第68話 偽装依頼と再会のこと
偽装依頼と再会のこと
「いってらっしゃーい!」
「いってきまー!」
手を振る美玖ちゃんに手を上げ、軽トラのエンジンをかける。
モンドのおっちゃん宅に宿泊した翌日、早朝に出発した。
早起きしていた美玖ちゃんが見送ってくれた。
・・・ん?行ってらっしゃい?
俺、ここに住まないって美玖ちゃん知ってるのかな?
・・・おっちゃん達が言ってくれることを祈ろう。
しかし、だからといって急に顔を出さなくなるのも・・・
一週間に1、2回は行くことにしようか。
んんん?1、2回!?
ちょっと待て、友愛に行くのも1、2回だったよな!?
最大で週4じゃないか・・・!
これもう働いてるようなもんだろ!?
お、俺の自由時間・・・
・・・どうしよう。
と、とりあえず後で考えよう。
そうしよう・・・
頭の片隅に問題を追いやりつつ、俺はアクセルを踏み込んだ。
いつものように友愛に着き、職員室へ向かう。
何人かの避難民にじろじろと見られたが、気にしないことにする。
どうせ捜索の依頼についてだろうしな。
「やあ、おはようございます田中野さん」
「おはようございます、宮田さん。依頼、来てます?」
「ええ、当初の予定をはるかに超える量が・・・」
だろうなあ。
解禁した途端にこれだ。
「まあ、ポーズだけはしっかりしとかないといけませんしねえ・・・」
我ながら黒い笑みを浮かべる。
そう、前にも言ったがこれは避難民のガス抜きみたいなもんだ。
馬鹿正直に探し回るつもりなんてない。
探す(見つかるとは言っていない)ってやつだ。
それにここの収容人数の問題もある。
片っ端から連れ帰ってたらここがパンクしちまうもんな。
今のところ空きは3、4人程度らしいので、そこらへんにも注意しよう。
「今日は南区のここ辺りに行く予定なんで・・・対応したやつを適当に見繕ってください」
地図を指し示しながら宮田さんに言う。
「ここですと・・・これらですかね。はい、どうぞ」
宮田さんがバインダーを渡してくる。
中をパラパラとめくると、ページごとに行方不明者の個人情報と顔写真などが添付されている。
随分と見やすく整理されている。
さすが警察だ。
「くれぐれも、無理をしないようにお願いします」
「あはは、今までならとにかくこれからは大丈夫ですよ。相棒に殺されちゃいますから」
そう、俺の身の回りの懸念やゴタゴタはこの間の引っ越しでほぼ解決したと言っていい。
美玖ちゃん達は安全な場所に引っ込んだし、避難所への義理も果たせた・・・と思う。
食料や物資も安定して手に入っている。
だからこれからは、のんびりと、ゆるやかに、面白おかしく生活するのだ!
・・・できるといいなあ。
まあとにかく、相棒を探しに行こう。
「お話は終わりましたか?では行きましょう」
「うおっ!?・・・おはようございます」
「はい、おはようございます田中野さん」
職員室を出たところに神崎さんがスタンバっていた。
行動が早い!!
「今日はどちらへ・・・?」
「南区の東寄りを・・・」
歩きながら予定を確認していると、廊下の端に原田がいた。
じっとりとした目で俺を睨んでいる。
なんだあの野郎、まだ文句があるのか。
俺も原田を見ながら、ゆっくりと、ゆっくりと刀に手をかける。
ついでに歯をむき出して思い切り笑ってやる。
やつはビクリと体を震わせ、おどおどと影に引っ込んだ。
「彼は・・・」
「みみっちい奴ですよ。・・・ただ、ああいう手合いは何をするかわからんので、くれぐれも気を付けてください」
「はい。所詮小物ですね、情けないものです」
・・・神崎さんの視線が怖い。
生ごみでも見るような目で原田を見ていた。
「一思いに処分できたら、どれほど楽か・・・」
・・・コワイ!
出がけに嫌なモノを見てしまって気分が悪いが、気を取り直して出発した。
だが久しぶりの、なんの気負いもない楽しいドライブ&探索だ!
・・・え?行方不明者捜索???
オープンワールドゲームだと、寄り道の寄り道の寄り道くらいのサブイベントだからアレは・・・
「ていうか、神崎さんいいんですか?今日はほんとにフラフラするだけなんですけど・・・」
「じ、自衛隊にも息抜きは必要ですから・・・たまには外の空気が吸いたいんです!」
なあるほど、たしかにそうか。
毎日避難所の中じゃ、気分も落ち込むもんな。
・・・ん?神崎さんって結構外出してないか?
まあ、どう見ても活動的な人だからデスクワークは性に合わないんだろう。
・・・警察の人たちも大丈夫だろうか。
あの人たちも適度に息抜きすりゃいいんだろうけど・・・
というわけで、今日の目的地に到着した。
「古本屋・・・ですか?」
「はい!」
「嬉しそうですね・・・」
「はい!!」
俺の目の前にあるのは、全国展開している2階建ての古本屋チェーン店。
『本を売るならFUCK=OFFソノバビッチ』でおなじみのキャッチコピーが有名な所だ。
特にここの店舗は古本だけでなくゲームソフトやDVD、古着に新品の書籍まで取り揃えているデカいところだ。
よりどりみどりである!
食料がなければ体が死んでしまうが、娯楽がなければ心が死ぬのだ!
さーて持って帰るぞお!ウキウキしてきた!!
意気揚々と入ろうとすると、違和感に気付く。
入り口が内側から板と釘で封鎖されている。
よくよく見れば1階部分の窓もそうだ。
・・・1階からの侵入口が全て塞がれている。
屋上部分に梯子が見える。
出入りは屋上か。
これは、誰かが住んでいるな。
ウチの家を思い出す。
「ここは・・・やめときましょうか。先客がいるみたいだ」
「そうですね。次はどこへ行きましょう?」
無用なトラブルは起こしたくない。
ここ以外にも古本屋はいっぱいあるし。
近場の大規模店舗なので少しもったいないが、古本ごときで切った張ったは御免だ。
「あれ?サ・・・山田さんじゃないですか」
帰ろうとしていると、不意に屋上から声。
「わ!わわわ!う、撃たないでください!」
咄嗟に神崎さんが向けたライフルを見て蹲ったのは、前に会ったことのある人物だった。
「神崎さん!彼は大丈夫です・・・よお、久しぶり」
ゾンビ騒動終息後の大物配信者希望。
大木くんがそこにいた。
「へえ、本当は田中野さんって言うんですか」
「すまんね、咄嗟に偽名を名乗っちゃったのすっかり忘れてたわ」
「いいんですよ、他人は基本信用できませんし。僕もさっきサムライマンって言いかけましたし」
「それは・・・どうなの」
現在俺たちがいるのは古本屋の2階部分。
従業員の休憩室だ。
情報交換がしたいという大木くんに招かれ、お邪魔することにした。
やはり出入りは屋上経由だった。
神崎さんは、買い取ったであろう古本や雑貨の山を興味深そうに眺めている。
・・・あんまりこういう所に来たことなかったのかな?
「(ところで、あの美人な自衛官は彼女さんですか?)」
小声でとんでもないことを聞いてくるなこいつ。
「(違ぁう!探索の相棒だよ!)」
「(なんだ、そうなんですか。恋人なら動画に出演してもらおうと思ったのに・・・)」
・・・ブレないやっちゃな。
「なんですか?」
「ああいえ!神崎さんの軍服姿が〇ガニー・ウィーバーみたいでカッコイイなって話してたんですよ!なあ!?」
「そうですそうです!〇イリアンもイチコロだなって!はい!」
若干力を入れながら肩を組むと、あっさり乗ってきてくれた。
ええやっちゃ。
「その映画・・・確か田中野さんの家にありましたね」
「そうそう!特に2が最高なんですよ!」
「気になります・・・今度一緒に見ましょう」
「ハイヨロコンデー!」
「(・・・ほんとに恋人じゃないんですか?)」
「(そうなの!)」
「なるほど、そっちも略奪者多いんですかぁ。やっぱり人間ってクソだなあ・・・」
近況というか成仏させたやつらのことを話すと、大木君は深くため息をついた。
「『そっちも』ってことは、大木くんの方にも出たんだ」
「そうなんですよ、参っちゃいますよねえ。聞いてくださいよ、この前なんか・・・」
そう言って、大木くんは語り始めた。
まあ暇なので付き合おう。
「近所のショッピングモールに動画撮りに行ったら・・・」
要約するとこうだ。
ショッピングモールに動画を撮りに行ったところ、見るからにガラの悪い集団に絡まれた。
多勢に無勢なので下手に出て逃げる時間を稼ごうとしたところ、無理やり荷物を強奪されそうになった。
下見の段階だったので、メインではなくダミーのカメラを渡してその場を乗り切ろうとした。
そいつらはそれで満足せず、大木くんの格好が小奇麗だったので隠れ家があると予測。
案内しろと凄まれたので、従う振りをして隙を突いて暴れて逃走。
・・・というわけだ。
どこもかしこも、治安が悪くなる一方だなあ。
「大変だったなあ、こっちの近所にもそんなのがいるのか・・・」
「そうなんですよ、もうめんどくさくて・・・」
「ここは突き止められてないのか?出入りには気を使った方がいい、ああいう奴らはしつこいぞ?」
俺の痛すぎる経験からアドバイスしておこう。
運が悪ければあの世行きだろうしな。
一番いいのはこの世から消すことだが、大木くんはさほど強そうにも見えないし・・・
・・・いやいやいや、どうも最近精神が殺伐方向に行って困るな。
一応一般人の大木くんにそんな・・・
「あ、大丈夫です。もう全員死んだんで」
一瞬、時が止まった。
え?今なんて言ったのこの子。
あ!神崎さん拳銃は抜かなくていいですから!!
たぶん!たぶん大丈夫!!
「・・・トラックでも、突っ込んできたのか?」
「なんすかそれ?いやあ、苦労しましたよ・・・」
なんでも大木くんは暴れて逃げ出した後、そいつらの近くに隠れて待機。
引き上げる奴らを着かず離れず追跡、ねぐらを突き止めた。
一度離れ、夜までにあれこれを準備。
深夜、そいつらが寝静まった頃に再訪。
ねぐらを根こそぎ吹き飛ばした。
「吹き飛ばしたァ!?」
「あ、はい。油類とかスクラップとか農薬とかをアレコレした爆弾です。僕、そういうの好きなんで・・・」
「爆弾ん!?そういうのも動画のネタにしてるのか!?」
「いやいやいや、そんなもん大炎上しちゃうでしょ違法なんだから」
「えええ・・・?」
ピントがずれてるのかそうでないのか・・・俺も大概だけど大木くんも中々・・・
神崎さんも目を丸くしている。
「ああいうカスが生きてると、絶対他の人に迷惑かけますし。それに僕、ああいう奴ら大嫌いなんですよ」
似たようなのに高校時代イジメられてたんで、とあっけらかんと話す大木くん。
「イジメかあ・・・俺はやるのもやられるのも経験ないなあ。喧嘩はちょっとあるけど」
「田中野さん強そうですもんね。僕は腕っぷしがないもんで、搦手から攻めるしかなくて・・・」
「・・・ちなみに、高校時代のいじめっ子達はどうしたんだ?」
ちょっと気になるので聞いてみた。
「え?本人や親とか兄弟とか親戚の裏情報を、近所とか仕事場とかネットにばら撒いて滅茶苦茶にしてやりましたよ。全員退学させてやりました」
一家離散のおまけ付きですね、とドヤ顔をかます大木くん。
なにこれ・・・この子コワイ。
師匠とかモンドのおっちゃんとは別ベクトルの恐ろしさがある。
「あ、もちろん無差別爆破とかはしてないですよ?入念に周囲に人間がいないか確認したので、死んだのはあいつらだけです」
まあ、浮世離れしている感はあるけど話は通じる。
誰彼かまわず殺して回らなきゃ安全だ。
俺だって、御大層に説教できるような人間じゃないし。
殺生まみれだし。
そういうのは立派なお坊さんに任せておこう。
「いやー、久しぶりに誰かと話せてよかったですよ。集団生活は嫌ですけど、適度に会話はしたいですからねえ」
「そうかい・・・」
晴れ晴れとしやがって・・・
いやまあその気持ちはわからんではないが。
「あ、そういえば今日は何でここに?」
俺も忘れかけてたわ。
・・・隣の神崎さんがジト目で俺を見ている。
「いや実は・・・」
古本その他を探しに来たことを告げる。
「田中野さんも自由ですねえ・・・いいですよ、好きなもん持っていってください。僕の欲しいものはもう確保したし。店長も従業員もみんな死んじゃったんで」
話を聞いてくれた礼だと言う。
・・・結果オーライだな!
では早速・・・物色の時間だあああああああ!!!!
2階の売り物は古着とトレーディングカード、それにプラモデルか。
そういえば、会社を辞めてからコートがボロボロのままだな。
冬に備えていただいておこうかな。
プラモデル・・・暇つぶしによさそうだ。
某有名機動戦士の144分の1サイズをいくつかもらっていこうかな。
・・・お、あったあった、緑色の量産機。
これ好きなんだよなあ・・・限定バージョンだからプレミア価格だ。
まあ関係ないけど!
「・・・生き生きしてますねえ、田中野さん」
「・・・今までで一番輝いていますね」
何か後ろから聞こえた気がするけど気のせいだろ!気のせい!!
・・・いやあ、リュックサックがパンパンでござる!
2階から1階までくまなく探し回った結果だ。
またいつでも来ていいとのことなので、是非ともまた来よう!
・・・アレぇ!?もう夕方じゃないか!?
封鎖された安全区域で夢中になりすぎたな。
「やっと正気に戻りましたか」
神崎さんがあきれ顔で話しかけてくる。
「うわあ・・・すいません神崎さん!申し訳ない!!」
「ふふ・・・いいですよ、私も楽しかったので。気にしないでください」
・・・?
神崎さんも何か確保したのか。
そりゃあよかった。
win-winだな!
「僕の住処であんましイチャイチャしないでくださいよ・・・」
「にゃ!?ちちち違うますよっ!!」
「うわああああああああああああ!?」
ちょっとちょっと神崎さん銃を向けちゃダメぇ!!
俺なんかとカップルだと思われて怒るのはわかるけどさあ!
「ありがとう大木くん、助かったよ」
「いいですよ、またいつでもどうぞ。なんなら動画に出演して・・・」
「それは断る、断固として」
「ははは」
すったもんだの挙句、今日の所は撤収することにした。
いやあ、いい場所を知れたもんだ。
珍しくまとも・・・まとも?な生存者と会えたし。
「じゃあ今日はこれで・・・」
「あっ田中野さん、なんかファイル落としましたよ」
パンパンのリュックから、探索依頼ファイルが落ちたらしい。
振り返ると、地面に落ちたファイルが風にあおられてパラパラとめくれている。
「へえ、これがさっき言ってたファイルですか・・・ん?」
大木くんは拾い上げたファイルをじっと見ている。
知り合いでもいたのかな?
「・・・僕がいますねえ」
「えっ」
「えっ」
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