第97話 山中姉弟のこと

山中姉弟のこと








「よーしよし」




「わふ!わん!」




新くんがサクラと遊んでいるのを横目で見ながら、お姉ちゃん・・・山中さんを見る。




ここは山中家のリビングだ。


サクラも上げていいと許可をもらったので、足を綺麗に拭いて上がらせてもらった。




サクラの相手は新くんに任せ、話をしよう。




「それで・・・これからどうする、山中さん。食料の備蓄がないなら、ここは移動した方がいいが」




「私がこの足ですし・・・行く当てもなくて。近くの小学校が避難所だったんですけど、どうも壊滅してしまったらしくて・・・」




この近所となると・・・河北小学校だったかな?


友愛で聞いた避難所リストでも、早くに壊滅が知られていた場所だ。




「ふむ・・・お母さんはどこに?」




「リュウグウパークに、獣医として勤務しています。ずっと連絡がとれなくて・・・」




おお、県内唯一の動物園兼遊園地か。


ゾンビ発生時は平日だから、壊滅したかまではわからんが・・・


それでもなかなか帰れるような距離じゃないな、車で2時間はかかるんだから。


電車は不通だし、車道の状況もわからんしなあ。




「なるほどなあ・・・じゃあとりあえずここに書置きを残して、俺の家まで来るといい。食料もあるし、避難所との仲立ちもできる」




「そ、そんな・・・ご迷惑をかけるわけには・・・」




「新くんを助けたからね、ここで『はい、さよなら』ってするにはいかないんだよ。俺の性分でね・・・関わったからには、ある程度のところまで必ず面倒を見る」




このまま放っておいたら、この姉弟は遠からず共倒れだ。


知らない内ならそれでいいが、知ってしまったら寝覚めが悪い。




「それに、このままだと姉弟そろって餓死しちまうぞ。それでもいいのか?」




あのコンビニを見るに、この近辺ではかなり徹底的な略奪が行われてるっぽいしな。


この先状況が悪くなることはあっても良くはならんだろう。




「・・・あの、それではお願いしてもいいでしょうか?」




山中さんは申し訳なさそうに口を開いた。


弟のこともあるし、苦渋の決断だろう。




「ああ、任せとけ。そうと決まれば移動の用意だな」




「・・・ありがとうございます!」




新くんに声をかけ、身の回りの物の準備をお願いする。


山中さんは元々の足のこともあるが、ここ連日の絶食でかなり体が弱っている。


恐らくかなり前から、食料を切り詰めて弟に多く食べさせていたんだろう。


長時間歩くのはしんどそうだ。




「金は役に立たんからな、衣服やどうしても持っていきたい物を中心にするんだぞ」




「うん、わかった!・・・姉ちゃーん!姉ちゃんの下着、どれもってけばいいかなー!?」




「あ、新ぁ!・・・す、すいませんちょっと行ってきます・・・」




顔を真っ赤にした山中さんがふらふらと新くんの所へ行く。


・・・うん、まあ小学生男子にそこまでのデリカシーを求めるのは酷と言うものだ。


ここでサクラと待とう。




「サクラ、紐の引っ張りっこしよっか」




「わぉん!わふ!」






しばらくすると、大き目のリュックサックを2つ持った2人が帰ってきた。


ふむ・・・まあそのくらいの量なら大丈夫だろう。




その後、お母さんへの書置きを作成し、テーブルの上に目立つように置く。


文面は、俺の家に一旦避難することと、俺の住所。


それからこの先行くであろう友愛の住所だ。


もし友愛がだめなら、他の避難所の住所を後日追加するつもりだ。


車なら別の橋経由ですぐに来られるしな。




家には遠出用の車いすがあったので、それに山中さんを乗せて移動ることにする。


よかった、最悪ずっとおんぶしようかと思ってたからな。


リュックサックのうち、1つは新くんが背負い、もう1つは車いすの後ろに固定することにした。




そしてもう一つ、俺は2人の叔父ということにした。


無関係な俺が家に連れて帰ろうとしていると周囲に知られたら、なんのかんの縋り付かれても困ると思ってのことだ。


今回のことは俺の我儘のようなもんであって、俺が全方位博愛主義者だと思われたら大変だ。


この団地の家族全員の面倒はさすがに無理だ、食料もないし、友愛も受け入れられないだろう。


その他の家族には、運が悪かったと思ってもらおう。


・・・こっそり確認したら、この団地に捜索依頼の対象もいなかったしな。






「お、重くないですか?たな・・・おじさん」




「全然・・・ていうか軽すぎて泣きそうだよおじさんは。家に着いたら、腹が爆発するくらい飯食わせるからな」




流石に階段を車いすで下りるのは無謀なので、山中さんをいわゆるお姫様抱っこの形で抱えて下りる。


軽すぎる・・・不憫だなあ・・・




「すげー!おじさん力持ちだね!」




「男の価値は、強さと優しさだぞ新よ」




キラキラした目で俺を見つめてくる新くんに返しながら、1階までえっちらおっちら下りた。


ふう、車いすを回収してこよう。


2人とサクラをベンチで待たせ、また4階へ。




ドアの前に置いた車いすを抱えて1階へ下りると、何やら話し声が。




「無理ってなんだよ、な、ちょっと頼んでくれるだけでいいから・・・」


「ここまでわざわざ来てくれるようないい人なんでしょう?」


「言うだけならタダなんだから・・・」




山中姉弟が3人の大人に囲まれている。


おっさん2人とおばさん1人だ。


なんだどうした?




「あの~俺の姪っ子と甥っ子に何か?」




車いすをどちゃりと地面に下ろし、声をかける。




振り向いたおっさんが、俺を見て顔を引きつらせる。


今の俺はリュックに木刀を吊るし、剣鉈と脇差を両腰に固定している。


おまけに顔には派手な傷ときたもんだ。


さぞ恐ろしかろう。


・・・あれ?そういえば山中姉弟は何も言ってこなかったな?


まあいいや。




「し、志保ちゃんのおじさんかい?」




恐る恐るおっさんが話しかけてくる。




「ええ、山中鹿之助と申します。2人の母親の弟です・・・それで?何か御用ですか?」




0,2秒くらいで考えた偽名を名乗る。


・・・しかし歴史上の豪傑はまずかったかな・・・?


まあ怪しまれたらあやかって付けられたとでも言っておこう。




「志保ちゃんたちを保護しに来たのかい?」




「はい、そうですよ。姉と連絡が取れませんから、2人でいさせるよりも安全だと思いましてね」




「そうかい、良い叔父さんだねえ・・・」




「は、はあ・・・」




何だろういったい。


早く帰りたいんだけどなあ。


もう1人のおっさんがこっちに近付いてきた。




「何か、食べるものをもってないかね?食料も少なくなってきてね・・・」




「いえ、今は持っていません。ここらに住んでいないので・・・」




おいおいおい、前衛的な物乞いだな。




「そのリュックに入ってるんでしょう!?犬も飼ってるぐらいだから余裕あるんじゃないの!?」




おばさんも参戦してきた。


おおう・・・貧すれば鈍するってやつかな。




「ここに入っているのは犬の餌だけですよ・・・そっちのリュックも着替えしか入ってませんしね。どいてくれませんか?姪を車いすに乗せたいので」




話しているだけでイライラしてきたが、とにかくここを離れた方がよさそうだ。


こういう手合いは下手に刺激するとまずい。


よく見れば3人とも目が血走っているし。


余裕がないんだろうな。


とにかく姉弟と引き離さなければ。




車いすを組み立て、ベンチまで押していく。




「さ、志保ちゃん、いらっしゃい」




「う、うん・・・」




抱えて車いすに乗せ、バンドで固定する。


さて、新くんには予備のポシェットを付けてもらおうかな・・・うおおお!?




「ちょっと!何するんですか!?」




「どうせ、どうせここに隠しているんだろう!!」




リュックを無理やり掴まれた!


だが悪いな、俺のリュックはジッパーに鍵がかかる仕様なんだよ!!




「・・・離せ、二度は言わねえぞ」




「うるさい!とっとと食料を寄越せ!!」




ああ、そうかい。




掴まれている方向へ、体重を乗せた体当たり。


おっさんはあえなく地面に転がり、手を離した。




「新、サクラと俺の後ろへ来い」




サクラを抱えた新くんが、急いで俺の後ろに回る。




転がったおっさんをおばさんが助け起こし、残りのおっさんは俺を睨む。


・・・なんだその目は。


ぶち殺すぞ。




「このまま俺たちを行かせるなら・・・何もしない。だが・・・」




言いつつ、勢いよく両腰から脇差と剣鉈を抜き、構える。




「っひぃ!?」「わっ・・・わかった!!」「許してくれ!!」




特に剣鉈の方はさっきのゾンビの血液がべったり付着していたから、なかなか迫力があっただろう。


3人はすぐに団地へと走って消えていった。




溜息をつきながら、納刀。


制止しても止まらなかったしな。


俺一人なら問答無用でぶん殴るところだが、さすがに小学生と高校生の前で人間スプラッタは避けたい。


超絶なトラウマになりそうだし。




「あの人たち・・・食べ物を分けてくれなかった人たちだよ」




ぽつりと新くんがこぼす。


ふむ、それなら因果応報というものかな。


よその子供に食料を分けないなら分けないでいいが、その親戚(偽物)に集るとは厚顔無恥もいいとこだ。




「よし、気を取り直して出発だ!新くんはサクラを頼むぞ」




「新でいいよおじさん、任せといて!」




こんな所にいつまでもいられない。


また新たな物乞いが出て来るとも限らんしな。


とっとと逃げよう。








車いすを押しながら橋を渡る。


新はサクラのリードを持って、楽しそうに横を歩いている。


サクラも嬉しそうだ。


新には予備のポシェットを付けてもらっているし、いつサクラが疲れても安心だ。




「へえ、新は野球やってるのか。道理で日焼けがすごいわけだな」




「ピッチャーだったんだよ!・・・おじさんは剣道?」




「剣道と、剣術と居合だな。道場は最近行ってなかったけど」




「へえ~すごいなあ!僕も鍛えたら強くなれるかな?」




キラキラした目でまた俺を見る新。




「強くなってどうするんだ?」




「決まってんじゃん!姉ちゃんを守るんだよ!さっきみたいな人やゾンビから!・・・ねえ、強くなれる?」




ええ子やこの子は・・・


俺なんて小学校の時もっと馬鹿だったぞ、たぶん。


この環境がそうさせたのか・・・いや、元々いい子だったんだろうな。






「ああ、きっと・・・俺よか、ずっとな」






新を眩しく思いながら呟いた。


・・・助けてよかったなあ、この子。


このまま真っ直ぐ大きくなってほしいものだ。




「で、し・・・山中さんはどこの高校に通ってたんだ?」




「私も志保でいいですよ、田中野さん。竜前高校です」




竜前高校・・・隣の県の名門校じゃないか。


賢いんだな、志保ちゃん。




「あの日は創立記念日で、久しぶりに帰って来てたんです」




「へえ、そりゃあ・・・よかったのか悪かったのか。あれ?じゃあ新は?」




「僕はズル休み!」




「はは、悪い子だなあ」




良い笑顔だこと。


さてはお姉ちゃんと一緒にいたくて休んだな?


将来拗らせシスコンにならないといいけど・・・


志保ちゃん結構かわいいしな。




「母さんが出勤して、3時間くらいしたら急に外が騒がしくなってきて・・・気付いたらもう」




ふーむ、やはり同時多発的にゾンビが発生している。


どういうことなんだろ。




「知れば知るほど、ゾンビがなんで発生したかわからんなあ・・・」




「おじさん!きっと宇宙人の仕業だよ!地球を侵略するためにやったんだ!」




はは、宇宙人か・・・


いや、こうまで脈絡がないとそれもアリかもしれんな。


もしくは太古から眠る悪霊が・・・なんか新伝記っぽい感じになって来たな。




「かもしれんなあ、俺も子供の頃UFO見たことあるし」




「ええっ!?本当!?」




「ほんとほんと、部活の合宿で龍宮山に登った時なんだけどさ、白い光がこう空をカクカクーって何回も曲がりながら飛んでて・・・」






やいのやいの言いつつ歩いていると、丁度橋の終わり辺りで違和感に気付く。


後ろから足音がする。




胸ポケットから出した手鏡で確認すると、こちらの方向に歩いてくる3人の姿。


若い男女だな。


男が2人、女が1人だ。


男2人はバットを持っている。




「(新、すまんが車いすを押してくれ。サクラはポシェットに・・・ゆっくり歩くんだ)」




小声で指示し、車いすの少し後ろをゆっくりと歩く。


ただの通行人だとは思うが、用心するに越したことはない。


ゆっくり歩いて追い越してもらおう。


車いすがいるので、走って引き離すこともできないからな。




じわりじわりと距離が詰まってくる。




大分近づいたころ、振り返って声をかけた。




「おや、どうも・・・こんにちは」




さも今気づいたかのように。




「あ、こんにちは」




先頭の男が挨拶を返してくる。


後ろの2人は・・・会釈したな。




「いやあ、いい天気ですねえ。散歩ですか?」




「あ、家に帰る所です。そちらは?」




「私たちは散歩ですよ、日光浴しないと子供たちの健康に悪いですしねえ」




「そうですね、その通りです」




ふむ、どうやら変な人間ではなさそうだ。


このまま追い越してもらおう。


ゆっくりと歩道の端へ寄り、道を譲る。


若者3人はこちらと、元気に挨拶したサクラに笑顔で手を振りながら追い越して行った。


・・・よかった、貴重な普通の生存者だった・・・




「いい人たちだったね!」




「ああ、よかったよかった」




「あの、危険な人って多いんですか・・・?」




ぽつりと志保ちゃんが聞いてくる。




「田中野さん、さっきまでと全然、なんていうか・・・空気が違ったので」




ほう、なかなか鋭い子だな。




「まあね・・・悲しいかな、いきなり襲ってくるような人が増えたのは確かだな」




「その・・・顔の傷ってもしかして」




「ははは、油断しててね。こう、ザクっと」




あれは苦い経験だ。




「でもほら、これはこれでかっこいいと思わないか?なあ新」




「うん!強そうに見える!」




「だろお?」




もう笑い話だけどな。




「まあ、俺はこの程度で済んだからいいけど・・・基本的に、外で出合う人は信用しない方がいい・・・って、俺が言うのもなんだけどな」




「違うよ!おじさんはいい人だから大丈夫!」




「嬉しいけど・・・そりゃまたなんで?」




「サクラちゃんがすげえ懐いてるもん!子犬や子猫は悪い人がわかるって、母さんが言ってた!」




「へえ、獣医さんのお墨付きか。そりゃあ安心だ」




3人で笑いながら、また普通のペースで歩き出した。


さっきの若者たちは橋を下りてまっすぐ行ったようだ。


よし、別方向だな。


これで安心して帰れるぞ。






途中でサクラの元気が切れるちょいとしたハプニングはあったが、無事に我が家まで帰ってきた。




「ようこそ、田中野邸へ!!」




「すっげえ!秘密基地みたい!!」




「す、素敵なおうち・・・ですね!」




いいんだ、女子受けしないのは百も承知だしさ。


神崎さんくらいだよ、肯定してくれるのは。


新は喜んでるからそれでいいんだ。






「よーし、新、掴んで離すなよ」




「うん、姉ちゃん頑張って!」




「は、はいい・・・」




誠にすまないが我が家の入り口は2階なので、志保ちゃんにはかなり辛い。


俺が脚立を支え、先に登った新に志保ちゃんを引っ張り上げてもらった。


車いすは軽トラの荷台に載せておこう。




そんなこんなで家に入り、1階の居間へ。




新は本棚に詰まったDVDを興味深そうに見ている。




「うわあ・・・すっげえ、お店みたいだ」




「ここは電気が使えるから、後で何でも見ていいぞ。ポータブルプレイヤーも4つあるしな」




「何から何まで・・・すみません田中野さん」




「子供が遠慮すんじゃないの、ほれほれサクラー、足を拭こうな」




「わふ!きゅん!」




くすぐったかったようだ。




とりあえず風呂桶に水を溜め、湯沸かし器をぶち込む。




時刻は・・・昼の2時か。


中途半端な時間だが、何か食おう。


何にするかな・・・やはりラーメンにしよう。


大量にあるし。




前にざるうどんを作ったデカい鍋に井戸水を張り、大型ガスコンロにかける。




「おーい、味噌と塩と醤油、どれがいい?」




居間でサクラの相手をしてくれている2人に聞く。


答えは味噌だった。


いいよな、味噌。




沸いてきたお湯にスーパーで回収した乾燥野菜ミックスとやらをぶち込む。


こんなんでも栄養の足しにはなるだろう。


野菜がお湯で戻ってきたら、麺を入れる。


面倒臭いから5人前入れよう、賞味期限近いし。


適当に麺がほぐれたらスープの素を入れて、かき混ぜたら完成だ。




テーブルの中央に鍋敷きを置き、鍋をそのまま置く。


取り皿用の丼と割りばし、お玉と菜箸を添えて完成だ!


うーん・・・味噌ラーメンの匂いっていつ嗅いでも素晴らしい。




サクラ用の食事も用意して、いざ実食!




「「「いただきます!」」」「わぅん!」




チョコバーを食べたとはいえ、温かい食事は久しぶりだったんだろう。


2人は目に涙を浮かべながらラーメンを啜っている。


うんうん、人間ひもじいのが一番辛いって言うしな。




「遠慮なんかいらないぞ、5人前あるんだからな。どんどん食えよ2人とも」




「うん!僕ラーメン大好き!」




嫌いな人間を見たことがないな、俺も。




「おいしい・・おいしいです田中野さん・・・暖かいものなんて、久しぶりで・・・」




ううう、俺まで釣られて泣きそうになってきた。


いかん、このままでは塩ラーメンになってしまう!






ラーメンを食べ、片付けをして戻ると姉妹はソファーにもたれ、寄り添って眠っていた。


緊張の糸が切れたんだな、無理もない。


起こさないようにそうっと毛布をかけ、サクラを抱いて2階へ撤収する。




「2人とも寝てるからな、俺たちはこっちでのんびりしようぜ」




「わふ!」




初めて入る俺の部屋を興味深そうに見るサクラを横目に、ベッドに寝転がる。




うわあ!なんだこれすっごいフカフカぁ!!




あ、そうだそうだ、サクラを拾った日に寝具店で回収した布団だわこれ。


あれから毎日居間でサクラと寝ていたから気付かなかった・・・すげえ・・・高級布団すげえ。




サクラを呼ぶと、ベッドに飛び乗った瞬間にふにょんと胴体まで沈みこんだ。


『!?』って顔のサクラがかわいい。


若干パニックになったサクラは、もふもふの海を必死で泳いで俺の腹に追突した。


地味に痛い。




風呂が沸くまであと2時間くらいか・・・ここでひと眠りしよう。


サクラの背中をポフポフ叩きながら、俺は目を閉じた。






アラーム音に目を覚ます。


・・・うーむ、なんかこう、目覚めまでいい気がする、この布団。


すっきりさわやかだ。




1階に下りると、2人はまだ寝ていたが物音で目を覚ました。




「あっ・・・す、すみません、寝ちゃいました」




「んみゅう・・・ふあああ~」




「いいんだよ、こっちこそ起こしてすまんね」




顔を赤くして謝る志保ちゃんに笑いかけ、半分夢の中の新を見て笑う。




「お風呂が沸いたから入ってきなよ、風呂桶の中の湯沸かし棒は熱いから気をつけてな」




バスタオルを渡しながら言う。




「そ、そんな・・・先に入るなんて」




「そんな心配しないでもいいの、俺は後でサクラと入るから。なあサクラ」




「ひゃん!」




あくまで固辞する志保ちゃんを、新に命じて無理やり風呂に入らせる。


女の子が風呂に入れないってのは辛いだろうからなあ。


シャンプーやリンスは妹のがあるから好きに使ってと言っておいた。




風呂場から楽しそうな声がする。


おっちゃんの家を思い出すなあ。




さて、2人が上がってくるまで荷物の整理と戦利品の確認をしておこうかな。


あ、そうだ。


一応捜索者ファイルにざっと目を通しておこう。


もしかしたら別地区に2人の捜索届が出ているかもしれない。




リュックサックからファイルを取り出して確認していく。




えーと、山中・・・山中・・・


ううむ、結構よくある苗字だからちょいちょい出て来るなあ。


これはおじさんだから違う、こっちはおばさん、これは・・・おしい、名前が一文字違う!




・・・ムムッ!


あった!




・依頼人『山中朋子やまなか・ともこ』


・氏名『山中新』


・年齢『11歳』




これに間違いなさそうだな。




・依頼人との関係『甥』




ってことは叔母ちゃんか。


見つかってよかった。


でもなんでこんな地区のファイルに・・・?




・所属または学校名『詩谷市立河南小学校』




あ、なるほど。


通ってた小学校の地区で捜索依頼を出してたのか!


新は学校を休んでたんだからわからなかったんだろうなあ・・・




よかった、とりあえず友愛に連れて行けばよさそ・・・いや待てよ。


中島の件もあるし、2人にしっかり確認してからにしよう。


折り合いが悪かったりしたらかわいそうだしな。






「いい湯だった~!僕復活ぅ!!」




「ああもう新、しっかり髪を拭いて出なさい!」




お、丁度いいところに。


早速聞いてみよう。




「なあ二人とも、山中朋子さんってさあ・・・」




聞いてみた所、折り合いが悪いどころか普段から付き合いのある叔母さんらしかった。


獣医をしているお母さんが帰れない時なんかは、頻繁に叔母の家に泊まったりしていたようだ。


ちなみに母親の妹で、俺よりも年下だった。


そうか・・・この年で甥姪がいるのは当たり前なんだな・・・




「よかった・・・朋子ねえさん、元気だったんだ。あの、田中野さん・・・本当に、本当にありがとうございました」




涙ぐむ志保ちゃん。




「おじさんのおかげだよ!ありがとう!」




目一杯感謝する新。




「いいんだよ気にしなくて・・・俺も避難所の仕事が1つ片付いたんだから。最近全然見つけられなくてさあ、困ってたんだわ」




後半は主に俺の怠慢であり、元より身を入れて取り組んでいないせいであろうが。


そして一切困っていないが。


大人は嘘をつく生き物なのである。






サクラと風呂に入り、居間に戻る。


軽く夕食を済ませた後、適当に映画でも見て寝ることにした。




新のリクエストでアクション映画だ。


まあ、俺のコレクションはだいたいそうであるが。




鋼鉄の・・・まあ厳密には鋼鉄ではないが、それのパワードスーツを着て戦う大企業の社長の話だ。


シリーズで言うと1に当たる。


俺もこれ好きなんだよなあ・・・憧れるよな、パワードスーツ。


探索にも戦闘にも役立ちそうだし。




3人と1匹で楽しく鑑賞した後、姉弟には両親の寝室を使ってもらうことにして就寝。


今日は色々あって疲れただろうからな。




俺は自室でふかふか高級布団にくるまり、サクラと一緒に寝る。


ふわあ・・・最高、やわらか~い・・・


なお、サクラは一瞬で寝た。


流石高級布団だ・・・




わふわふとよくわからない寝言を言うサクラのぬくもりを感じつつ、俺は目を閉じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る