第71 助ける気にもならない奴らのこと

助ける気にもならない奴らのこと








「最近、外出するとなーんか面倒事にばっかり巻き込まれてる気がするんですよねえ。前世で何か悪いことでもしたのかなあ」




「運もありますが、田中野さんの場合は確かに異常な確率ですね・・・何故でしょうか?」




傍らの神崎さんに愚痴を吐きつつ街を歩く。


ほんと、なんでだろうなあ。




今日も今日とて探索の日々である。


捜索依頼のバインダーもしっかり持ってきている。


今回は南区の南側を攻めてみる。


無論、攻めるとは俺の探索のことであって行方不明者の捜索ではない。




あ、ちなみに行方不明者にもしも出会ったら連れ帰ってもいいことになっている。


宮田さんに言われた避難所の空き人数に収まる範囲でなら。


収容人数に余裕がなくなったら一旦捜索は打ちきりだが、そうそう行方不明者がポコポコ見つかるとは思えないけどなあ。






「さて、今日はどうしますか?」




「うーん、たしかこの辺りに中古ゲーム屋があったような気が・・・」




というわけで、本日の目的地は学生時代によく行った中古のゲーム屋だ。


ここ10年程来ていなかったので記憶が曖昧だが・・・


たしか商店街にあったような・・・?




映画もいいが、ゲームもいい。


最近は2世代ほど前の携帯ゲーム機にハマっている。


中でも、某国民的大人気RPGの移植作をずっとやっている。


やはり勇者盗賊魔法使い僧侶が鉄板だよな・・・


電池の持ちはいいし、そこらへんで寝っ転がってやれるのもポイントが高い。


結構コレクターがいるようで、ソフトも軒並みプレミア化していたがこの状況では全て無料だ。




ぐへへ、気になっていたソフトをゲットするなら今でござるよ。




「田中野さん、顔が怖いです」




おっとこれはすいません。




しかしまあ、息抜きとはいえ神崎さんも良く付き合ってくれるものだ。


・・・今度釣りにでも誘おうかな?


あの入れ食い具合なら楽しんでもらえるはずだし。




あーあ、もう少し安全が確立されたらみんな誘って行くんだけどなあ。


美玖ちゃんも喜ぶだろうけどなあ。


・・・家族がみんな揃っているとは言え、ずっと外出できないのはかわいそうだ。


大人なら我慢もできるが、小学生だもんなあ。




「・・・美玖ちゃんのことを考えていましたね?」




「・・・自衛隊って、読心術の訓練もするんですか?」




「ふふ・・・秘密です」




まったく、ミステリアスだぜ・・・






「あっそうだ。大木くんの件、避難所で悪い噂とかになってますか?」




歩きながら、ふと気になったことを聞いてみる。


一切後悔はないが、気になる。


もしこれで俺の評判が悪くなったら依頼が減って嬉しいんだけどな・・・




「件の妹さんが色々言っていたようですが・・・特に田中野さんの悪評はありませんよ。むしろ依頼は増えそうです」




え?前半は予想通りだけど後半はなんで!?




「妹さんには『探していた相手が見つかったのに、探してくれた人に文句を言うな』・・・という意見が多いですね」




あー・・・普通に実績を評価されてしまったのか・・・


まあ、探すってことに対しては完璧に遂行したもんな。


ただ俺がどうこうじゃなくて、大木くんがたまたま生き残っていただけなんだが。




「・・・これでさらに成功例ができてしまいましたし、恐らくもっと期待されますよ?」




「うあー・・・それは嫌ですなあ」




「いいじゃないですか、こうして外を堂々と散策できるんですから」




「・・・頼れる相棒も一緒ですしねぇ」




「しょっ・・・こほん、そうですよ?」




無駄口を叩きながら街中を行く。




ここらへん、ゾンビ少ないなあ。


っていうか皆無だ。


まるで・・・




「・・・誰かが駆除したみたい、ですねこれ」




「さすがに不自然です・・・警戒を厳にしましょう」




くそう、目的地はすぐそこだってのに。


せめて、友好的な生存者がいることを祈ろう。




商店街のアーケードの下を歩く。


ようやく思い出してきた。


目的地はこの少し先だ!




・・・先なのだが。




「封鎖されてますね」




ゲーム屋の看板が見えるのだが、その前の通路は工事現場によくあるようなフェンスで封鎖されている。


鎖で何重にも固定されたそのフェンスには、いたるところに肉片がこびりついている。


活動を停止したゾンビの死体?も同じように乱雑に放置されている。




・・・かなりの激戦があったみたいだな。


ゾンビを確認すると、少なくとも3種類の異なる武器で与えられた傷がある。


ということは、ここには戦える人間が3人以上いる可能性が高い。


ん?このゾンビ、変な傷だな。




「こりゃ、別の場所を探した方がいいですね」




「いいのですか?」




「ゲームなんて、命がけで探すほどのもんじゃないんで」




ここは諦めよう。


生存者をいたずらに刺激したくない。


ゲーム屋なんてまだいくらでもあるし。




帰りながらコンビニでも漁ろうかな。


マンドレイクの残りも少ないし。




「神崎さん、どっか行きたいところとかあります?」




「ここの土地勘がないもので・・・私はこうして歩いているだけで楽しいです」




なんかデートみたいな会話だな。


周囲の状況はロマンティックと程遠いが。




ま、とにかくここにいてもしょうがない。


次行こう、次。




神崎さんを促し、回れ右して歩き出す。


んーと、ここから近い所にゲーム屋はあったかなあ。


最近はレトロゲーを取り扱っているところが減ってきたからな、困ったもんだ。


龍宮市にはいっぱいあるんだけど、まさかゲームごときで遠征するのもな・・・


詩谷でこんだけ大変なんだ、県庁所在地なんかどんな地獄になってるかわかりゃしないぞ・・・






ん?薬局の上の窓って、来る時に開いてたっけか?


たしか閉まってたような・・・?




瞬間、頭に飛来する記憶。


あのゾンビの傷・・・もしかして!?




「神崎さんっ!!」




「きゃっ!?」




神崎さんの腕を取り、薬局側の店舗シャッターに向かって走る。


シャッターにぶつかるガシャンという騒音の中に、金属製の何かが地面に跳ねる音。


視界の隅で、床に跳ね返って空中を回転する細長い棒。




やっぱり弓か!あの傷は!!




薬局の反対側にある和菓子屋。


その2階の窓が開くのが見える。




開いた窓に棒手裏剣を叩き込む。


手応えはないが悲鳴は聞こえた。


怯ませることはできたようだ。


飛び道具持ってんのはそっちだけじゃねえんだぞ!!




次の手裏剣を持ち、いつでも投げられるように身構える。


上の窓からは貼りだした屋根があって死角だから安心だ。




ただ、ここは商店街のど真ん中。


どこから敵が来るかわかりゃしねえ!




「おい!俺たちはこのまま出ていくからやめてくれ!危害を加えるつもりはない!!」




返事はなく、そのかわりに足元に1本の矢が撃ち込まれた。


上の窓からだな。


俺たちのいる場所には打ち込めないから威嚇のつもりか。


ああそう、やる気ってわけかよ。


・・・上等だ!!




神崎さんもライフルを構えている。


安全装置も外し、いつでも撃てる体勢だ。


小声で相談する。




「(どうしますか、神崎さん)」




「(手裏剣が届く範囲はお任せします。それ以外は私が)」




なんと頼もしいことよ。


こういう時銃は強いよなあ。


畜生、刀の間合いなら俺も働けるんだけどなあ。


それにしても、棒手裏剣いっぱい持ってきてよかった。


こいつは訓練しないと容易に飛ばない上に刺さらないからな、相手に拾われてもさほど脅威でもない。




「(このまま壁を伝って離脱しましょう。・・・上のやつは俺がやります)」




「(了解。周辺の援護は任せてください)」




周囲を警戒しながら、背中を壁から離さないように横移動を開始する。


もうすぐ屋根の下から出るところで一旦止まり、神崎さんにアイコンタクト。




半身の姿勢で飛び出し、上の窓を確認。


突き出した腕とボウガンのようなものが見えた。


そこぉ!!




「ぎゃっ!?」




よっしゃ、右手首にうまいこと命中!


これで奴は引き金を引くどころじゃないだろう。




後ろからライフルの発砲音。


和菓子屋の窓が割れる。




「ひっ・・・!ヒャアアアアアアアアア!!!」




うるせえ悲鳴だ。


しかし、俺の手裏剣の威嚇よりもよっぽど効果がありそうだ。


このまま一気に突っ切って逃げるか?




あ、そうだ。




「グレネエエエエエエエエエエエエド!!!」




FPSよろしく、叫んでピンを抜いて後方に投擲。


前に神崎さんがくれた残りだ。


こいつで駄目押しだ。




が、思いのほか力を込め過ぎた手りゅう弾は放物線を描きながら封鎖フェンスに激突。


あっやべ・・・もうちょい手前に投げるつもりだったんだがな・・・


まあいいや!いきなり矢を射かけてくる奴らに遠慮なんかしてられないし。




どおん、という爆発音。


はじけ飛ぶフェンス。




「今のうちに!」




「はい!」




手裏剣に銃に手りゅう弾。


相手サイドはもう大混乱だろう。


封鎖も破られたし、俺たちにかかわるどころじゃないはずだ。




俺たちは、アーケードの下を出口に向かって走り出した。


ここから出口までは・・・大体300メートルってところだ。


頑張れ俺の心肺機能!!




左右、特に上方向の窓のあたりを確認しながら走る。


時々振り返るが、追ってくる奴や窓にも異常はない。


だが油断は禁物だ。


どういうわけか、気を抜いた瞬間に何か起こるんだよなあ。


経験上。




前方に見える八百屋。


その店先に動きがある。


武器を持った影が3つ。




「やめろォ!出てくるなら殺す!!」




言いながら、手裏剣を投擲。


手裏剣は野菜を並べておく台に突き刺さった。


影は動きを止め、奥に引っ込む。


ゾンビより少しは頭がいいみたいで助かった。




「待て!待ってくれ!!」




「待たん!!!」




八百屋を通り過ぎるときに奥から声がしたが、そんな罠めいたものにひっかかると思ってんのか!




「子供がいるんだ!」




「ああそう、じゃあ大事にしてやるこったな!!」




もう一度後方から声がしたが、適当に返してさらに前へ。


なんかまだぐじゃぐじゃ言ってるみたいだが、そんなもんに付き合ってる暇はない。




やっとこさアーケードから出ることができた。


後ろから狙撃されないように、大きな柱で射線を切りつつ休憩。


乱れた息を整える。


・・・さすが神崎さん、全然息が乱れてないな。


自衛隊ってすげえ・・・いや、たぶんこの人が飛びぬけてすごいんだろうな、やっぱり。




「待ってくれ!話を聞いてくれ!!」




追いかけてきたんだろう、また声が聞こえた。


柱の影から鏡を出して確認すると、何人かが息を切らして走ってくる。




「動くな!そこで止まれ!武器を捨てなさい!!」




神崎さんが柱の影から飛び出し、素早く銃を構える。


ビシッと決まっててカッコイイ!


まるでアクション映画だ。




「話を聞いてK・・・」




発砲音。


先頭の男の足元で銃弾が跳ねる。




「止まれェッ!!!」




神崎さんって声も凛々しくてカッコいいけど、恫喝する時はこんなに迫力があるんだな。


某歌劇団の男役みたいだ。




「ヒッ・・・!わかった!う、撃たないでくれ!話を聞いてほしいんだ!!」




さすがに銃撃の説得力はすごい。


そいつらは動きを止め、足元に武器を捨てた。


本当に話があるみたいだ。




「・・・俺たちに一体何の用だ。いきなり矢をぶち込まれて頭に来てんだよ、こっちは」




木刀を置いて腰の刀を抜き、柱から出て神崎さんの前に。




そこには4人の男がいた。


俺と同じくらいか、少し年上だろう。




「す・・・すまない、若い者が先走ってしまって。・・・あんたら、自衛隊か?」




1番年上っぽい男が声を掛けてきた。


はあ?先走って殺されてたらどうするつもりなんだよ。


謝罪にもなってない。




「違う。じゃあな」




きびすを返そうとすると男が喚く。




「嘘をつけ!そっちの人は迷彩服を着て銃を持ってるじゃないか!」




「この人は俺の友人でミリタリーマニアだからだ、俺たちは自衛隊じゃない」




0、5秒くらいで考えた適当な嘘をつく。


こんな奴らに馬鹿正直に情報を与える気はない。




「銃を持ってるだろう!?」




「死んだ自衛官の死体から貰っただけだ」




「どっ・・・どこで手に入れたんだ!?」




「詩谷駐屯地だよ、なあ?」




「ええ、そうです」




神崎さんも乗って来てくれるようだ。


意外とノリがいいな。




「な、なあ・・・どこか避難所を知らないか!?」




別の男が尋ねてくる。




「知らないな。俺たちはずっと2人で探索してるし、一緒の家に住んでいる」




「・・・!?」




後ろの神崎さんが息を呑む気配。


・・・どうしたんだろう?




「そ、それなら・・・ここで俺たちと一緒に暮らさないか?2人だと何かと大変だろう?」




今度は猫撫で声で懐柔するように話しかけてくる。


冗談じゃない。


どうせ神崎さんの銃が目当てだろ。




「いや結構、2人暮らしが性に合ってるもんでね」




「・・・!?!?!?」




・・・なんだろう、さっきから後ろの神崎さんの様子がおかしい気がする。




「話は終わりだ、俺たちは行く。追いかけて来たら・・・わかるな?」




発砲音。


男たちのすぐそばの床で銃弾が音を立てる。




「ヒッ・・・ま、待って・・・」




「待たない、じゃあな」




「(このまま左に曲がって、迂回しながら車まで帰りましょう)」




「(わ、わかりましゅ・・・わかりました)」




何故か噛んだ神崎さんと打ち合わせをしつつ、素早く左に身を隠す。




「ああっ!待て!待ってくれえ!!」




背後から追いかけてくる足音。


・・・しつこい奴らだな。




神崎さんが柱に何発かの銃弾を叩き込む。


イイ感じに跳弾したのか、男たちの悲鳴が聞こえて足音も止まった。


よっしゃ、今のうちだ。






追跡や尾行がないか確認しながら、街中を速足で歩いて車に帰還した。




「まったく・・・どっと疲れましたね、神崎さん」




「・・・」




「・・・神崎さん?具合でも悪いんですか?」




「はっ!はいっ!!いい天気ですね田中野さん!!」




・・・?何言ってるんだ?


疲れたんだろうか。


表情に出してないとはいえ、結構走ったりしたもんなあ。


のほほんとしてる俺なんかよりずっと疲れが溜まっているのかもしれない。




「・・・そうですね、明日も晴れるといいですねえ」




適当に相槌を返し、エンジンをかける。




神崎さんも疲れてるんだろうなあ・・・あっそうだ。




「どうです?今度リフレッシュがてら釣りにでも行きま」




「行きます!!!」




うわあびっくりした!?


そんなに釣り好きなの!?






凄まじく上機嫌な神崎さんに疑問を抱きつつ運転していると、あることを思い出した。


路肩に停めて、懐からバインダーを取り出す。


パラパラめくることしばし。




「・・・やっぱり、どっかで見た顔だと思ったんだ」




「あっ!」




先程の集団のリーダーっぽいオッサン、捜索依頼出されてたわ。


依頼主は奥さんか・・・


うーん・・・




「・・・見た顔だと思ったけど勘違いでしたね!神崎さん!」




「ええ、そうですね。他人の空似でしょう」




とまあ、そういうことになった。


矢を射かけられて親身になれるほど、俺の優しさ含有量は多くないってこった。


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