らないとか、腹はいいけど胸でつかえるとかあったし。
太腿は特にヤバい。
やりすぎると洒落にならん太さになるからなあ。
『競輪選手にでもなりたいのお兄ちゃん!?』
なんて、妹に呆れられたっけなあ。
「いやあ、それはご迷惑を・・・」
「いいえ、私も家族以外の男性の服を選ぶなんて初めてでしたので・・・楽しかったです」
神崎さんは少し恥ずかしそうに笑って・・・いる気がする!
何故なら見えないから!!
あ、忘れてた。
「すいません神崎さん、俺もちょっと下着を持ってきますよ」
袋の山を一旦おろして言う。
予備はまだあるが、あって困るもんでもないしな。
「は、はい!」
・・・何でそんな大声?
まあいいや。
適当に男性用下着コーナーへ行き、適当に選び、適当に袋に詰める。
白のブリーフ以外なら何でもいいからな。
サイズさえあっていれば。
まあこんな機会なので、普段なら絶対買わないであろうお高目なものを選ぶ。
おっと、ソックスも持っていこう。
5本指に分かれてるタイプのものを。
・・・水虫にはなりたくないし。
「戻りましたー」
「・・・早いですね田中野さん」
キョトンとした顔の神崎さんである。
男の買い物なんてこんなもんでしょ、俺以外は知らんけども。
プラモとかDVD選びならこの10倍は時間をかける自信があるが。
「あっ!」
山盛りの袋を持って車に帰る途中、神崎さんが声を上げた。
忘れ物かな?
「あ、あのっ!以前の約束はコレとは関係ありませんからっ!」
・・・?
何のことだろう・・・
・・・あ、アレか。
お互いの服を選び合うっていうヤツ。
「あー・・・アレって平和になってからって約束でしょ?そりゃあノーカンでしょ」
「ですよね!そうですよね!!」
相変わらず見えないが大変うれしそうだ。
正直、俺は何を選んだらいいのか見当もつかんので時間が欲しい。
今の状況だと上下ジャージとかを選びそうだ。
流石に怒られそうだし。
「こっちですよ田中野さん!こっち!」
テンションがやたらと高い神崎さんに誘導され、無事に車まで帰ってきた。
ドサドサと荷台に袋を入れる。
ふう、これだけあれば当面は大丈夫だろう・・・
さあて、帰ろうか。
車に乗り、原野への道を走る。
近いからすぐに帰れていいなあ。
「折角来たんですから、コンビニで甘いものでも探しますか」
「いいですね!とても!」
璃子ちゃんへのお土産にしたいし。
自衛隊の物資にはさすがにそこまで入ってなかったしな。
来る途中で見かけたコンビニへ行こう。
・・・それにしても神崎さん嬉しそうだな?
やはり甘味の魔力は偉大・・・いや、よく考えたら服屋の時点でこの調子じゃなかったか・・・?
・・・服が手に入ってテンションが高くなったんだろう。
知らないけどきっとそう。
7時から11時までやってそうなコンビニに到着した。
外から見る限り、略奪もゾンビもなさそうだ。
・・・ということは厄介な生存者に占拠されてる可能性もある。
俺たちは、お互いの死角を庇うように移動することにした。
やっぱり2人いると探索の難易度もグンと下がるなあ。
いいことだ。
ゆっくりと店内に入る。
店舗の方にはゾンビはいないので、神崎さんに目配せをしてバックヤードに拾った発泡酒の缶を投げ込む。
結構な音がしたが、何も異常はない。
生存者が潜んでいる様子も・・・ないな。
残っているものが多いなここ。
乾物系のお菓子を根こそぎいただこう。
もちろん、もはや俺にとって無くてはならないカロリーバー各種も。
地味に役立つんだよなあ、これ。
あと、封を切っていない野菜ジュースも持っていこう。
この状況下で野菜はそれこそ米より大事だ。
・・・野菜といえば、ウチの野菜くんたち元気かなあ。
大木くんならしっかり面倒見てくれそうだけど・・・悪いなあ。
高級ビデオカメラとか探しておこうかな。
両手にどっさり戦利品を抱え、ホクホクの顔で車に戻る。
荷台に積み込んだ時に、何かの音が聞こえた。
瞬時に身構え、周囲の音を探る。
神崎さんも即座に拳銃を抜いていた。
コンビニの中かと思ったがそうじゃない。
・・・道を挟んだ向かいにある喫茶店の方から聞こえてくる。
「・・・打撃音と怒号ですかね、これ」
「・・・はい、どうやら人間同士で争っているようです」
・・・おいおい、ゾンビの方がよっぽどマシだよ。
巻き込まれても嫌だからとっとと退散しよう。
顔を見ると、神崎さんも同じ気持ちのようだ。
そんな風に考え、運転席に戻ろうとした瞬間。
「うううううううおりゃああああああああああああああっ!!!!」
裂帛の叫びと共に、喫茶店の窓と玄関をぶち破って2人の人間が飛び出してきた。
・・・なんじゃあれ。
流石の神崎さんも目を真ん丸にしている。
「ご、ごめんなさっ!も、もうしませんから!もうしませんから!!」
「たすけっ!たすけてえ!!」
飛び出してきた2人・・・髪を染めたヤンキーっぽい人種が必死に喫茶店に呼びかけている。
背中には突き破ったガラスの破片が結構刺さっているが、そんなことはお構いなしに土下座している。
・・・どういう状況、これ?
「おおおおおおおおっ!!ずりゃああああああっ!!!!」
「おごっ!?」
再びの叫び声。
風通しがよくなったおかげでしっかりと聞こえるな。
・・・振りの音が大きい、吹き飛ばした奴の獲物は棒だな。
どず、という打撃音からして重さもかなりありそうだ。
そんなことを考えていると、再び店内に何かが見える。
背中だ、恐らくあのヤンキーのお仲間だろう。
服装の系統が一緒だもんな。
その背中が一瞬震え、首が曲がっちゃいけない方向に曲がった死体が後ろ向きに倒れてくる。
・・・一撃で延髄を砕いたのか。
店内にいる男はかなりの使い手らしい。
神崎さんは、もう拳銃を持っている。
「あああああ!?ジンタァ!?」
「嘘だろォ!?」
悲鳴を上げるヤンキー2人。
「ううううおおおおおお!!」
またも叫び声・・・あれ?これって・・・
店内からとんでもない勢いで伸びた何かが、その片方の頭を叩き割る。
・・・六尺棒だアレ。
しかも両側に小さい棘が付いてるタイプの。
「っひ!?ヨウタァ!?や、やめ、やめt」
「じゃがあしいいいいいいいい!!!!」
今度は横薙ぎ。
ごう、と凄まじい音と共に、最後のヤンキーの首が音を立ててへし折れる。
うわあ・・・あの六尺棒、全部鉄でできてる・・・
・・・あー・・・うん。
フルメタル六尺棒・・・それにこの声・・・
あんなの1人しか心当たりないや・・・
暗がりからぬっと六尺棒を持ったでっかい右手が出てくる。
それに続き、頭も。
「・・・!」
神崎さんが身を固くして拳銃を構える。
日の光の下に、大柄な男が出てくる。
服は・・・警備員が着ているような制服だ。
身長は2メートル超。
頭髪は長めの黒い癖っ毛。
口元にはボサボサの髭。
らんらんと光るような鋭い目。
そして、全身を包む冗談みたいに強靭な筋肉の鎧。
まるで・・・人型のライオンのようだ。
その男は俺たちを視認すると口を開く。
「ああ?なんなら、おどれら・・・」
低めのドスがきいた声。
・・・相変わらずすげえ迫力だなあ。
「・・・っ!動かないで!動くと撃ちm」
「ストップ!神崎さんストップぅ!!」
咄嗟に神崎さんの手に抱き着いて下に向ける。
「え!?ひゃ!?た、田中野さん!?」
神崎さんは目を白黒させている。
すいません訴えないでください!緊急事態なんです!!
「知り合いですぅ!あの人知り合いなんですゥ!!」
「・・・え?」
俺は、道を挟んで怪訝そうな顔をしている男に向けてバイザーを上げて言う。
「七塚原先輩!俺です!!田中野ですっ!!」
男・・・先輩は俺の顔を見て歯を剥き出して笑った。
相変わらず笑っても怖えなあ。
「おお!田中野ォ!!なんじゃぁ、ぶち男前になったもんじゃのう!!」
この人の名前は『七塚原無我ななつかはら・むが』
俺の、南雲流の先輩だ。
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