第90話 マイペースな大木くんのこと

マイペースな大木くんのこと








「いやぁ!今日もいい天気ですねえ神崎さん!」




「・・・」




「・・・そうだろうサクラ!」




「わん!」




「・・・最近心がすり減りがちだったから、今日はまったりいきましょうか神崎さん!」




「・・・」




「・・・そうだろうサクラぁ!」




「ひゃん!ひゃん!」




・・・なにこれ。






皆さんこんにちは、私、無職の一朗太です!こっちは豆柴のサクラ!!


今日も今日とて探索に行くべく、愛車の軽トラを運転中です!


本日は大木くんの所へ遊b・・・探索に行こうと思っています!


早速なんですが!






車内の空気が最悪です。






思わず脳内無職の宅急便実況を始めてしまったが、神崎さんの様子がおかしい。


前のみを見つめたまま一切話さない。


今はもう慣れたが、サクラなんて軽くパニックを起こしていた。


そりゃあ、いつも優しいおねえさんが急に無言になったんだもんな。


まあ、器用に手だけでサクラを撫で回しているので、サクラとしては問題ないようだ。


いいのかそれで。




思えば、朝友愛に行った時からこんな調子なのだ。




決して俺と視線を合わせないし、何も喋らない。


何か調子が悪いのかと思って、今日の探索は中止にしようかと進言したほどだ。


そうしたら俺の袖をきゅっと掴むなり、首をブンブンと横に振る。


行きますかと聞くと今度は縦にブンブン。


何かよくわからんが、探索には行くらしいのでそのまま車まで行き、現在に至る。






・・・俺、何かしたか?


全く心当たりがない。


前に会ったときは、例のサイコパパ擬き関係でバタバタしてただけだし。


あれかな?ろくにサヨナラも言わずにおっちゃんと荷物を抱えて帰ったから怒っているとか?


・・・いや、ないな。


ないない。


神崎さんはそんなに心の狭い人ではないだろう、うん。




・・・だとしたら一体どうして・・・


ううむ、ひょっとして虫歯が痛すぎるとかかな?


神崎さん、甘いもの好きみたいだし。


・・・いや、ないな。


歯磨きとかキッチリしてそうだもん。




さて、困ったぞ。


捻り出した心当たりが全滅した。


付いて来てくれたということは、探索には協力してくれるんだろう。


だがなあ・・・この状態だと咄嗟の時に困りそうだ。




なにより、俺がこの状況に耐えられない。


落ち着くために一服しようにも、愛すべきサクラが近くにいる。


・・・よし、謝ろう。


何が悪いのかわからないけどごめんなさい、という謝罪の種類としては最悪のものだが。




車を路肩に停め、エンジンを切る。


見通しのいい直線道路なので、ゾンビの心配はない。


神崎さんは少し体を動かした。




深く深呼吸。




「あの・・・神崎さん、あのですね・・・」




「・・・」




「申し訳ありませんっ!!」




「わふ!」




「・・・!」




いかん、少し声が大きかった。


サクラと神崎さんが同時にビクッとしたぞ。




「俺が、何かしてしまったんでしょうか?恥ずかしながら心当たりがないので・・・自分でもどうかとは思うんですが」




「・・・っ」




「でも俺、こんな感じで探索に行きたくないんですよ・・・こう、なんていうか・・・」




「・・・ぁ」




「神崎さんと色々行くの、楽しいんで。だから、もし俺が原因で怒ってるなら教えてください」




「・・・ぅ」




「もしそうじゃなくても、悩みとかあるんだったらそれも教えてください・・・聞くことくらいしかできないですけど」




「・・・ふぅ・・・」




言い切ると、再び車内に静寂が満ちた。


サクラまで空気を読んで静かにしているようだ。


あっ違う甘噛みしてきた。




「・・・あの」




神崎さんが重い口を開いた。


視線は前方のままだ。




「た、田中野さんに、怒っているとか、そういうことでは、ありません・・・」




つっかえつっかえ話す神崎さんの顔が、みるみる赤く染まっていく。


えっ何これは。




「昨日、あの・・・あの人に怒鳴って、くれましたよね」




・・・中島のことか?




・・・ああああああああ!!!!!


あの啖呵のことか!!!


うわ、恥ずかしくて死にそう・・・!!


サクラ!いっそ俺の頸動脈を噛み切れ!!!あっだめだばっちい!!!今のなし!!!




「えええええっと・・・あの、あれはアイツが神崎さんに危害を加えるかと思ってぇ・・・」




顔が熱い。


なんであんなことしちゃったんだ。


神崎さんなら俺が助けるまでもなくあんな奴ボッコボコにできるだろうに・・・




「・・・男の人に、あ、あんなことを言われたのは、初めてだったので・・・その」




俯く神崎さんの目元はヘルメットで見えないが、首まで真っ赤だ。




「び、ビックリ・・・してしまって、それで・・・私の方こそ、空気を悪くして・・・すみません」




「あ、そそそ、そうですか・・・」




・・・さっきとは別の意味で空気が悪い。




「あの、田中野さんは、その・・・わたs」




「あばばばばばばば!?」




「!?」




サクラが急に俺に飛び掛かり、きゅんきゅん鳴きながら顔をベロベロ舐めてくる。


なんだなんだ急に!?


あれか!?喧嘩でもしてると思ったのか!?


あっ今度は神崎さんの方へ!




「ひゃ!?ちょ、ちょっとサクラちゃん!?ぷはっ、ひゃめ、やめて!」




神崎さんは目を白黒させている。




俺たちを舐めまわしたサクラは、再び席に戻ると




「わふ!」




と一鳴き。




『やってやりました』みたいな顔をしている。


うわ・・・なにそのドヤ顔、可愛すぎ・・・




「サクラお前なあ・・・ふう、はは、はははは!」




「ふふ、あはははは!」




神崎さんとお互いに顔を見合わせ、笑いあった。


まったくおかしいな、犬にまで心配されるなんて。




「ははは・・・ふう、えっと、それでどうしました?」




「ふふ・・・いえ、いいんです。・・・ありがとうございます、田中野さん」




「?」




何かを言いかけていたようだが・・・まあ、それでいいならいいか。




「もう・・・いたずらっ子ねえ、サクラちゃん」




「ふぁふぅ・・・」




サクラを強めに撫でる神崎さん。


いつも通りに戻っている。


うむ、なんだかわからんがこれでいいのだ。


・・・たぶん!!




それから神崎さんとも普通に会話を楽しみつつ、運転を再開。




さーて、今日は大木くんのとこから何をもらおうかなあ。


今回はアニメ系を攻めてみようか。


いや、もう何体かプラモを・・・


いやあ!夢が広がるなあ!








そんな風に思っていたのだが。




「・・・なんじゃ、こりゃあ・・・」




「・・・大惨事ですね」




俺はハンドルを握ったまま、目の前の光景に開いた口が塞がらなかった。


サクラはくしゅんくしゅんとかわいい咳をしている。


周囲に立ち込める煙のせいだろう。




大木くんが拠点にしている古本屋。


その前の駐車場から、もうもうと煙が立ち上っている。




前にはなかった車が何台か停まっていて、それらが全て壊れている。


ひしゃげたり、真ん中から真っ二つになったり、えらいことになってるな。


煙の発生元もそこのようだ。




他にも零れたガソリンに引火したのだろう。


駐車場のそこかしこでまだめらめらと燃えている。




まるで地獄である。




「あの壊れ方は・・・」




神崎さんが何かに気付いたようだ。




「っ!田中野さん!あれを・・・!」




神崎さんが指差す先を見る。


残骸になった車の近く。


飛び散った何かのパーツと、大量の赤い液体。


人体の成れの果てだ。




うっわグロ。


スプラッタ映画も真っ青だ。




「車は、全て何らかの爆発物によって破壊されています。人間もそうです」




やっぱりそうか。


っていうかそれ以外だとこの惨状の説明がつかない。


それにしても爆発物か・・・




「大木くんの仕業かなあ」




「おそらく、そうかと」




うん、間違いない。


それにしても何があったんだろう。




周囲にゾンビや生存者の気配はないので、確かめることにする。


惨状から少し離れた所に車を停め、サクラを胸元ポシェットにジャックオンして降りた。


残して行って万が一延焼でもしたら目も当てられないからな。




駐車場に降り立つと、むわっとした熱気や、何かが焼けるような臭気が俺たちを襲う。


サクラが細かく震えて、俺のベストの胸元に無理やり顔を突っ込んだ。


かわいそうに、怯えているんだな。


あとさぞ臭いだろう。




震えるサクラをポシェットから出し、ベストの中にカンガルーよろしく入れる。


大き目だからゆったり入った。


腰のところは紐でキュっと閉めているので、落下の心配はない。


俺の体温に安心したのか、若干震えがおさまったようだ。




見れば、古本屋本体にはダメージがないように見える。


1階部分のガラスが割れたりヒビが入っているが、内部のバリケードは健在だ。


とりあえず、近付いてみよう。


神崎さんとアイコンタクトを取り、ゆっくりと歩き出した。






「あー!田中野さんじゃないですか!それに神崎さんも!お久しぶりでーす!」






古本屋の近くまで来ると、底抜けに明るい声。


以前と全く変わりない大木くんが、屋上からひょっこりと顔を出した。


その様子に軽く脱力しつつ、少し大きな声で話しかけた。




「おう・・・大木くん、こりゃあ一体なんなんだ?」




「いやー・・・色々ありましてねえ。まあ、とりあえず上がってくださいよ~、またお話しましょう」




言うなり、梯子がスルスルと下りてきた。




・・・大木くんを信用してないわけではないが、こっそりと脇差を抜きやすい位置に移動させる。


神崎さんも、腰のホルスターの留め金を外した。




ひょっとしたら大木くんがよからぬ奴に捕まっていて、これが罠だという可能性も・・・なさそうだが、備えはしておかないと。




軽く脇差に手を置きながら、斜めになった梯子を登る。


懐のサクラは、ふわふわとした感触に不思議そうな顔をしている。




屋上に顔を出すと、そこにはいつも通りの大木くんのみがいた。


他に気配はない。


・・・杞憂だったか。




神崎さんが到着するのを待って、大木くんに近寄る。




「どうもどうも田中野さん・・・あれ?ちょっと太りました?」




俺の腹付近を見て首を傾げる大木くん。




「いやいや、急に腹だけピンポイントで太らんだろ・・・ほれ」




ベストからサクラを取り出し、ポシェットにパイルダーオン。


サクラは初対面の大木くんを、興味津々で見つめている。




「うわあ、かわいいですねえ!・・・どうしたんですその子?」




「ちょい前に拾ってね、母犬が死んでたから保護したんだよ。ちなみに名前はサクラだ」




普段はどちらかというと表情に乏しい大木くんが、目を輝かせている。


撮影時には気持ち悪いくらいテンションが高いのだが。


恐るべきは子犬の魔力よ。




「へえ、いい人に拾われたね~サクラちゃ~ん」




「ひゃん!」




元気よく返事を返すサクラであった。








とにかく中へどうぞ、と言われたので前と同じ部屋に入る。


サクラは大木くん許可のもと、室内をくんくん嗅ぎながら探検中だ。


大木くんも犬好き・・・というか、動物好きであった。




「動物はいいですよ、人間と違って好意を裏切らないですし、ええ」




にこにことサクラを撫でながら話す大木くんの背後に、とてつもない深い闇が見えた。


・・・まあ、あんなことがありゃあ人間不信になっても仕方がない。




「はい、今日はコーヒーです、どうぞどうぞ」




湯気の立つカップが目の前に置かれる。


うーん、いい匂いだ。


さっきまでの異臭の記憶が上書きされていく・・・




「あ、サクラちゃんにおやつあげてもいいですか?」




「別にいいけど・・・お菓子とかは駄目だぞ?」




「ご心配なく、子犬用のササミジャーキーですから」




ほう、用意がいいもんだな。


ここってそんなものまで取り扱ってるんだなあ。




「僕の非常食です。焙って醤油付けて食べるとおいしいんですよ」




・・・お、おう。


確かにペット用の乾燥食料なら賞味期限も長いし、調達の優先度も低いだろうな。


・・・俺も一考してみるか。




「あの・・・田中野さん、大木さん、本当に困ったら自衛隊の食料をお分けしますからね?」




神崎さん、かわいそうな生き物を見る目で俺たちを見ないでくれ。


心が痛い。




「ほ~らサクラちゃ~ん、ササミだよ~」




「わふ・・・くぅん」




「大丈夫だよサクラ、食べてもいいぞ」




「ひゃん!」








「・・・で、外の惨状はどういうわけなんだ?」




床に伏せて、前足で挟んだササミをあぐあぐ齧っているサクラを見ながら聞く。


うん、何をしててもかわいい。




「そうそう、聞いてくださいよ~」




待ってましたとばかりに大木くんは喋り出した。




「ここらへんで生存者を急に見かけるようになって・・・」




大木くんが語った内容はこうだ。






3日ほど前から見慣れない、そして大木くん的にはあまり仲良くしたくないタイプの生存者がうろつくようになった。


数は10人から、多い時には20人ほど。


どうも同じグループのようだった。




こうもうろつかれると撮影もできないと、悶々としていた大木くん。


出入りも見られないように気を遣い、こっそりと過ごしていた。


が、何かの拍子に見られていたらしい。




今朝になり、起きた大木くんが探索に出ようとすると、駐車場に車が停まっていた。


びっくりしている大木くんに、そのグループのリーダーがここを明け渡せと要求。


大木くんはしっかり断ったのだが、何故かあり得ないほどキレられた。




「・・・ちなみになんて言って断ったんだ?」




「えーと、寝起きだったんで曖昧ですけど『あなたたちみたいな社会性も生産性もないちょっと賢いチンパンジーに、大事な家は渡せません。龍宮まで行けば動物園があるからそこがおススメですよ』って言いましたね」




「ああ・・・そう・・・いや、何でもないんだ、続けてくれ」




・・・その後の大木くんの何度かの説得(煽りの近似値)に奴らは引くはずもなく。


一階部分のガラスを割って侵入しようとし始めた。


そこで説得?を諦めた大木くんはかねてから用意しておいた爆弾を使い、奴らを殲滅したというわけだ。


・・・しれっと爆弾の備蓄があるのすげえな。








「と、いうわけなんですよ。朝からうるさいし、面倒くさいし、挙句の果てには血生臭いというわけです」




「何ちょっとうまい感じに言ってるんだよ・・・まあ、無事でよかったな」




いつも通りの掴みづらいテンションの大木くんに、苦笑いを返す。


ササミを食べ終えたサクラが膝に乗ってきたので、背中をポンポン。




「今回爆弾使いすぎちゃったんで、また材料を回収しに行かないとですね」




「そんなに使ったのか?」




「いやー、なんかテンション上がっちゃって、こう、ポイポーイってな具合に。おかげでガラス何枚か割っちゃいました」




てへへ、みたいな顔の大木くんである。


・・・やはり彼も俺とは別ベクトルだが吹っ切れてるな。


まあ、こんなメンタリティでもなきゃ生き残れないしなあ。


ゾンビはともかく、ややこしい生存者は面倒くさいし。




「そういえば、生き残りはいないのですか?」




俺の膝に乗ってスピスピ鼻を鳴らすサクラを撫でながら、神崎さんが参加してくる。




「・・・実は一台少ない気がするんですよねえ。四方八方吹き飛ばしたんで確実とは、言えないんですが」




なんと、それはちょっと厄介だな。




「・・・仲間を集めて戻って来るんじゃないのか?」




「田中野さんの言う通り、可能性はありますね。どこから来たんでしょうか」




「ええっと・・・確か原付の奴がいたんですけど、ナンバーは八千代田でしたね。バラバラにしちゃいましたけど」




八千代田市か・・・秋月町のかなり向こうだな、ここからは車で2時間強ってところか?


うーむ、そいつらが遠征部隊だった場合、本隊が来る可能性もあるか・・・




「・・・もしよければ、俺だけでもここに残っていだぁ!・・・か、神崎さんも残っていただけますか?」




わき腹をぎゅいんとつねられた・・・すげえ痛い。


サクラが俺の声にびっくりして膝から下り、床を高速回転している。


これが絶・豆柴抜刀牙・・・あ、横回転だから違うか。




「勿論です、相棒ですから」




どことなくどや顔の神崎さんである。




「・・・かなり助かりますけど、いいんですか?特に神崎さん・・・その、避難所の手前・・・」




「私から一報入れておきますので、大丈夫かと。この状況下で外部情報収集が出来て、戦闘力を有した人材は貴重ですし」




勿論俺はノージョブなので誰に気兼ねすることもない。


・・・なんか悲しく・・・なってこないな、もう慣れた。




「よし、そうと決まれば・・・何をしよう」




「・・・特にこれと言ってないですね、ええ」




「まずは車の移動をしておいた方がいいでしょう、あの場所だと狙われかねませんし」




あ、そうだったな。


さっすが神崎さんは頼りになるう!




「駐車場奥のガレージ使います?僕のバイクしかないので入ると思います」




何かのキーを俺に渡す大木くん。


シャッターかな?




「へえ、大木くんバイク乗るんだ」




なんか意外だな。


自転車とかそういうのに乗ると思ってた。




「昔から好きなんですよ、特にオフロードのが。・・・そういえば、例のあの女には結婚したらバイクはやめろって言われてましたね・・・おかげさまで今は思う存分乗り回してますよ、ふはは!!」




「お、おう・・・色々大変だったな」




急に闇を噴出するのはやめてくれないか。


ビックリするから、俺もサクラも。








「よっこい・・・しょいー」




ガラガラと音を立てて、ガレージのシャッターを上げる。


お、あれが大木くんの愛車か。


うーん、なんていうか山の中でも走れそうな感じ。


この状況下では大いに役に立ちそうだな。


バイクか・・・かっこいいけど荷物あんま積めないもんなあ。


やはり俺にとって最強の車は軽トラであるな、うん。




ん?大木くんのオフロードバイク、もう一台あるのか。


奥の方に鎮座している。


質実剛健って感じでこちらもかっこいいな。


色が緑色で・・・緑色?




・・・なんか映画で見たことあるぞ。


おいおいひょっとして・・・




「・・・陸自のオートバイですね、偵察用の」




「うわぁ!・・・なんだ神崎さんか」




ひょっこり横に顔を出した神崎さんに驚く。


・・・殺気がない人の気配って読み辛いなあ。




「あー、それですか?」




大木くんもこちらに歩いてくる。


・・・地面に油めいたものを撒きながら。


いやなにしてんの君!?


あ、駐車場の人体由来のパーツを焼くのか。


このまま放置すると腐ってえらいことになるもんな。




見れば、大雑把に一か所にパーツを寄せているようだ。


・・・見た目が地獄絵図である。


美玖ちゃんたちには絶対見せられない、死ぬまでトラウマになりそうだ。




「偵察先で拾ったんですよ、何日か放置されてる様子だったし。エンジンも故障してたんで」




「え?大木くん直せるの?」




「機械いじりは大得意です。ここ、近所に自動車整備工場もあるんで」




そういえば爆弾まで作れるもんな。


へえー、大木くんほんとに有能だな。


近接戦闘能力全振りの俺では太刀打ちできん。




「使えるものは活用しないと勿体ないですからね・・・持ち主の自衛官さんには悪いですけど」




「ええ、問題ないかと。限りある物資は有効に使うべきです」




神崎さん的にも問題ないようだ。


まあ、自衛官を襲って奪いでもしなけりゃいいだろう。








ガレージに軽トラを入れ、シャッターを下ろす。


その後に、大木くんを手伝って人体パーツを寄せる。


恐縮されたが、別にこれくらいどうということもない。


ここまでバラバラなものは初体験だが、自分でも死体を量産してたし。




細かいものは放置として、でかいものは燃やさないとな・・・


・・・おい誰かのヘッドパーツよ、そんなに恨めしそうに俺を見ないでくれ。




大木くんが周囲から集めていた木材を適当に組み、屋上へ撤退する。


下にいたら炎に巻かれるし臭いもんな。




「な~もあ~み、だ~あぁんぶ~」




一応お情けでお経でも唱えてやるか。




「へえ、変わったお経ですねえ、歌みたい・・・あの、動画に」




「ノウ!」




「はぁい・・・じゃあ後でサクラちゃん撮ってもいいですか?」




んまあ、それくらいなら・・・いいか?


犬なら外見で特定されないだろうし。




「あ、サクラな、前足に桜っぽい模様あるんだわ。それ映さないようにしてくれりゃ、別にいいよ」




「やったあ!動画の華になりますよ~子犬は~」




・・・いつも楽しそうで何よりである。




「じゃあとっとと終わらせて撮影といきましょう!」




にこにこ顔の大木くんが、油を浸した松明めいたものに火を点ける。


それをそのままぽいっと駐車場へ。




「たーまやー!」




「・・・違うと思うぞ、それ」




「違いますね、それは」




思わず突っ込みを入れる俺たちの眼前で、勢いよく炎が上がった。


よく燃えるなあ。




さて、それでは中に戻るとするか。


果たして別動隊はやってくるのかどうか。


待つしかないなあ。

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