第91話 決戦準備のこと
決戦準備のこと
大木くんの住居である古本屋。
来るかもしれない襲撃を待ちながら、とりあえず俺たちは準備をしている。
俺は駐車場の掃除っていうか、でかい金属の撤去をしてる。
細かい人体のパーツは見て見ぬふりだ。
後で大木くんがガソリンまいてまた火を点けるって言ってるし。
「とりあえず進入路を塞ぎますね~」
なんて言いながら、大木くんが何かを引っ張ってくる。
なんだあれ?折りたたんだトゲのある・・・金属板?
「よっこいしょい~」
大木くんがそれを引っ張って伸ばす。
国道から駐車場へ入り口に、トゲ付きのバリケードができた。
・・・あ!わかった!
警察特番とかで暴走族が通るときに警官隊が敷くやつだ!
名前はわからんが。
タイヤをパンクさせて止めてたやつだな。
「近くの道路で拾ったんですよ~」
「この近所、殺伐とし過ぎてやしないか?」
自衛隊のバイクに警察の備品・・・
なにやら大騒動が起こっていたのかもしれんな、ここ。
「パトカーとかミニパトも転がってましたよ、半壊どころか全壊なもんで放置してますけど」
・・・あったんだろうな、うん。
「1階のバリケードは、このままで問題ないでしょう。ガラスの部分は、後日にでも板材で補強しておく必要がありますが」
バリケードの点検をしていた神崎さんが戻ってきた。
「お一人で随分頑丈なものを作ったんですね、大木さん」
「いやあ、作業をすると寝食を忘れるもんで・・・完成した瞬間に倒れちゃいましたよははは。材料がいっぱいあって楽しくて」
・・・笑い事じゃないと思うんだが。
まあここは古本屋、防壁の材料には困らないけども。
本棚とか。
「自分の城を作る、みたいでこう、やる気が出たと言いますか」
「あ、ちょっとわかるぞそれ。俺も家を改造するときむっちゃ楽しかった」
「でしょう?超大規模なDIYみたいなもんですしね」
「防御陣地の構築ですか・・・懐かしいですね」
ゲームでもそうなんだけど、試行錯誤しながら拠点を構築してる時が一番楽しいんだよなあ。
慣れてくると効率のいい方法をやるようになって、楽にはなるんだけど初期のワクワクがなくなるというか・・・
ていうか、神崎さんのはちょっと違うんじゃないそれ?
「さてと、今のところ1階部分はこれでいいかな?」
「そうですねー、じゃあ、2階で作戦会議でもしましょうか」
「きゅ~ん!きゅ~ん!」
3人で2階へ戻ると、留守番してたサクラが窓ガラス越しに鳴いている。
寂しかったんだろうな。
でも火とか使ったから危ないし臭いからな、仕方がない。
部屋に戻ると真っ先に突っ込んできたサクラをいなして撫でまわしつつ、ソファーに座る。
大木くんがまたお茶を出してくれるそうだ、ありがたいなあ。
「おっと、そういえば忘れてた。お茶うけにどうぞ・・・コホン、ちょこれぇとばぁあ~~~~(大〇型猫ロボ声)」
各種ポッケからチョコバーを提供。
今回は12個出てきた。
四次元ベストとか超ほしい。
「ありがとうございます・・・でも僕〇田世代なんで・・・」
「あの、私も・・・」
唐突なジェネレーションギャップに涙が止まらない・・・
・・・今度サクラに旧バージョンを見せて〇山派閥に組み込もう・・・
一服しつつ、今後の展開を話し合う。
「この店の立地条件からして、敵は1方向から攻めてくると予想されます。守りに関しては恵まれていますね」
国道からの入り口以外は高いコンクリート製の壁に囲まれてるもんな、ここ。
加えて本屋自体が鉄筋コンクリート製なので頑丈な上、燃えにくい。
籠城するにはもってこいだよなあ・・・
「しかも大木くんには爆弾があるしな・・・そういえば、今朝攻めてきた奴らはどんな武器を使ってたんだ?」
「鉄パイプとか、ハンマーとかバットとか・・・そんなものばっかりでしたね」
ふむ、飛び道具は無しか。
だが・・・
「もしいるのならですが、本隊もそうとは限りませんね」
神崎さんの言う通りだ。
常に最悪の事態を考えておかないとな。
「最悪の場合、M60抱えた〇タローンが来るかもしれないしな・・・」
「いや来ないでしょ、仮に来たら逃げますよ僕は」
「俺もそうだな・・・サインは貰いに行くかもしれんが」
「楽しそうですねぇお二人とも」
サクラを抱っこした神崎さんがジト目で見てくる。
「まあ、それは冗談だとしても猟銃くらいは持ってるかもしれん・・・大木くん、爆弾の予備は?」
「ちょっと待っててください、持ってきますから・・・」
大木くんが席を外す。
「ところで神崎さん、門外漢なんでアレですけど・・・爆弾って簡単に作れるもんなんですか?」
「そうですね・・・知っていれば、単純な爆弾なら高校レベルの化学知識さえあれば」
へえ・・・結構簡単そう。
俺は文系だからさっぱりだけど。
「最近は販売に厳しく規制が入りましたが、今の状況なら知識さえあれば調達は容易でしょうし」
あ、なんかニュースで見た気がする。
農薬の売買に関して規制が厳しくなった・・・ってのを。
「お待たせしました~、今あるのはこれで全部ですね」
大木くんが大き目のバッグを運んできて、テーブルの上に置く。
重そうな音がするなあ。
中を見ると、金属パイプやプラパイプに導火線や電卓みたいなのがくっついたものが入っている。
数は・・・5個か。
うーん、手作りの爆弾なんて初めて見たから威力も何もわからんな。
「パイプ爆弾ですか・・・中身は?」
「硝酸のアレと軽油ですね、発火は電気式と導火線式があります」
「こちらの太いものは・・・?」
「上記の内容物プラス釘と金属片です」
「なるほど」
神崎さんが頷いている。
俺にはまったくわからん。
後半の、釘とかを入れるってのは映画なんかで見たことがあるな。
爆発した瞬間に飛び散って、人体に対して威力が高くなるんだとか。
「あの、神崎さんすいません・・・それで威力としては・・・?」
「仮にここでこの金属の物が爆発すれば、我々は即死でしょう」
・・・ヒエッ。
爆弾コワイ。
そんなに威力があるのか・・・
「数は少ないですが、人体に対しての威力は十分ですね。相手が大型のトラックなどに乗っていれば難しいですが・・・」
ふむふむ。
「あと重いんで持ってこなかったんですけど、圧力鍋をちょいちょいした爆弾が3つありますよ」
「サイズは?」
「大き目の鍋サイズです」
「それは・・・やめておいた方がいいでしょう。威力が高すぎます」
「圧力鍋が・・・ですか?」
イメージがわかん、え?鍋で爆弾?
それってメジャーな材料なの?
「急激に圧縮された中身が一気にはじけますから・・・一般的なダイナマイトより何倍も強力です。近距離なら爆風の衝撃波だけで人間が千切れます」
「自信作ですよ!最後の切り札です!」
「そんなもんで何と戦う気なんだよ・・・」
なんだそのドヤ顔は、やめなさい腹立つから。
てかダイナマイトより強いの!?おっかねえ・・・
「いやあの、死にかけてるとこに敵が来て・・・こう、アレやりたいんですよ『贈り物だ・・・マチルダからの』みたいな!」
「『ああ・・・クソ』ってか?・・・気持ちはわからんでもない、アレは名作だからな・・・」
あ、いかんエンディングテーマが脳内で流れちゃう!
涙腺に来るなあ・・・
「・・・また、知らない映画です」
きゅっとサクラを抱え込みながら神崎さんが言う。
なにっ。
あの名作をご存じない!?
「うちに通常版DVDディレクターズカットDVD両方とブルーレイありますから見ましょ!」
「あっ・・・はい、また見る映画が増えましたね、ふふ」
「でも俺アレ見ると号泣するんで引いたらごめんなさい」
「お気になさらず!お任せください!」
「・・・えっと、話を元に戻しましょうか・・・」
おっとといかんいかん。
つい映画の話になると興奮してしまうな・・・
「とりあえず大木くんのこの先のこともあるし、爆弾の使用は極力控えよう。敵が大勢なら初っ端にぶちかますだけにするとか」
「そうですね、私も手りゅう弾を6つ持ってきているので代用は利くかと」
「ふ~む、となると僕は・・・弓でも使いますかね」
ほほう?
弓なんか持ってたのか。
「そこら辺の物を代用して作ったなんちゃってアーチェリーです、あまり期待しないでくださいよ」
それでも、遠距離攻撃ができるのはありがたいな。
神崎さんもいるし。
「猟銃持ちがいるなら狙撃が有効です。安全に狙える場所はありますか?」
「女性店員の更衣室が道路に面してて、そこの出窓ならいけるんじゃないでしょうか?」
「確認してきます」
神崎さんが席を立つ。
そうすると、俺の役目はいつも通りだな。
初撃で混乱している相手集団をかき回す。
これが単純で最も効果的だ。
・・・思考停止戦法とも言う。
「わぅ!」
サクラが俺の顔を見上げて吠えた。
「サクラは・・・この部屋の番犬兼癒し担当大臣ってとこかなあ~ほれほれ~」
「くぅるる!うぅん!」
頭をわしゃわしゃ撫でまわす。
もうちょっと大きくなってからじゃないとなあ、危なくて探索にも一緒に行けないな。
「確認してきました、あれなら問題なさそうです」
よし、狙撃方面は安心だな。
「田中野さん・・・援護はしますがくれぐれも無理をなさらないように・・・」
「アッハイ・・・肝に銘じておきます・・・」
ぬっと近付いた神崎さんに釘を刺される。
うう・・・気を付けよう。
「よ、よーしじゃあ見張りだな、まずは俺から・・・」
「あ、大丈夫ですよ、これ見てください」
大木くんがテレビのリモコンのようなものをカチカチすると、部屋にあるモニターのうちの一つが光る。
そこに映し出されているのは・・・国道?
監視カメラか、これ。
「屋上の監視カメラの角度を変えたんです、これで監視はできますよ」
「へえ、発電機の燃料は大丈夫なの?」
「これはソーラーパネル経由で蓄電池に溜めた電力で動いてるんで、一日中動きます」
うわあ、ハイテクだ。
こういう時機械いじりできると強いなあ。
バイタリティにあふれてるな、大木くん。
「すげえなあ大木くん、頼りになるぅ!」
「前にも言いましたけど、僕は肉弾戦が苦手ですからね・・・別のところで勝負しないと、略奪者には勝てませんしね」
うーむ、俺なんかよりよっぽどしっかりしているなあ。
俺も頑張ろう・・・具体的に何を頑張ればいいかはわからないが頑張ろう、うん。
というわけで、適当にくつろぎつつ監視することになった。
監視カメラか・・・俺も探してみようかな。
最近だと配線がいらない奴もあるみたいだし。
そういうセキュリティ機器もあった方がべんりだしな。
「あ、そういえば・・・妹の方の井ノ神さんは元気ですか?」
いつものようにサクラと綱の引っ張り合いをしていると、漫画を読んでいた大木くんが話しかけてきた。
井ノ神・・・?はて・・・?
・・・ああ!大木くんの元婚約者の妹か!
「ど、どうかな・・・正直あれから会ってないからなんとも・・・気になるのか?」
興味も無かったしな。
「いや・・・なんて言うんですかね、なんとなくです。『近所の潰れそうなスーパー、どうなったかなあ』くらいのレベルですね」
それもうただの世間話のレベルじゃん。
「まあ、元気なようですよ、あの後学校のPCでデータの確認をしたようですが」
神崎さんが爆弾を放り込んできた。
うっそでしょ!?あれの中身見たの!?
お姉ちゃんが浮気相手とその・・・六身合体するやつを!?
大木くんもちょっとびっくりしている。
「渡しはしたけど、まさか見るとは・・・あの子の性格上とっくに破壊してるもんだと思ってました」
「大木さんの発言がどうしても信じられなかったようですね。見た後はしばらくトイレに籠っていたようです、顔見知りの婦警に聞きました」
そりゃあ・・・なあ?
身内のショッキング映像の最上級クラスだもん。
高校生にはきつかろう。
ま、嘘だ嘘だって言ってたから自業自得ではあるな。
「最近はしきりと、大木さんに謝りたいと言っているようですね。私も何度か仲立ちを頼まれました、断りましたが」
大木さんの気持ちが最優先ですので、と神崎さんが続ける。
「へえ、改心したんだあの子・・・どうする大木くん、伝言でも預かってこようか?」
「あ、めんどくさいんでいいです。あの子本人もあんまり好きじゃないですし・・・っていうかベクトル的には嫌いですし」
おおう・・・そういや前になんか言ってたな。
付き合ってる時に邪険にされてたんだっけ?
あっごめんサクラ、手が止まってたな。
「姉思いなのはわかりますけど・・・でもネチネチネチネチ小言を言われた恨みは忘れてないんで。執念深いんですよ、僕」
うんうんわかるよーくわかる。
大木くんは好き嫌いの感情がけっこうハッキリしてるよな。
スパっと0か1かみたいな。
「まあアレですよ、『くたばれ』だったのが『お墓に線香くらいはあげてもいいかなあ』ってレベルになっただけですから」
「それは・・・どっちにしても生きてるうちに会うことはなさそうだな」
綱を上に引っ張り、サクラをびょんびょん吊り上げながら返す。
目がキラキラしてるな、嬉しいのか、これ。
尻尾が大変なことになってる。
プロペラかな?
「寄りかかってこられても面倒ですからねえ、あの子の性格上『お姉ちゃんを探してきて!』って言いだしそうですし」
「鋭いですね大木さん、彼女はあなたと『仲直り』できたらそうして欲しいそうですよ?」
「うわーやっぱりそうか、嫌だ嫌だぜんっぜん変わってないやあの子」
大木くんはぐしゃぐしゃと頭を掻きながら吐き捨てる。
よっぽど嫌な思い出があるようだな。
「大木くんには何の義理もないってのにね・・・俺の方には催促してこないみたいだな」
受ける気もないけど。
「田中野さんはその・・・あまり好かれていない様子ですので」
うーん予想通り。
あの対応で好かれたらもう変態レベルのドMだぞあの子。
「でしょうね、まあ俺の方も面倒が増えなくて楽ですけど。詩谷大学なんて絶対行きたくないですし」
「僕もですよ。化学薬品なんかは欲しいっちゃ欲しいですけど、別にあそこに行かなくても手に入りますし・・・」
近くになんにもないしゾンビいっぱいいそうだし嫌だもん。
平日にこの騒動が始まったんだから、そりゃもう学生ゾンビがうじゃうじゃいそうだ。
「しかしまあ、自己中なところはこんな状況でも変わってないのか・・・呆れますね、自分一人で探しに行ってしめやかに死ねばいいのに」
またも吹き出す大木くんの闇。
そしてまたもびっくりするサクラ。
大丈夫だよ~あのお兄ちゃんはいい人だからね~
相手が悪すぎるだけだからね~
空気が悪くなってきたので、話題を変えよう。
好きな映画の話でも・・・神崎さんがついてこれないのはかわいそうだ。
じゃあ好きな武人でも・・・今度は大木くんがついてこれないな。
うむむむ・・・どうしたものか。
「そうですねえ、犬ならあれですね、ビーグル。あの垂れ耳がかわいいですよね」
「以前も飼っていましたしシェパードでしょうか、精悍な顔つきのわりに甘え上手でいい子でしたね」
「俺はやっぱり熊犬・・・熊犬って犬種なのか?あと柴とか秋田とか、紀州犬ってのもかわいいなあ『わふ!』・・・サクラが世界ランク一位かなあ~よしよし」
というわけで好きな動物の話でもすることにした。
これなら外れはあるまいよ。
焼餅を焼いたのか、手首をあぐあぐ甘噛みするサクラがかわいい。
撫で回すとすぐに機嫌が直ったようだ。
かわいい。
「猫ならスコティッシュフォールドですかねえ、耳がかわいいですねえ」
「祖母がロシアンブルーを飼っていました、上品で素敵な子でしたね」
「猫・・・猫なあ、普通に三毛とかが好きかなあ」
なんか種類ごとに上げる感じになったのかこれ?
しかし嫌いではないが、猫はそこまで飼いたいとも思わんな。
やはり一緒に駆け回れる犬が一番だ。
・・・あと大木くんよ、君垂れ耳フェチであるな?
そんなこんなで話は続き、爬虫類までジャンルが変わってきたところ。
神崎さんが真っ先に異変に気付いた。
「国道に動きがあります!」
モニターに目をやると、そこにはこちらに向かう車列が見える。
「うわー、結構いるなあ」
大木くんが後ろにあるロッカーから弓矢らしきものを取り出す。
おお、ワイヤーや部品でごちゃごちゃしているが確かに弓だ。
「大型トラックで来ましたか・・・人数がまだわかりませんね」
工事現場で見かけるようなデカいトラックが3台、国道から駐車場に入ろうとしている。
・・・荷台に人が乗っているな。
結構な人数だなあ、そんなにまでしてここを確保したいのか?
いや、たぶん面子とかいう最高にバカバカしい概念のためだろう。
以前ぶち殺したタケリキみたいに、損得勘定抜きで動くタイプのアホだ。
「よっし!」
大木くんがガッツポーズ。
先頭車両が例のトゲを踏み、止まる。
ここからだとよく見えないがパンクしたのだろうか。
まあとりあえず頃合いだな。
「よっしゃ、じゃあ張り切って行くとするかね」
「はい」
「爆弾2つ持っていきますね~」
俺も腰のベルトをきつく締め、愛刀と脇差を装備する。
さてと、こっからが本日のメインイベントだな。
いざ参る!!
不安そうにこちらを見つめるサクラを撫で、俺たちは部屋を後にした。
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