第13話 本隊襲来のこと 後編(※残酷な描写アリ!)

本隊襲来のこと 後編(※残酷な描写アリ!)








硲谷方面から夜明けとともに襲来したトラック。


十中八九、襲撃者グループだろう。




叫んだあとすぐさま死角に移動して単眼鏡を構える。


数は全部で3台。


前回1台いただいたので、情報が正しければ奴らの持つ車両はあれで打ち止めのはずだ。


・・・胴体部分に趣味の悪いステッカーを確認!


これで確定だな。


リュウジのグループに間違いない。




「来ましたねえ、神崎さん」




「ええ、早速準備に入ります」




傍らで双眼鏡を持つ神崎さんと話す。




以前奴らが送り込んできた偵察隊は皆殺しにした。


なので、奴らはここに俺たちがいることはわからないだろう。


わからないだろうが、こんな目立つ建物調べに来ないわけがない。


俺もすぐに準備に取り掛かろう。




「璃子ちゃん!サクラをよろしくね!」




「まっかせといて!」




璃子ちゃんはグッと親指を立てた。




「神崎さんとお母さんがいるとはいえ、気を付けるんだよ?」




「うん、おじさんこそ気を付けてね!」




まあ、一番被害を受けそうなのは近接型の俺なのは確かだ。




「田中野さん、ご武運を」




「ふふん、進化した俺をお見せしましょう・・・では!」




ぱぁん、と神崎さんとハイタッチを交わし、俺は急いで屋上から社長室へ向かうべく階段を駆け下りる。




「あら、田中野さん」「わふ!」




社長室の前で斑鳩さんとサクラに出会った。


サクラは抱っこされている腕から抜け出して、俺にぴょんぴょん跳びかかってくる。




「おはようございます斑鳩さん、奴らが来ました・・・準備をお願いします」




じゃれつくサクラを撫で回しつつ、斑鳩さんに伝える。


途端に、斑鳩さんの顔に緊張が走る。




「そうですか、わかりました」




真剣な顔で頷く斑鳩さん。




「じゃ、俺行くんで!サクラをよろしくお願いしますね」




「はい、お預かりします」




足元にじゃれつくサクラの顔を両手で挟み、ぐにぐに動かす。




「サークラ、お父ちゃんちょっくら戦ってくるからな」




「きゅん・・・」




何やら察したらしいサクラが心配そうな声を出す。




「大丈夫大丈夫、お父ちゃんは日々進化しとるからな」




「わふ・・・」




どこか疑わし気な目線を受けつつ、俺は社長室に入った。


さて、準備準備。








「よっしゃ、やるかね」




前の襲撃の時と同じく、橋の下の水路で待機中である。


奴らはまだここには来ていない。




今回の作戦は、前回のに少しアレンジを加えたものだ。




まず屋上から神崎さんたち3人が銃撃をし、敵の数を減らす。


死角やトラックに入られて膠着状態になった時点で、俺が飛び出して奇襲をかける。


・・・以上!




・・・え?シンプル過ぎるって?


いいんだよその方が臨機応変に対応できるし。


俺もこれくらい自由な方が動きやすいしな。




目標は敵の殲滅。


逃がすと後が面倒だ。


協力関係にあるかは知らんが、タイヘイやその他のグループに合流されたらここの情報が洩れる。


知られていないというアドバンテージは、可能な限り活かしていきたい。




まだ奴らは来ないし、装備の最終確認でもしておこう。


ちなみに今回の愛刀は『竹』ランクの柳生くんだ。


動きが激しくなりそうなので、重さと強靭さのバランスを考えてこうなった。






しばらく待っていると、トラックが走る音が聞こえてきた。


・・・この方向は、廃校の方角だな。


あそこを見に行っていたのか。


残念ながら綺麗に燃えて廃墟になっているので、何も得るものはないだろうが。


やはり廃校のグループとも何かつながりがあったんだろうな。


ま、これから全滅するんで関係ないけど。




音を立てないように気を付けながら、水路の出口へ急ぐ。


このままここにいたら、最悪流れ弾に当たるかもしれんしな。




水路から道路への出入り口に到着。


いい感じの茂みがあるので、そこから道路を観察。


このまま待つことにする。


さあ・・・早く来い。




廃校の方角から、3台のトラックが接近してくる。


単眼鏡で確認すると、それぞれのトラックには2人ずつが乗車している。


残りは荷台に乗っているようだな。


数は・・・はっきりしたことはわからんが、ざっと数えても20人以上。


以前尋問した人数とだいたい合致するな。


ほぼすべての人員を投入してきたようだ。




もう肉眼で確認できるほど接近してきた。


・・・荷台に、ちらほらと猟銃のようなものを担いだ人影が見える。


銃持ちがけっこういるな。


一斉射されたら即あの世行きだろうが、そんなへまをする気はない。


頭の中で動きをシミュレーションしていく。




先頭のトラックが橋の手前に停車し、わらわらと荷台から人が飛び降りてきた。


2台目、3台目と停車し、同じように降車してくる。


全員、バイクのプロテクターのようなものとヘルメットを着用している。


猟銃を持っているのは全体の半分以上・・・少なくとも15人ってところか。


残りは鉄パイプやらハンマーやらといった感じだな。




見る限り、随分と楽しそうな雰囲気だ。


雑談なんかして、まるで遠足だな。


お手軽な略奪を予想してウキウキなんだろう。


・・・だがな、お前らの人生はここで終わりだよ。




屋上に向け、前と同じように手鏡を反射させる。


即座に、銃を持った人影が躍り出た。




アレは神崎さんかなあ・・・なんて考えた瞬間。


しゅぽ、と少し間が抜けたような音が響く。




その音と共に屋上から飛来した何かは、集団の中心に着弾。


閃光が走り、腹に響く爆音が続く。




・・・あれか、擲弾ってやつか。


そういえばいっぱい持ってきたなあ・・・




「ああああああああああああ!!!」「いでえええ!!」「ぎいいいい!!足!あしいいいいい!!」




もろに直撃したのか、手足を吹き飛ばされた死体。


腕が千切れた奴。


足が千切れた奴。


内臓をはみ出させ、痙攣する奴。


多種多様な被害者が続出している。




おおう、地獄絵図だなあ。


まあどうせ地獄に行くんだ、予行練習にもなっていいんじゃないか?




「落ち着け!車の影に隠れr」




指示を出そうとした奴が、頭を撃ち抜かれて道路に倒れる。


ぶちまけられたピンク色の何かが路面に放射状に広がった。


・・・へえ、フルフェイス被っててもああなるんだ・・・恐ろしや。


これは神崎さんの機関銃じゃないな、斑鳩さんか。




「やだ、やだあ!何よこr」




パニックになり喚いて逃げようとした女も、胸を撃ち抜かれて同じ運命を辿った。


こっちも斑鳩さんだろうか、腕がいいなあ。




そうこうしていると、間髪入れずに連続した銃声。


バタバタと踊るように人間が倒れていく。


神崎さんも撃ち始めたようだ。




「とと、トラック、トラックぅ!!」




何人かが這いながらトラックの影に移動する。


その間にも1人、また1人と撃たれて沈黙していく。




「んの野郎!!」




「死ね!死ねぇ!!」




「あああ!!!ああああああああ!!!」




何人かはその場で屋上に向かって銃撃を開始した。


結果的にはそれが援護になったようで、結構な数の人間が屋上からの死角に潜り込めたようだ。




だが猟銃と機関銃、発射速度は段違い。


援護?射撃をしていた4人ほどは、あっという間に体中に銃弾を浴びて死んだ。


・・・よく聞くと銃声が3種類ほど聞こえる。


璃子ちゃんも撃ってるようだな。




「いいい!ぼ、ボス!どうします!?」




「止むまでこのまま待て!弾だって無限じゃねえんだ!!」




銃声に交じり、そんな会話が耳に聞こえた。




「マシンガンだってトラックには効き目が薄い!このまま待機だ!」




目を向けると、1台目のトラックの影にいる派手なスカジャンを着た男が目に入る。


頭の悪そうな金髪だ。


・・・あれがリュウジか。


自分が一番安全な場所にいるな。


いざとなったら周りの仲間を盾にできる位置だ。


中々大したボスっぷりだな。


反吐が出る。




「いいか、銃声が止んだら一気に門をぶち破る!いつでも発車できるようにキーは持っとけよ!!」




「は、はい!!」




「ウス!」




リュウジらしき男は、屋上を憎々し気に睨みつけた。




「あのガイジン母娘・・・見てろよ、もしいたら無茶苦茶に犯してやるからなあ!!」




ほーう・・・ほうほう。


なるほどねえ。


なるほど。




「娘の目の前で母親を犯して!その後は逆にしてやるからなあ!!死ぬまで輪姦してやるぅアァ!!!!」




・・・あっもう駄目だわ。


これ以上カスの戯言を聞きたくねえ。




アイツはもう1秒足りとも生かしておきたくない。


俺も動くか。




ポケットから手りゅう弾を取り出し、持つ。


同時に茂みから道路に飛び出し、奴らを視界に収める。


勢いよくピンを引き抜き、まずは1個を振りかぶる。


下世話な暴言を吐きまくるリュウジに向け、思い切りぶん投げた。




「あ」




神様の気まぐれか、ふいにこちらを見たリュウジと目と目が合う。


奴は馬鹿みたいな顔で、飛んでくる手りゅう弾を見つめる。




「に、にげr」




何事かを叫ぼうとした顔に、結構なスピードで手りゅう弾がめり込んだ瞬間、爆発。


うっし!ドンピシャ!!




そのまま間髪入れずに、2台目と3台目の影にいる奴らにも手りゅう弾をご馳走してやる。


神崎さんたちの銃撃のお陰で、こちらに全く意識を向けていなかったので楽なもんだ。


2度の爆発が起こり、襲撃者たちはすっかりパニック状態だ。


・・・しかし、人数が人数なため全滅ってわけにはいかないな。


まだまだ元気な奴らがチラホラ見える。




しかし、これで手りゅう弾はカンバンだ。




俺は腰から拳銃を引き抜き、適当に生き残りの人数が多い集団目がけて発射する。


うーむ、狙った所に当たらんなあ。


足とか手とか、致命傷にならん部分にしか当たってない気がする。


これは要練習だな。




拳銃をホルスターに戻し、抜刀する。


遠距離攻撃はここまで。




これからは、サムライの時間だ!




刀を空にかざし、大きく円を描く。


神崎さんとあらかじめ決めておいた突撃の合図だ。




神崎さんたちの爆発と銃撃と、それから俺の手りゅう弾でもう奴らはしっちゃかめっちゃかである。


パニックを起こし、俺の存在にすら気付いていない。


唯一俺の存在に気付いたであろうリュウジは、仲間と一緒に倒れ込んでピクリとも動かない。


趣味の悪いスカジャンは、元々の色よりもっとどす黒い朱に染まっている。




「南雲流・・・田中野一朗太、参る!!」




無事な人間が多く、さらに逃げやすい位置にいる3台目に向かって走る。


まずはかき回しつつ、逃走手段を奪う!


見る見るうちにトラックに肉薄。


銃撃を恐れて横一列に張り付いた集団に、そのまま飛び込む。




「なんっ!?」




やっと俺の接近に気付いた右端の男のヘルメットに、鋭く突きを放つ。


バイザーをいともたやすく貫通した刃が、そのまま中の右目に突き刺さる、


脳まで達したのか、大きく痙攣した男は永遠に静かになった。




刀を引き抜いた勢いを殺さずに、横回転して隣の男の首を斬る。


呆気にとられた様子の男の首筋から鮮血が噴き出し、俺の体に降りかかる。


バイザー下げといてよかった・・・




「ひっ!ひぃい!?」




その横の男が、俺に向かって手に持った猟銃を向けようとする。


ここはもう銃の間合いじゃねえんだよ間抜けェ!!




「ぬんっ!!」




「ぎゃっ!?・・・ぐご!?」




下段からすくい上げるように右手首を斬りつけ、振り抜いた刀を空中で反転させて斬り下げる。


首筋と鎖骨周辺をざくりと斬られた男に蹴りを入れ、後ろの仲間を巻き込ませる。




「あああ!?どけ!!どけよォ!!」




地面に倒れ、のしかかってくる半死人の仲間を押し返そうとした男の顔面に柄頭を振り下ろす。


鉄製の柄頭が、バイザーを叩き割りながら男の歯をバキバキと砕く。




「あが!!?ひゃめ、ひゃめでげぇ!?」




不明瞭な発言をする男の喉に思い切りブーツの踵をねじ込み、砕く。


ブーツ越しにごぎりとした感触を感じる。


・・・これで3台目に隠れた奴は全員死んだ。




「アイツ!アイツだ!!こっちにもいやがる!!」




流石にこれだけ暴れれば気付かれたか。


2台目の生き残りで猟銃を持った何人かが、俺に向けてそれを構える。


このまま突っ込むのは無謀だな。




後方に向けて跳躍し、3台目の影に隠れると同時に銃声が響く。


トラックの車体から、細かいものが同時に着弾したような独特の音がする。


散弾か・・・嫌な記憶がよみがえるなあ。




そのままトラックの反対方向に走り、荷台の縁を掴んで跳び上がる。


着地と同時に、荷台に伏せて息を整える。




「アアア死ね!!死ねェ!!」




「この野郎!!この野郎!!!」




「くたばれ!!くたばれええ!!!」




奴らは俺の動きが見えなかったのか、わめきたてながらがむしゃらに銃を撃ちまくっている。


・・・よし、息も落ち着いてきた。


2台目の猟銃持ちはどうやら3人だ。


1台目の方は神崎さんたちがひたすら撃ちまくってるから、俺の方に気を回す余裕がないみたいだ。


凄まじい着弾音がこっちまで聞こえてくる。


・・・さて、行くか!




3台目の荷台から2台目の荷台へ飛び移る・・・お?




「や、たすk」




荷台の中でバットを抱えて震えていた女の顔面を、飛び移った勢いで蹴り飛ばす。


すまん、俺の暴力は男女平等なんだ。


ヘルメットをかぶっていなかった女は、荷台の縁に付いていた金具に勢いよく頭をぶつけて動かなくなった。


細かく痙攣する体が弛緩していき、頭部からじわじわと荷台に鮮血がしたたり落ちる。




一呼吸置いて、荷台から顔を出す。


下では相変わらず見当違いの方向へ射撃が続いている。




棒手裏剣を持ち、真下へ投擲。




「げぐ!?」




首筋にうまいこと突き刺さったな。


続けてもう一本投げる。


隣の奴の延髄付近に突き刺さった。


それを見届け、飛び降りる。




「あぎゃっ!?!?」




初めに首筋に刺さった棒手裏剣を、そいつの上に着地しながら足裏で体内に押し込む。


そのまま後頭部に片足を瞬時に乗せ、一気に体重をかける。


めぎ、という感触の後、男の首は前に向けて可動域を超えて伸びた。




「ひゃあああ!?」




気付けば仲間が死んでいる、という状況に気付いた最後の猟銃持ちが俺に向けて銃を構える。




「よっと」




「あああ!!!あああああああ!!!!」




延髄に手裏剣が刺さったまま痙攣している男の後ろに隠れる。


連続する銃声に続き、盾にした男がビクビクと跳ねた。




「せい・・・やっ!!」




盾もとい男を蹴り、猟銃持ちにぶつける。


衝突の衝撃に仰け反った男が反り返る。


その隙を逃さず、丸見えの喉に突きを入れた。




「かっ・・・ぽ・・・ぁ」




突いた瞬間に引き抜くと、またもや俺の全身に返り血がかかる。




「このやろああああああ!!!」




猟銃持ちの背後から、鉄パイプを持って正面から殴り掛かってくる男。


1台目に背中を向けている体勢は怖いので、その振り下ろしに合わせて背後へ抜ける。




「ぎっぃ!?」




がら空きの胴を薙ぎながら。


そのまま2台目の背後へ曲がると、バットを持った男2人が振り下ろしの体勢で俺を待ち構えていた。


背後に跳ぶのは悪手だ、1台目から狙われる。


ならば、前!




「あぁっ!!」




右の男に向かい、地面を蹴って飛び込む。


まさか真っ直ぐ向かってくると思わなかったのか、振り下ろしが一瞬遅れた。


そのまま右肩から全体重を乗せた体当たり。


肩が男の胸にめり込み、勢い良く弾き飛ばす。




「っし!!」




「ぎいっああああ!?」




そのまましゃがみながら反転し、左の男の踏みだした足首を斬り付けた。


悲鳴を上げながら、こちらに倒れ込む男に向けてしゃがんだまま踏み込む。




「りぃっ・・・やぁ!!」




地面をこするような低い軌道から跳ね上がった斬撃が、男の片腹を切り裂きながら背後へ抜ける。


びしゃびしゃと鮮血と内臓をまき散らしながら、男は地面に沈んだ。


血振りをしつつ立ち上がる。




「ま、待って、まって・・・たす、たしゅけて!」




先程体当たりで吹き飛ばした男が、仲間の最期を見て怖気づいたのか命乞いをしてくる。


腰が抜けたようで、ずりずりと不格好に後ずさっていく。




「後がつかえてるんだ、とっとと死ね」




「たしゅっけ!?えげ!?」




棒手裏剣を手首のスナップで投擲すると、バイザーを貫通して左目に突き刺さった。




「はっ!!」




駄目押しに蹴りで脳まで押し込む。


男は大きく痙攣した後、だらりと弛緩して地面に倒れた。


・・・これで2台目の奴らも全滅だな。




散発的な銃声が響いている。


1台目の生き残りは、まだトラックの影に釘付けだ。




屋上を見ると、神崎さんや斑鳩さんと並んで璃子ちゃんが銃を撃っているのが見える。


反動で仰け反りながらも、しっかりと構えて断続的な射撃を行っている。


うーん、凄いなあ。


子供が頑張ってるんだ・・・最年長の俺も頑張らんとな。






「ぁ・・・た、たすk」




「無理」




トラックの側で腹を撃たれて苦しんでいた女の喉を掻っ切り、1台目の様子を物陰から窺う。




元気なのは5人か。


トラックに背中で張り付きつつ、猟銃を持って機会を待つかのように銃弾の雨に耐えている。


リュウジは倒れたまま動かない。


ちょうど折り重なって何人かが倒れているので、生死までは確認できない。




奴らはこちらをチラチラと見ているが、来る気はないようだ。


俺の存在は認識しているが、動けば上から狙い撃ちにされるからな。


刀しか持っていない俺は後回しなのだろう。




・・・あれ?


あいつら、俺が拳銃持ってるの知らないのか?




初めに撃ちまくった時以外使ってないからな。


気付いてなかったのかもしれない。




奴らの死角に隠れ、拳銃を抜く。


スイングアウトして薬莢を落とし、ベストのポケットから取り出した弾丸を装填していく。


予備弾持ってきといてよかった。


こうしてリロードの機会が来るなんて思いもしなかったな。




撃鉄を起こし、トラックの荷台へ登る。


刀についた血を拭きとり、納刀。


一呼吸して、拳銃を両手でしっかり握って立ち上がる。




立ち上がった俺と真っ先に目が合った奴に狙いを定める。


距離は10メートルもない。


奴は慌てて俺を狙おうとするが、それより早く引き金を引く。




放たれた銃弾は、何故か隣の猟銃持ちの脳天をぶち抜いた。


・・・ナンデ?


慌ててもう一度引き金を引くと、こちらに猟銃を向け始めていた男の胴体に当たったようだ。


しっかり狙ったのに・・・やはり俺に射撃の才能はないらしいなあ。




「うあ、うあああああああああああっ!!!」




別方向から銃撃されてより一層パニックになったのか、別の男がわめきながらトラックの影から走り出る。


と同時に、体中に銃弾を浴びて地面に倒れた。


・・・神崎さん、すげえ。




あと、2人。




2台目のトラックから1台目のトラックの荷台へ跳ぶ。


着地してすぐに、奴らが隠れている方の縁を踏んでもう一度跳ぶ。


跳びながら下を確認し、猟銃を持つ女のヘルメットを上から撃つ。


ヘルメットの頭頂部に穴が開き、女は雷に打たれたように大きく痙攣した。




あと、1人。




着地し、衝撃を殺すために前転。


その途中で片腕を跳ね上げ、斜めに飛ぶ。


反転した視界の中で、最後の1人に狙いを定めて発砲。


バイザーの中心に放射状のヒビが入るのが見えた。


さすがに、こんだけ近けりゃ当たるか。




立ち上がって弾丸を装填しながら周囲を確認する。


・・・五体満足なのはもういないな。


辛うじて生きていたり、手足が欠損してもうすぐ死にそうな奴らばかりだ。


残りは30人程度だって聞いてたから、これでリュウジのグループは全滅だろうな。


とっととトドメを刺しておしまいにしよう。




もう大丈夫だと屋上の3人に合図を送ろうとした所、視界の隅で何かが動く。




「ご・・・の、や・・・ろ・・・」




ズタボロのスカジャンを着たゾンビみたいな人間が、死体の中から猟銃をこちらに向けようとしていた。


・・・リュウジか!?なんで生きてんの!?


見れば、顔の右半分は焼けただれ、目玉が飛び出している。


たぶん、投げた手りゅう弾のスピードが速すぎて顔から跳ね上がって爆発したんだろう。


それで即死はしなかったのか?




リュウジを視認した瞬間、俺は奴に向かって走り出した。


震える銃口が、俺にゆっくりと向けられていく。




『前へ出ろ、前へ』




脳裏に響く師匠の声。




『後ろにも、その場にも安寧はない。死線から一歩踏み出したところに、それはある』




「来いやああああああああああああああああっ!!!」




裂帛の雄たけびを上げると、奴の腕がびくりと動く。


・・・ここぉ!!!


待つのではなく、隙は作らせるもの!!




踏み込む足の重心を横に。


一足で大地を蹴り、瞬時に斜め前に跳ぶ。


空中で2枚の十字手裏剣を、腕の振りで放つ。




「っが!?」




1枚は手首。


もう1枚は引き金を引く指に突き刺さった。






見たか!南雲流、『遠間断』!!






響く銃声。




支えを失った猟銃はあらぬ方向を撃ち、反動で奴の手から吹き飛ぶ。




もう一度、着地の瞬間に方向を変える。


足首が悲鳴めいた軋みを上げる。




奴の方へ跳ぶ。




「なんで、だ、ちくしょう!ちょくしょおおおおおおおおっ!!!」




「その首、貰ったあああああああああああああああっ!!!」




着地の勢いを殺さず、抜刀。


風をはらんで甲高い音を立てる愛刀が、何千回と繰り返した稽古の軌道に乗る。


半狂乱になって叫ぶリュウジの首を、根元から刃全体を使って引き斬った。


わずかな抵抗感の後、首は胴体から綺麗に離れた。




・・・斬れた。




肩で息をしながら、俺はひそかに歓喜の震えを感じた。


・・・師匠も、腕が上がるときはこういう気持ちだったんだろうか。


人をぶち殺して歓喜とは、俺もいい加減狂ってきたもんだ。




湧き上がる歓喜を飲み込むと、俺は脇差を抜いて後始末のために歩き出した。

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