第103話 挨拶回りのこと(後編)
挨拶回りのこと(後編)
おっちゃんにボッコボコに負けた俺は、疲れ切った体で縁側に腰かける。
「いつつ・・・こりゃ青痣になるなあ」
息をする度に鳩尾に鈍痛。
ううむ・・・これは腹筋を鍛えても耐えられないタイプの痛みだ。
師匠の攻撃もそうだったが、なんというかこう・・・表面を突き抜けて内部にくるというか。
拳法の発勁ってのもこういうのかもしれない。
俺もそんなのが使えたらなあ・・・木刀で何でも倒せるんだけど。
そういえば、おっちゃんが刀使ってるの見たことないな。
稽古だから手加減しているとはいえ、この威力だ。
以前中島に放った一撃くらい力を乗せたら、骨なんかあってないようなもんだな。
俺も頑張ろう・・・
筋トレ・・・はあんまり関係なさそうだけど。
あれは力づくでどうこうって種類の技じゃない。
『力だけで優劣が決するなら、この世に武術なぞない』って、いつだったか師匠が言ってたなあ。
「あの、大丈夫ですか?お腹・・・」
縁側で考え事をしていたら、不意に声をかけられた。
「ああ、小鳥遊さん・・・はい、大丈夫ですよ」
振り返ると、小鳥遊さんが心配そうに見つめている。
「すごかったですね、なんかこう・・・アクション映画みたいでした」
「はは、楽しんでいただけて光栄ですねえ」
・・・この人も明るくなったなあ。
いいことだ。
あんなカスのことなんざとっとと忘れて日々をエンジョイしていただきたい。
「ここでの生活は馴れましたか?」
「はい、皆さんよくしてくれますから・・・おじちゃんと、田中野さんのおかげです」
「いやあ、大部分はおっちゃんのおかげですね」
よせやい。
くすぐったいぜ。
「あ、そうだ。ご飯ですよ、田中野さん」
「はい、汗を拭いたら行きますね」
「わかりました」
そう返すと、小鳥遊さんは家に入っていった。
鳩尾も確認したいが・・・小鳥遊さんの前で脱ぐわけにもいくまいて。
風呂に入った時にでも確認しとこう。
「おや、田中野くん。元気そうだねえ」
俺の前に熊・・・じゃない、敦さんが現れた。
肩にデカい丸太を担いでいる。
・・・恐ろしく似合うなあ、おい。
「や、どうも敦さん。そろそろご飯らしいですよ」
「そうかあ、これ細かくしたら行くから、先に食べておいてってお義母さんに言っておいてくれるかな?」
「はい、了解です」
ずしりずしりと足音を響かせながら、敦さんが中庭から家の裏の方へ消えていく。
薪にするのかな、あれ。
たしか生木には水分が多いから乾燥させないといけないんだっけ。
・・・どうでもいいけど丸太長いなあ。
あんなもん持てねえぞ、俺。
敦さんも完全復活というわけだな。
おっちゃんに敦さん、それに美沙姉。
対ゾンビならここは鉄壁だな、うん。
安心して旅立て?そうだ・・・
腹の虫がうるさいので、手を洗ってご飯にしようか。
「お手!」「わふ!」
「おかわり!」「ふぁん!」
「伏せ!」「わう!」
「待て!」「・・・きゅん」
「・・・よし!」「わぉん!!」
尻尾をぴこぴこ振り、ガツガツと餌を食べるサクラ。
ははは、ついにおかわりと伏せを覚えたぞ!
・・・まあ、すぐに覚えたんだが。
賢すぎない?この子?
全くと言っていいほどしつけをした記憶がないというのに・・・
「サクラちゃん、かしこいねえ~」
隣に座った由紀子ちゃんが感心している。
「・・・天才かもしれんな、うちの子は」
「おにいさん親馬鹿だ~」
「いいの!こんなにかわいいんだから馬鹿にもなるの!!」
・・・子供を褒め倒す親の気持ちがわかる今日この頃である。
さてと、俺も飯にありつくとするかな。
今日のメニューはおばちゃん特製の豚汁、サラダ、そして白米である。
うーん、ゾンビ騒動の真っただ中とは思えないメニューであるな・・・待てよ肉!?
嘘だろ!?肉、肉が入ってるぞ!!
「おばちゃん、どどどどどしたのこの肉!?」
「お、おにいさんが振動している・・・」
そりゃ混乱もするだろ!肉だぞ肉ゥ!!
もう食えないと思っていたのに・・・!
「ああ、それは猪だよ」
・・・猪?
山にいるあの?
「おう、香ちゃんがな、敦くんと一緒に山に行って仕留めたんだ。ありがたく食えよボウズ」
・・・小鳥遊さんが!?
猪を!?
・・・あ、そうか弓か。
小鳥遊さんは全国大会で優勝するくらいの名手だった。
なるほど・・・狩猟かあ・・・
盲点だった。
俺も現代社会にどっぷり浸かっていたんだなあ。
「食う食うありがたく食うよ!小鳥遊さんありがとうございます!天使!!大天使!!!」
「あ、あの、拝まないでください・・・」
照れくさそうな小鳥遊さんを拝みつつ、さっそく豚汁もとい猪汁に手を伸ばす。
まずは啜る。
・・・あああ、おいしい・・・おいしすぎる・・・肉の匂いがする!!!
これだけで飯が流し込めるな。
さていよいよメインの肉を・・・食う!
「おじさん、ないてる・・・ママ、大丈夫かな?」
「いいのよ美玖、一太は昔っからす~ぐ泣くんだから。おいしすぎて泣いてるの、アレは」
なにやら外野が言っているが知ったことではない。
あああ・・・噛み締めれば噛み締めるほど口に広がる肉のうまみよ・・・
豚よりなんというかこう・・・ワイルドな味だがそれもいい。
入ってる野菜も出汁が染みてて美味い・・・これはもう完全食ではないのか?
止まらねえ!飯が!止まらねえ!!
肉なんてこの騒動が終わるまで食えないと思ってたからなあ・・・!
感動も一入である。
「田中野さん、すっごい勢いですけど汚い食べ方じゃないですね・・・不思議です!」
「一朗太ちゃんはとにかく美味しそうに食べるからねえ、昔っから作り甲斐があるってもんさ」
「ウチ、小食なので憧れます!」
「大丈夫大丈夫、おいしく食べてくれればなんでもいいのよ」
もそもそと小動物のごとく食べる比奈ちゃんもかわいいな。
おばちゃんは何やら満足げだ。
比奈ちゃんも大分馴染んだな、ここに。
いいことだ。
「一朗太ちゃん、おかわりたっくさんあるからねえ。いっぱい食べな」
「母ちゃんの豚汁は世界一だからな!遠慮すんなよ!」
口に物を入れているので、コクコクと頷く。
おっちゃん的にはおばちゃんの料理は全部世界一でしょ。
いい夫婦であるなあ、本当に。
・・・ううっぷ、ちょいと食い過ぎた。
食事が終わり、みんな思い思いに過ごしている。
「ママ!サクラちゃんといっしょにお風呂入ろ!」
「ひゃん!ひゃん!!」
「いいわよ~、サクラちゃんを2人でツヤッツヤにしちゃいましょう!・・・あっくぅん、今日はパスね」
「・・・この世の終わりだ・・・」
美玖ちゃんは俺に許可を取った上で、美沙姉とサクラと一緒に風呂へ向かった。
後には悲しき熊だけが残された。
娘と風呂に入れないだけで、なんという哀愁だろう。
マジで美玖ちゃんが一人で風呂に入るようになったら、敦さん死ぬんじゃないかな?
・・・まあ、美沙姉と入ればいいだろう、うん。
・・・しかしこれは丁度いいな、おっちゃんに話をしておこう。
美玖ちゃんに正面から伝えるのはなんというか、気まずいし。
「おっちゃん、話があるんだ」
「・・・だろうよ。さっきも言ったが、うちへ来た時からそんな顔してたもんな」
・・・お見通しというわけだ。
顔に出るなあ、俺。
「・・・というわけなんだ。しばらくは、あまり顔を出せないと思う」
おっちゃんに、これからのことを話した。
いつの間にかおばちゃんも一緒に聞いていた。
「・・・龍宮は、今そんなことになってんのか。周りのことで精一杯でそこまで気が回らなかったぜ」
「どうしても、行くのかい?一朗太ちゃん」
おばちゃんが心配そうに聞いてくる。
「うん、役に立つかはわからないけど・・・神崎さんを1人で行かせるわけにはいかないからね」
「そう・・・そうよね、一朗太ちゃんはそういう男だもんねえ」
俺が断れば、神崎さんは単独で偵察に向かう。
その上で行方不明にでもなられたら、たぶん俺は一生後悔するだろう。
「・・・」
黙って聞いていたおっちゃんが、立ち上がって店の方へ歩いていく。
ふむ、なんだろう。
預けておいた刀でも持ってきてくれるんだろうか。
「おにいさん・・・」
後ろから由紀子ちゃんが話しかけてきた。
聞いていたのか。
「無理、しないでね?危なくなったらすぐに逃げてね?」
目を潤ませながら俺の肩に手を置いてくる。
「大丈夫大丈夫。これから面白おかしく生きていくために、こんなとこで死んでられないさ」
その手をポンポンと叩きながら、冗談めかして言う。
「・・・ほんと?ほんとに?」
「・・・ほんとですか?」
・・・比奈ちゃんまで、いつの間に。
反対の肩に手を置かれた。
なんだこれ。
合気道の演武前みたいな状況になったぞおい。
俺は現代柔術の開祖じゃないっつうの。
「うん、傷は顔のこれだけで十分だからね・・・おいおい、比奈ちゃんも泣かないの」
あーあーもう、可愛い顔が台無しだよ。
零れる涙を優しく拭ってやる。
妹を思い出すなあ・・・元気にしてるといいが。
「ウチ、ウチ・・・田中野さんに助けてもらったのに、何も返せてないんです。これからいっぱい恩返しするんで、無事に帰って来てくださいね!」
「私も!お兄さんのおかげでママと会えたんだもん、いっぱい恩返ししなきゃいけないから・・・!」
「あらあら、これじゃ簡単に死ねないわねえ、一朗太ちゃん」
・・・なんという包囲網だ。
恩に圧し潰されそうである。
しかし2人とも、そんなこと考えなくてもいいのに・・・いや、俺もそれにこだわってるからなあ。
強くは言えない。
「だーいじょうぶ、大丈夫。ホラホラ2人とも、可愛い顔が台無しだよ?サクラもいるし、絶対に生きて帰ってくるさ、なんせパパだもんね」
精一杯おどけて返す。
こうまで言われちゃ、こう言うより他ない。
「おうおうおう、両手に華とは随分なご身分じゃねえかよ」
2人をなだめていると、両手に何かを抱えたおっちゃんが店から帰ってきた。
・・・やめてくれないか人聞きの悪い。
「預かってた刀だ。少し痩せたが、切れ味は前よりいいだろうぜ」
そう言って俺に懐かしき愛刀を差し出してくる。
由紀子ちゃんたちに離れてもらい、鞘から抜く。
・・・二尺二寸あった刀身が、二尺一寸ちょいくらいに縮んでいる。
だがおっちゃんが言った通り、刃の輝きは以前とはまるで違う。
よく切れそうだ。
・・・すげえなおっちゃん。
玄人はだしじゃないか。
軽くなった分、取り回しもよくなってそうだ。
後で振って確かめておこう。
「おおー、こいつはすごい・・・ありがとうおっちゃん!」
「いいってことよ・・・おめえにゃまだまだ恩があるからな。で、こいつも持っていきな」
おっちゃんは、反対の腕に抱えていた布の塊を置く。
これは・・・なんだろう。
棒状に見えるが・・・
おっちゃんが顎をしゃくるので布を取る。
俺がいつも使っている木刀の8割程度の長さの鉄棒がそこにあった。
重量も同じくらいか、少し重い程度。
形は反っていて刀に似ているが、刃はついていない。
鍔の部分に鉤状の出っ張りがある。
・・・あ、これ時代劇で見たことあるぞ。
「こいつは兜割ってもんだ。幕末に使われてた本物だぜ?」
ああ、これがそうか。
相手を殺傷せずに取り押さえることを目的とした武器だったな。
・・・でも鉄の塊だからなあ、これ。
普通に木刀より破壊力が高そう。
「おめえの戦い方だと、重いのはよくねえからな。木刀より頑丈だし役に立つだろ・・・受け取れねえなんて言うんじゃねえぞ」
・・・先手を打たれた。
うぐぐ・・・
「どうせうちに置いてても俺は使わねえし、美沙もそうだろう。敦くんにいたっちゃ六尺棒でも持たせた方がいい」
・・・まあ、そういうことなら。
「・・・わかった、ありがたく頂戴するよ」
宮田さんといいおっちゃんといい、なんか貰ってばっかりだな俺。
「短筒とかもあるけどよ・・・」
「あ、そっちは間に合ってますから結構でござる」
どうすんだよ火薬とか弾丸とか。
・・・聞いたらなんか出てきそうだから聞かないけど。
「そんで、最後にこいつだ」
何やらメモ帳を差し出してくる。
「龍宮市にある武道具店の住所と名前だ。何か困ったら俺の名前出しな、最後のページに名刺も何枚か挟んである」
おお、そいつはありがたい。
メンテナンス用品とかの調達に役立つ。
これは役立つ情報を手に入れたぞ。
後で地図アプリに登録しておこう。
「ボウズ」
不意におっちゃんが真剣な声色を出す。
「死ぬんじゃねえぞ・・・死んだら俺がぶち殺すからな」
「いろんな人に言われるなあ、それ」
「そうだよ田中野くん」
おっと、いつの間にか復活した敦さんも。
「美沙や美玖が悲しむからね・・・僕も君にはすごくお世話になったんだ、それに命の恩人だしね。借りを返す前に死んだらだめだよ?」
でかい手で俺の肩をポンポン叩く敦さん。
「そうですよ、田中野さん。みんな待ってますから」
小鳥遊さんまで。
俺も周りの人口密度がすごいぞ、これ。
「わかりました、必死でやってみますよ敦さん、小鳥遊さん・・・おっちゃん、まあやってみるよ」
「おう、おめえなら大丈夫だろ・・・なんつうか、いつもより気合が入ったみてえだしよ」
おっちゃんが俺の頭をポンポン叩く。
打楽器みたいになってきたな、俺の体。
「でもな、美玖にはおめえがちゃんと言うんだぞ」
えっ。
「あたりめえだろ、どうせすぐにバレるぞ・・・おめえ顔に出やすいんだからよ。それに、美玖は結構鋭いしな」
・・・うごごごごご。
美玖ちゃんにわかるくらいわかりやすいのかよ。
「おっちゃん・・・ここに面頬って置いてない?」
「血迷うんじゃねえよ、戦国時代の厳ついやつしかねえぞ。美玖が泣くだろ」
・・・さすがにそれはゴツすぎるな。
「きれいになったねえ、サクラちゃん!」
「わう!わう!!」
「この子、ドライヤー嫌い過ぎるでしょ・・・」
おっと時間切れだ。
美玖ちゃんたちが帰ってきた。
うう、覚悟を決めるしかないな。
「美玖ちゃん、ちょっと話があるんだけど・・・」
「そーなんだ!おじさん、きをつけてね!」
「・・・お、おう、気を付けます」
・・・なんか思ってたのと違う!?
もっとこう・・・前に友愛であったみたいに縋り付かれるのかと思ってた!!
「凛おねーさんがいっしょなら、安心だね!」
あ、なるほど。
そういうことか。
「サクラちゃんも、おじさんをよろしくね!」
「うぅ~おぉん!!」
『まかしといてくださいよ!』的な声を出すサクラ。
頼もしいなあ・・・
「ときどき帰ってくるんだよね?」
「ああ、うん。ずうっとあっちにいるわけじゃないからね。また来るよ」
「うん!」
よかったあ。
案ずるより産むがやすしとはよく言ったもんだな。
これで心置きなく龍宮に向かえるぞ。
美玖ちゃんも成長したなあ・・・いや、せざるを得なかったのか。
考えようによっては不憫だ。
今度来るときはお土産をたくさん持って帰って来よう、うん。
「ま、あんたなら大丈夫でしょ。がんばんなさいよ一太、凛ちゃんによろしくね」
「ああ、ありがとう美沙姉」
美沙姉はいつも通りだ。
ありがたい。
「あんたはうちの一家の大恩人なんだからね?そこらへんで野垂れ死んだら、もっかい殺すからね」
親子ォ!
親子でそっくりなコメントォ!!
都合2回殺されるじゃんよ俺!!
恐ろしや・・・
その後は普通にみんなでのんびり過ごし、就寝することになった。
俺の寝床はいつもの部屋である。
サクラは美玖ちゃんと遊び疲れたのか、すでにかわいらしい寝顔を見せている。
・・・神崎さんもそうだけど、サクラもしっかり守らなきゃな・・・
ゾンビは問題ないけど、人間には気を付けよう。
なにせサクラの母ちゃんはそういう奴らに殺されちまったんだしな。
食うでもない動物を殺す・・・外道はどこにでもいそうだもんな。
害獣とかだとしかたないけども。
さて、明日は家の整理だ。
早めに寝るとしようか。
何かの気配に目を覚ました。
たぶん深夜である。
・・・おい、何か襖がゆっくり開いていくんだけど。
幽霊はやめてくれよ・・・物理が聞かない相手には俺は滅法弱いんだよ・・・
どどど、どうしよう。
お経・・・お経を唱えぎゃああああ!!!
布団に入ってきたあ!!!
「・・・おじさん」
うんうんうん、美玖ちゃんだよねそうだよね。
わかってたもん初めから、うんわかってた。
「やあ、どうしたんだい美玖ちゃん。眠れないのかな?」
布団の中の美玖ちゃんに話しかける。
「・・・」
美玖ちゃんは黙っている・・・いや、これほんとに美玖ちゃんか!?
美玖ちゃんの姿を借りた何かではないのか!?
「・・・っ」
ぎゅう、と美玖ちゃんが抱き着いてきた。
あったかい・・・どうやら人間のようだ。
安心した。
「おじさん・・・おじさぁん・・・」
美玖ちゃんが震えている。
・・・泣いてるのかな。
あ、胸に水気がある。
泣いてるな。
「はいはい、おじさんはここですよ」
背中をポンポン叩いてやる。
「ううう・・・元気に、かえって、きてね・・・」
・・・寝る前のあれは虚勢だったのか。
俺に心配をかけさせまいと、気丈に振舞っていたんだろうなあ。
気にしなくていいのに。
いい子だなあ。
「・・・おじさんが約束破ったこと、ある?」
「・・・な、なぁい・・・」
「な?だから大丈夫だよ、美玖ちゃん」
俺の胸に顔を埋めて涙を流す美玖ちゃんを、そっと優しく抱きかかえる。
「お土産い~っぱい持って帰ってくるからね、サクラと、凛おねーさんも一緒に」
「うん・・・うん・・・!」
美玖ちゃんは一層俺に抱き着いてきた。
「きゅぅん、きゅ~ん」
「・・・サクラちゃぁん・・・」
「きゅ~ん」
俺の背中側に寝ていたサクラがもそもそと布団から出て、美玖ちゃんの顔をぺろぺろ舐めている。
起こしちゃったな。
「・・・さ、寝るぞ寝るぞ。もしお化けが出たらおじさんを守ってくれよ2人とも」
「わふん」
「・・・うん、おやすみ・・・おじさん、だいすき」
「うん知ってる」
「もう・・・あは」
「きゃん!ひゃん!」
「はいはい、サクラも美玖ちゃんも大好きだぞぉ」
サクラを挟んで、3人で川の字になって寝た。
あったけえなあ・・・
俺の周りの知り合いは、みんないい人ばっかりだ。
翌朝、おっちゃんたちは総出で俺を見送ってくれた。
バックミラーの中の美玖ちゃんは、目を真っ赤にして手を振ってくれている。
「・・・龍宮市がなんぼのもんじゃい!俺に勝てると思うなよォ!!」
「うぉん!!」
こみ上げてくる何かを無理やり飲み込みながら、俺はアクセルを踏み込んだ。
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