第95話 謎の勢力?のこと

謎の勢力?のこと








「うまうま・・・我ながらなかなかのもんだ」




「おいしいです!田中野さん!!」




「わん!」




ここは詩谷市の南区。


とある4階建てマンションの屋上である。


とても見晴らしがいい。




俺と神崎さん、それにサクラは今日も一緒に行方不明者の捜索だ。


ええ、真面目にやってます。




え?じゃあ目の前の七輪とその上にあるうまそうなアジの開きはなんだって?


・・・アレだよ、モチベの維持のためだよ。




この前は病院で散々な目にあったもんで、今日は息抜きの意味合いもある。


結局あの山田はなんだったんだろう・・・


神崎さんには聞き辛いからもう聞かないけどさ。




話を戻そう。


ちなみにこれは試作型干物3号だ。


1号と2号は・・・ちょっと塩加減を間違えたり腐ったりして・・・かわいそうな物体に・・・


でもこいつは、ちゃんと試食してきたから安全だ。




以前、神崎さんに食べさせるって約束したしな。


というわけで、探索にかこつけて昼食というわけだ。


どうせなら景色のいいところで食いたいしな、ゾンビの危険もないし。




ちなみにサクラには塩分の関係で食べさせられないので、高級魚缶(子犬用)を放出。


今度釣りにも連れて行ってやろう。


おっちゃんたちにも紹介したい。


きっと喜ぶぞ。




うーん、しかしうまい。


アルファ米持ってきてよかったわあ・・・もうご飯が止まんない止まんない。




「ご飯に合いますねえ!」




「ええ、本当に・・・あ、あの田中野さん・・・その・・・」




む?神崎さんが何やらもじもじしている。


・・・ははーん・・・




「ご心配なく・・・ご飯も魚も、おかわりは豊富にございます!」




「ありがとうございますっ!」




「くぅ~ん・・・」




「お前にもあるぞサクラぁ!」




「わん!」




たーんとお食べ、俺もまだ食うし。


うほお止まんねえ!!






腹も満たされたので、食後のコーヒーを飲みつつ休憩。


缶飲料は、保存も効くし大量に確保できるし最高の存在だ!


そこら辺の自販機を破壊すりゃ、いくらでも手に入るしな。


・・・まだやってないけど。


俺が必要な分なら、まだコンビニで調達した在庫があるし。




お腹をぽんぽこにしたサクラも、おれの横で転がって寝息を立てている。


食ってすぐ寝ると牛になりそうだが、俺も寝転がる。


神崎さんもサクラを挟んで反対側でそうしている。


空が綺麗だなあ・・・本当に。


平和だ・・・






「いやーうまかったですねえ、次は燻製にチャレンジしてみますよ、さらに長持ちするでしょうし」




「それは楽しみです。私、燻製の経験はありますので色々アドバイスできるかと思います」




おお、そいつはありがたいなあ・・・


経験者がいると捗るぜ。




「今日はどうしますか?」




「そうですねえ、ファイルから適当な人を気分で選んで捜索っぽい感じで・・・」




いつも通りのお気楽捜索。


さあて、今日はどこを・・・






突然、連続した破裂音が聞こえた。






反動をつけてうつ伏せになり、息を止める。


・・・今のは?




「きゅ~ん・・・」




起きたサクラが俺の下に潜り込んで震えている。


おっとと、潰さないようにしないとな。




「神崎さん、今の・・・」




俺と同じような姿勢で伏せている神崎さんに小さく聞く。




「おそらく、発砲音・・・しかもライフルか機関銃ですね」




・・・だろうな。


おっと、まただ。




音にするとバババババッって感じだな。




「間違いありません、分隊支援機関銃の音です」




分隊支援・・・?


まあいいや、とりあえずデカいマシンガンってことだろう。


どこぞのお米の国と違い、この国で連射できる銃を持てる相手は限られている。


街の銃器店でも散弾銃しかない。


ってことは・・・




「自衛隊か警察の特殊部隊ですか?」




「・・・いえ、あの発砲音は多分・・・」




3度目の銃声。




「・・・我々でも、警察でもありません」




へえ、音を聞いただけでわかるのか。


すごいなあ。


俺なんか、あーマシンガンだーってくらいしかわからん。


・・・えっと、マシンガンとアサルトライフルって違うんだったっけか。




4度目。




「・・・なんか、こっちに近付いてきてないですか?」




「はい、移動速度からして何かの車両に乗っている可能性がありますね」




おっと、忘れていた。


サクラを神崎さんに渡し、匍匐前進で七輪の所まで行く。


ペットボトルの水をかけて消火。


煙で発見されたら嫌だからな。


敵にしろなんにしろ、見つからないに越したことはない。




「田中野さん、これを。もしもの時は援護をお願いします」




神崎さんの所まで戻ると、いつもの手りゅう弾が手渡される。


遠距離戦に関しては役立たずだからね、俺。


しかし銃を持ったおそらく軍人とやり合いたくはないなあ。


見つからないことと、戦闘にならないことを祈ろう。




震えるサクラを撫でであやしつつ、ライフルの各部をチェックする神崎さんを見る。


うーん、頼りになるなあ。




俺も手裏剣のチェックをしていよう。


棒手裏剣はアレだが、十字手裏剣は多少遠くまで届くし。




おお、5度目だ。




うん、確実に近付いて来てるな。


俺たちがいるマンションから見下ろせる、前の国道。


どうやらそこを車かなんかで走っているらしい。




しばらく待っていると、6度目の銃声と共に奴らは姿を現した。




よりによって俺たちのいるマンションの下に停まったようだ。


なんでここに停まるんだよもう・・・どっか別の場所に行けよ。




「(先に確認してきます、サクラを頼みます)」




「(はい、くれぐれもお気を付けて)」




神崎さんにサクラを任せ、ベストを脱いでインナーだけになる。


釣り用のベストって目立つ色してるからね。


そのまま単眼鏡を持ち、匍匐前進で進む。




こっちからは見えるが、あちらからは見えにくい場所まで進む。


ここなら見上げられても逆光になって気付かれにくいだろう。


単眼鏡を除き込む。






緑色の・・・小型トラックみたいなものがあるな。


運転手が1人、助手席はここからでは見えない。


荷台には3人見えるが、どうしたことか全員映画に出てくるようなオレンジ色の防護服を着ている。


2人が暴れる何かを押さえつけて作業。


1人はデカいライフルを後方に向けて構えている。


神崎さんが持っているのとは大きさがまるで違うな。


弾倉も箱みたいに大きい。


三脚みたいなものまで付いてる。


なんか映画で見たことあるな、あれ。




「アアアアア!!アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」




「~~~!」「~~~~!?」「~~~~~!!」




荷台で暴れているのは男のゾンビだ。


体をベルトのようなもので拘束され、大声を出して暴れている。


服装からして、元は一般人のようだ。


しかし何やってんだアイツら・・・?


防護スーツ越しでよく聞こえないが、話しているのはこの国の言葉じゃないように思える。




そこまで確認すると、元の場所まで戻った。


サクラをこちらへ戻し、神崎さんと交代する。




セクハラになるといけないので、匍匐前進する神崎さんの方向を見ないようにしながら怯えるサクラをあやす。




「よーしよし、ビックリしたんだな。静かに、静かになサクラ・・・」




「きゅぅん・・・」




小声であやしつつ、神崎さんを待つ。






またもや銃声が聞こえた。






まさか、神崎さんがいるのがバレたのか!?


急いで神崎さんの方を見ると、俺にひらひらと手を振っている。


どうやらこっちに向けて撃ったんじゃないらしい。




今度の銃声は長い間聞こえるな。




その音が段々遠ざかっていく。


どうやら発砲しながら移動しているらしい。




しばらく伏せていると、その音も聞こえなくなった。


ふう、遠くまで行ったか。




神崎さんが立ち上がって戻ってきた。




「お疲れ様です、大丈夫でした?」




「はい、こちらへの発砲ではありませんでしたから」




やっぱりか。


リードを付けたサクラを放し、あぐらをかいて座る。


神崎さんも俺の横に座り直した。




「いったい何だったんでしょうねアイツら、自衛隊でも警察でもなさそうでしたが・・・」




「おそらく、駐留している外国の軍隊か・・・その研究機関でしょう」




・・・やっぱりかあ。


まあ自衛隊と警察の線が消えれば、そこしかないわな。


この県にも駐屯地はあったはずだし。


詩谷市ではないが。




「やっぱあのデカいライフルと言葉ですか?」




「アレらもそうですが、トラックのナンバーが駐留軍仕様でしたから」




あーなるほど、そこまでは気が回らなかった。


さすが自衛隊、よく見ているなあ。




「ま、ここで考えても仕方ないですね。どうします?秋月に行って花田さんに報告しときますか?」




「いえ、とりあえず友愛から無線連絡をします。それよりこちらへ来てください」




神崎さんに言われるまま、屋上のへりまで行く。






「アイツら・・・なんて置き土産を・・・」




眼下を見下ろすと、そこには今までいなかったゾンビがわんさかいる。


あんだけ銃声を撒き散らせばこうなるだろうけど・・・


くっそ、これじゃ帰るときに苦労しそうだな。




「荷台にいたゾンビ、見ましたか?」




「ええ、縛って固定してたみたいですけど・・・」




「私が見たときは採血をしていました。他にも切開用の手術道具が見えましたね」




ゾンビの生体解剖か何かか?


・・・しかしどうしてそんなことを・・・


それにあの防護服・・・




「ゾンビの・・・ウイルスだか何か知らないですけど、空気感染ってするんでしたっけ?」




「いえ、今のところこちらでは確認できていません。あの防護服はゾンビの体液や噛みつきに対応するためではないかと」




ふむ、なるほどなあ。


何もわからないということが分かった。


神崎さんにわからないことが俺にわかるはずもない。


とにかく移動だ。


警察にも知らせなくちゃいけないだろう。




身支度を整え、サクラをポシェットに収納する。


まだ不安そうな顔をしているが、俺がいるから安心して欲しいな。




「さて、帰るぞサクラ」




「きゅぅん・・・」




不安そうにこちらを見上げるサクラの頭を撫で、ずり落ちないようにポシェットのベルトをきつく締め直す。




もう一度屋上のへりに行き、下を見る。


・・・多いなあ。


このままほっといたらどっかに行ってくれないだろうか。


・・・雨の日や夜じゃないから望み薄だな。




・・・待てよ、アレがあったな。




リュックサックを開け、ごそごそ探す。


あった!


前に詩谷駅で使った爆竹!


いつか使うかもと思って入れておいたんだ。


油紙に包んであるから湿気てないだろう。




「これ、使いますか」




「流石です、田中野さん!」




さす俺いただきました!


ちょっと嬉しい。




しばし休憩。


さっきの奴らが近くにいたら嫌だからな。




・・・5分経過。


このくらい待てばいいだろう。


ライターを擦って火を点け、屋上から思い切り投げる。




爆竹は道を挟んだ向かいの住宅街に消えていき、しばらくすると破裂音が響き渡る。




「ひゃん!?」




おっとと、ごめんなサクラ。




見る見るうちに、ゾンビどもは住宅街に走り込んでいく。


よーしよし、爆竹は効果が絶大だな。




もう1回爆竹を投げ、しばし待つ。


その後、昼食を片付けてマンションを後にした。


階段に残ったゾンビがいたが、神崎さんが鋭い蹴りで首を砕き成仏させた。








さっきの奴らを警戒し、いつもとは違う反対方向の道を選んだが、何事もなく友愛高校に到着した。


今日の門番は森山くんじゃなかったので、すんなり入れた。




「それでは、私は報告に行きます。今日はここで失礼しますね」




「はい、お疲れ様でした神崎さん」




神崎さんが頭を下げ、職員室に向かっていった。


宮田さんへの報告も一緒に済ませてくれるとのこと、助かるなあ。




さて、俺はどうしようか。


このまま帰ってもいいが・・・


そうだ、どうせなら手裏剣を増産しておこう。


ついでだし。




その時、どこから嗅ぎつけたのか、森山くんが校舎から出てきた。


グラインダーを使う技術室は釘とかあって危ないので、森山くんにサクラを預かってもらおうか。




「いいんですか!?お任せください!!」




今までにないほど真面目な顔をした森山くんが、一瞬で了承してくれた。


サクラのおやつやリードを渡し、お願いする。




「サクラ、お父ちゃんちょっとお仕事してくるからな。森山お兄ちゃんに遊んでもらいな」




「ひゃん!」




「わ~賢い~かわいい~~~~」




くねくねと身を捩る森山くんに軽く引きつつ、お任せする。


一抹の不安が残るが、後ろから婦警さんたちもやって来たので安心する。


あれだけ大勢いれば大丈夫だろう。




・・・そういえばここ、警察犬とかいないな。


どこか別の避難所にいるんだろうか。


ゾンビは動物を襲わないので大丈夫だとは思うが・・・


たくましく生き抜いていてほしいものだ。


正直、俺にとって変な生存者より犬の順位の方が上だもん。






森山くんに許可を取り、技術教室へ向かう。


うーん、原田のアホも無期限行方不明になったし校舎内で絡まれる心配もない。


いやあ、平和であるなあ。




「・・・!」




うわ、いたよもう一人。


俺に絡みそうな奴が。




進行方向にいる女子高生。


えーと、大木くんの元婚約者の妹の・・・うん、忘れた。


派手目なので脳内でギャル子と呼称しよう。




技術教室へはこの廊下が一番の近道であるが、他にも道はある。


わざわざすれ違うのも面倒くさいし、校庭経由で行こう。


みすみす俺を嫌う人間の間合いに入るのもアホらしい。




即座にUターン。


速足で校庭に出る。


うし、危機は回避した。


このままぐるっと回って技術教室へ行こう。




顔見知りの子供に手を振ったりしつつ、技術教室へたどり着いた。


よし、さっさと作業して家に帰ろう。






鉄板を加工し、正方形へ。


それをざっくり切り落とし、十字手裏剣へと加工する。


鉄板の在庫、減ってきたなあ。


またホームセンターから調達してこなきゃ。


食料や生活必需品でもないから、いっぱい余ってるしな。




・・・うん、いるな。


背後に。




廊下から技術教室に入るドアの隙間から、誰かがこちらを覗いている。


ガラスの反射で確認・・・うん、ギャル子だ。




なんなんだ、俺にいったい何の・・・ああ。


姉貴を探してほしいってお願いか?


なんか神崎さんがそんなこと言ってたな。


ふむ、それならとっとと話しかけてくりゃいいのに。




十字手裏剣に刃を付けていく。


うん、グラインダーがあると本当に便利だな。


俺もどっかから調達してこようかなあ・・・




ギャル子はまだいる。


話しかけても来ない。


・・・なんでじゃ?




・・・まさか。


俺が気付いて話しかけるまで待ってやがるのか!?


嘘だろ!?


なんつう察してちゃんだよ!?




・・・よし、気付かないふりをしよう。




その後も黙々と十字手裏剣を製作し、結構な数になった。


作った手裏剣を10枚ずつの束にまとめて、紐で固定。


それをリュックサックに入れると、手早く後片付けを済ませて校庭に脱出。


その間一切ギャル子の方には顔を向けなかった。




そのまま競歩並みの速度で校庭を通過。




森山くんたち警察と戯れているサクラを回収、手短にお礼を言って軽トラに乗り込む。




「サクラちゃん、またね~」




手を振る森山くんと婦警さんたちに会釈しつつ、発車。


門をくぐる時にバックミラーで確認したところ、森山くんたちの後ろでこちらを恨めし気に見つめるギャル子を確認した。




「ふう、やってられんなあサクラ」




「ひゃん!」




『なになに?』みたいな顔のサクラを撫でつつ、俺はアクセルを踏み込んだ。


これから友愛に来るたびにアレを回避せにゃならんのか・・・


今度神崎さんに相談しよう・・・

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