第44話 探索と思わぬ事実のこと

探索と思わぬ事実のこと








「さあて、行くとするかい。」




「おっちゃん、別に俺1人でもよかったんだけど・・・」




「たまには体を動かさねぇと鈍っちまうんだ。心配しなくても力仕事は全部任せっからよ。」






モンドのおっちゃんの頼み。


それはまさかのDVDプレーヤーの調達だった。


俺の話を聞いて欲しくなったらしい。




「毎日暇で暇でしょうがねえんだ。せっかく大枚はたいてボックス買ったってのに、停電で見られねえんだもんよ。」




「アタシもまだ見てない録画したドラマや映画がたくさんあってねえ・・・」




ちなみに、おっちゃんが言ってるボックスは某江戸の殺し屋シリーズである。


おっちゃんが大好きな俳優が出てるシリーズは、映画も含めて全部所有しているらしい。


うそだろ・・・一体何百時間あるんだよ。


確かに死ぬほど暇は潰せそうではある。




というわけで、俺たちは中村武道具店から隣町方面へ10分ほどのホームセンターに来ている。


ここもなかなか大きい店舗なので、プレーヤーくらい置いてあるかもしれない。


もしもここになかったら別の電気店に探しに行くまでだ。




砥ぎなんて、本当なら注文すれば結構な金額になるんだから、これくらいなんともない。






おっちゃんは肩に木刀を乗せ、何の気負いもなくスタスタと歩いていく。


後ろからだと隙だらけに見えるが、かといってどこにも打ち込める気がしない。




・・・ここのホームセンターは荒らされた形跡があまりないな。


不自然なほどだ。


こいつはひょっとして・・・




「・・・おっちゃん。」




「黙ってついて来な。・・・ここで身構えると後で疲れちまうぞ?」




やはりそうか。






「待て!そこで止まれ!!」




しばらく歩くと、入り口の中から手に武器を持った男たちが飛び出してくる。


その数は見えているだけで6人。




「おいおい、なんだよなんだよ?ここはおめえらの店ってわけじゃねえだろう。」




「うるせえ!ここのモンは全部俺たちのモンだ!!爺さん、死にたくなかったらそのまま動くんじゃねえ!!」




その間もおっちゃんは悠々と歩いていく。




「兄ちゃんよぉ、何も全部寄越せって言ってるんじゃねえんだよ俺は。老い先短いじじいの頼みくらい聞いてくれや。」




「止まれって言ってんのが聞こえねえのか!?殺すぞゴラ!!」




ヒートアップする男をよそに、さらにスタスタと近付くおっちゃん。


俺もいつでも投げられるように手裏剣を手の内に握る。




「来るなって言ってんだろ!!死にてえかてめえy」




「殺るならとっとやるんだぜ、兄ちゃん。」




何の気なしに振るわれたおっちゃんの木刀が、喚く男の喉を潰す。


男は喉を押さえて倒れ混む。




「いっ!?」「ぎゃっ!?」




そのまま流れるように左右に振るわれた木刀が、それぞれ1人ずつの顔面を殴打。


顔を覆う男たちのがら空きになった頭頂部にもさらに一撃ずつ。




あっという間に半数が無力化された。


力みが全然ない。


最適な角度で最適な場所に、最小の力で木刀を打ち込んでる。


・・・店の前で殺されなくてよかったあ。




「ボウズ!逃がすんじゃねえぞぉ。こういうカスどもはな、ここから逃げても別の場所で同じことをやりやがる!」




俺に檄が飛ぶ。


わかってるよ、おっちゃん。


少なくとも俺の前に出てくるこういう奴らは、生かして帰さない。




目の前の状況が認識できていないヤツに、手裏剣を投擲しつつ走り寄る。


眼球に棒手裏剣が深々と突き刺さるのを見届けつつ、横の男の脛を木刀で薙ぐようにぶっ叩く。




「あがっ!?」




地面に倒れ込む男の顔面を空中でスラッガーよろしく殴りつけた。


頭蓋骨を陥没させた男は、地面の上で泡を吹きながら痙攣している。


そのまま木刀の切っ先で首の骨を砕く。




「やっやめっやめぇっ!?」




残った1人に目をやると、ちょうど地面にうつ伏せに倒されて、延髄を叩き折られるところだった。


速い・・・動きが遅く見えるのに速い。


全ての動作が最適化されているかのようだ。


やっぱりモンドのおっちゃんはとんでもないな・・・


神崎さんとは別ベクトルの強さだ。




「おぉい、俺の方が1人多く倒してるじゃねえかよ。年寄りには楽をさせろってんだ。」




「・・・それならもう少しゆっくり動いてよおっちゃん。」




「ボウズが速く動きゃ済むことだ。甘えんな。」




そのままおっちゃんは石ころでもまたぐようにひょいひょいと奴らの死体をまたぎ、店内へ。


俺もあわてて後を追う。




「ゆ、ゆるしt」




「ほいよ、こいつで仕舞いだ。」




内部にも3人いたが、見るからに浮足立っていたので処理は簡単だった。


ちょうど最後の1人が、おっちゃんの木刀によって首を折られたところだ。


殺す気でかかってきたんだから、殺されても文句はあるまい。




見れば、ほかの生存者から奪ったであろう物資や服なんかがそこかしこにある。


やはり追いはぎ的な奴らだったか・・・


少しだけ街が平和になったな。




・・・しかしあんだけ動いても息一つ乱してねえ、やっぱバケモンだこの人。






さて、掃除も済んだし物色といこう。




カートを押しながらAV機器コーナーに行く。


お、あったあったプレイヤーが。


おっちゃんとおばちゃんの分で充電式のを2台持っていこう。




後はソーラー対応のバッテリーと、普通の大容量バッテリー。


それに俺も持ってる小型発電機。


おっちゃんの家のすぐ近くにはガソスタがあるので、これで大丈夫だろう。




目的のものは見つけたので、俺用の物資もついでに探す。


手裏剣用の鉄棒に鉄板。


ブービートラップの材料になりそうな各種釘。


普段着用の下着に靴下、それに予備の作業用ブーツ。


防音用コンパネボックスも見つけたので、これで夜でも発電機が動かせるぞ!!




あっ・・・!?


こ、これは・・・!!




『災害用投げ込み式風呂用ヒーター』!?




これだ!俺が求めていたものは!!


何々・・・コンセントに刺して風呂桶にぶち込めば3~4時間で風呂に入れるだとお!?


なんていうことだ・・・やはりホームセンターは神様!仏様!!




おっちゃんにも勧めたが風呂は山から引いた水を使って薪で炊くのでいらないと言われた。


ローテクはこういう時に強いな・・・




レジ近辺で子供用のDVDを見つけたので、これも持っていこう。


ネコとネズミが仲良く追いかけっこするアレだ。


世界中で親しまれている名作だからな、美玖ちゃんたちも喜ぶだろう。




あっ忘れないように適当な野菜の種も持っていかなきゃ・・・




「おいおい、ボウズの方が大荷物じゃねえかよ・・・」




おっちゃんが苦笑いしながら指摘してくるが、こういうもんはあるときに確保しとかないとな。




最後に、何かに使えそうな大きさの板を載るだけ載せてホームセンターを後にした。






武道具店へ戻り。発電機のセッティングやプレイヤーの操作方法を教える。


発電機は余分に確保していた防音コンパネボックスで覆う。


おお、全然うるさくない!実験は成功だ。


プレイヤーの方は、DVDなりブルーレイをぶち込めばすぐに再生されるんだけどさ。


おっちゃんたちは頭も柔らかいのですぐに理解してくれた。




昼飯を食っていけと言われたので、恐縮しながらごちそうになる。


自家製ざるそばが出てきた。


おっちゃんの好物なので、店の裏にある畑で毎年育てているらしい。




近くに自生している野生のワサビまで添えてあるゥ!


山水で冷やしたのでキンキンに冷えてるゥ!!






あああああ~打ちたてのそばがおいしい!!


美味い!!ウマイ!!うまぁい!!!


人間最高!!これは人間の食い物だ!!!


それも最上級!!


生きててよかったあ!!!人生万歳!!!!!!!






俺は泣きながら夢中で食べていたらしく、おばちゃんが不憫そうな顔をしながらドサドサお代わりを盛ってくれる。


おっちゃんも食え食えとせかしてくる。


なんて贅沢なわんこそばだ!!




うっぷ、胃が爆発しそうなくらい食った・・・


明日死んでも若干悔いが少なくなるくらい食った・・・




ゆっくりしていけと言われたので、お言葉に甘えて畳に寝っ転がる。


あー天国・・・いやもう極楽じゃん・・・


ごろ寝しながら周囲を見るともなく見ていると、おっちゃんがスマホをいじっている。


さっきまで発電機経由で充電していたものだ。




「おっちゃん、俺も散々試したけど電話は使えないよ?」




「あー?違う違う、久しぶりに孫の写真が見てえんだよ。おーいかあちゃん!電源入ったぞ!」




孫?へーおっちゃん孫いたんだ。


おっちゃん達には2人の娘さんがいて、そのうちの1人が結婚したのは知ってるけど。


昔はよく可愛がってもらったし。




「おっちゃんもすっかり好々爺だねえ。お孫さんっていくつ?」




「今年で小学4年だ。上手いこと生き延びてくれてりゃいいんだけどよ・・・」




「そうねえ、どこかで無事にいてくれればいいんだけどねえ・・・」




スマホを眺めてさすがにしんみりした様子の2人。


心配だろうな・・・


小学生か、美玖ちゃんを思い出すな・・・




「美沙みさも元気にしてるのかねえ・・・秋月町の役場は避難所になってるって聞いたけど・・・」




「敦あつしくんも駅員だからなあ、今頃駅はどうなってんだか・・・」




ふうん、美沙姉は役場で働いてるのか。


で、旦那さんが駅員かあ・・・








(´・ω・)ん?








『パパはえきいんさんでー、ママはあきづきちょうのやくばではたらいてるの!!』




『へえ、そうなんだあ』




『パパとママはねー、とってもなかよしなんだよ!』




『うらやましいなあ』




『えへー、ママはねーパパのことあっくん、あっくんって呼んでるの!』




『おじさん砂糖を吐きそうだよ、えへー』








(  ゜A゜)!!!?!?!?!??!?!?








「おっちゃん・・・おばちゃん・・・」




「ん?」「なんだい一朗太ちゃん。」




「ひょっとして・・・お孫さんって桜井美玖ちゃんって名前じゃない・・・?」










「美玖!!」「美玖ちゃあん!!」




「おじーちゃん、おばーちゃん・・・?」




「よかった・・・!本当に良かった・・・!!」




「よく頑張ったねえ、美玖ちゃん・・・さ、おいで。」




「・・・おっおじーちゃあん!おばーちゃああん!!わああああん!!」




目の前では、美玖ちゃんが左右からおっちゃんおばちゃんに抱きしめられている。


おばちゃんはもうボロ泣きだし、おっちゃんも目一杯に涙を溜めている。


美玖ちゃんもわんわん泣いている。


いつもニコニコしていたが、やっと肉親と会えたんだもんなあ。


緊張の糸が切れたのだろう。






泣くがいい、存分に泣くがいいさ。


どっかで見てるかい?横田先生・・・


あなたのおかげですよ。






「み・・・美玖ちゃあん・・・よ、よがったよォ・・・!!よがったァ・・・!!!!」




「ち、ちょっと、泣きすぎ、だぞ由紀、由紀子ちゃん・・・」




「田中野さんも前見えてるんですかその涙で。ハンカチをどうぞ。」




「さ、坂下先輩、タオル、タオルどうぞっ!」








あの後、俺の発言で凍り付いた時間が解けるなり、おっちゃんたちは俺を質問攻めにし、孫=美玖ちゃんが確定すると即自家用車に乗り込んだ。






「とっとと先導しろボウズゥ!!!100キロ以下で走ったらぶち殺してやる!!!!!」




「ごめんね一朗太ちゃん!80キロでいいから!!」






・・・今までの人生で一番恐ろしいドライブだった。


後ろから殺気めいたものが飛んでくるわ、腹いっぱい食べたそばが胃の中で大暴れするわ。


ホームセンターでしこたま回収した資材が荷台で右に左に大騒ぎだわ。


吐かずに到着できたのは奇跡としか言いようがない。




「森山ァ!!開っけろォ!!校門をあっけろおおおおおおお!!!」




どこぞのスキタイ人よろしく絶叫して校門を開けさせドリフト気味に駐車、校内へ走り込む。


宮田さんに状況を説明し、たまたま校庭で遊んでいた美玖ちゃんを確保。


そのまま横抱きに抱えて駐車場のおっちゃんたちまで全力ダッシュ(美玖ちゃんはたいへん喜んでいた。)


そして先ほどの状況へと至る。


死ぬかと思った・・・






だがまあ、この光景が見れたのならあの決死行も悪くない。




「まさか美玖ちゃんが、中村さんの孫だったとは・・・」




宮田さんも世間のあまりの狭さに驚いているようだ。


俺もそうなの。




でも、美玖ちゃんの異常なまでのバイタリティの謎は解けた。


モンドのおっちゃんの孫だったら・・・そりゃあなあ・・・納得。






「田中野のボウズ!!」




神崎さんのハンカチを塩水でひたひたにした後黄昏ていると、急におっちゃんが走ってきた。




「美玖に聞いたぞ!よく・・・よくやってくれた!!よく美玖を助けてくれたなあ!!!」




「いっだ!いだああ!?」




涙目のおっちゃんが肩をバンバン叩いてくる。


痛い痛い肩甲骨がパージしちゃうこれ掌底じゃないのォ!?




「刀なんざ10本でも20本でも研いでやる!!いつでも持ってこい!!敵はどんどん斬りまくれ!!!」




随分と物騒だな!ありがたいけどォ!!


嬉しいのはわかるけど俺の肩甲骨が粉々になっちゃうからもうやめてェ!!!

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