第66話 避難所撤収のこと

避難所撤収のこと








「・・・というわけでしてね、美沙姉と美玖ちゃん、それに由紀子ちゃんと雄鹿原さんを連れていきたいんですよ」




「ふむ、なるほど・・・」




あれから、モンドのおっちゃんの家からすぐに帰って神崎さんと美沙姉と美玖ちゃんをピックアップした。


さすがに軽トラでは無理なので、家からはおやじの普通自動車に乗って避難所へ。


全然動かしてなかったから不安だったがそこは国産車、問題なく動いてくれた。


桜井さんは例によって留守番、避難民をこれ以上刺激するのも恐ろしいしな。




友愛に着いたら美沙姉と美玖ちゃんは荷物の整理に向かった。


まあ、元々そんなに持ってきたものもないからすぐに済むだろう。


美玖ちゃんは、あの熊さんだけは持って帰りたいようだ・・・『一太』って名前、やめてくんないかなあ。




俺はといえば神崎さんと一緒に職員室へ向かい、運よくいた宮田さんと校長室へ。


なんか森山くんもついてきたそうに見てきたが、なんか信用できないっていうか暴走しそうなので無視した。


そして現在に至る。






「・・・その判断は賢明ですね。そろそろ話そうと思っていましたが、我々の方にもあなたについての・・・その、苦情というか言いがかりが届いておりまして」




「ええっ?そっちにもですか・・・ちなみにどんな?」




「神崎さんから聞いているのとほぼ同じようなことです、『自分の家族も探すように命令しろ』といったものが多いですな」




あと、『武器を取り上げろ』っていうのもあるらしい。


はあ?ナンデ?別に内部で振り回してないだろ!?


手裏剣はともかく愛刀は絶対に渡さねえぞ!




「いえいえ、取り上げるなんてしませんよ。今までに拳銃や猟銃も提供してくれた方にそんなことはできません」




宮田さんが慌てて手を振る。




「田中野さんは自分の身内を助けただけだ・・・とは何度も言っているのですがね。そういう人は取り付く島がないというか、話を聞かないというか・・・」




じゃあ警察が探せ、なんてのも最近言われるらしいな。


なんというか、その、申し訳ない。




「現状、我々はここの運営と防衛で手一杯ですから・・・頭が痛いですよ」




「我々の方も本隊は同じ状況ですね。田中野さんのように、単独探索をするわけにもいきませんから」




どうやら隣町の病院でも同じような苦情が出ているようだな。


病院については俺は関係ないが。




しかし、散々衣食住を世話になっておいて、その上そんな世迷言をほざくとは。


自分で探させるか追い出しゃいいんだ、そんな恩知らず共は。




「まあ、原因の一つに田中野さんの態度があるわけですが」




神崎さんからまさかのキラーパスである。


ウッソォ!?ナンデ!?




「・・・今まで苦労されましたよね?大怪我もしましたよね?・・・では、その最中田中野さんはどうされてきましたか?」




「って言われましても・・・?」




「顔の抜糸も済んでいないうちから多方面に探索、物資を持ち帰り、小学校からは美玖ちゃんを助けました」




じろりと睨んでくる神崎さん。




「その後、敵対勢力を壊滅させ、隣町から美沙さんも救出。挙句の果てに、肩の怪我が治ればすぐに父親を助けに行くと大勢の前で美玖ちゃんに宣言」




「う、うう・・・」




「どうです?まるで超人の所業ですよ・・・ずっと近くで見ていた私にはその苦労もよくわかりますが。他の人たちからすればどうでしょうね?」




「・・・あぁ!」




・・・なるほど、理解した。


そういうことだったか。






俺は昔から映画のヒーローたちに憧れてきた。


軽口を叩きつつも危険に飛び込み、敵と戦ってみんなを救う。


死ぬほどの目に遭っても、それがどうしたと言わんばかりに弱音を吐かない。


タフでアグレッシブなヒーローたちだ。




彼等への憧れから体を鍛え、武術を学んだ。


その成果は今こうして俺を生かしてくれている。




勿論、俺は救世主になりたいわけじゃない。


でも彼らのそんな姿勢に憧れてきたからこそ、せめて姿勢だけは真似したいと思ってきた。


ゾンビ騒動が起こってからは特に。




だが逆にその姿勢が、そういう人たちには疎ましく見えていたんだろう。


『あいつはなんでもできるのに、なんで俺たちを助けてくれないんだ』ってな具合に。






「畜生・・・!全部〇タローンやシュワルツェ〇ッガーがカッコよすぎるのが悪いんだ・・・!!」




「なんですかそれは・・・では、その生き方を変える気はありますか?」




「全然、全く、これっぽっちも」




神崎さんに即答する。


そうは言っても、物心ついてからかれこれ30年くらい続いてきたメンタリティを変える気はないのだ。




「そうでしょう、私も田中野さんのそういう所に好感を持っています」




神崎さんがほほ笑みながらそう言う。


照れるぜ。




となると、だ。


やはり是が非でも由紀子ちゃん達をここから出すことが先決だ。




それともう一つ。




「宮田さん、例の件どうなってますか?」




「ああ、それですか。部下への通達も終わりましたし、問題なく始められそうです」




「例の件とは・・・?」




神崎さんが不思議そうに聞いてくる。


以前に宮田さんに提案していたことだ。






ズバリ『田中野探索ギルド』!!






・・・まあ、どういうことかと言うとこうだ。




①避難民が探している人の情報を警察に伝える。


②警察はそれをまとめてデータにする。


③それを元に俺が外を探索する。


④見つかるかどうかはわからない←ここ重要!!


⑤避難民ではなく、警察に報告して終了(直接対面するのが面倒くさい為)




以上の流れによって、俺へのヘイトを下げるという画期的な活動だ!




え?本当に探すのかって?


・・・そりゃあ、まあ、探索中に近所に来たらちょこっと考えるかなって・・・


それにホラ、本当に探してるのかそうじゃないのかなんて避難民にはわかんないし。




・・・どうしても気になるなら自分で探しに行けばいい話でござる。


拙者は悪くない!


あ、もちろん良好な関係のため、警察とか自衛隊からの依頼はしっかりこなしますよ。


依怙贔屓じゃないぞ、今までの恩と、これからのリターンのためだ。






そんなこんなで宮田さんとの話も終わり、ここはいつもの保健室。


美沙姉達には荷物をまとめた後、由紀子ちゃん達をここに連れてきてくれるように頼んである。




「田中野さんは、これからも定期的にここに来てくれるんですか?」




神崎さんが不安そうに問いかけてくる。


あ、そうか。


みんないなくなったら神崎さんが一人になっちゃうもんな。




「ご心配なく、あのダミー・・・じゃなかった依頼の受け取りもありますし。ここの施設を利用したりしますしね」




「そ、そうですか・・・」




「それに、探索の時はまたお願いしますよ。・・・相棒でしょ?」




「・・・!そう、そうですね、ふふ・・・」




何が楽しいのか知らないが、神崎さんはそれを望んでいるであろうことはわかってきた。


随分殺伐とした趣味だが、まあそこは人それぞれ。


文句は言うまい。


俺も彼女の戦闘能力には大いに助けられているし。






・・・しかし遅いな4人とも。


そんなに荷物が多いのかな?




・・・ん?なんか外から揉める声が聞こえるような・・・


まさか!?


神崎さんと顔を見合わせ、廊下に飛び出す。






「があああ!!があああああああああああ!!!」




「ホラホラ、さっきまでの威勢はどこ行ったのよ!?ホラホラホラ!!」




「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」






飛び出した廊下。


そこには何とも言えない表情の由紀子ちゃんと雄鹿原さん。


心配そうに状況を見る美玖ちゃん。




そして、床に引き倒された原田と。


嬉々として関節技を仕掛ける美沙姉の姿があった。




・・・なにこれ。




うわあ・・・完全に腕の関節を極めてるな、アレ。


ちょっとでも力を入れるとへし折れる手前って感じだ。


一番痛い状態だな。




「誰がババアで!!誰の子がクソガキだってえ!?ホラァ!もう一回言ってみなさいっての!!」




「ギイイイイイイイイ!!!!」




・・・とりあえず、何が逆鱗に触れたかはよーくわかった。




「・・・とりあえず、3人はこっちへ」




神崎さんが3人を手招きし、保健室に入れる。


とにかく事情聴取だ。






「お疲れ~、由紀子ちゃんに雄鹿原さん。・・・で、結局原田のアホは何したの?」




疲れた顔をしている由紀子ちゃんに聞くも、顔を赤くするばかりで答えない。


ぬ?いったい何があったんだ?




「田中野さんっ!ちょっとこっちへ・・・」




雄鹿原さんが俺の手を引きつつ、保健室の隅へ。




「実はですね・・・」




こしょこしょと耳打ちしてきた内容をまとめるとこうなる。






美沙姉と美玖ちゃんが2人を呼ぶ。



他の避難民に聞かれないように、今回の引っ越しについて物陰で話す。



2人は快諾。(やはり2人も俺関係の苦情やらなんやらが来ていたようだ・・・申し訳ない)



由紀子ちゃん達2人は荷物をまとめようと行動開始。



野生の勘か、何かを察知した原田が嗅ぎつける。



追いかけてきた保健室前で由紀子ちゃんと揉み合いになり、止めようとした美玖ちゃんが突き飛ばされて尻もちをついた。



さらに追いうちの暴言に美沙姉が激昂、一瞬で関節を極める。




らしい。


はあ!?美玖ちゃんが!?


・・・あの野郎・・・片腕ぐらいは破壊しても罰は当たらんだろうな・・・!!!!




「美玖ちゃん!大丈夫か!?」




慌てて美玖ちゃんに駆け寄る。




「うん、ちょっとびっくりしただけだよ。でもママが・・・」




「いいのいいの!子供を守るのが親の仕事だから!気にしないの!」




ふう、なんともないようでよかった。


あれ?




「・・・で、由紀子ちゃんはなんで・・・」




黙ってるのか、そう聞こうとしたら再び隅っこへ連行された。




「あの、原田さんが保健室の前まで追いかけてきて、坂下先輩に告白したんですけど・・・」




何!?


あの無能系ヘタレが告白とな!?




「勿論すぐに坂下先輩は断ったんです。でも原田さんが納得しなくて・・・」




納得ぅ?


そんなもん、断られたらもう終わりだろうが?


聞き返せば結果が変わるとでもいうのかね?


リセマラじゃねえんだぞ。




「『どうせあのオッサンと寝てるんだろ!?これから一緒に住むんだろ!?』・・・ってその、うう、田中野さんを引き合いに出して・・・」




雄鹿原さん、恥ずかしいなら言わなくてもいいから。


顔が真っ赤だぞ。




しかしあのクソガキ・・・なんてこと言うんだ。


だいたい、もしも俺と由紀子ちゃんがそういう関係ならそもそも避難所に置いとくわけないだろうが。


マジで意味が分かんないなアイツ。


俺が思春期の時でもあそこまで馬鹿じゃなかったと思うが・・・?




「坂下先輩はそれに、『原田くんなんかよりもおにいさんの方がずっとカッコいいし、ずっと頼りになるんだよ!酷いこと言わないで!大っ嫌い!!』って大声で叫んで平手打ちしちゃいまして・・・」




マジか!


あの優しい由紀子ちゃんがビンタを!?


そりゃまた、随分と嫌われたもんだな原田。


まあ好きになる要素皆無だしなアイツ。




「そ、そんなわけで先輩はちょっと混乱してるっていうか・・・しばらくそっとしておいてあげてくださいっ」




ふむ、なるほどよくわかった。


それでは神崎さんたちにこの場は任せて、美沙姉の様子を見に行くとするか。




「じゃあお願いします、神崎さん」




「・・・了解しました」




何故か無表情な神崎さんに疑問を抱きつつ、廊下へ出る。






「遅いわよ一太!疲れたからちょっと代わりなさい!」




相変わらず美沙姉は関節を極めている。


原田はといえば、もう悲鳴を上げる力も残っていないようだ。


汗だくで小刻みに震えている。


いや、これ失神しとるな。




「前に父さんが言ってた童貞拗らせたクソガキって、こいつのことね!振られたくせに情けないったらありゃしない!!」




容赦のない追い打ちである。


まあ、美玖ちゃんに危害を加えたんだ。


母親なら激怒しても仕方ないよな。




「まあ、擁護する気も起きないけども・・・その辺にしときなよ美沙姉。死んだら面倒くさいから」




「そのくらいの手加減は完璧よ!もしもその気なら、延髄に膝経由でグイっと体重かければ一発じゃない」




「確かに」




よかった。


怒っているがキレてはいないな。




地面に転がる原田を見る。


さあて、どうしたもんかなあ、こいつ。


これだけの騒ぎだ、警官がすぐに駆け付けてくるとは思うが・・・




「ぐ・・・ぐう」




お、意識が戻った。


誰か早く来ないかなあ。




「うう・・・!て、テメエ、テメエのせいで坂下g」




「しゃあっ!!!!」




なんかまた世迷言をほざきそうな雰囲気だったので、即座に顎先を蹴り飛ばして意識を奪う。


もうやだもん、こいつの妄言聞いてると脳細胞がじわじわ死んでいきそうなんだもん。


いつかのハーレム野郎と一緒だな。


アホは黙らせるに限る。




その時、廊下の向こうから宮田さんが走ってきた。




「田中野さん!大丈夫ですか!?いったい何が・・・ああ、彼ですか。坂下さん関連ですねこれは」




前もって話を通しておいたので、理解が早くて助かるな。




「ええ、実は・・・」




事の顛末を簡単に説明しておく。




「まったく・・・男らしくないことですな。彼はあなたたちが立ち去るまで別室に隔離しておきますよ」




「助かります。・・・いっそのこと放り出しちゃどうですか?こいつ」




「そうしたいのは山々ですがね・・・中々大それたことをやらかしてくれないもので」




苦笑いしながら宮田さんが言う。




「まあ、彼女がいなくなれば少しはおとなしくなるでしょう。それでもだめなら・・・」




「〇スカルよろしく自然に帰しますか」




大変だなあ、警察も。


無職でよかった!






何人かの警察官によって回収されていく原田。


それを横目に見ながら、俺たちは玄関で宮田さんと話していた。




「宮田さん、お世話になりました!」




「ウチも、お世話になりましたっ!」




由紀子ちゃんと雄鹿原さんが頭を下げる。




「うんうん、2人とも元気でね。中村さんの所なら安心だからね」




「私も娘共々、お世話になりました!またね剛にいちゃん、大変だろうけど頑張って!一太をバンバン使ってやって!」




「美沙ちゃんもお元気でね。敦君によろしく。・・・それは田中野さんと相談するよ」




あ、やっぱりこの2人面識があったか。


そりゃそうか、モンドのおっちゃんつながりだし。


ていうか人を便利道具みたいに・・・冗談だからいいけどさ。


・・・冗談だよな?




「みやたのおじさん!いままでおせわになりました!・・・これ、あげるね!」




美玖ちゃんが何かを手渡している。


なんだろうあれ・・・似顔絵かな?


宮田さんの似顔絵の横に『ありがとう』と文字が書いてある。




「やあ、ありがとう美玖ちゃん。うれしいなあ、大事にするね・・・体に気を付けるんだよ」




しゃがみこんだ宮田さんに頭を撫でられて、美玖ちゃんはとても嬉しそうだ。




「では宮田さん、俺もこれで失礼します。明後日くらいには・・・」




「明日ですよね?」




「・・・明日また来ますぅ」




・・・神崎さん、そんなに探索に行きたいのかな。




「ははは、お待ちしていますよ」






神崎さんにも挨拶をして、車に乗り込み、避難所を後にする。


美玖ちゃんは、宮田さんが見えなくなるまで手を振っていた。




さあて、新天地に向けて出発だ!


・・・同じ市内だけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る